
厚生労働省は墜落災害の防止を目的として、2019年2月1日に労働安全衛生法に基づく法改正を実施しました。従来の胴ベルト型安全帯は、墜落時に身体への負担が大きく、内臓損傷や胸部圧迫の危険性が指摘されていました。
この法改正により、作業床の高さが6.75m(建設業では5m)を超える場所でのフルハーネス型墜落制止用器具の使用が義務付けられ、U字つり胴ベルト型は墜落制止用器具から完全に除外されました。建築事業者にとっては、従業員の安全確保と法令遵守の両面から重要な変更点となっています。
国際規格との整合性を図る観点からも、この改正は避けて通れない変更でした。旧来の日本独自の規格から、世界標準に合わせた安全基準への移行により、建築現場における労働者の安全性は大幅に向上しています。
厚生労働省の墜落制止用器具に関する公式ガイドラインで詳細な法的要件が確認できます
建築現場において、胴ベルト新規格の適用範囲は作業の高さと条件によって詳細に定められています。フルハーネス型の着用者が墜落時に地面に到達する恐れがある場合(高さ6.75m以下)に限り、胴ベルト型(一本つり)の使用が認められています。
建設業における特例として、一般的な建設作業では5mを超える箇所でフルハーネス型の使用が推奨されており、柱上作業等では2m以上の箇所でフルハーネス型が義務付けられています。この基準は建築事業者が現場での作業計画を立てる際の重要な指標となります。
新規格の胴ベルト型安全帯は2019年2月1日以降に製造されたもので、6.75m以下という基準で作られているため、それ以上の高さでの使用は物理的に不可能となっています。建築事業者は使用する器具の仕様を事前に確認し、作業高度に応じた適切な選択が求められます。
建築現場で安全帯を使用する際、新規格品と旧規格品の見分け方は極めて重要です。最も確実な判別方法は、製品ラベルやパッケージの表記を確認することです。新規格品には「墜落制止用器具」と明記されている一方、旧規格品には「安全帯」という表記が残っています。
製造年月日も重要な判別要素となります。2019年2月1日以前に製造された製品は旧規格品であり、2022年1月2日以降は使用が禁止されています。建築事業者は定期的な器具点検の際に、これらの情報を記録し管理することが推奨されます。
JIS規格番号による識別も可能で、新規格品にはJIS T 8165の表記があります。認定番号や型式認定マークの確認により、正規の新規格品であることを確実に判断できます。建築現場では複数の作業員が器具を共用することも多いため、管理者による定期的なチェック体制の構築が不可欠です。
建築事業者にとって、新規格対応は避けて通れない投資となります。従来の胴ベルト型安全帯と比較すると、フルハーネス型の導入には1セットあたり約2~5万円の費用がかかります。中小規模の建築事業者であっても、作業員10名分で20~50万円程度の初期投資が必要となります。
しかし、この投資により得られる安全性向上の効果は計り知れません。墜落災害による労災事故が発生した場合の補償費用や工期遅延、企業の信頼失墜を考慮すると、予防的投資としての意義は非常に高いといえます。
特別教育の受講費用も考慮すべき要素です。フルハーネス型墜落制止用器具を使用する作業者には特別教育の受講が義務付けられており、1名あたり5千~1万円程度の費用がかかります。建築事業者は年間の安全教育予算にこれらの費用を組み込む必要があります。
新規格の導入により、建築現場における墜落災害の防止効果は飛躍的に向上しています。フルハーネス型は胴部だけでなく肩部と腰部の3点で荷重を分散するため、墜落時の身体への衝撃を大幅に軽減できます。医学的見地からも、内臓損傷のリスクが従来の胴ベルト型と比較して約60%削減されるという研究結果があります。
建築事業者にとっては、作業員の安全確保だけでなく、企業リスク管理の観点からも重要な意味を持ちます。新規格対応により労働基準監督署からの是正勧告リスクが軽減され、建設業許可の更新や公共工事への入札参加においても有利な評価を得ることができます。
さらに、作業員の心理的安全性も向上します。より安全な器具を使用することで、高所作業への不安が軽減され、作業効率の向上にもつながります。建築事業者にとっては、人材の確保と定着率向上という副次的効果も期待できる投資といえるでしょう。