

ガソリン税が廃止されても、道路予算は減らないどころか増えている年がある。
建設業で働いていると、道路工事の発注量が年度によって大きく変わると感じることがあるはずだ。その背景には、道路整備の財源が複数のルートから成り立っているという事情がある。
日本の道路整備財源は、大きく「国費」と「地方費」に分かれる。国費の柱となるのは、一般会計から投入される公共事業関係費であり、令和7年度(2025年度)の国土交通省予算では公共事業関係費が約5.3兆円に上る。そのうち道路関係は国費ベースで約2兆1,000億円規模が組まれており、事業費(国費+地方費+その他)ベースでは5兆円を超える規模だ。
つまり大規模です。
地方費は、都道府県・市区町村が独自予算(単独事業費)として拠出するほか、国から交付される「社会資本整備総合交付金」や「防災・安全交付金」を使って道路工事を行う仕組みになっている。この交付金制度は、かつては道路・河川・街路など事業ごとに個別の補助金だったものを2011年度に一括化したもので、自治体が使い道の裁量を持てるよう設計されている。補助率はおおむね50〜55%程度が道路事業には適用されるケースが多い。
財源の構造をまとめると以下の通りだ。
| 財源の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 国直轄事業費 | 国土交通省直轄の国道整備・改築 |
| 社会資本整備総合交付金 | 自治体への交付(使途は自治体が計画) |
| 防災・安全交付金 | 老朽化対策・防災整備向けの自治体への交付 |
| 地方単独事業費 | 自治体が独自財源で実施 |
| 国土強靱化対策費 | 5か年加速化対策・中期計画分 |
建設業が受注する道路工事は、これらすべての財源から発注される。特定の財源だけが変動しても他の財源でカバーされる場合があるため、財源ルートをひとつに絞って動向を追うのは危険だ。これが基本です。
参考:道路特定財源の一般財源化について(国土交通省)の制度経緯
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-funds/minaoshi.html
かつて「道路整備の財源といえばガソリン税」という時代があった。1953年に道路整備費の財源等に関する臨時措置法が制定され、揮発油税(ガソリン税)を道路整備に使い道を限定した「道路特定財源」として運用する制度が始まった。受益者負担の原則、つまり道路を走るクルマの利用者が道路整備費を負担するという考え方は、当時としては合理的かつ公平な仕組みだった。
その後、1974年には道路整備の財源不足を補うため、ガソリン1リットルあたり25.1円の「暫定税率」が上乗せで導入された。名称は「暫定」でも2年ごとの延長を繰り返し、結果的に50年以上にわたって存続することになった。
これは意外ですね。
しかし2009年度、道路特定財源制度は廃止される。道路以外の用途への拡大が認められてきた経緯や、公共事業削減の流れの中で「使い道を道路に限定する必要はない」という考え方が主流となり、ガソリン税は一般財源へと転換した。その後も税額自体は維持されていたが、2025年12月31日をもってガソリンの暫定税率(25.1円/L分)が廃止され、2026年4月1日には軽油引取税の暫定税率(17.1円/L分)も廃止されることになった。
暫定税率の廃止により、ガソリン税だけで年間約1兆円、軽油引取税を含めると国・地方合計で年間約1.5兆円の税収が失われることになる。消費税率0.5%分に相当する規模だ。ただしこの税収は現在すでに一般財源なので、「道路予算が直接1.5兆円減る」わけではなく、国・地方の歳入全体に影響するという構造になっている。
参考:ガソリン税の暫定税率廃止と公共事業財源への影響について解説(建通新聞)
ガソリン税の縮小・廃止が進む一方で、道路整備に向けられる別の財源が急速に拡大してきた。それが「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」だ。
2021年度から2025年度の5年間で事業規模おおむね15兆円(国費約8兆円)を確保するとして始まったこの対策は、2025年度までに約15.6兆円の事業規模が確保されており、計画をほぼ達成した。道路関係では橋梁の老朽化対策、法面・盛土の防災対策、4車線化など「ミッシングリンク解消」が重点的に取り上げられた。
これは使えそうです。
さらに注目すべきは、2025年6月に閣議決定された「第1次国土強靱化実施中期計画」だ。2026年度から2030年度の5年間で事業規模20兆円強と、前の5か年計画(15兆円規模)から3割超の増額となっている。道路関連インフラの保全に必要な国費は5年で3兆円程度とされており、この計画が着実に実行されれば、建設業には継続的な受注機会が生まれる。
令和6年度補正予算における国土交通省の公共事業関係費は1兆9,126億円に達しており、このうち国土強靱化関係が大部分を占めた。2025年度補正予算(令和7年度補正予算)では国土強靱化関係の国費は2兆5,095億円と、さらに増加している。
建設業従事者としては、国土強靱化の予算フローと「防災・安全交付金」「社会資本整備総合交付金」の配分状況を把握しておくことが、受注計画を立てる上で欠かせない情報だ。国土交通省が毎年発表する「道路関係予算概要」は無料で確認できるので、年度の変わり目にチェックするのが有効だ。
参考:令和7年度 道路関係予算概要(国土交通省 道路局)
https://www.mlit.go.jp/page/content/001858407.pdf
現在の道路財源をめぐる最大の課題のひとつが、電気自動車(EV)の普及によるガソリン税収の構造的な減少だ。ガソリンを使わないEVは揮発油税を払わない。ハイブリッド車も燃費が高いため、走行距離あたりの税収は少ない。すでにEV・PHVの普及に伴い、燃料税収の長期的な減少は避けられないとの試算が、総務省や政府の検討会でも示されている。
財源不足という現実があります。
この問題への対策として浮上しているのが「走行距離課税(走行距離税)」だ。自動車の走行距離に応じて課税する仕組みで、EVを含めすべての自動車から公平に徴収できる点が特徴とされている。アメリカのオレゴン州では1マイル(約1.6km)あたり1.9セント(約3円)で試験的に導入されており、日本でも導入の是非が議論されている。
走行距離税が導入された場合、建設業には二面性の影響が生じる可能性がある。
まず、燃料費よりも走行コストが増加するため、重機や資材運搬車を多用する建設現場では経費増加につながるリスクがある。特に地方の遠方現場まで機材を運ぶ工事では影響が出やすい。一方で、道路財源が安定・拡充されれば道路工事の発注量が維持・増加する可能性もあり、受注側のメリットとなる。
現時点(2026年2月)では、走行距離税の導入時期は未定であり、まずは2026年度税制改正に向けた代替財源の検討が進められている段階だ。今後の政府・与党の動向を継続的に把握しておく必要がある。
参考:EV普及と道路財源・走行距離課税の課題についての解説(一般財団法人日本エネルギー経済研究所)
https://eneken.ieej.or.jp/data/4404.pdf
ここまで財源の仕組みや歴史を見てきたが、建設業の現場目線から言えば「財源の話は役所や政治家のことで、自分には関係ない」と思っている人が少なくない。しかし実際には、財源の流れを把握しているかどうかで、受注チャンスの見え方がまったく違ってくる。
国が年間で道路に投じる事業費は5兆円超の規模だ。一方で、地方単独事業(都道府県・市区町村が独自予算で行う道路整備)は財政悪化を理由に長期的な減少傾向にある。つまり「地方の独自予算による工事は減りやすく、国費・交付金を活用した工事は維持・増加しやすい」という傾向があるということだ。
これが条件です。
具体的には、社会資本整備総合交付金や防災・安全交付金を活用した工事は、自治体が毎年「社会資本総合整備計画」を策定して国に申請し、認められれば交付される。建設業者としては、自治体がどのような整備計画を持っているかを把握し、関連する入札情報を早めに確認する動きが有効だ。国土交通省や地方整備局が公表している計画書・交付金要望状況などは公開情報として入手できる。
また、「5か年加速化対策」や「国土強靱化中期計画」の予算は国費ベースで数兆円規模であり、道路関係工事の多くは橋梁補修・法面対策・舗装補修など地域密着型の工事として発注される。これらは大手ゼネコンだけでなく、地元の中小建設業者にとっても受注機会になりやすい。公共工事の中小企業向け契約率は地方公共団体で実績70%台を維持しており、地元建設業者にとっての市場は確かに存在する。
財源の仕組みを理解することは、次の年度に何の工事が増えそうか、どの自治体・どの補助制度が動きそうかを予測するための基礎知識になる。むずかしい税制の話も「自分の受注に直結する情報」として見ると、一気に身近に感じられるはずだ。
参考:公共工事の動向(建設業界の現状・公共事業予算の推移などをまとめた日本建設業連合会のデータ)
https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart5-3/index.html