エスカレーター寸法一覧:設計据付の完全ガイド

エスカレーター寸法一覧:設計据付の完全ガイド

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エスカレーター寸法一覧と設計基準

エスカレーター寸法設計の重要ポイント
📏
主要寸法項目

エスカレーター幅、手すり中心間、スカートガード幅など設計に必須の寸法データ

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据付要件

建築構造体との取り合い寸法や支持条件の詳細仕様

⚖️
安全基準

建築基準法に基づく設計基準と実務での注意点

エスカレーター主要メーカー寸法比較

エスカレーター設計において、メーカーごとの寸法仕様を正確に把握することは極めて重要です。主要メーカーの寸法データを比較検討することで、最適な機種選定が可能になります。

 

三菱エレクトリック製エスカレーター寸法

  • S600形:W1(エスカレーター幅)1150mm、W2(手すり中心間)840mm
  • S1000形:W1(エスカレーター幅)1550mm、W2(手すり中心間)1240mm
  • W3(スカートガード幅):S600形610mm、S1000形1010mm
  • W4(トラス幅):S600形1100mm、S1000形1500mm
  • W5(仕上前床穴あけ寸法):S600形1250mm、S1000形1650mm

フジテック製GS-NXシリーズ寸法
フジテックのGS-NXシリーズは、S600形、S800形、S1000形の3タイプを展開しており、中間サイズのS800形を設定している点が特徴的です。

 

  • S600形:W1(仕上幅)1150mm、W2(ハンドレール中心間)838mm
  • S800形:W1(仕上幅)1350mm、W2(ハンドレール中心間)1038mm
  • S1000形:W1(仕上幅)1550mm、W2(ハンドレール中心間)1238mm

フジテック独自のW4(床目地幅)寸法も設定されており、S600形1078mm、S800形1278mm、S1000形1478mmとなっています。

 

日立ビルシステム製エスカレーター寸法
日立ビルシステムのVXSシリーズは、特に据付寸法において詳細な規定を設けています。階高Hに対する標準寸法計算式も明確化されており、30°傾斜角度では√3H+4300+C+D、35°傾斜角度では1.428H+4890+C+Dという計算式を採用しています。

 

エスカレーター据付時の重要寸法項目

エスカレーター据付設計では、機器本体寸法だけでなく、建築構造体との取り合い寸法が極めて重要になります。特に層間変形角γと階高Hの関係性を正確に把握することが必要です。

 

層間変形角対応寸法
建築物の層間変形角γおよび階高Hによって、エスカレーターと建築梁との隙間C、Dの寸法が変動します。γH値に応じた延長寸法は以下の通りです。

  • γH 80mm以下:D=135mm
  • γH 80超え120mm以下:D=175mm
  • γH 120超え150mm以下:D=205mm
  • γH 150超え200mm以下:D=255mm
  • γH 200超え250mm以下:D=305mm
  • γH 250超え300mm以下:D=355mm

受梁部寸法とコンクリート・鉄骨構造対応
E寸法(受梁部寸法)は構造種別によって異なり、コンクリート構造の場合は鉄骨構造より大きな寸法設定となっています。これは、コンクリート構造における施工精度の考慮によるものです。

 

γH 80mm以下の場合。

  • コンクリート構造:E=420mm
  • 鉄骨構造:E=320mm

γH 250超え300mm以下の場合。

  • コンクリート構造:E=860mm
  • 鉄骨構造:E=760mm

ピット寸法と設備スペース
エスカレーター下部のピット深さは、メーカーによって若干の差異があります。日立ビルシステムでは最小深さ1100mmを基準としており、電源引き込みスペースも右側のみに限定されています。

 

エスカレーター設計における安全基準

エスカレーター設計では、建築基準法および関連する安全基準を遵守する必要があります。特に公称幅と実際の利用者数の関係性は、避難計算においても重要な要素となります。

 

傾斜角度と安全性
エスカレーターの傾斜角度は、30°と35°が主流ですが、それぞれ異なる設計配慮が必要です。
30°傾斜角度の特徴

  • 利用者の歩行負荷が比較的少ない
  • 高齢者や身体が不自由な方でも利用しやすい
  • 階高に対する水平投影距離が長くなる
  • 建築計画上のスペース確保が重要

35°傾斜角度の特徴

  • 水平投影距離を短縮できる
  • 建築空間の有効活用が可能
  • 利用者の歩行時注意が必要
  • 手すりへの依存度が高くなる

荷重と構造安全性
エスカレーターの支点反力は、階高Hと中間支持位置M1によって決まります。フジテック製では、2点支持と3点支持で異なる計算式を採用しており、構造設計者は正確な荷重値を把握することが重要です。

 

9.5m以下の階高における支点反力(S600形の場合)。

  • R1(アッパー支点反力):9.6H²+77.2H+117.6kN
  • R2(ロアー支点反力):9.6H²+61.0H+107.0kN

エスカレーター寸法計算の実務ポイント

実際の設計業務において、エスカレーター寸法計算では理論値と現実の施工誤差を考慮した余裕寸法の設定が不可欠です。特に既存建物への後付け設置では、測量精度と施工精度の両面からの検討が重要になります21。

 

寸法検証の重要項目
設計段階での寸法検証では、以下の項目を重点的にチェックする必要があります。

  • エスカレーター本体幅と床開口寸法の適合性
  • 手すり中心間寸法と建築仕上げとの干渉チェック
  • 上下階レベルでの水平精度確認
  • 中間階通過部での建築構造体との離隔確認
  • 電気設備引き込み位置と建築設備との調整

施工誤差対応策
実際の施工では、建築工事とエスカレーター据付工事の工程調整が重要です。特に以下の点で誤差が生じやすいため、事前の対策が必要です。

  • コンクリート構造体の通り精度:±10mm程度の誤差を見込む
  • 床レベルの高低差:±5mm以内での調整が理想
  • 開口部寸法の収縮誤差:コンクリート養生による寸法変化を考慮

メーカー固有仕様の把握
各メーカーには独自の寸法仕様や施工要領があり、設計者はこれらの違いを正確に把握する必要があります。例えば、三菱エレクトリックでは水平部ステップ数の標準仕様と有償付加仕様で寸法が変わる場合があります。

 

フジテックでは受梁部の延長方式がプレート延長とコードアングル延長の2種類あり、γH値によって使い分けられています。このような詳細仕様の理解は、設計変更時のコスト管理にも直結します。

 

エスカレーター寸法トラブル回避法

実務においてエスカレーター寸法に関するトラブルは、設計段階での検討不足や施工時の連絡不備が主な原因となります。これらのトラブルを未然に防ぐための実践的な対策について詳しく解説します。

 

設計段階でのトラブル予防
設計初期段階において、以下のチェックリストを活用することで、後工程でのトラブルリスクを大幅に軽減できます。

  • 建築基準法の避難施設としての位置づけ確認
  • 消防法に基づく避難経路幅員の適合性検証
  • バリアフリー法対応の検討(点字ブロック設置位置など)
  • 既存設備(電気、機械)との干渉チェック
  • 将来の保守メンテナンススペース確保

施工段階での品質管理
施工段階では、建築工事とエスカレーター据付工事の工程調整が最も重要な管理項目となります。特に以下の項目では、定期的な測量確認が必要です。
測量管理項目と許容誤差。

  • 上下階基準レベル:±3mm以内
  • 開口部中心線:±5mm以内
  • 構造体通り:±8mm以内
  • 仕上げ面との段差:±2mm以内

メーカー間寸法差への対応
同一建物内で複数メーカーのエスカレーターを採用する場合、寸法仕様の統一が重要な課題となります。特に以下の点で調整が必要です。

  • W5(床開口寸法)の統一による建築工事の効率化
  • 手すり高さ寸法の統一による意匠性確保
  • 電気設備仕様の標準化によるメンテナンス性向上

実際のプロジェクトでは、設計段階でのメーカー選定基準を明確化し、寸法仕様の優先順位を決定することで、後工程でのトラブルを回避できます。また、既存建物の改修工事では、現況測量の精度向上と、施工誤差を吸収できる調整機構の検討が不可欠です。

 

建設業界においてエスカレーター設計は、単なる機器選定にとどまらず、建築計画全体との整合性を図る総合的な技術力が求められる分野です。今回紹介した寸法一覧と設計ポイントを活用し、より安全で効率的なエスカレーター設計を実現していただければと思います。