
建築基準法における避難経路の規定は、火災などの緊急時に建物利用者が安全に避難できるよう設けられた重要な安全基準です 。これらの規定は建築基準法施行令第5章第2節「避難施設等」に詳細に定められており、建築従事者にとって必須の知識となります 。
参考)避難規定とは?|対象となる建築物は?建築基準法を根拠に解説|…
避難経路に関する主要な規定項目としては、廊下の幅、直通階段の設置、2以上の直通階段、避難階段の設置、屋外への出口、排煙設備の設置、非常用の照明装置の設置、敷地内通路などが挙げられます 。これらの規定は建築物の用途や規模によって適用基準が異なるため、設計段階での十分な検討が不可欠です。
建築基準法の避難関係規定は、2000年の改正により性能規定が導入され、従来の仕様規定に加えて避難安全検証法という新しい設計手法が利用可能になりました 。この改正により設計者の選択肢が広がり、より合理的な避難計画の策定が可能となっています。
参考)株式会社建築工房グエル
建築基準法施行令第119条では、廊下の幅について詳細な基準を定めています 。廊下の幅は建築物の用途と廊下の配置(両側居室か片側居室か)によって決定され、小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校の児童用または生徒用廊下では両側居室2.3m以上、片側居室1.8m以上が必要です 。
参考)廊下幅とは?
病院の患者用廊下、共同住宅で住戸の床面積合計が100㎡を超える階の共用廊下、または3室以下の専用を除き居室床面積合計が200㎡(地階では100㎡)を超える階の廊下では、両側居室1.6m以上、片側居室1.2m以上が求められます 。
参考)建築設計における『廊下幅』とは【建築基準法をわかりやすく解説…
廊下幅の緩和規定として「3室以下の専用廊下」があり、この場合は廊下幅の制限が適用されません 。ただし、共同住宅にはこの緩和は適用されないため注意が必要です。また、地方公共団体の条例により、建築基準法よりも厳しい基準が設けられている場合があるため、設計時には該当地域の条例も確認する必要があります 。
参考)住宅で求められる避難経路について【建築基準法を根拠に解説】|…
建築従事者として重要なのは、廊下幅の設計が単純な数値の確保だけでなく、緊急時の円滑な避難を可能にする機能的な設計であることです。車椅子利用者や高齢者の避難を考慮すると、法的最低基準を上回る寸法を検討することも安全性向上に寄与します 。
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建築基準法施行令第120条では、避難階以外の各階から避難階または地上に通ずる直通階段の設置について規定しています 。直通階段の設置基準は居室の各部分から直通階段までの歩行距離によって決定され、主要構造部が準耐火構造または不燃材料で造られている場合とその他の場合で異なる数値が設定されています 。
参考)敷地内通路とは|建築基準法による幅1.5mまたは90㎝の避難…
歩行距離の基準として、令116条の2第1項一号に該当する開口部を有しない居室では30m、法別表第一(い)欄(二)項の特殊建築物の主用途居室では準耐火構造等の場合50m・その他30m、それ以外の居室では準耐火構造等の場合50m・その他50mとなっています 。
避難階においては、階段から屋外への出口までの歩行距離は第120条の数値以下、居室から屋外への出口までの歩行距離は同条数値の2倍以下とする必要があります 。この規定により、避難経路全体の連続性と安全性が確保されています。
二方向避難の概念では、特定条件下で二以上の直通階段設置が必要となり、直通階段に至る通常歩行経路に共通の重複区間がある場合、その重複区間の長さは歩行距離限度の1/2を超えてはならないと定められています 。ただし、避難上有効なバルコニー等で避難可能な場合はこの限りではありません。
参考)二方向避難の定義とは?消防法と建築基準法の規定や確保するため…
建築基準法施行令第128条では、敷地内の通路について詳細な規定を設けています 。敷地内通路は、屋外への出口および屋外避難階段の降り口から道路・公園・空地に至るまでの経路に適用され、有効幅員1.5m以上(緩和条件を満たせば90cm以上)が必要です 。
通路幅員の緩和条件として、階数が3以下で延べ面積が200㎡未満の建築物では90cm以上、それ以外では1.5m以上となっています 。この基準は住宅の種類によっても適用が異なり、一戸建て住宅・長屋では条件に該当する場合のみ、共同住宅・寄宿舎では全ての建築物で避難経路確保が必要です 。
屋外への出口の位置設定は、直通階段から屋外出口まで、および避難階の各居室から屋外出口までの歩行距離基準を満たす必要があります 。小規模建築物では30m以下の歩行距離で容易にクリアできますが、大規模建築物では慎重な計画が求められます。
地方公共団体の条例により、建築基準法の適用を受けない建築物でも避難経路確保が求められる場合があります 。建築基準法の適用を受けない場合でも、人が通れる最低限の寸法として75cm程度の確保が推奨されており、火災などの緊急事態に備えた安全対策として重要です。
建築基準法施行令第126条の4では、非常用照明装置の設置について詳細に規定しています 。非常用照明器具の設置が義務付けられる建築物は、特殊建築物(劇場、病院、学校、百貨店等)、階数3以上で延べ面積500㎡超の建築物、延べ面積1000㎡超の建築物、無窓居室を有する建築物です 。
参考)非常用照明の設置基準とは?構造や設置義務が免除される場合につ…
非常用照明の構造基準として、直接照明とし床面において1ルクス以上の照度を保つこと、火災時の温度上昇でも大きく光度が減少しない構造であることが求められます 。これにより停電時でも居室、廊下等の避難経路で1ルクス以上の照度を確保し、安全な避難を支援します 。
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/588421.pdf
設置位置は居室および居室から屋外出口に至る通路(廊下・階段)とされており、採光上有効に直接外気に開放された通路は除外されます 。照度計算では居室・廊下などの隅角部1m以内の範囲、柱の影、物陰は照度範囲から除外されます 。
参考)非常用照明の設置基準とは|建築基準法による構造・照度範囲【図…
製品選択においては、建築基準法で指定された構造要件を満たすものか、JIL適合マークのある製品を選択する必要があります 。建築従事者として、設計段階から適切な製品選定と配置計画を行うことで、法令遵守と実効性の両立を図ることが重要です。
建築基準法施行令第126条の2では、排煙設備の設置基準を定めており、火災時に発生した煙を屋外に排出し避難時間を確保する重要な設備として位置づけられています 。排煙設備は自然排煙設備と機械排煙設備の2種類があり、煙の自然上昇を利用する方式と排煙機器を使用してダクトで排出する方式に分かれます 。
参考)『排煙設備』とは|建築基準法の設置基準まとめ【免除の方法も解…
排煙設備が必要な建築物では、最大500㎡以内ごとに防煙区画を設置しなければなりません 。500㎡を超える部屋では500㎡以内ごとに天井から50cm以上の防煙壁設置が必要となり、避難経路の設計と密接に関連します。
避難安全検証法は、2000年の建築基準法改正で導入された性能規定による設計手法で、初期火災で発生した煙またはガスが避難上支障のある高さまで降下する時間内に在館者が避難できるかを検証します 。この手法により、従来の仕様規定よりも合理的で経済的な避難設計が可能になります。
参考)避難安全検証法の基礎 今さら誰にも聞けない事をわかりやすく解…
避難安全検証法には区画避難安全検証法、階避難安全検証法、全館避難安全検証法の3種類があり、それぞれ避難時間判定法(ルートB1)と煙高さ判定法(ルートB2)が定められています 。検証結果により避難安全性能を満たすと判断されれば、排煙設備の設置免除や内装制限の緩和など、設計自由度の向上とコスト削減が可能になります 。
参考)オフィス移転前に確認したい! 避難安全検証法をわかりやすく解…
建築従事者として重要なのは、従来の仕様規定と避難安全検証法を適切に使い分け、建築物の特性に応じた最適な避難計画を策定することです。特に大空間を有する店舗や工場、物流施設では避難安全検証法の活用により大幅なコスト削減と機能向上を実現できる可能性があります。