グローブ温度と平均放射温度とWBGT計測

グローブ温度と平均放射温度とWBGT計測

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グローブ温度と平均放射温度

この記事の概要
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まず押さえる定義

グローブ温度は「放射+気流」の影響が混ざった実測値、平均放射温度(MRT)は「周囲から受ける放射」を等価温度で表した指標として整理します。

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現場で使う計測・推定

黒球(直径15cm)や風速を前提に、ISOの式でMRTを推定する考え方、WBGTやSETの計測にもつながる手順を紹介します。

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落とし穴と改善策

値が安定するまでの待ち時間、設置高さ1.1m、壁面近傍回避など、測定誤差を増やす典型例と対策をまとめます。

グローブ温度の定義と黒球温度計の特徴

建築現場で「温度」を語るとき、普通の温度計(乾球温度)だけでは説明できない暑さがあります。日射の照り返し、熱せられた外壁・鉄骨・路面からの赤外放射、さらに風の有無で体感は大きく変わります。グローブ温度(黒球温度)は、そうした放射と気流の影響を強く受けるように作られた黒球温度計で測る温度です。
黒球温度センサーは規格でも形状が明確で、直径150mmの中空黒球、平均放射率0.95(つや消し黒色球)などの条件が示されています。

 

参考)JISZ8504:1999 人間工学−WBGT(湿球黒球温度…

この「黒くて大きい球」を使う理由は、全方位から来る短波(日射)と長波(赤外放射)の影響を受け、同時に風による対流の影響も受ける“混ざった結果”を温度として出すためです。

 

参考)https://www.env.go.jp/content/900400041.pdf

つまりグローブ温度は、放射だけの指標ではありません。現場的に言えば、日なたで風が止むとグローブ温度が急に跳ね上がりやすく、日陰で風が通ると下がりやすい、という性格を持っています。ここを理解しておくと、後述する平均放射温度(MRT)を「グローブ温度から推定できるが、同じではない」理由が腹落ちします。

グローブ温度から平均放射温度(MRT)を推定する計算

平均放射温度(MRT: Mean Radiant Temperature)は、周囲から受ける放射熱量の全方向平均と等価な黒体放射温度として定義され、放射環境の代表値として扱われます。
建築の温熱環境では、壁面温度の不均一や日射・照り返しの影響を「放射」として把握するため、MRTを押さえると説明の精度が一段上がります。
MRTは放射計で方向別に測って算出する方法もありますが、実務では黒球温度(グローブ温度)と気温、風速から推定するアプローチがよく使われます。

環境省の技術資料では、標準的な黒球温度計(直径15cm)を前提に、黒球温度 tg、気温 ta、風速 Va を用いてMRTを求めるISO 7726の式が示されています。

式の考え方はシンプルで、「黒球が受けた放射の影響」と「風による対流の冷却(あるいは加熱)」の釣り合いから、放射として等価な温度(MRT)を逆算する、というものです。

ここで重要なのは、同じtgでも風速Vaが違えば、推定されるMRTが変わり得る点です。つまり、黒球温度だけ見て「放射が強い」と断定すると、無風/強風の影響を取り違える恐れがあります。

平均放射温度とWBGT・SETの関係(熱中症・快適性)

現場の安全管理でよく出てくるのがWBGT(暑さ指数)です。WBGTは、自然湿球温度・黒球温度・乾球温度から算出する指標で、熱中症予防の運用に使われます。
環境省の資料では、WBGT28℃以上で厳重警戒などの目安が示されており、暑熱リスクの意思決定に直結します。
一方、建築環境の評価や設計寄りの話ではSET(標準有効温度)も頻出で、気温・湿度・風速・黒球温度(またはMRT)に加えて代謝量と着衣量を入れて評価します。

つまり、MRTは「放射の説明に強い指標」であると同時に、WBGTやSETの計測・計算の入口にもなり得る重要パラメータです。

現場目線での使い分けを箇条書きにすると、次が実務的です。

 

  • WBGT:まず危険度を素早く判断し、作業中止・休憩頻度・水分塩分補給などの運用に落とす。​
  • MRT:なぜその場所が暑いのか(照り返し・高温壁面・日射)を説明し、日陰化や遮熱、材料変更など対策の方向性を決める。​
  • グローブ温度:放射と風の“合成結果”として、体感寄りの変化を掴む(ただし放射だけの代表ではない)。

    参考)温度指標について(グローブ温度・面積加重平均温度・平均放射温…

測定の手順と設置高さ1.1m・安定時間15分の注意点

黒球温度計(グローブ温度計)で放射環境を測る場合、測り方で値が簡単にブレます。環境省資料では、黒球温度は値が安定するまで時間がかかるため、15分以上放置する必要があるとされています。
「到着してすぐ読んだ値」を記録してしまうと、現場日報は作れても、評価としては再現性が落ち、説明責任を果たしにくくなります。
また、測定高さも重要で、歩行者の体感温度評価の基本として地上高1.1mが挙げられています。

鉄板やアスファルトの直上は局所的に高温になりやすく、低いほど暑く出る可能性があるため、「何mの高さで測ったか」をセットで残すのがコツです。

屋外計測では「黒球に日射を当てる(黒球が陰にならない)」「壁等の近くは避ける」「値が安定してから読む」といった測定のポイントが整理されています。

 

参考)https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/city_gline/city_guideline_08.pdf

さらに、携帯型WBGT計についても、屋外では黒球付きの機器が推奨され、弱風環境では過小評価の可能性がある点が注意として書かれています。

意外と盲点なのが、計測者自身が作る影です。測っているつもりが黒球が一時的に陰になり、放射環境を弱く見積もることがあります。設置後は離れて、周囲の影の動き(クレーン、仮設材、車両)も含めて観察し、条件が変わったら再測定するのが安全です。

グローブ温度で「暑さの原因」を特定する独自視点(照り返し・部材・動線)

検索上位では「定義」や「計算式」の説明が多くなりがちですが、建築従事者にとって本当に効くのは「対策の当たり所」を見つける使い方です。そこで独自視点として、グローブ温度とMRTを“原因究明の道具”として運用する方法をまとめます。
ポイントは、同じ気温でも「放射」が変わると体感が変わる、という現場の納得感を数値で裏付けることです。黒球は日射(短波)と路面等からの赤外放射(長波)の放射熱を同時に測る、と説明されています。

この性質を利用し、例えば次のような比較測定をすると、対策の優先順位が見えます(入れ子なし箇条書き)。

 

  • 動線A(直射日光の通路)と動線B(仮設屋根の通路)で、同じ高さ1.1m・同時刻にtgを比較する。​
  • 鉄骨や外壁の近傍を避けた点と、あえて近傍(ただし安全確保)で測った点を比較し、放射源の影響を推定する。​
  • 風が抜ける場所と止まる場所で、tg・ta・Vaを同時に取り、MRT推定を含めて「放射のせいか、無風のせいか」を切り分ける。​

さらに、サーモカメラ(熱画像)を併用すると「高温部分の特定が容易」とされ、放射の原因箇所の当たりを付けやすくなります。

日射遮蔽、遮熱シート、材料の反射率・放射率の変更、仮設の配置替えなど、対策の多くは“空気を冷やす”より“放射を減らす”ほうが効く場面があります。これを説明できると、作業員の納得感も上がり、ルール遵守(休憩・水分補給)にもつながりやすくなります。

放射は「見えない暑さ」ですが、黒球温度→MRT推定→WBGT/SETの文脈で整理すると、施工計画・安全衛生・近隣説明まで一本のロジックになります。

測定と算出(ISO 7726の式)についての根拠・注意点(待ち時間、測定高さ1.1m、黒球で放射を測る意味)がまとまっている資料。
環境省資料(体感温度の把握:黒球温度からMRT算出、待ち時間15分、測定高さ1.1mの考え方)
屋外でのWBGT計の使い方と、黒球付き推奨・弱風での過小評価など測定上の注意がまとまっている資料。
環境省 暑さ指数(WBGT)の把握:携帯型WBGT計の注意点、測定ポイント