ハイテンションボルト規格表完全ガイド:構造設計者向け強度等級別選定方法

ハイテンションボルト規格表完全ガイド:構造設計者向け強度等級別選定方法

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ハイテンションボルト規格表詳細解説

ハイテンションボルト規格表の基本理解
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F10T・F8T等級の違い

引張強度1000-1200N/mm²のF10Tと800-1000N/mm²のF8Tの性能比較

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セット構成と規格化

JIS B1186準拠のボルト・ナット・平座金セットの規格要件

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締付トルクの管理基準

径別トルク係数値と摩擦接合性能を確保するための管理方法

ハイテンションボルト規格表の基本構成要素

ハイテンションボルト規格表は、建築構造物の安全性を確保するために不可欠な技術資料です。JIS B1186に基づく摩擦接合用高力六角ボルトの規格表は、ボルト本体、六角ナット平座金がセットで規格化されており、この組み合わせでなければ本来の性能を発揮できません。
規格表の主要項目は以下の通りです。

  • ねじ外径(d):M12からM30までの標準サイズ
  • 標準ボルト軸力(N):各径に対応した規定張力値
  • トルク係数値:0.150から0.190の範囲で管理
  • 締付けトルク値:トルク係数に応じた推奨値

特に重要なのは、規格表に記載された数値が実際の施工品質に直結することです。例えばM16サイズのF10Tハイテンションボルトの場合、標準ボルト軸力117kNに対し、トルク係数0.155で116N・mの締付けトルクが基準となります。

ハイテンションボルト強度等級別規格比較

ハイテンションボルトの強度等級は、構造物の要求性能に応じて選定する必要があります。現在主流となっているF8TとF10Tの等級別特性を詳しく解説します。

 

F10T等級の特性

  • 引張強度:1,000〜1,200N/mm²
  • 降伏点:900N/mm²以上
  • 適用範囲:高層建築、長大橋梁、重要構造物

F8T等級の特性

  • 引張強度:800〜1,000N/mm²
  • 降伏点:640N/mm²以上
  • 適用範囲:中低層建築、一般鉄骨構造

規格表上でのF10TとF8Tの違いは単純な強度数値だけでなく、疲労特性や環境耐性にも表れます。F10T等級では、繰り返し荷重に対する耐久性が約1.3倍向上し、長期間の安全性確保に優れています。
また、あまり知られていない事実として、F10T等級のハイテンションボルトは、通常の鋼材の約4倍の引張強度を持つため、同じ接合力を得るのに使用本数を大幅に削減できます。これにより施工効率の向上とコスト削減が同時に実現できます。

 

ハイテンションボルト締付トルク管理規格

ハイテンションボルトの性能を100%発揮させるためには、規格表に基づく厳密なトルク管理が不可欠です。締付トルク管理の規格は、摩擦接合の品質確保において最も重要な要素となります。

 

トルク係数値の管理範囲

  • 標準値:0.150~0.190
  • 管理限界:±0.05の範囲内
  • 検査頻度:同一ロットから3本以上抜取り

実際の締付けトルク値は、次の計算式で求められます。
T = k × d × N
(T:締付けトルク、k:トルク係数、d:ねじ径、N:標準ボルト軸力)
径別の締付トルク参考値(トルク係数0.155の場合)。

  • M12:82N・m
  • M16:116N・m
  • M20:183N・m
  • M22:225N・m
  • M24:269N・m

意外な事実として、ハイテンションボルトの締付けトルクは、単に「強く締める」だけでは不十分で、規定値を超過すると逆に摩擦係数が低下し、設計耐力を下回る場合があります。このため、トルクレンチによる定量的管理が法的にも義務付けられています。

ハイテンションボルト材質別規格特性

ハイテンションボルトの材質選定は、使用環境と構造物の要求性能により決定されます。規格表では材質別の特性が明確に区分されており、適切な選定が構造安全性の鍵となります。

 

主要材質の規格特性
SNCM630(調質鋼)

  • 引張強度:1,200N/mm²
  • 耐食性:一般環境用
  • 適用:DIN18800T7規格準拠
  • 特徴:機械的性質のバランスが優れている

SCM435(クロムモリブデン鋼)

  • 引張強度:1,000N/mm²
  • 靱性:低温環境対応
  • 適用:JIS B1186準拠
  • 特徴:溶接性と加工性に優れる

10T-SUS(ステンレス鋼)

  • 引張強度:1,000N/mm²
  • 耐食性:海岸部・工業地域対応
  • 適用:特殊環境用途
  • 特徴:長期メンテナンスフリー

表面処理の選択も重要な要素です。規格表では「生地」「ドブ(溶融亜鉛めっき)」「ダクロタイズド」などの処理方法が規定されており、使用環境の腐食性に応じて選定します。

 

特筆すべきは、海岸部で使用されるハイテンションボルトでは、塩害対応として亜鉛系合金めっきが推奨されることです。この処理により、通常の3倍以上の耐食年数を確保できます。

 

ハイテンションボルト接合方法別規格要件

ハイテンションボルトによる接合方法は、構造力学的特性と施工性を考慮して選定されます。規格表では接合方法別の要件が詳細に規定されており、設計意図を正確に実現するために重要な情報源となります。

 

摩擦接合の規格要件

  • 接触面処理:ブラスト処理またはディスクグラインダー仕上げ
  • 摩擦係数:0.40以上(無機ジンクリッチペイント塗装面)
  • すべり係数:0.45以上(赤錆面)
  • 母材条件:板厚12mm以上、鋼種SS400以上

引張接合の規格要件

  • 有効断面積:ねじ谷径基準
  • 安全率:2.5以上
  • 疲労設計:応力範囲による制限
  • 接合効率:母材強度の80%以上確保

接合部の品質管理において、あまり知られていない重要な規格要件として「初期滑り荷重の確認」があります。これは実際の構造物で摩擦接合が確実に機能しているかを検証する試験で、設計荷重の1.2倍の荷重を加えても滑りが生じないことが求められます。
また、トルシア型ハイテンションボルトの場合、国土交通大臣認定品であることが規格要件となっており、施工後のピンテール除去により締付完了が一目で確認できる独特のメリットがあります。
構造設計における選定のポイントは、単純に規格表の数値だけでなく、施工性、検査性、維持管理性を総合的に評価することです。特に大型構造物では、施工後の点検・交換の容易さも重要な選定要素となります。