
ハイテンションボルト規格表は、建築構造物の安全性を確保するために不可欠な技術資料です。JIS B1186に基づく摩擦接合用高力六角ボルトの規格表は、ボルト本体、六角ナット、平座金がセットで規格化されており、この組み合わせでなければ本来の性能を発揮できません。
規格表の主要項目は以下の通りです。
特に重要なのは、規格表に記載された数値が実際の施工品質に直結することです。例えばM16サイズのF10Tハイテンションボルトの場合、標準ボルト軸力117kNに対し、トルク係数0.155で116N・mの締付けトルクが基準となります。
ハイテンションボルトの強度等級は、構造物の要求性能に応じて選定する必要があります。現在主流となっているF8TとF10Tの等級別特性を詳しく解説します。
F10T等級の特性。
F8T等級の特性。
規格表上でのF10TとF8Tの違いは単純な強度数値だけでなく、疲労特性や環境耐性にも表れます。F10T等級では、繰り返し荷重に対する耐久性が約1.3倍向上し、長期間の安全性確保に優れています。
また、あまり知られていない事実として、F10T等級のハイテンションボルトは、通常の鋼材の約4倍の引張強度を持つため、同じ接合力を得るのに使用本数を大幅に削減できます。これにより施工効率の向上とコスト削減が同時に実現できます。
ハイテンションボルトの性能を100%発揮させるためには、規格表に基づく厳密なトルク管理が不可欠です。締付トルク管理の規格は、摩擦接合の品質確保において最も重要な要素となります。
トルク係数値の管理範囲。
実際の締付けトルク値は、次の計算式で求められます。
T = k × d × N
(T:締付けトルク、k:トルク係数、d:ねじ径、N:標準ボルト軸力)
径別の締付トルク参考値(トルク係数0.155の場合)。
意外な事実として、ハイテンションボルトの締付けトルクは、単に「強く締める」だけでは不十分で、規定値を超過すると逆に摩擦係数が低下し、設計耐力を下回る場合があります。このため、トルクレンチによる定量的管理が法的にも義務付けられています。
ハイテンションボルトの材質選定は、使用環境と構造物の要求性能により決定されます。規格表では材質別の特性が明確に区分されており、適切な選定が構造安全性の鍵となります。
主要材質の規格特性。
SNCM630(調質鋼)。
SCM435(クロムモリブデン鋼)。
10T-SUS(ステンレス鋼)。
表面処理の選択も重要な要素です。規格表では「生地」「ドブ(溶融亜鉛めっき)」「ダクロタイズド」などの処理方法が規定されており、使用環境の腐食性に応じて選定します。
特筆すべきは、海岸部で使用されるハイテンションボルトでは、塩害対応として亜鉛系合金めっきが推奨されることです。この処理により、通常の3倍以上の耐食年数を確保できます。
ハイテンションボルトによる接合方法は、構造力学的特性と施工性を考慮して選定されます。規格表では接合方法別の要件が詳細に規定されており、設計意図を正確に実現するために重要な情報源となります。
摩擦接合の規格要件。
引張接合の規格要件。
接合部の品質管理において、あまり知られていない重要な規格要件として「初期滑り荷重の確認」があります。これは実際の構造物で摩擦接合が確実に機能しているかを検証する試験で、設計荷重の1.2倍の荷重を加えても滑りが生じないことが求められます。
また、トルシア型ハイテンションボルトの場合、国土交通大臣認定品であることが規格要件となっており、施工後のピンテール除去により締付完了が一目で確認できる独特のメリットがあります。
構造設計における選定のポイントは、単純に規格表の数値だけでなく、施工性、検査性、維持管理性を総合的に評価することです。特に大型構造物では、施工後の点検・交換の容易さも重要な選定要素となります。