芳香族炭化水素一覧と種類や特性、建築材料における用途

芳香族炭化水素一覧と種類や特性、建築材料における用途

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芳香族炭化水素と種類

この記事のポイント
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芳香族炭化水素の構造と特性

ベンゼン環を持つ炭化水素で、特有の芳香と高い炭素含有率が特徴

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主要な種類と分類

単環式、多環式、縮合環など多様な構造を持つ化合物群

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建築分野での用途と対策

塗料やシンナーの成分として使用され、適切な管理が必要

芳香族炭化水素の基本構造と定義

芳香族炭化水素は、6個の炭素原子が正六角形の環を形成するベンゼン環を分子構造に持つ化合物群です。この化合物群は炭素と水素のみで構成されており、炭素原子間の結合は単結合と二重結合が交互に並ぶ共役系を形成しています。芳香族という名称は、これらの化合物が特有の芳香を持っていることに由来しており、水素原子に対する炭素原子の比率が高い(1:1に近い)という特徴があります。
参考)炭化水素とは?性質から試験で出る分類まで、図説でわかりやすく…

ベンゼン環の炭素原子はsp²混成軌道から成り、平面構造をとることで化学的に安定した共鳴エネルギーを保持します。この構造的特性により、芳香族炭化水素は脂肪族炭化水素のような求核置換反応ではなく、親電子置換反応を受けやすい性質を示します。また、炭素-水素比が低いため、燃焼時には多量の煤を発生させるという特徴も持っています。
参考)芳香族炭化水素 - Wikipedia

芳香族炭化水素は石油や天然ガスの主成分として存在し、合成樹脂、染料、農薬など多方面で製品化されています。建築分野においては、特に塗料や接着剤の溶剤成分として広く使用されており、作業環境における管理対象物質として重要な位置を占めています。
参考)芳香族炭化水素の全容:環境への影響と対策についての包括ガイド…

芳香族炭化水素の主要な種類一覧

芳香族炭化水素は構造によって単環式と多環式に大別され、さまざまな種類が存在します。単環式芳香族炭化水素の代表例として、最も基本的な構造を持つベンゼン(C₆H₆)があり、これにメチル基が結合したトルエン(C₆H₅CH₃)、エチル基が結合したエチルベンゼンなどがあります。キシレンはベンゼン環に2つのメチル基が結合した化合物で、置換基の位置によってオルト(o-)、メタ(m-)、パラ(p-)の3種類の異性体が存在します。
参考)高校化学 芳香族化合物 - Wikibooks

多環芳香族炭化水素(PAHs)は、ベンゼン環を2個以上持つ化合物の総称であり、構造的に複雑で毒性が高い特徴があります。最も構造が単純な多環芳香族炭化水素としてナフタレン(C₁₀H₈)があり、これはベンゼン環が2個縮合した構造を持ちます。さらに複雑な構造としてアントラセン(C₁₄H₁₀)があり、これはベンゼン環が3個直線状に縮合した化合物です。
参考)http://db.kobegakuin.ac.jp/kobe-pharm/YUUKI/AROMATIC/aromatic01.htm

環境省が監視対象としている15種類の代表的な多環芳香族炭化水素には、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[e]ピレンが含まれます。これらの物質は主に有機物の不完全燃焼過程で生成され、環境中に広く存在しています。
参考)日本薬学会 環境・衛生部会ホームページ

芳香族炭化水素の化学的特性と反応性

芳香族炭化水素の最大の特徴は、共鳴による安定化効果です。ベンゼン環内の電子が非局在化することで、通常の二重結合を持つアルケン類よりも化学的に安定した構造を形成しています。この共鳴エネルギーにより、芳香族化合物は様々な化学反応において結果的にベンゼン環を保ったまま反応する傾向があります。
参考)https://sekatsu-kagaku.sub.jp/aromatic-hydrocarbons.htm

芳香族炭化水素の代表的な反応として求電子置換反応があり、ベンゼンのクロル化反応ではまず炭素陽イオンが発生し、その後水素が放出されて芳香族環が再生されます。この反応機構は、多重結合への求電子付加反応とは異なり、芳香族性を維持することが最優先されます。芳香族炭化水素は閉じた共役系を持ち、炭素はsp²混成軌道から成るため平面構造をとることで、この特異な反応性が生まれています。
参考)https://univ.obihiro.ac.jp/~bioorg/lecture/oc27Apr07%20ppt.pdf

物理的特性として、芳香族炭化水素は各種樹脂に対して比較的高い溶解性を示すため、工業的には優れた溶剤として機能します。しかし、芳香族炭化水素は脂肪族炭化水素に比べて臭気が強く、溶解力が高い反面、人体への有害性も高いという特徴があります。燃焼時には炭素含有率の高さから多量の煤を発生させ、完全燃焼が困難であることも重要な特性です。
参考)https://www.nite.go.jp/chem/shiryo/product/paint/paint.pdf

芳香族炭化水素の建築材料における用途

建築分野において芳香族炭化水素は、主に塗料とシンナーの溶剤成分として重要な役割を果たしています。ウレタン系塗料用のシンナーには、ウレタン樹脂を溶解するためのエステル類やケトン類とともに、助剤として芳香族炭化水素類が配合されることが多くあります。ラッカーシンナーの主成分も芳香族炭化水素とアルコールであり、速乾性が求められるラッカー系塗料には不可欠な成分となっています。
参考)https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/environmental-testing-and-industrial-hygiene/air-testing/paints-and-coatings-solvents-air-monitoring

塗料に最も広く使用される芳香族炭化水素溶剤には、ベンゼン、トルエン、混合キシレン、エチルベンゼン(BTEX)、および高沸点芳香族ナフサがあります。これらの溶剤は顔料と結合剤を溶解する石油系化学物質として機能し、塗料の乾燥時間や仕上がりの品質に大きく影響します。エナメルベースの塗料はマイルドな石油ベースの溶剤を使用するため乾燥に時間がかかる一方、ラッカーベースの塗料はより強力な芳香族溶剤を必要とするため短時間で乾燥します。​
住宅室内における揮発性有機化合物(VOC)の主要な発生源として、床材、壁材、玄関ドア、家具、塗料、接着剤などに残留する芳香族炭化水素が問題となっています。これらの建築材料に含まれる芳香族成分が徐々に室内空間へ放散することで、シックハウス症候群などの室内空気汚染を引き起こす可能性があります。そのため、建築事業者は使用する材料の成分を十分に理解し、適切な換気対策を講じることが求められます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1212/h1222-1_13.html

芳香族炭化水素の健康影響と作業環境管理

芳香族炭化水素は人体に対して多様な健康影響をもたらします。短期的な吸入曝露では、上部気道と目に炎症が起き、めまい、倦怠感、頭痛などの症状を引き起こすことがあります。さらに重篤な場合には、回転性めまい、浮動性めまい、吐き気、意識消失につながる陶酔感が生じることもあります。長期的な影響としては、血液疾患(特にベンゼン)、心臓血管と腎臓への影響、中枢神経系の機能不全などが報告されており、ベンゼンは国際がん研究機関によってヒト発がん性物質に分類されています。​
多環芳香族炭化水素(PAHs)は急性毒性が強く、強い発がん性を有することが知られています。国際がん研究機関(IARC)は15種のPAHが発がん性を持つ可能性があると報告しており、特にベンゾ[a]ピレンは有害大気汚染物質の優先取組物質として指定されています。PAHsは生体内で代謝されることにより発がん性などの毒性を発現し、近年ではエストロゲン様作用などの内分泌かく乱作用も報告されています。
参考)微粒子に付着した多環芳香族炭化水素と越境大気汚染 (2009…

建築現場における作業環境管理では、芳香族炭化水素の測定と対策が重要です。作業環境測定基準に基づき、気中濃度を定期的にモニタリングする必要があり、検知管を用いた簡易測定法や活性炭捕集管を用いた精密測定法が確立されています。塗装作業時には適切な換気設備の設置と保護具の着用が義務付けられており、特に密閉空間での作業では十分な注意が必要です。OSHA(米国労働安全衛生局)やNIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)が定める曝露限界値を遵守し、労働者の健康を守ることが建築事業者の責務となっています。
参考)https://www.gastec.co.jp/files/topics/1540_ext_03_0.pdf

厚生労働省のシックハウス問題に関する検討会中間報告書では、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレンなどの芳香族炭化水素が室内空気汚染の同定対象として詳細に解説されています
島津テクノリサーチのPAHs分析ページでは、多環芳香族炭化水素の環境試料における分析方法と法規制について実務的な情報が提供されています