維持管理対策等級評価基準と住宅性能表示制度

維持管理対策等級評価基準と住宅性能表示制度

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維持管理対策等級評価

維持管理対策等級評価の概要
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評価対象

給排水管・給湯管・ガス管の維持管理しやすさを等級1〜3で評価

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住宅性能表示制度

10項目中の4番目「配管の維持管理・更新のしやすさ」に該当

長期優良住宅

認定基準では原則として等級3の取得が必要

維持管理対策等級の基本概念と評価基準

維持管理対策等級は、住宅性能表示制度における重要な評価項目の一つです。この等級は、給排水管、給湯管、ガス管などの配管設備について、将来的な維持管理(清掃、点検、補修)をいかに容易に行えるかを評価するものです。

 

評価基準は3つの主要な要素から構成されています。

  • a項目: 共同住宅等で他の住戸に入らずに専用配管の維持管理を行うための対策
  • b項目: 躯体を傷めないで点検及び補修を行うための対策
  • c項目: 躯体も仕上げ材も傷めないで点検、清掃を行うための対策

等級は1から3までの3段階で評価され、等級3が最高レベルとなります。等級3を取得するには上記a〜cのすべての対策を講じる必要があり、等級2はaとbの対策を満たした場合に認定されます。

 

配管は建物の躯体と比較して耐用年数が短い傾向にあるため、適切な維持管理対策が建物の長期使用において極めて重要です。特に、配管がコンクリート躯体に埋め込まれている場合、故障時の修理や交換が困難になり、建物自体を損傷するリスクが高まります。

 

住宅性能表示制度における維持管理対策等級の位置づけ

住宅性能表示制度は、住まいの安心を可視化する制度として10の評価項目を設けています。維持管理対策等級は、この中の「4. 配管の維持管理や更新のしやすさ」に分類される評価項目です。

 

住宅性能表示制度の10項目。

    1. 構造の安定(地震・風などに対する強さ)
    1. 火災時の安全(燃えにくさ・避難のしやすさなど)
    1. 劣化の軽減(柱や土台の耐久性)
  • 4. 配管の維持管理や更新のしやすさ 👈
    1. 省エネ対策(断熱性能や太陽光発電など)
    1. シックハウス症候群対策(空気循環の配慮)
    1. 窓の面積(光の入りやすさなど)
    1. 遮音対策(共同住宅においての音の伝わりにくさ)
    1. バリアフリー(高齢者や障碍者に対しての配慮)
    1. 防犯対策(窓やドアの防犯対策がされているか)

維持管理対策等級の評価では、以下の具体的な項目がチェックされます。
4-1 維持管理対策等級(専用配管): 一戸建て住宅や共同住宅の各住戸専用部分の配管について評価
4-2 維持管理対策等級(共用配管): 共同住宅の共用立管や横主管について評価
4-3 更新対策(共用排水管): 共同住宅の共用排水管の更新工事軽減対策を評価
これらの評価項目は、建物の長期使用を前提とした設計思想に基づいており、国土交通省が推進する「良質な住宅ストックの形成」政策と密接に関連しています。

 

専用配管と共用配管の評価項目詳細

維持管理対策等級の評価は、配管の種類によって異なる基準が適用されます。

 

専用配管の評価基準
一戸建て住宅では専用配管のみが評価対象となります。専用配管とは、一戸建ての場合、敷地内最終ますから設備機器との接続部までの排水管、水道・ガスメーターから住戸内の各栓・設備機器との接続部までの給水管・ガス管を指します。

 

専用配管の等級判定。

  • 等級3: a〜c項目すべてを満たす
  • 等級2: a項目とb項目を満たす
  • 等級1: 上記以外

共用配管の評価基準
共同住宅では、専用配管に加えて共用配管の評価も重要です。共用配管の評価基準は以下の4項目で構成されます。

  • イ. 配管方法の基準: 貫通部を除き、配管がコンクリート内に埋め込まれていない
  • ロ. 配管点検口の設置: 適当な位置に点検口や掃除口が計画されている
  • ハ. 補修措置の基準: 補修のための開口や人通孔が計画されている
  • ニ. 設置位置の基準: 専用住戸に入らずに点検・清掃可能な位置に設置

共用配管の等級判定。

  • 等級3: イ〜ニの4項目すべてを満たす
  • 等級2: イとロの2項目を満たす
  • 等級1: 等級2に満たないもの

更新対策(共用排水管)
共同住宅では、配管の更新工事を軽減するための対策も評価されます。これは将来的な大規模修繕工事の際の工事負担軽減を目的としており、以下の基準が設けられています。

  • 躯体を傷めないで排水管の更新を行えること
  • 専用住戸内に立ち入らずに排水管の更新を行えること

これらの基準は、分譲マンションの管理組合における長期修繕計画策定において重要な指標となります。

 

長期優良住宅認定における維持管理対策等級の重要性

長期優良住宅の認定制度において、維持管理対策等級は必須要件の一つとなっています。長期優良住宅の認定基準では、原則として以下の等級3取得が求められます。

  • 維持管理対策等級(専用配管)の等級3
  • 維持管理対策等級(共用配管)の等級3
  • 更新対策(共用排水管)の等級3

長期優良住宅認定のメリット
維持管理対策等級3を取得し、長期優良住宅の認定を受けることで以下のメリットが得られます。

  • 税制優遇: 固定資産税の軽減、住宅ローン控除の拡大
  • 補助金制度: 住宅取得時の補助金対象となる可能性
  • 資産価値向上: 将来的な売却時の評価向上
  • 維持管理コスト削減: 長期的なメンテナンス費用の軽減

実務上の注意点
長期優良住宅認定を目指す場合、設計段階から維持管理対策等級3の取得を前提とした配管計画が必要です。特に以下の点に注意が必要です。

  • 配管の躯体内埋設を避ける設計
  • 点検口・掃除口の適切な配置計画
  • 将来的な配管更新を考慮したルート設定
  • 共同住宅では共用部分への配管集約

これらの対策は初期建設費用の増加を伴う場合がありますが、建物のライフサイクルコスト削減効果は大きく、建築主への適切な説明が重要です。

 

維持管理対策等級向上のための実務的アプローチ

維持管理対策等級の向上には、設計段階からの綿密な計画が不可欠です。実務者として押さえておくべき具体的なアプローチを紹介します。

 

配管ルート設計の最適化
等級3取得のためには、配管の躯体内埋設を最小限に抑える必要があります。効果的な手法として以下が挙げられます。

  • パイプシャフト(PS)の活用: 縦方向の配管を集約し、メンテナンス性を向上
  • 二重床・二重天井の採用: 配管を躯体から分離し、アクセス性を確保
  • 外壁側配管の検討: 維持管理のための外部アクセスルートの確保

点検口・掃除口の戦略的配置
適切な点検口の設置は等級向上の重要な要素です。配置計画では以下の点を考慮します。

  • 配管分岐部への重点配置: 故障リスクの高い箇所への優先的な設置
  • 清掃効率の最大化: 排水管の勾配と清掃可能距離を考慮した間隔設定
  • 美観との両立: 居住空間の美観を損なわない位置での設置検討

コスト最適化手法
維持管理対策等級向上に伴うコスト増加を抑制するための実務的な手法。

対策項目 標準仕様 等級3対応仕様 コスト影響
配管方法 躯体内埋設 PS・二重床利用 📈 中程度増
点検口 最小限設置 系統的配置 📈 軽微増
配管材料 一般品 高耐久品 📈 軽微増

設計プロセスの改善
維持管理対策等級を効率的に向上させるためのプロセス改善も重要です。

  • 初期段階での等級目標設定: 基本設計時点での明確な等級目標の共有
  • 専門業者との早期連携: 設備設計者との密な連携による最適解の模索
  • 施工段階での品質管理: 設計意図の正確な施工実現のための監理強化

これらのアプローチを体系的に実施することで、コストを抑制しながら高い維持管理対策等級を実現することが可能です。建築実務者として、顧客の長期的な利益を考慮した提案力の向上が重要となります。

 

国土交通省の住宅性能表示制度に関する詳細情報は、以下の公式資料で確認できます。

 

住宅性能表示制度かんたんガイド(国土交通省)