自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律解説と建築事業者の義務

自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律解説と建築事業者の義務

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自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律の解説

この記事でわかること
📋
自転車法の基本構造

法律の目的、対象範囲、関係者の責務を理解できます

🏢
建築事業者の設置義務

駐車場の附置義務基準と必要台数の計算方法がわかります

⚖️
違反時の対応と罰則

法令違反のリスクと適切な対策を把握できます

自転車法の目的と建築事業者への影響

自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律(通称:自転車法)は、昭和55年11月25日に制定され、平成6年の改正により現在の名称となりました。この法律は、自転車に係る道路交通環境の整備、交通安全活動の推進、自転車の安全性の確保、自転車等の駐車対策の総合的推進に関する措置を定めています。
参考)自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関…

建築事業者にとって重要なのは、この法律が駅前広場等の良好な環境の確保とその機能の低下防止を目的としている点です。鉄道駅の周辺等における自転車等の大量放置が、単に円滑な交通を害するだけでなく、駅前広場等の公共空間としての機能を低下させ、都市環境を著しく損なうことから、自転車等駐車場の整備や放置自転車等の保管等の手続が規定されています。
参考)https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/080/79000412/79000412.html

法律では「自転車等」を自転車及び原動機付自転車と定義し、両方を駐車対策の対象としています。各市町村は地域の実情に応じて、原動機付自転車についても必要と判断される場合に措置を実施できる仕組みとなっています。​

自転車駐車場の設置義務基準と必要台数の計算方法

建築事業者が新築・増築・改築を行う際には、自治体の条例に基づき自転車駐車場の設置が義務付けられています。この附置義務は建築基準法と自転車法の両方に関連し、違反した場合には罰則が科せられる可能性があります。
参考)駐輪場設置に関する法律と自治体条例における駐輪施設の設置ルー…

設置義務の対象となる建築物
多くの自治体では以下のような基準が設定されています。

  • 敷地面積500平方メートル以上の建築物
  • 換算戸数が10以上の共同住宅
  • 店舗面積が一定規模以上の商業施設

施設用途別の必要台数(例)

施設用途 施設規模 必要台数の基準
物品販売店舗 400〜5,000㎡ 店舗面積20㎡につき1台以上
物品販売店舗 5,000㎡超 店舗面積40㎡につき1台以上
金融機関 500〜5,000㎡ 店舗面積25㎡につき1台以上
遊技場・映画館等 300〜5,000㎡ 店舗面積15㎡につき1台以上
共同住宅 - 住宅戸数1戸につき1台以上

計算の結果、台数に1台未満の端数がある場合は、その端数を1台に切り上げます。
参考)建築物における自転車駐車場の附置義務について|西宮市ホームペ…

大阪市では、規模の大きな施設について自転車等の駐車需要が逓減する傾向があることから、施設面積の区分ごとに必要台数を緩和する措置が設けられています。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/cmsfiles/contents/0000074/74392/fuchip2.pdf

自転車法における地方公共団体と鉄道事業者の協力体制

自転車法第5条では、地方公共団体、道路管理者、都道府県警察、鉄道事業者等が相互に協力して、自転車等の駐車対策の総合的推進を図ることが規定されています。
参考)自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関…

鉄道駅周辺における地方公共団体等による自転車等駐車場の設置が円滑に行われるよう、鉄道事業者は地方公共団体等との緊密な協力体制の確立が求められています。具体的には、高架下、駅前広場、法面等の駅周辺用地のうち、自転車等駐車場としての利用が可能な用地の有無について常に精査に努める必要があります。​
平成6年の法改正により、鉄道事業者に対して従来の用地提供協力義務に加え、以下の責務が明確化されました。

  • 地方公共団体及び道路管理者との協力体制の整備
  • 自転車等駐車対策協議会への参画
  • 市町村による総合計画の策定への協力
  • 新駅設置や駅施設の大改良時における計画段階での駐車場確保

建築事業者としても、開発事業において鉄道駅周辺の場合は、これらの関係者との調整が必要となる場合があります。​

自転車法違反時の罰則と建築基準法との関連性

自転車駐車場の設置義務に関する罰則は、建築基準法と自転車法で異なる取り扱いとなっています。​
建築基準法違反の場合
建築基準法に基づき駐輪施設の設置が義務付けられている場合にこれを怠ると、罰則が科せられることがあります。国や自治体の指導に従わない場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課される可能性があります。これは建築確認申請に関わる重大な違反として扱われます。​
自転車法に基づく取り扱い
自転車法では、駐輪場の設置は努力義務に過ぎないため、設置しないこと自体には直接的な罰則はありません。しかし、自治体や事業者が駐輪対策を怠ると、交通混雑や違法駐輪が増加し、地域社会での信頼低下を招く恐れがあります。​
防犯登録の義務化
自転車法第12条第3項では、自転車を利用する者は防犯登録を受けなければならないと規定されていますが、防犯登録を行わない場合の罰則規定はありません。ただし、盗難被害時の早期回復や所有権の証明に役立ちます。
参考)自転車防犯登録とは?

建築事業者は、建築基準法に基づく附置義務を確実に履行することが重要です。自治体条例で定められた基準を満たさない場合、建築確認が下りない、あるいは是正命令の対象となるリスクがあります。​

自転車駐車場の構造基準と利用者の安全確保

自転車法および各自治体の条例では、自転車駐車場の構造や設置に関する基準が定められています。これは利用者の安全確保と自転車が有効に駐車できる環境を整備するためです。
参考)https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201611/00006352.pdf

構造基準のポイント
設置される自転車駐車場は、利用者の安全が確保され、かつ自転車が有効に駐車できるものでなければなりません。具体的には以下の点に配慮が必要です。

  • 区画線、柵等を設置し、自転車等が駐車スペースからはみ出して駐車されることのないようにする
  • 駐車器具(スライドラック、2段ラック等)を使用する場合は、適切な製品を選定する
  • 店舗等の商業施設では、客等の施設利用者の利便に配慮し、できるだけ店舗等の出入口に近い場所に設置する
  • 従業員の駐車スペースが必要な場合は、客等の施設利用者の駐車スペースと区分する


設置場所の考え方
自転車駐車場は建築物の敷地内またはその周辺に設置することが求められます。建築事業者は計画段階から、利用者の動線や安全性を考慮した配置計画を立てることが重要です。共同住宅の場合は居住者のための駐車場として、各戸から利用しやすい位置に確保する必要があります。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/cmsfiles/contents/0000074/74392/kyoudoujuutakup.pdf

開発事業概要書及び開発事業計画書の土地利用計画図(建築物各階平面図)には、自転車駐車場の台数及び寸法線を明記し、駐車器具を使用する場合はカタログを添付することが求められます。​

放置自転車対策と建築事業者が知っておくべき撤去手続

自転車法第6条では、市町村長が駅前広場等の良好な環境を確保し、その機能の低下を防止するため、条例で定めるところにより放置自転車等を撤去し、保管、売却、処分する手続が定められています。
参考)自治体の放置自転車の撤去は強制措置でありながら、私人に委託も…

放置自転車の定義と撤去の仕組み
放置自転車とは、道路、駅前広場などの公共の場所に置かれている自転車等で、利用者が離れて直ちに移動できない状態のものを指します。禁止区域内では、たとえ短時間であっても放置された場合には即時撤去の対象となります。
参考)大阪市:自転車を撤去されたら自転車保管所で保管しています (…

撤去から処分までの流れ

  1. 撤去:市町村が条例に基づき放置自転車を撤去
  2. 保管:撤去した自転車等を保管場所に移動
  3. 公示:保管した旨を公示(掲示板への掲示、立看板による表示等)
  4. 返還:利用者への返還手続(移動保管費用を徴収)
  5. 売却・処分:公示日から相当期間経過後、返還できない場合は売却または廃棄


市町村長は、保管した自転車等について公示の日から相当の期間を経過してもなお返還できない場合で、保管に不相当な費用を要するときは、条例で定めるところにより売却し、その代金を保管できます。買受人がないとき又は売却することができないと認められるときは、廃棄等の処分をすることができます。​
建築事業者への影響
建築事業者が開発した商業施設や共同住宅の周辺で放置自転車が多発すると、施設の利用環境が悪化し、テナント募集や入居者確保に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な台数の自転車駐車場を確保し、利用者が駐車しやすい環境を整備することで、放置自転車の発生を未然に防ぐことが重要です。
参考)大阪市:大阪市の放置自転車対策 (…href="https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000003525.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000003525.htmlgt;放置自転車・違法駐車対…

自転車活用推進計画と自転車ネットワーク整備の最新動向

平成29年5月1日に自転車活用推進法が施行され、平成30年6月8日には自転車活用推進計画が閣議決定されました。この計画は自転車法とは別の法律ですが、建築事業者が知っておくべき重要な政策方向性を示しています。
参考)1 自転車活用推進法に基づく自転車活用推進計画の推進

自転車活用推進計画の概要
自転車活用推進計画では、自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成のため、以下の取り組みが推進されています。

  • 地方公共団体における自転車活用推進計画の策定促進
  • 歩行者、自転車及び自動車が適切に分離された自転車通行空間の計画的な整備
  • 自転車通勤の拡大推進
  • 自転車損害賠償責任保険等への加入促進


自転車ネットワーク計画の重要性
自転車ネットワーク計画とは、対象エリア内で公共交通施設、学校、大規模集客施設、主な居住地区等を結ぶ路線を選定し、その路線の整備形態等を示した計画です。建築事業者が大規模開発を行う際には、このネットワーク計画と整合性を持たせることで、利用者の利便性向上と地域貢献につながります。
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001863809.pdf

自転車ネットワーク計画では、以下のような路線が選定されます。

  • 公共交通施設、学校、大規模集客施設、主な居住地区等を結ぶ路線
  • 自転車と歩行者の錯綜や自転車関連の事故が多い路線
  • 自転車通学路の対象路線
  • 自転車の利用増加が見込まれる路線


建築事業における活用方法
大規模な商業施設や共同住宅の開発を計画する際、自治体の自転車活用推進計画や自転車ネットワーク計画を確認し、計画との整合性を図ることで、以下のメリットが期待できます。
🚴 利用者の自転車アクセスが向上し、施設の利便性が高まる
🏙️ 地域のまちづくり計画と調和した開発が可能になる
🤝 自治体との協議がスムーズに進む
♻️ 環境に配慮した開発として評価される
第2次自転車活用推進計画(令和3年5月28日閣議決定)では、官民一体で自転車の活用を総合的かつ計画的に推進する方向性が示されており、建築事業者も地域の自転車政策と連携した開発を進めることが求められています。​

自転車駐車対策における意外な実務ポイントと将来展望

建築事業者が実務で見落としがちな点や、今後の法改正動向について解説します。

 

撤去自転車の再利用による社会貢献
意外に知られていないのが、撤去自転車の有効活用に関する取り組みです。国会の附帯決議では「撤去自転車の再利用によるレンタサイクルの導入等により、放置自転車の解消と資源の有効利用を図ること」が明記されています。​
建築事業者が開発する大規模施設において、レンタサイクルシステムを導入することで、以下のメリットがあります。
📊 自転車駐車場の設置台数を効率的に運用できる
🌱 環境配慮型の施設としてブランディングできる
💡 テナントや入居者への付加価値サービスとなる
市町村との協議における注意点
自転車等駐車対策協議会は、市町村が必要と認めるときに設置できるもので、その設置単位等は市町村の自主的判断に委ねられています。協議会の構成員には、道路管理者、都道府県警察、鉄道事業者のほか、地元商店街の代表者、自転車等の利用者等の当該市町村の住民が想定されています。​
大規模開発を行う建築事業者も、この協議会に参画を求められる場合があります。早期の段階から自治体との協議を開始し、地域の駐車対策に貢献する姿勢を示すことが、円滑なプロジェクト推進につながります。

 

総合計画との整合性確保
市町村は、自転車等の駐車対策を総合的かつ計画的に推進するため、自転車等の駐車対策に関する総合計画を定めることができます。この総合計画には、自転車等駐車場の整備目標、整備の実施に関する事項、放置自転車等の撤去等に関する事項などが含まれます。​
建築事業者は計画段階で、対象地域の総合計画の有無を確認し、計画内容を把握しておくことが重要です。総合計画と整合性のとれた開発計画を立てることで、自治体からの評価も高まります。

 

今後の法改正動向への対応
全国自転車問題自治体連絡協議会は、かつて鉄道事業者に対する自転車駐車場の付置義務化を盛り込む法改正を要望していました。現在は放置自転車が減少傾向にあり、鉄道事業者の協力も増加していることから、直ちに法改正の必要性は低いとされていますが、駅周辺の大規模開発では引き続き注意が必要です。
参考)自転車対策推進のための諸活動

🔍 国土交通省の方針
国土交通省は、自転車ネットワークの整備加速を目指しており、道路空間再配分に加えて、道路空間の有効活用に関する簡易的な整備手法の適用を推進しています。建築事業者もこうした政策動向を把握し、開発計画に反映させることで、時代に即した施設づくりが可能になります。​
国土交通省「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律の施行について」- 法律の詳細な解釈と運用指針が記載されています
e-Gov法令検索「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」- 法律の原文を確認できます
国土交通省「標準自転車駐車場附置義務条例について」- 各自治体の条例制定の参考となる標準条例が掲載されています