
区画線は道路法に基づいて道路管理者が設置する路面標示であり、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(標識令)により48種類ある路面標示の中の8種類が区画線として定義されています。区画線は道路の交通区分を明確にし、車両の通行を安全に誘導する役割を担っており、交通管理施設として極めて重要な位置づけにあります。
参考)dourobu
道路標示(広義)は、道路管理者が設置する区画線と公安委員会が設置する道路標示(規制標示・指示標示)に大別され、それぞれ異なる法的根拠に基づいて運用されています。区画線は道路法第45条により「道路の構造を保全し、又は交通の安全と円滑を図るため、必要な場所に設けなければならない」と規定されており、道路管理の基本的な責務として位置づけられています。
参考)e-Gov 法令検索
建築事業者にとって区画線の法的分類を理解することは、道路工事や駐車場整備における適切な施工計画の策定に不可欠です。特に公共工事では標識令に定められた仕様を遵守する必要があり、区画線の種類、設置場所、様式について正確な知識が求められます。
参考)http://www.torisoku.or.jp/cms_pic/8525467211.pdf
車道中央線は対向車線との境界を示す区画線で、センターラインとも呼ばれています。道路の中央を通行整理のために左右に分けて引かれる線であり、白色の実線・破線、黄色の実線など複数の種類があります。白色の破線は道路幅が片側6m未満の道路に設けられ、センターラインをはみ出しての追い越しが可能なエリアを示します。
参考)豆知識!区画線の種類について解説します!
白色の実線のセンターラインには2つの意味があり、左側の片側幅が6m以上の道路に設置する場合と、道路交通法第30条で規定された追い越し禁止場所(曲がり角付近、上り坂の頂上付近、トンネル、交差点、踏切など)に設置する場合があります。黄色の実線は追い越しのために車線右側にはみ出して通行することが禁止されている箇所を示しますが、工事や路上駐車車両を避けるためなどやむを得ない状況では右側にはみ出して通行することができます。
参考)黄色線と白線、実線と破線は何が違う? 意外と知らない「道路に…
車線境界線は同一方向に進行する車線間を区分する白色の破線または実線で、破線の場合は車線変更が可能、実線の場合は車線変更を禁止します。四車線以上の道路の車線の境界に設置されるのが基本ですが、公安委員会の「車両通行帯である」という指定を受けると「車両通行帯境界線」として法的効力を持つようになります。交差点付近や合流地点では交通事故防止のために実線が用いられることが多く、視認性を高めるために夜間反射材であるガラスビーズが散布されます。
参考)https://www.daishin-co.jp/article/kakukasenkouji_anzen/
車道外側線は道路または車道の路端寄りに引かれている区画線で、車道の外側の縁線を示す必要がある区間の車道の外側に設置されます。通常はペイントにより白の実線で引かれており、車両が通行する際に端に寄りすぎると危険であることをドライバーに注意喚起するための線です。
参考)車道外側線 - Wikipedia
車道外側線の設置目的は、車道の外側の縁線を示すこと、車両が通行するときに端に寄り過ぎると危険なためこの線の右側を通る目安を示すことにあります。車道外側線のある路端側に歩道が無い場合に限り、この線から外側(路端寄り)の部分は路側帯の道路標示とみなされ、車両の通行は原則として禁止されます。
参考)https://www.zurich.co.jp/carlife/cc-whatis-roadside-belt-rule/
一方、路端側に歩道が有る場合には路側帯とはならず通常の路肩となり、この部分は車両の運転者の視線を誘導し、側方余裕を確保する機能を分担させるために車道に接続して設けられる側帯とされています。歩道がありで車道外側線が引かれている場合は歩道とこの線の間は車道となり、車道が歩道と接していない場合は車道外側線が路側帯を表示する道路標示となって路側帯内は歩道となるため、建築事業者は設計段階でこの違いを明確に理解しておく必要があります。
区画線工事には溶融式とペイント式の2つの主流工法があり、それぞれ特徴と適した施工場面が異なります。溶融式は粉末状の熱可塑性樹脂を180〜200℃ほどに加熱し、厚みのある白線を形成する工法で、車載機や手押し式の機械で施工されます。耐久性が非常に高く交通量の多い道路で広く使われており、施工後3〜5分ほどで乾きますが夏季では路面温度が高いためそれ以上の時間を要します。
参考)区画線工事の種類と特徴の解説
ペイント式は液状の塗料を常温でスプレーやローラーを使って塗布する方法で、施工が簡単でコストも低いため仮設の駐車場や短期間のライン引きなどに適しています。ただし塗膜が薄く摩耗しやすいため長期使用には不向きであり、建築事業者は使用目的と予算に応じて適切な工法を選択する必要があります。
特殊な工法として、雨天時や夜間に強い高視認性ライン、色付きのカラー舗装、滑り止め効果のあるニート工法などがあり、滑りやすい交差点では骨材を混ぜたすべり止め塗装が採用されます。区画線設置工事共通仕様書によれば、塗料は1種(液状で常温施工)、2種(液状で加熱施工)、1号(粉体状)など複数の種類に分類され、施工条件に応じて使い分けられます。これらの工法は施工場所、目的、予算などによって適切に選ばれ、専門知識が欠かせません。
参考)http://www.qsr.mlit.go.jp/s_top/doboku/kukaku.pdf
溶融式区画線の耐久年数は都市部の場合3〜5年、都市部以外の場合は5〜10年といわれていますが、これはあくまで目安であり道路の舗装状況や交通量によって前後します。交通量の多い道路では劣化が激しく、あまり使われていない道路であれば白線の劣化は穏やかです。区画線の耐久性は交通量と密接な関係があることが調査から立証されており、交通量による摩耗度の変化を考慮した計画的な更新が重要です。
参考)道路区画線工事でよくある質問と回答
豊中市の区画線維持管理方針によれば、区画線の剥離が急激に進行するのが設置から7年経過した時点であるため、7年周期で更新を行うこととされています。耐用年数1〜4が「健全」、5〜7が「軽度」、8〜10が「重度」に概ね該当し、幹線道路については計画的に更新する一方、生活道路については日常の道路パトロールや市民からの通報などにより更新を行う管理体制が採用されています。
参考)https://www.city.toyonaka.osaka.jp/machi/doro/kukakusen_houshin.files/kukakusen_houshin.pdf
大阪府では高耐久性路面標示材による長寿命化の取り組みが進められており、道路の維持管理の中で近年府民の関心が高い路面標示(区画線)に着目した研究が行われています。施工後の定期的な点検とメンテナンスも重要で、小さな劣化を早期に発見し適切な補修を行うことで線の効果を長期間維持し、長期的なコスト削減と安全性の確保が実現されます。建築事業者は施工計画段階から耐久性を考慮した材料選定と、ライフサイクルコストを見据えたメンテナンス計画の策定が求められます。
参考)https://www.hido.or.jp/wp-content/uploads/2025/04/2504chiiki-osaka_pref.pdf
道路標識の色彩については「道路標識、区画線及び道路表示による命令(標識令)」により「緑色」「青色」「黄色」とされているのみで、色番号で規定されてはいませんが、JIS(日本産業規格)の安全色に基づいて色を選ぶことが推奨されています。JIS安全色は人々が安全な暮らしを送るために危険防止・注意喚起・緊急事態への対応などが迅速かつ的確に行える色が使われており、色覚の多様性に対応するため2018年4月に改正されました。
参考)工場のラインテープをお考えなら、色選びにご注意を!
JIS安全色に定められている色は赤・黄赤・黄・緑・青・赤紫の6色で、工場などの大規模施設には赤・黄・緑の3色が使いやすいとされています。赤は防火・禁止・停止、黄色は警告、緑は進行・安全状態などの意味で使われ、白は対比色として通路の区画線及び方向線、安全色に対する色として図記号要素や標識などの地色に使用されます。
参考)JISZ9103:2018 図記号−安全色及び安全標識−安全…
区画線の色と線種には明確な意味があり道路交通法によって規定されているため、建築事業者は適切な区画線の設置が交通事故の減少に直結する重要な要素であることを認識する必要があります。特に駐車場や工場内の区画線施工では、JIS規格に基づいた色彩計画を行い、利用者が目で見てすぐ認識できるように単純な形と色表示で標準化することが重要です。黄色と黒の組み合わせのトラテープは警告色の典型的な色使いであり、注意を促したい場所や段差が高い階段などにおすすめですが、施設内にストライプ柄のテープばかりが貼られていると最も注意すべき箇所が分からなくなってしまうため、通常の表示ラインを示す箇所には単色テープを使うのが効果的です。
近年の道路インフラ管理では、区画線の維持管理にデジタル技術を活用した新しいアプローチが注目されています。従来の目視点検や定期的な塗り替えに加え、AI画像解析技術を用いた区画線の劣化診断システムが開発されており、ドライブレコーダーや車載カメラの映像から自動的に区画線の摩耗状態を評価する取り組みが始まっています。
このようなデジタル技術の導入により、広範囲の道路ネットワーク全体の区画線状態をリアルタイムで把握し、優先度の高い箇所から効率的に補修を行う予防保全型のメンテナンス体制への転換が可能になります。建築事業者にとっては、施工後の品質管理や長期的なメンテナンス契約において、こうしたデジタル技術を活用した管理手法を提案することで、発注者に対する付加価値を高めることができます。
参考)白線区画線工事の重要性と信頼性を高める方法
また、自動運転技術の普及を見据えた高精度な区画線の需要も高まっており、従来の視認性だけでなく車載センサーによる認識精度を考慮した新しい標準規格の策定も議論されています。建築事業者は今後の技術動向を注視し、将来のニーズに対応できる施工技術と品質管理体制を整備していく必要があります。
区画線工事を行うには「建設業許可」が必要で、一般的に「塗装工事業」または「とび・土工・コンクリート工事業」に該当します。請負金額が500万円以上となる工事では建設業許可が必須となり、適切な許可を取得していない事業者は公共工事や大規模な民間工事を受注することができません。
道路区画線工事に従事する技術者には、路面標示施工技能士の資格取得が推奨されており、この国家資格は道路区画線工事の技能を認定するものです。路面標示施工技能士は溶融ペイントハンドマーカー工事作業と加熱ペイントマシンマーカー工事作業に分かれており、単一等級を取得するにはそれぞれの試験に合格しなければなりません。この資格を取得すると道路区画線工事の技術力や信頼性を高めることができ、発注者からの信頼獲得や入札での競争力向上につながります。
横須賀市区画線・路面標示設置基準などの自治体独自の基準も存在し、地域ごとに設置基準や運用方針が定められている場合があります。建築事業者は施工地域の自治体基準を事前に確認し、地域特性に応じた適切な施工計画を立案することが求められます。特に公共工事では、標識令や道路構造令などの国の基準に加えて、自治体の独自基準を遵守する必要があるため、法令知識と技術力の両面での専門性が不可欠です。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/inter/keizai/gijyutu/pdf/road_design_j2_02_1.pdf