

気乾比重とは、木材を自然乾燥させて含水率が約15%前後になった状態での重さと、同じ体積の水の重さを比較した値です。この15%という含水率は、日本の屋外環境で木材が自然に達する平衡含水率に近い状態を表しています。木材を伐採した直後は多くの水分を含んでいますが、時間の経過とともに水分が蒸発し、周囲の湿度とバランスが取れた安定した状態になります。
参考)https://solidwood.jp/solidwood/knowledge/words/specific
気乾比重の単位は「g/cm³(グラム毎立方センチメートル)」で表され、この数値が木材の密度や強度を示す重要な指標となります。例えば、スギの気乾比重は約0.38、ヒノキは約0.41、ナラは約0.68というように、樹種によって大きく異なる値を示します。測定には、木材の質量と体積から密度を計算し、それを水の密度で割ることで気乾比重を割り出す方法が用いられます。
参考)https://www.honest-p.com/blog/wood-knowledge/p8466/
木材の比重には「全乾比重」「気乾比重」「生材比重」という3つの状態がありますが、実際の建築現場で使用される木材は気乾状態に近いため、気乾比重が最も実用的な指標として広く採用されています。全乾比重は含水率0%の状態を指しますが、日常環境では維持できないため、基本的には気乾材が使われることが一般的です。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/mokukouzou-mokuzaihijuu.html
木材に含まれる水分は「自由水」と「結合水」の2種類に分類され、含水率約30%を境にしてその存在状態が大きく変わります。この境界点を「繊維飽和点」と呼び、細胞壁が結合水で満たされている状態を指します。繊維飽和点以上では細胞の内腔にも自由水が存在しますが、それ以下になると細胞壁内の結合水のみが残り、木材は徐々に収縮していきます。
参考)https://www.oin-s.co.jp/dry/basic/01.html
伐採直後の生材状態から自然乾燥が進むと、まず内腔から自由水が抜けていき、やがて繊維飽和点(含水率28~30%)に達します。さらに乾燥が進むと細胞壁から結合水も蒸発し、周囲の湿度とバランスが取れた含水率15%前後の気乾状態となります。木材の反りや割れは、この繊維飽和点から気乾状態への移行過程で最も発生しやすいとされています。
参考)https://solidwood.jp/solidwood/knowledge/dry/naturaldrying/fibersaturationpoint
含水率が繊維飽和点以下になると、木材の強度や寸法安定性が大きく変化します。一般的に、含水率が低いほど木材の強度は増加し、建築材料としての性能が向上します。ただし、含水率が5%以下になると細胞壁の収縮により凝集力が低下するため、適度な含水率を維持することが重要です。
参考)http://blog77.neec.ac.jp/archives/51326540.html
気乾比重は木材の硬さや強度を判断する最も重要な指標の一つとされています。一般的に、気乾比重の数値が大きいほど木材は重くて硬く、小さいほど軽くて柔らかい傾向があります。この関係性は、木材内部の細胞密度と空隙率の違いによって生じ、密度が高い木材ほど細胞が密に詰まっているため、強度も高くなります。
参考)https://shop.woodworks-marutoku.com/mokumoku_index/ranking_2505/
建築業界では、気乾比重「0.6」を基準として、それ以上を高比重材、それ以下を低比重材と分類することが一般的です。高比重材は重量があり、耐久度が高く衝撃に強いため、床材やカウンターなどの天板に適しています。一方、低比重材は軽量で加工がしやすく、調湿性や断熱性能に優れているため、壁材や天井材、その他のインテリア用途に向いています。
比重と強度の関係で注目すべき点は「比強度」という概念です。比強度とは材料1kgあたりの強さを表す指標で、木材は鉄やコンクリートと比較して非常に高い比強度を持っています。引っ張り比強度では鉄の約2.5~3.2倍、コンクリートの約235倍という驚異的な数値を示し、「軽くて強い」という木材の優れた特性が証明されています。
参考)https://www.shinrin-ringyou.com/mokuzai/kyoudo.php
針葉樹と広葉樹では気乾比重の範囲が明確に異なり、針葉樹は0.3~0.5、広葉樹は0.5~0.8に収まるものがほとんどです。この差は、両者の細胞構造の違いに起因しています。針葉樹は仮道管という単純な細胞で構成され、空隙が多く軽量な構造になっているのに対し、広葉樹は導管や繊維細胞などの複雑な組織を持ち、密度が高くなる傾向があります。
参考)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/6/5/1/9/5/1/3/_/%E6%A8%B9%E7%A8%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E6%B0%97%E4%B9%BE%E5%AF%86%E5%BA%A6%E3%81%AE%E5%80%A4%E3%81%AE%E4%BE%8B.pdf
日本の主要な針葉樹材を見ると、スギが0.38、ヒノキが0.44、カラマツが0.50という気乾比重を示します。これらは比較的軽量で加工性に優れ、調湿性能が高いという特徴があります。特にスギは湿気に強く、快適な室内環境を保ちやすいため、内装材として広く使用されています。
一方、広葉樹材では、クリが0.60、ブナが0.65、ナラが0.68、ケヤキが0.69という数値を示します。さらに高密度の樹種として、アカガシは0.87、アラカシは0.96という非常に高い気乾比重を持ちます。これらの広葉樹は重厚感があり、耐久性や強度が求められる構造材や床材、家具などに適しています。世界には黒檀やイペなど、比重が1を超える木材も存在し、これらは水よりも重いため水に沈むという特異な性質を持っています。
建築用木材を気乾比重によって分類すると、用途や加工性の判断が容易になります。以下は主要な建築用樹種の気乾比重一覧です。
| 分類 | 樹種名 | 気乾比重 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 極軽量材 | バルサ | 0.15~0.27 | 世界最軽量、模型材に使用 |
| 軽量材 | キリ | 0.29 | 軽く柔らかい、箪笥に使用 |
| 低比重針葉樹 | スギ | 0.38 | 調湿性に優れる、内装材 |
| 低比重針葉樹 | ヒノキ | 0.39~0.44 | 耐久性高い、神社仏閣 |
| 中比重針葉樹 | カラマツ | 0.50 | 針葉樹では高強度 |
| 中比重広葉樹 | クリ | 0.60 | 耐水性、土台材に適す |
| 高比重広葉樹 | ウォールナット | 0.64 | 高級家具材 |
| 高比重広葉樹 | ナラ | 0.68 | 重厚感、床材に適す |
| 高比重広葉樹 | ケヤキ | 0.69~0.70 | 高強度、大黒柱に使用 |
| 極高比重材 | アラカシ | 0.96 | 国産材で最高級の硬度 |
| 極高比重材 | 黒檀 | 0.98 | 最高級材、仏壇や家具 |
| 極高比重材 | リグナムバイタ | 1.20~1.30 | 世界最重量、水に沈む |
この分類表から、気乾比重0.5を境に加工難易度が上がることが分かります。DIYで加工する場合、0.5以上の木材ではインパクトドライバーの使用が必須となります。また、0.6を基準として建築部材の用途を選定することが実務では一般的です。
参考)https://shop.woodworks-marutoku.com/mokumoku_index/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%ACvol8/
建築現場で木材を選定する際、気乾比重は用途に応じた最適な樹種選びの判断基準となります。床材や構造材など荷重を受ける部位には、気乾比重0.6以上の高比重材が推奨されます。ナラやケヤキなどの広葉樹は、重厚感があり耐久性に優れているため、長期間の使用に耐える部材として選ばれます。
一方、壁材や天井材には、気乾比重0.6未満の低比重材が適しています。スギやヒノキなどの針葉樹は、軽量で加工性が良く、調湿性や断熱性能に優れているため、快適な室内環境の形成に貢献します。特にスギは含水率の変化に伴う調湿機能が高く、日本の気候に適した木材として評価されています。
構造計算においても気乾比重は重要な役割を果たします。木材の強度は比重と密接な関係があり、同じ含水率で比較した場合、密度の高い木材ほど曲げ強度や圧縮強度が高くなります。ただし、単純に重い木材を選べば良いわけではなく、比強度の概念を理解することが重要です。木材は軽さに対して非常に高い強度を持つため、適切な樹種を選ぶことで、軽量でありながら十分な耐力を確保できる合理的な設計が可能になります。
参考)https://www.okajimawood.co.jp/column/202403_02/
気乾比重は木材の加工性を判断する上で欠かせない指標です。比重が0.5以下の軽量材は、鋸挽きや鉋掛けなどの手加工が容易で、釘打ちやビス止めも問題なく行えます。スギやヒノキなどの針葉樹は柔らかく加工しやすいため、大工仕事での作業効率が良く、施工時間の短縮にもつながります。
一方、比重が0.6を超える高比重材は硬度が高いため、加工時の工具への負担が大きくなります。ウォールナットは比重0.64程度で、鋸挽きや鉋掛けは可能ですが、刃物を鈍くする傾向があります。黒檀のような極高比重材(0.98)は、割れやすい性質があり、釘止めが困難なため、接着やボルト締めなどの固定方法を選ぶ必要があります。
参考)https://kashida-m.co.jp/blog/20231016/
耐久性の観点では、高比重材ほど優れた性能を発揮します。密度が高い木材は細胞壁が厚く、細胞間の隙間が少ないため、虫害や腐朽に対する抵抗力が強くなります。ケヤキやナラなどの気乾比重0.65以上の広葉樹は、長期間の使用に耐える建築材として、土台や大黒柱などの重要な構造部材に採用されてきました。
参考)https://www.shinrin-ringyou.com/search_term/sch.php?k=%E6%B0%97%E4%B9%BE%E6%AF%94%E9%87%8D
保存性についても比重との相関が見られます。高比重材は心材部分の抽出成分が多く、防腐・防虫効果が高い傾向にあります。ただし、ヒノキのように比重は中程度(0.44)でも、優れた耐久性を持つ樹種も存在するため、比重だけでなく樹種固有の特性も考慮する必要があります。
参考)https://www.muku-flooring.jp/listofwoodproperties.pdf
現場で気乾比重を測定する際の基本的な手順は、まず木材試料の質量を精密に測定し、次にその体積を算出することから始まります。体積の測定には、直方体に加工した試料の縦・横・高さを測定して計算する方法が一般的です。得られた質量(g)を体積(cm³)で割ることで密度(g/cm³)が求められ、この値が気乾比重となります。
参考)https://www.etree.jp/content/12602/
測定時の環境条件も重要な要素です。気乾状態とは、木材が空気中で自然乾燥し、周囲の湿度とバランスが取れた状態を指すため、通常は温度20℃、相対湿度65%の環境で平衡させた後に測定します。この条件下で木材の含水率は約15%前後に安定します。工業的には、木材水分計を使用して含水率を確認しながら、適切な測定タイミングを判断します。
参考)https://www.muku-flooring.jp/blog/2016/03/11/5734/
実務では、樹種が判明している場合、既存の気乾比重データを参照することが効率的です。森林総合研究所が監修する「木材工業ハンドブック」などの資料には、主要な樹種の気乾比重値が詳細に記載されています。これらの標準値を用いることで、木材の質量や体積から逆算して必要な材積や重量を予測でき、運搬計画や構造計算に活用できます。
比重補正の概念も実務では重要です。木材の含水率が15%からずれている場合、全乾比重から気乾比重への換算式を用いて補正を行います。この計算により、現場で入手した木材の実際の含水率に基づいた正確な比重値を求めることができます。
参考)https://sooki.co.jp/upload/surveying_items/rel_pdf_file_1_054004.pdf
世界には、通常の木材とは大きく異なる気乾比重を持つ極端な樹種が存在します。最軽量の木材として知られるバルサは、気乾比重0.15~0.27という驚異的な軽さを誇ります。この超軽量特性は、細胞内腔が非常に大きく、細胞壁が薄いという構造に起因しており、模型材料や断熱材、緩衝材として利用されています。
参考)https://mokuba.co.jp/information/31422/
逆に、世界で最も重い木材とされるリグナムバイタ(ユソウボク)は、気乾比重が1.20~1.30に達します。この数値は水の密度を上回るため、木材でありながら水に沈むという特異な性質を持ちます。リグナムバイタは極めて硬く耐久性に優れているため、かつては船舶の軸受けや機械部品に使用されていました。
日本国内でも特殊な比重を持つ樹種があります。柞の木(イスノキ)は、気乾比重0.75~1.02という範囲を持ち、国産材の中で最も硬い木材とされています。非常に重硬なため加工は困難ですが、うまく仕上げられると美しい加工面が得られます。黒檀も気乾比重0.98と高く、高級家具や仏壇、楽器などに使用される最高級材の一つです。
参考)https://www.etree.jp/content/6072/
これらの極端な比重を持つ木材は、一般的な建築用途には適さない場合が多いですが、特殊な用途や装飾材として価値が認められています。バルサは軽量性が求められる航空機の内装材や、防音・断熱材として機能します。一方、極高比重材は精密機器の部品や、高級工芸品の素材として、その特異な物性が活かされています。
参考)https://www.etree.jp/content/5992/
参考リンク:木材博物館の比重一覧では、様々な樹種の気乾比重データを検索できます。
木材の比重 [一覧] - 木材博物館
参考リンク:一般社団法人日本木材情報総合センターでは、各樹種の詳細な物性データを提供しています。
木材の一覧と検索「ヒノキ、桧、扁柏」
参考リンク:北海道の資料では、針葉樹・広葉樹別の気乾密度一覧表が公開されています。