
炭素工具鋼(SK材)は、JIS規格でSK60からSK140まで、炭素含有量によって11種類が規定されています。炭素含有量は0.6~1.5%程度で、含有量が高いほど硬度と耐摩耗性が向上しますが、その分靭性は低下する特性があります。
参考)工具鋼の種類と分類 【通販モノタロウ】
工具鋼の中で最も安価な材料ですが、焼入性が悪いため、大型工具や高面圧の金型には適していません。主にノコギリ、錐などの小型工具、ドリル、エンドミル、タップなどの切削工具に使用されます。
参考)ものづくり基礎知識5 炭素鋼 SK材(炭素工具鋼鋼材)
熱処理を施すことで非常に高い硬度を持ちますが、200~300℃の比較的低温で硬度が低下するという弱点があります。そのため、切削速度が低く発熱の少ない用途に限定されることが一般的です。
参考)炭素工具鋼とは|基本的な工具材質
炭素工具鋼は比較的加工が容易で、さまざまな形状に対応できる特徴があります。しかし環境によっては錆びやすいため、適切な保管と手入れが必要です。
参考)炭素工具鋼
合金工具鋼は、炭素以外の合金元素(クロム、タングステン、モリブデン、バナジウムなど)を添加して焼入性および耐摩耗性を高めた鋼材です。JIS規格では32種類が規定されており、主用途によって「切削工具用」「耐衝撃工具用」「冷間金型用」「熱間金型用」の4つに大きく分類されます。
参考)合金工具鋼(SKS・SKD・SKT)とは?種類別の用途や特徴…
切削工具用合金工具鋼(SKS)
SKS11、SKS2、SKS21、SKS5、SKS51、SKS7、SKS81、SKS8の8鋼種が規定されています。焼入れ硬さが高く、ドリル、丸ノコ、帯ノコ、やすり、タップなどの切削工具に適しています。炭素工具鋼に比べて耐摩耗性と耐衝撃性に優れるため、より丈夫さが求められる用途に使用されます。
参考)合金工具鋼とは
耐衝撃工具用合金工具鋼
SKS4、SKS41、SKS43、SKS44の4鋼種があり、衝撃に強いことが特徴です。炭素量を減らしクロムやタングステンを多く添加することで、硬度はHRC53~55程度と他の合金工具鋼より低めですが、その分靱性が高くなっています。たがね、ポンチ、スナップ、ヘッディングダイスなどに適した用途があります。
冷間金型用合金工具鋼
SKS3、SKS31、SKS93、SKS94、SKS95、SKD1、SKD2、SKD10、SKD11、SKD12の10鋼種が規定されており、特にSKD11、SKS3、SKS93は「冷間3鋼種」と呼ばれています。耐摩耗性が高く焼き入れ後の変形が少ないため、ゲージやプレス型などの精密金型に最適です。SKD11は冷間金型用として最も多く使用される代表的な材料で、機械的性質と熱処理特性に優れています。
参考)工具鋼 - Wikipedia
熱間金型用合金工具鋼
SKD4、SKD5、SKD6、SKD61、SKD62、SKD7、SKD8、SKT3、SKT4、SKT6の10種類があります。炭素含有量は冷間金型用よりも少なく0.3~0.6%程度で、高温下でも硬度が高く、耐摩耗性に優れ、ヒートクラックにも強い特徴があります。熱間プレス金型やダイカスト金型用にはSKD61を主体として使用されます。
高速度工具鋼(SKH)は「ハイス鋼」とも呼ばれ、Steel Kougu High-speedの略です。クロム、タングステン、モリブデン、バナジウムなどの合金元素を多量に含有することで、非常に高い硬度(65~70HRC)と耐摩耗性を実現しています。
参考)ハイスとは?(高速度工具鋼:HSSとは?)特徴や種類からメリ…
工具鋼の中で最も耐摩耗性に優れていますが、多種多量の合金元素が添加されているため高価です。JIS規格では15種類のSKH材が規定されており、大きく「タングステン系」と「モリブデン系」の2種類に分類されます。
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タングステン系ハイスは耐摩耗性に優れる特徴があります。一方、モリブデン系ハイスはタングステン系に比べて靭性が高く粘り強さを持つため、硬度をそれほど高くせずに衝撃のかかる高硬度材に対応する切削加工に向いています。
主な用途はバイト、ドリル、エンドミルなどの切削工具ですが、最近では耐摩耗性を重視した金型類への適用事例も増加しています。高速度工具鋼は高速回転時でも切削性能を維持できる耐熱性があるため、高速切削加工に使われます。
参考)高速度工具鋼SKHとは?種類や用途を徹底解説 - 技術コラム…
製造方法の観点から、従来の溶解法による溶製ハイスと、焼結技術による粉末ハイスに分類されます。粉末ハイスは高価ですが、炭化物が微細で分布状態が均一という特徴があり、溶製ハイスにはない優れた特性を持っています。
参考)高速度工具鋼とは? 特徴や使用時の注意点を解説|切削工具の専…
工具鋼の選定において最も重要なポイントは、靱性と耐摩耗性のどちらを重視するかの判断です。用途に応じて適切な鋼種を選択することで、工具や金型の寿命を最大化できます。
参考)ゲージに使われる工具鋼の選び方
金型用途では、使用温度によって冷間金型用と熱間金型用を使い分けます。冷間金型は耐摩耗性と寸法安定性が重視され、SKD11が最も一般的に使用されます。じん性を重視する場合にはSKD12の方が有利です。
参考)1−3)金型の材質について
熱間金型では、高温下での硬度維持と耐ヒートクラック性が求められるため、SKD61が主体的に使用されます。被加工材の高強度化により、過負荷による割れや繰返し応力への対策も重要になっています。
参考)https://www.sanyo-steel.co.jp/technology/images/pdf/15/15_07.pdf
切削工具の材料選定では、加工速度と発熱温度を考慮する必要があります。低速切削には炭素工具鋼やSKS系合金工具鋼が、高速切削には高速度工具鋼(SKH)が適しています。さらに高い性能を求める場合は、粉末ハイス鋼の活用も選択肢となります。
参考)工具鋼
精密ゲージなど寸法安定性が最重要な用途では、焼入れ後の変形が少ない冷間金型用鋼を選択し、適切な熱処理条件を設定することが不可欠です。単に硬度の高い材料を選ぶだけでなく、使用条件に応じた総合的な判断が求められます。
工具鋼の硬度は用途によって適切な範囲が異なります。切削工具(ドリル、刃物など)では切れ味を保つために約60~70HRCの硬度が必要で、高速度工具鋼が使用されます。金型用では圧力に耐えるため55~65HRCの硬度が求められ、冷間工具鋼が適しています。
参考)工具鋼の硬さは?硬さと靭性のバランス - SteelPRO …
インパクトツール(ハンマー、パンチなど)のように大きな衝撃を受ける用途では、硬度は50~60HRC程度と低めでも靭性が高い鋼材を選択します。これは耐衝撃工具用鋼が該当し、硬度よりも金属としての粘り強さが重視されます。
工具鋼の硬さ測定には、ロックウエル硬さ(HRC)、ショア硬さ(HS)、ビッカース硬さ(HV)が用いられます。最も硬い工具鋼は高速度鋼で、特にMシリーズとTシリーズの鋼は65~70HRCの硬度レベルに達し、耐摩耗性に優れ高温でも硬さを維持できます。
参考)https://www.ohi-kogyo.com/reference03.html
超硬合金と比較すると、ハイス鋼は82~86HRA、超硬合金は83~95HRAとなり、超硬合金の方がより高い硬度を実現します。しかし工具鋼は靭性があり、超硬合金に比べて衝撃に強く欠けにくいという利点があります。
参考)超硬合金(超硬質合金)とハイス鋼(高速度鋼)の違いは?利用に…
炭素含有量は硬度に最も大きく影響する要素で、高いと焼入焼戻し硬さと耐摩耗性が向上しますが、靭性は低下します。そのため、用途に応じて硬度と靭性のバランスを考慮した材料選定が重要です。
参考)工具鋼の特性
日本ダイカスト工業会や特殊鋼倶楽部の技術資料によると、冷間金型では硬さ600HV以上で衝撃値5J/cm²以上、熱間金型では硬さ350HV以上で衝撃値50J/cm²以上が目安とされています。この基準を参考に、使用条件に適した工具鋼を選択することで、最適な性能を引き出すことができます。
参考)https://www.tokushuko.or.jp/publication/magazine/pdf/2014/magazine1411.pdf
工具鋼の分類とJIS規格による各鋼種の化学成分詳細(モノタロウ技術資料)
合金工具鋼の用途別材料記号とISO規格対照表(プロテリアル技術ブログ)