
毛細管現象とは、細い管状物体内の液体が外部からエネルギーを与えられることなく管内を移動する物理現象です。 この現象は液体の表面張力、壁面のぬれやすさ、液体の密度という3つの要因が複合的に作用して発生します。
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具体的なメカニズムを説明すると、ガラス管のような親水性の材料に水を接触させた場合、水分子間の分子間力(凝集力)よりもガラスと水分子の間に働く付着力の方が大きくなります。 その結果、水はガラス管の壁面に引き寄せられてせり上がり、この力と上昇した水の重さがつり合う位置まで水面が移動します。
参考)毛細管現象 - Wikipedia
表面張力は水面に働く力で、水の分子どうしが互いに引き合う分子間力によって生じます。 水面の水分子は空気に接しているため、水の内部にのみ引っ張られて表面が丸くなろうとする特性があります。この表面張力により、細い管内では水面がせり上がったふちに引っ張られ、上昇していくのです。
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建築現場では毛細管現象が様々な場面で発生し、特に雨漏りの原因として重要視されています。 スレート屋根において最も顕著な例が見られ、屋根材の重なりが水を吸い上げてしまう現象が発生します。
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屋根塗装時に塗料で隙間が塞がれた状態で数年が経過し、塗料やコーキング材が劣化してわずかな隙間ができると、本来上から下に流れる雨水が毛細管現象により隙間から吸い上げられ、屋根材の下に浸入してしまいます。 この浸入した雨水は他の出口が塞がれているため外部に排水されず、防水紙の下を通り抜けて雨漏りへと繋がります。
参考)なぜか止まらない雨漏り、毛細管現象が原因!?
建築物の基礎や壁の小さな亀裂にも同様の現象が発生し、水が侵入して毛細管現象により上昇することで、壁内部の湿度が高くなり、結露やカビの原因となることがあります。 外壁材の合わせ目、コーキングの隙間、サッシの縁、屋根材の重なり部分など、わずかな隙間が無数に存在する箇所で毛細管現象が発生する可能性があります。
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表面張力は毛細管現象において最も重要な要素の一つです。 液体と空気の境界での液体分子間の凝集力から生じ、外力に抵抗する皮膜を形成します。キャピラリーチューブ内で液体が上昇または下降する高さは、液体の表面張力と密度、液体とチューブとの接触角、重力加速度、チューブの半径などの要因に影響されます。
参考)ビデオ: 流体の毛細管現象
毛細管内の液体上昇量は以下の式で表されます:h = 2γcosθ/(ρgr) ここで、hは上昇高さ、γは表面張力、θは接触角、ρは液体密度、gは重力加速度、rは管の半径です。 この式から分かるように、管の直径が小さいほど上昇高さは大きくなり、表面張力が大きいほど現象は顕著になります。
参考)千三つさんが教える土木工学 - 1.3 水の毛細管現象
実際の建築現場では、隙間の幅が細ければ細いほど毛細管現象が起こりやすくなり、場合によっては雨水が重力に逆らって上方向に進むことすらあります。 特にひび割れ幅が小さいことは逆に毛細管現象が起きやすくなってしまうという特徴があります。
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建築現場における毛細管現象の対策として最も重要なのが縁切り作業です。 縁切りとは、金属のヘラなどを屋根材と屋根材の間に差し込み、塗膜を取り除くことで隙間を作る工法で、屋根塗装を行う際に同時に実施されます。
参考)お知らせ
適度な隙間を作ることにより毛細管現象を防ぐだけでなく、内部の湿気を逃がして屋根の通気性を向上させ、劣化対策にもなります。 近年はタスペーサーという工具が広く使用されており、適度な間隔で屋根材の間に差し込んで隙間を作ります。タスペーサーは差し込んだ後に取り外す必要がないため、施工時間の短縮が可能です。
縁切り不足は屋根材内部に入り込んだ雨水が排水されないことで、屋根材内部の建材劣化や雨漏りを引き起こすリスクがあります。 また、縁切りの隙間が十分でない場合、屋根材内部の雨水を排水するどころか逆に引き込んでしまう毛細管現象が発生してしまうため、さらに雨漏りリスクが高まります。
参考)縁切り不足とは?雨漏りの原因となる理由や毛細管現象について解…
水の浸透を防ぐためには、表面が滑らかで水との接触角が大きい材料を選ぶことが効果的で、建築時には細部まで注意深く施工し、亀裂や隙間が発生しないようにする必要があります。
毛細管現象は問題を引き起こすだけでなく、建築業界では積極的に利用される技術でもあります。東急建設などでは毛細管現象を活用した貯留雨水給水型緑化システムを開発し、降った雨を植栽部の下に設置した貯留槽にため、その雨水を毛細管現象により上部に引き上げて植物に給水するシステムを実用化しています。
参考)毛細管現象を利用して雨水貯留槽の上に植栽,東急建設など
この技術により積極的な潅水を必要としないセダム緑化や軽量な薄層緑化などが可能となり、屋上や高架橋の上下、壁面などの特殊空間における緑化工法として注目されています。 毛細管現象を利用することで、電力やポンプなどの機械的な装置を使わずに自然の力で給水を行える環境配慮型のシステムが構築できます。
参考)https://www.tokyu-cnst.co.jp/technology/lab/report/pdf/No27-19.pdf
また、土木工学分野では毛細管現象により表面への連続自然給水を可能にした湿潤舗装システムの開発も行われており、舗装と熱環境の改善に貢献する技術として研究が進められています。 多孔質材料では液体の吸収と保持に影響を与え、植物の成長に不可欠な土壌水分と栄養素の移動にも関与する重要な現象です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/66b9ca4e32c6ca13c731d9adb4f41ab8bb264a4f
スポンジなどの日用品も毛細管現象を利用した商品で、水分がスポンジの細かい網目状の隙間や空間に吸い寄せられていく原理を応用したものです。 このように毛細管現象は私たちの身近な生活から建築技術まで幅広く活用されている重要な物理現象なのです。
参考)毛細管現象とは?