無電柱化効果とは景観向上防災都市資産価値活性化の実現

無電柱化の効果

無電柱化は道路上の電柱や電線を地中化することで、都市環境に多大な効果をもたらす施策です。国土交通省では「景観・観光」「安全・快適」「防災」の3つの観点から無電柱化を推進しており、不動産業界においても注目すべき重要なテーマとなっています。電線類地中化は単なる景観改善だけでなく、地域の防災性強化や住環境の向上、さらには不動産価値の上昇にまで影響を及ぼす総合的な都市改善策です。
参考）https://housing-news.build-app.jp/article/35251/
​

無電柱化による防災効果の実態

無電柱化の最も重要な効果の一つが防災性の向上です。地震や台風などの自然災害時に電柱が倒壊するリスクを根本的に排除できるため、二次災害の防止に大きく貢献します。平成28年の熊本地震では、倒壊した電柱が道路を塞ぎ、緊急車両の通行を妨げる事態が発生しましたが、無電柱化された区間ではこうした被害は発生しませんでした。
参考）https://www.mukaidono.jp/kouen/files/2305%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%99%AF%E8%A6%B3%E5%AD%A6%E4%BC%9A%EF%BC%9A%E9%98%B2%E7%81%BD%E9%9D%A2%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%81%9F%E7%84%A1%E9%9B%BB%E6%9F%B1%E5%8C%96%E3%81%AE%E6%84%8F%E7%BE%A9.pdf
​
台風などの強風による被害についても、無電柱化は効果的です。架空配電設備の被災率と比較すると、地中化された電線の被災率は約1/80という驚くべきデータがあります。電柱倒壊による停電や感電事故のリスクが大幅に減少し、災害時のライフライン確保という観点からも無電柱化の効果は絶大です。
参考）https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/2105-P012-015_ogawa.pdf
​
さらに、無電柱化は情報通信ネットワークの信頼性向上にも寄与します。災害時の通信回線遮断を防ぐことで、企業活動や個人の連絡手段を守り、社会全体のレジリエンス向上に貢献しています。
参考）https://jichitai.works/article/details/2367
​

無電柱化による景観向上と観光活性化効果

電柱や電線が視界から消えることで、都市景観は劇的に改善されます。空が広く感じられ、建物の輪郭がはっきりと見える開放的な街並みは、住民の満足度向上だけでなく、観光資源としての価値も高めます。歴史的街並みを持つエリアでは、伝統的な建造物と調和した美しい景観を形成でき、地域の魅力を最大限に引き出すことができます。
参考）https://www.hus.ac.jp/hokukadai-jiten/detail/d59768194885d0d488cd7d7dace584ed10d857fd-18245/
​
観光振興の観点からも、無電柱化は重要な役割を果たします。伊勢市では神宮の式年遷宮に関連する「お木曳行事」のルートで無電柱化を実施し、行事が映える美しい景観形成を図っています。景観の改善は国内外からの観光客にとって強いアピールポイントとなり、地域活性化に直結する効果が期待されています。
参考）https://www.hido.or.jp/wp-content/uploads/2025/08/2508chiiki-ise_city.pdf
​
商店街においても無電柱化の効果は顕著です。視界が開けることで店舗の視認性が向上し、歩行者の回遊性が高まります。実際に無電柱化を実施した商店街では、テナントの増加や来街者数の増加といった具体的な効果が報告されています。
参考）https://www.georhizome.com/archives/blog/6867
​

無電柱化がもたらす通行空間の安全性とバリアフリー効果

道路上から電柱がなくなることで、歩道の有効幅員が拡大し、歩行者の通行空間が大幅に改善されます。特にベビーカーや車いす利用者にとって、電柱は大きな障害物となっていましたが、無電柱化によってスムーズな移動が可能になります。バリアフリー法では車いす同士がすれ違える最小幅を2mと定めており、この基準を満たすためにも無電柱化は有効な手段です。
参考）https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/mokuteki_02.htm
​
国土交通省は、幅員2m未満の狭い歩道についても無電柱化の対象としています。歩行者が多く、車いすやベビーカーの車道へのはみ出しが発生する危険な道路において、無電柱化は安全性確保の切り札となります。電柱を避けようとして歩行者が道路側にはみ出し、車と接触する事故のリスクも大幅に減少します。
参考）https://heartfulrent.co.jp/2018/10/01/%E2%94%81-%E7%84%A1%E9%9B%BB%E6%9F%B1%E5%8C%96%E3%81%AE%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E3%81%AB%E5%B9%85%E5%93%A12%E3%8D%8D%E6%9C%AA%E6%BA%80%E3%81%AE%E7%8B%AD%E3%81%84%E6%AD%A9%E9%81%93%E3%82%82%E5%AF%BE%E8%B1%A1/
​
セミフラット歩道との組み合わせにより、段差のない平坦な歩行空間を実現できることも、無電柱化の大きな効果です。高齢者や体の不自由な方の転倒防止にもつながり、誰もが安心して歩ける街づくりに貢献します。
参考）https://itoyogyo.co.jp/column/8764/
​

無電柱化による不動産資産価値への具体的効果

無電柱化は不動産の資産価値向上に直接的な効果をもたらします。NPO法人電線のない街づくり支援ネットワークと不動産鑑定士による共同調査では、「電線類地中化は宅地価格に対して約4～9%のプラス効果を与える」という結果が報告されています。この調査は「不動産鑑定評価」「デベロッパーの視点」「統計分析」の3つの手法で検証されており、信頼性の高いデータといえます。
参考）https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf05/07.pdf
​
無電柱化した住宅地と隣接する無電柱化していない住宅地の取引価格を20年以上追跡調査したところ、無電柱化している街の方が資産価値が4～9%上昇したという相関関係が確認されています。この効果は時間の経過とともに安定しており、長期的な資産価値保全という観点からも重要です。
参考）https://nponpc.net/2019/09/09/%E5%AE%B6%E3%81%AE%E5%91%A8%E3%82%8A%E3%81%AE%E9%9B%BB%E6%9F%B1%E3%81%8C%E7%84%A1%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%A8%E5%9C%B0%E4%BE%A1%E3%81%8C%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%82%8B%EF%BC%9F/
​
特に距離帯による効果の分析では、無電柱化路線から0～50mの範囲で約10～12%の地価上昇が見られ、200mまでの範囲でも一定の効果が持続することが判明しています。不動産開発や住宅地整備において、無電柱化は買い手や借り手にとって魅力的な環境要因となり、地域全体の資産価値向上に寄与します。
参考）http://www.wise-onehome.jp/%E9%9B%BB%E6%9F%B1%E3%82%84%E9%9B%BB%E7%B7%9A%E3%81%8C%E3%80%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E8%A1%97%E3%80%8D%E3%81%AF%E8%B3%87%E7%94%A3%E3%82%92%E5%AE%88%E3%82%8A%E3%80%81%E8%B3%87%E7%94%A3%E4%BE%A1%E5%80%A4/
​

無電柱化が抱える課題と今後の展開効果

無電柱化には大きな効果がある一方で、いくつかの課題も存在します。最大の課題は高額な整備コストで、電線共同溝方式では道路延長1kmあたり約3.5～5億円の費用が必要とされています。日本の地中化コストは高圧1回線で1kmあたり約3,200万円と、海外と比較して割高です。道路管理者と電線管理者の費用負担は概ね2対1となっており、自治体の財政負担が大きいことも進捗の妨げとなっています。
参考）https://criepi.denken.or.jp/press/journal/denkizemi/2024/240403.html
​
しかし近年、低コスト化に向けた技術開発が進んでいます。直接埋設方式やコンパクト化された設備の導入により、整備費用の削減が図られています。2023年度からはレベニューキャップ制度が導入され、送配電事業者が5年間の事業計画を立て、必要な費用を託送料金に組み込むことが可能になりました。
参考）https://www.semanticscholar.org/paper/698a811f5f9cb47a96673e541a9626eae48e72d4
​
海外との比較から見える効果の可能性も注目されています。ロンドンやパリでは無電柱化率が100%に達しており、東京23区の7%と大きな差があります。シンガポールやホーチミン市などアジアの都市でも積極的な無電柱化が進められており、日本でも今後の展開が期待されています。
参考）https://note.com/to_the_future/n/n10a10e2adc8e
​
無電柱化の効果は単なる景観改善にとどまらず、防災、安全性、資産価値、観光振興など多岐にわたります。不動産従事者としては、これらの総合的な効果を理解し、顧客への提案材料として活用することが重要です。今後、無電柱化が進むエリアでは不動産価値の相対的な優位性が高まる一方、電柱が残るエリアでは資産価値低下のリスクも考慮する必要があります。​
国土交通省の無電柱化の目的に関する詳細情報（防災・景観・安全の3つの観点からの推進方針）
無電柱化による不動産価値上昇の調査データ（4～9%のプラス効果に関する詳細）
電柱と災害との関係についての詳細解説（無電柱化の防災効果に関する専門情報）

電線のない新しいまちなみづくり: 新設戸建住宅地の無電柱化