難燃剤の種類と特徴を建築事業者向けに解説

難燃剤の種類と特徴を建築事業者向けに解説

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難燃剤の種類と建築材料への適用

この記事で分かる難燃剤の基礎知識
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難燃剤の主要3分類

ハロゲン系、リン系、無機系の特徴と適用範囲を詳しく解説

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建築材料での使用例

プラスチック、繊維、木材など材料別の難燃剤選定方法

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規制と安全性

RoHS指令などの環境規制と代替品への移行動向

難燃剤の種類における基本分類

難燃剤は構成成分によって大きく「有機難燃剤」と「無機系難燃剤」に分類されます。有機難燃剤にはハロゲン系、リン系、その他の複合型が含まれ、無機系難燃剤には金属水酸化物、アンチモン系、赤リン系などがあります。建築事業者が材料を選定する際、この分類を理解することは安全基準を満たすために不可欠です。
参考)難燃剤とは?種類とメカニズム・産業での利用と規制までを徹底解…

プラスチック、ゴム、木材、繊維などの燃えやすい材料に難燃剤を添加または組み込むことで、火災の広がりを効果的に抑制できます。難燃剤は使用される材料の性質、要求される難燃性のレベル、特定の産業での適用基準によって選択されるため、建築現場では材料特性に合わせた適切な難燃剤の選定が求められます。​
熱可塑性樹脂熱硬化性樹脂、ゴム、繊維、壁紙、接着剤、木材など広範囲にわたる建築材料に対して、それぞれの特性に合わせた難燃剤が開発され使用されています。
参考)難燃剤とは|日本難燃剤協会

難燃剤のハロゲン系とリン系の特徴

ハロゲン系難燃剤は分子内に塩素や臭素などのハロゲン元素を含む有機化合物で、高い難燃効果を比較的少量で得られることから長年広く使用されてきました。主な作用メカニズムは、燃焼時にハロゲンラジカルを放出し、気相で燃焼連鎖反応を停止させることです。酸化アンチモンとの併用により、高レベルの難燃性(UL-94規格でV-0)が達成できる特徴があります。
参考)射出成形部品の燃焼の原理と難燃剤の仕組み

しかし、代表的な臭素系難燃剤であるTBBA(テトラブロモビスフェノールA)やDecaBDE(デカブロモジフェニルエーテル)は、環境残留性や生体蓄積性、燃焼時の有害ガス生成の懸念から、RoHS指令などにより国際的に使用が厳しく規制または禁止されています。このためハロゲン系難燃剤の使用は大幅に減少し、ノンハロゲン系への代替が急速に進んでいます。
参考)https://www.chemitox.co.jp/wp-content/themes/chemitox/pdf/News_letter_No_62.pdf

リン系難燃剤はノンハロゲン難燃剤の代表格として、ハロゲン系からの代替需要を背景に市場が拡大しています。分子内にリン原子を含み、固相でのチャー(炭化層)形成促進効果と、気相でのラジカルトラップ効果の双方で難燃性を発揮します。主な種類としては、TPP(トリフェニルホスフェート)やその誘導体、縮合リン酸エステル(オリゴマータイプ)などがあり、PC やPC/ABS、mPPEなどで広く採用されています。​
ハロゲン系難燃剤の効果と環境影響の詳細

難燃剤の無機系(金属水酸化物)の活用

無機系難燃剤の代表である金属水酸化物には、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムが主に使われています。水酸化アルミニウムは針状、ブロック状、鱗状粉末、粒状、塊状で0.2~100μm、水酸化マグネシウムは粒状で0.2~2μmの大きさを持ちます。いずれも添加型の難燃剤であり、添加量は凡そ40~70wt%と比較的多量に必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/reajshinrai/40/3/40_133/_pdf/-char/ja

水酸化アルミニウムは脱水温度が低いため、低融点のPE、EVAなどに使用されています。一方、水酸化マグネシウムは脱水温度が約350℃であるため多くの樹脂に使用されますが、塩基性を有することから、溶融混練時にPC、PET、PBTをアルカリ加水分解する可能性があり、これら樹脂には使用が困難な場合があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/mls/30/2/30_23/_pdf/-char/ja

金属水酸化物系難燃剤は燃焼の3要素のうち「可燃物」と「熱」を低減することで樹脂を難燃化しています。自身が不燃物なので樹脂に添加することで相対的に可燃物である樹脂量を減らし、さらに熱分解時に水分を発生させて吸熱反応による冷却効果を発揮します。難燃効果を高めるため、赤燐、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、シリコン、カーボンブラックなどの併用剤を添加することが多くなっています。
参考)基板の難燃化について②難燃剤について - 鉛フリーはんだの専…

難燃剤の赤リン系の高効率性能

赤リンはリン含有量が非常に高く、少量の添加で高難燃化できる効果的な難燃剤です。通常添加量は2~10%と他の難燃剤と比較して極めて少量で済むため、樹脂物性の低下を極力抑えられる利点があります。有効な難燃元素「リン」の含有量が高く、ハロゲン系、水酸化金属系など様々な種類の難燃剤の中でも毒性が低く、少量添加で高い難燃性を付与できます。
参考)https://www.frcj.jp/docs/2-5.pdf

赤リン難燃剤の作用メカニズムは、樹脂に混合された赤リンが燃焼すると空気中や樹脂中の酸素と結合し、リン酸または縮合リン酸が生成されます。樹脂が燃焼する際に発生する炭素とリン酸または縮合リン酸が結合して表面炭化層を形成し、この層が燃焼に必要な酸素や熱を遮断するため燃焼を止めることができます。
参考)赤リン系難燃剤の特徴|製品紹介|燐化学工業株式会社

固相だけでなく気相でも難燃効果を発揮し、リン化合物から発生したPOラジカルやHPOラジカルが燃焼で発生するOHラジカルやHラジカルを捕捉することで燃焼の伝播や継続を抑制します。消防法第二類の危険物である赤リンに独自の表面処理を施すことで、一般的な赤リンと比べ酸化しにくく、安全性と安定性を向上した製品となっています。主にPA(ポリアミド)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などのポリエステル系樹脂に適用されます。
参考)赤リン系難燃剤の難燃効果は非常に優れています|燐化学工業株式…

難燃剤の規制動向と建築現場での選定基準

臭素系難燃剤は安価で難燃性が高いため、現在世界中で最も多く使用されている難燃剤ですが、人体残留性が指摘されたため、2006年7月より欧州有害物質使用制限指令(RoHS指令)で規制対象となりました。RoHS規制ではPBB(ポリ臭化ビフェニル)とPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)が規制され、POPs条約ではPBDEが規制されています。
参考)臭素系難燃剤(PBB,PBDE,HBCD,TBBPA,TBP…

塩素系難燃剤ではデクロランプラスがPOPs条約の対象物質に追加され、2025年2月以降、原則として製造・使用が禁止される予定です。このような環境規制の強化により、ハロゲン系難燃剤の使用は大幅に減少し、ノンハロゲン系への代替が急速に進んでいます。​
建築事業者が難燃剤を選定する際は、以下の基準を考慮する必要があります。

 

🔸 材料の種類と加工温度の適合性(水酸化アルミニウムは低温用、水酸化マグネシウムは高温用)​
🔸 要求される難燃性レベル(UL-94規格でV-0、V-1、V-2など)
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/mls/30/2/30_31/_pdf/-char/ja

🔸 環境規制への対応(RoHS指令、POPs条約など)​
🔸 添加量と物性への影響(赤リンは少量、金属水酸化物は大量必要)​
🔸 コストと安全性のバランス(ハロゲンフリー化の潮流)​
リン系難燃剤はハロゲンフリー化の潮流の中で中心的な役割を担っており、今後もさらなる高性能化(より少ない添加量での効果発現、物性への影響低減など)と用途拡大が期待されています。建築現場では安全基準を遵守しつつ環境にも配慮するため、製品開発や材料選定の段階で適した難燃剤を選ぶことが重要です。​
主要難燃剤の種類と用途の一覧表