
日本農林規格(JAS)は、農林水産大臣が定める国家規格であり、木材を含む農林産物の品質や成分、生産方法、管理方法などの基準を規定しています。木造建築においては、この規格が木材の品質保証の基盤となっています。
JASは「日本農林規格等に関する法律」に基づいており、国が認めた登録認証機関から認証を受けることで、その製品にJASマークを表示することができます。建築分野では、特に構造材として使用される木材の強度や品質を保証する重要な指標となっています。
木造建築物の安全性を確保するためには、使用される木材の品質が明確であることが不可欠です。JAS規格はこの要求に応えるものであり、特に中規模から大規模の建築物の構造材に木材を使用する場合は、JASの認証が必要とされています。
建築基準法第37条では、建築物の主要構造部に使用する木材は、日本産業規格(JIS)または日本農林規格(JAS)に適合するもの、あるいは国土交通大臣の認定を受けたものでなければならないと規定されています。これにより、JAS材は建築物の安全性を担保する法的な裏付けを持つ材料として位置づけられています。
2025年4月に施行される建築基準法の改正は、木造建築業界に大きな変化をもたらします。特に注目すべきは「4号建築物の廃止と特例の縮小」です。これにより、これまで200㎡以下の2階建て木造住宅などで免除されていた構造審査が適用されるようになります。
この改正によって、構造審査の内容が変わり、提出書類の増加や審査期間の長期化が予想されています。同時に、省エネ基準の適合義務化も始まり、すべての住宅に外皮(断熱)計算と一次エネルギー消費量の計算が求められるようになります。
JAS材に関しては、改正前から建築に使用する木材はJAS材または国が認めた木材に限定されていましたが、今回の改正でその重要性がさらに高まります。特に構造審査の厳格化に伴い、木材の品質証明としてのJAS認証の価値が増大します。
実際には、木材の品質そのものが審査の対象とはならず、また伏図(プレカット図)の添付も不要とされていますが、令和2年の建築士法改正で設計図書の保存義務が導入され、伏図の保管が義務付けられています。これは木材の品質に対する責任が設計者にあることを示すものであり、JAS材の使用はその責任を果たす上で重要な要素となります。
JAS構造用製材の等級区分には、「目視による等級区分法」と「機械による等級区分法」の2種類があります。これらの区分方法によって、木材の品質と強度性能が明確に規定されています。
目視等級区分では、木材を甲種構造材(横架材用)と乙種構造材(軸方向材用)に分け、それぞれを節の有無や大きさなどに基づいて1級、2級、3級に区分します。甲種構造材は梁や桁などの横に架ける部材に使用され、乙種構造材は柱などの縦方向の部材に使用されます。
一方、機械等級区分では、専用の機械を用いて木材の強度を測定し、その結果に基づいてE50からE150までの等級に区分します。数字が大きいほど強度が高いことを示しています。
これらの等級区分に応じて、国土交通省の告示で圧縮、引張、曲げなどの基準強度が定められています。この基準強度は建築物の構造計算に直接使用されるため、JAS構造用製材を使用することで設計の信頼性と自由度が高まります。
また、JAS規格では含水率についても基準が設けられています。人工乾燥処理製材(D材)と天然乾燥処理製材(SD材)それぞれに含水率の基準があり、適切な乾燥処理が施された木材は寸法安定性に優れ、建築物の品質向上に寄与します。
区分方法 | 等級 | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|---|
目視等級区分 | 甲種構造材 (1級、2級、3級) |
横架材(梁、桁など) | 節の大きさや位置で等級付け |
乙種構造材 (1級、2級、3級) |
軸方向材(柱など) | 節の大きさや位置で等級付け | |
機械等級区分 | E50~E150 | 構造材全般 | 機械測定による強度性能で等級付け |
設計者がJAS構造用製材を効果的に活用するためには、各等級の特性を理解し、建築物の要件に合わせて適切に選択することが重要です。
まず、構造計算を行う際には、JAS構造用製材の基準強度を用いることで、より精密な設計が可能になります。特に機械等級区分材は強度性能が明確であるため、構造計算の信頼性が高まります。
適材適所の材料選択も重要なポイントです。例えば、大きな荷重がかかる主要な梁には高い等級の材料を使用し、比較的負荷の小さい部位には低い等級の材料を使うことで、コストパフォーマンスを向上させることができます。
また、含水率に注意を払うことも必要です。人工乾燥処理材(D材)は寸法安定性に優れており、特に内装材や精密な施工が求められる部位に適しています。一方、天然乾燥処理材(SD材)はコスト面で有利な場合があります。
設計者は、令和2年の建築士法改正により設計図書の保存義務が導入されたことを踏まえ、使用する木材の品質に関する情報を適切に記録・保管することも重要です。これには、JAS材の等級や含水率、強度性能などの情報が含まれます。
さらに、2025年4月の建築基準法改正に向けて、JAS材の調達ルートを確保しておくことも設計者にとって重要な準備となります。改正後は需要増加が予想されるため、信頼できる供給元との関係構築が望まれます。
JAS規格は単なる品質基準を超えて、持続可能な木造建築の発展に重要な役割を果たしています。特に近年のウッドショックや環境意識の高まりを背景に、JAS認証を受けた国産材の活用が注目されています。
持続可能な森林管理と連携したJAS材の生産は、地球温暖化防止対策としても重要な意義を持ちます。木材は成長過程でCO2を吸収し、建築材料として使用されることで長期間炭素を固定します。JAS規格に基づく適切な木材利用は、この環境貢献を最大化する手段となります。
また、大規模木造建築の普及においてもJAS材は重要な役割を担っています。従来、非住宅の大規模建築では鉄骨やコンクリートが主流でしたが、JAS構造材の強度性能が明確になることで、木造での設計・施工が容易になり、木材利用の範囲が拡大しています。
技術革新の面では、CLT(直交集成板)やLVL(単板積層材)などの新しい木質構造材料もJAS規格に組み込まれ、より高性能で多様な木造建築を可能にしています。これらの材料は従来の製材では実現できなかった大スパンや高層の木造建築を可能にし、木材利用の可能性を広げています。
将来的には、デジタル技術との融合も期待されます。例えば、木材のトレーサビリティシステムとJAS認証を連携させることで、使用される木材の産地や品質情報をより透明に管理できるようになるでしょう。
持続可能な木造建築の未来において、JAS規格はその基盤となる品質保証システムとして、ますます重要性を増していくと考えられます。
建築材料の規格として、日本農林規格(JAS)と日本産業規格(JIS)の2つが重要な役割を果たしていますが、これらには明確な違いと適用範囲があります。
JASは農林水産省が所管し、主に農林水産物とその加工品の品質や規格を定めています。建築分野では、製材や集成材、合板、フローリングなどの木質建材が対象となります。一方、JISは経済産業省が所管し、工業製品全般の規格を定めており、建築分野ではコンクリートや窓ガラス、断熱材などの非木質建材が対象となります。
興味深いのは、木材製品でも加工方法によって適用される規格が異なる点です。例えば、板状に加工した木材を貼り合わせた合板などはJIS規格が適用される一方、木材を細かく粉砕加工して成型固形化したパーティクルボードや繊維板などはJAS規格が適用されます。
建築基準法第37条では、建築物の主要構造部に使用する材料として、JISまたはJASに適合するもの、あるいは国土交通大臣の認定を受けたものを使用することが定められています。これにより、両規格は建築物の安全性を担保する法的な裏付けを持つ重要な基準となっています。
設計者や施工者は、使用する建材がどちらの規格に基づいているかを理解し、適切な材料選択を行うことが求められます。特に、木造建築においては、構造材としてのJAS製材と、内装材や下地材としてのJIS製品を適材適所で使い分けることが重要です。
項目 | 日本農林規格(JAS) | 日本産業規格(JIS) |
---|---|---|
所管省庁 | 農林水産省 | 経済産業省 |
対象製品 | 農林水産物とその加工品 | 工業製品全般 |
建築関連の主な対象 | 製材、集成材、合板、フローリング | コンクリート、窓ガラス、断熱材 |
木材製品の区分 | パーティクルボード、繊維板など | 合板など |
両規格の適切な理解と活用は、安全で高品質な建築物の実現に不可欠です。特に2025年の建築基準法改正を控え、これらの規格に基づく材料選択の重要性はさらに高まっていくでしょう。