
集成材は、小さく切り分けた木材(ラミナ)を乾燥させ、接着剤で接合して作られた木材製品です。天然木をそのまま使用する無垢材とは異なり、複数の木材を集めて一つの部材として形成されています。
製造工程では、まず原木を適切なサイズに切り分け、含水率15%以下になるまで十分に乾燥させます。この乾燥工程は非常に重要で、後の製品の品質を大きく左右します。乾燥後のラミナは等級区分(グレーディング)され、用途に応じて適切なものが選別されます。その後、接着剤を用いて接合し、必要な形状・サイズに加工されます。
集成材の最大の特徴は、木材の欠点(節や割れなど)を取り除き、品質が均一化された木材製品が得られることです。これにより、無垢材では実現が難しい長さや幅の大きな部材を製造することが可能になります。
集成材は主に「構造用集成材」と「造作用集成材」の2種類に分けられます。それぞれ用途や特性が異なるため、適切な使い分けが重要です。
構造用集成材は、建物の構造体として使用される集成材です。柱や梁、土台など、建物を支える重要な部分に使用されます。JAS(日本農林規格)による厳格な基準があり、強度性能が保証されています。強度等級によってE65、E75、E95などと区分され、数字が大きいほど強度が高くなります。
一方、造作用集成材は、家具や建具、内装材など、見た目や仕上がりが重視される部分に使用されます。構造用ほど強度は求められませんが、美観や加工のしやすさが重要視されます。テーブルの天板、階段、カウンター、ドアなどに多く使われています。
また、集成材は接着方法によっても分類されます。縦継ぎ集成材(フィンガージョイント)、幅はぎ集成材、積層集成材などがあり、それぞれ特性が異なります。
集成材と無垢材では、強度や耐久性に大きな違いがあります。まず強度面では、集成材は製造過程で欠点を除去し、ラミナを適切に組み合わせることで、強度のばらつきが少なく、安定した性能を発揮します。特に大断面の部材では、無垢材よりも高い曲げ強度を持つことができます。
耐久性については、無垢材の方が長期的には優れていると言われています。集成材は接着剤の寿命に左右される面があり、経年により接着部分が劣化する可能性があります。一方、良質な無垢材は適切に管理されれば100年以上の耐久性を持つことも珍しくありません。
耐火性能については、木材は燃えやすいイメージがありますが、集成材の大断面材は表面が炭化すると内部への酸素供給が絶たれ、燃焼が抑制されます。建築基準法でも「燃えしろ設計」という考え方が認められており、表面が一定の厚さ(25mm~45mm)燃えても構造耐力上支障がないように設計することで、準耐火構造として認められています。
湿度変化に対する安定性は集成材の方が優れています。無垢材は湿度の変化により膨張・収縮するため、反りや割れが生じやすいのに対し、集成材はラミナの木目方向を交互に配置することで、寸法安定性が高くなっています。
集成材には多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。建築材料として選択する際は、これらを十分に理解しておくことが重要です。
【メリット】
特に注目すべきは、集成材の寸法安定性です。十分に乾燥させたラミナを使用するため、施工後の狂いや反りが少なく、建物の品質向上に貢献します。また、無垢材では得られない大きなサイズや特殊な形状の部材を製造できるため、設計の自由度が高まります。
【デメリット】
デメリットとして最も懸念されるのは、接着剤に関する問題です。近年は環境や健康に配慮した接着剤の開発が進んでいますが、シックハウス症候群などの健康問題を心配する声もあります。また、無垢材特有の風合いや経年変化による味わいが得られにくいという美観面での違いもあります。
集成材は様々な建築場面で活用されており、その用途は年々拡大しています。特に大型木造建築物の構造材として注目を集めています。
住宅建築では、柱や梁、土台などの構造材として広く使用されています。特に大空間を実現したい場合や、高い耐震性能が求められる場合に適しています。また、床材や内装材としても使用され、無垢材と比較してコストパフォーマンスに優れた選択肢となっています。
公共建築物では、学校や体育館、図書館などの大型施設の構造材として採用例が増えています。集成材の大断面材を使用することで、広い空間を木の温かみのある雰囲気で実現できます。例えば、東京オリンピック・パラリンピックの競技施設「有明体操競技場」では、大規模な木造屋根に集成材が使用されました。
商業施設では、店舗の内装材や構造材として使用されるケースが増えています。木の温かみを活かした空間づくりが可能で、環境に配慮した建築材料としてのアピールポイントにもなっています。
最近の傾向として、CLT(直交集成板)という新しい木質材料の普及も進んでいます。これは集成材を直交させて積層した大判のパネル状の材料で、壁や床などの面材として使用されます。従来のコンクリート造に代わる新しい構造システムとして注目されています。
集成材は環境面でも多くのメリットを持っています。木材は成長過程で二酸化炭素を吸収し、伐採後も炭素を固定し続けるため、地球温暖化対策に貢献する材料です。集成材は小径木や間伐材なども有効活用できるため、森林資源の持続可能な利用に寄与します。
また、集成材の製造過程ではエネルギー消費量が鉄やコンクリートと比較して少なく、環境負荷が小さいことも特徴です。製造時のCO2排出量は鉄の約1/9、コンクリートの約1/2と言われています。
日本では「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、公共建築物の木造化・木質化が推進されています。この流れの中で、集成材は重要な役割を担っています。特に大規模木造建築を可能にする材料として、その需要は今後も増加すると予想されます。
持続可能な木材利用の観点からは、FSC認証やPEFC認証などの森林認証を受けた木材を使用した集成材の普及も進んでいます。これらの認証は、環境に配慮し、社会的に責任ある方法で管理された森林から産出された木材であることを保証するものです。
さらに、集成材は建物の解体後にリサイクルや再利用が可能であり、廃棄物削減にも貢献します。木材チップとして再利用したり、バイオマス燃料として熱エネルギーに変換したりすることができます。
林野庁による木材利用ポイントと環境貢献度について詳しく解説されています
集成材を選ぶ際には、用途に応じた適切な種類や等級を選択することが重要です。まず、構造材として使用するのか、内装材や家具として使用するのかを明確にし、それに適した集成材を選びましょう。
構造用集成材を選ぶ際は、JAS規格に適合したものを選ぶことが基本です。強度等級や使用環境(屋内・屋外)に応じた適切な種類を選びましょう。特に重要な構造部材には、適切な強度等級(E65、E75、E95など)の集成材を使用することが求められます。
造作用集成材を選ぶ際は、見た目や仕上がりを重視します。木の種類や色合い、木目の美しさなどを確認し、空間のデザインに合ったものを選びましょう。代表的な種類としては、ゴム集成材、タモ集成材、ナラ集成材、パイン集成材などがあります。
施工時の注意点としては、以下の点に留意することが重要です。
木材保存協会による木材の適切な保存処理方法について詳しく解説されています
集成材は木質建材の中でも特に技術革新が進んでいる分野であり、その将来性は非常に高いと言えます。近年の技術開発や市場動向から、いくつかの注目すべき最新トレンドが見えてきています。
まず、構造用集成材の高強度化が進んでいます。従来よりも高い強度を持つ集成材の開発により、より大規模な木造建築が可能になっています。特に高層木造建築への応用が世界的に注目されており、日本でも中高層木造建築の実現に向けた研究開発が進んでいます。
次に、環境性能の向上が挙げられます。接着剤の環境負荷低減や、より少ない接着剤で製造する技術の開発が進んでいます。バイオマス由来の接着剤や、VOC(揮発性有機化合物)の発生が少ない接着剤の開発も進んでおり、より環境に優しい集成材の実現が期待されています。
また、デジタル技術との融合も進んでいます。3Dスキャンや3Dプリンティング技術を活用した高精度な加工や、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と連携した設計・施工システムの開発により、複雑な形状の集成材構造物の実現が容易になっています。
さらに、集成材と他の材料とのハイブリッド化も進んでいます。集成材と鋼材を組み合わせたハイブリッド部材や、集成材とコンクリートを複合化した部材の開発により、それぞれの材料の長所を活かした新しい構造システムが生まれています。
日本では、2010年に「公共建築物等木材利用促進法」が施行され、公共建築物の木造化・木質化が推進されています。また、2021年には「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正され、さらに木材利用が促進される見込みです。このような政策的な後押しもあり、集成材の需要は今後も拡大すると予想されています。
技術革新の最前線では、AIを活用した木材の品質評価システムや、ナノセルロースなどの新素材を活用した高機能集成材の開発も進んでいます。これらの新技術により、集成材の性能向上と用途拡大が期待されています。