温室効果ガスの最大要因は水蒸気?なぜ削減対象外なのか

温室効果ガスの最大要因は水蒸気?なぜ削減対象外なのか

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温室効果ガスと水蒸気のなぜ

この記事の要約
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最大の温室効果ガス

実は全体の約5割は水蒸気が寄与しており、CO2よりも強力な熱吸収能力を持っています。

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悪循環のスイッチ

CO2による気温上昇が水蒸気を増やし、さらに温暖化を進める「フィードバック」が働いています。

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建築との深い関係

現場での結露対策や断熱施工が、実はこの水蒸気サイクルを抑制する重要な鍵になります。

【寄与度】温室効果ガスの主役は水蒸気である事実

 

地球温暖化対策というと、私たちはすぐに「二酸化炭素(CO2)の削減」を思い浮かべます。ニュースでも現場の安全朝礼でも、環境配慮といえばCO2の話ばかりです。しかし、科学的な事実として、現在の地球の温室効果に最も大きく貢献している(寄与している)気体は、CO2ではなく「水蒸気」だということをご存じでしたでしょうか。
気象庁や国立環境研究所のデータによると、地球の温室効果全体のうち、約48%から最大で60%程度は水蒸気によるものだとされています。これに対して、二酸化炭素の寄与度は約21%程度に過ぎません。メタンやフロンガスなど他のガスを含めても、水蒸気の圧倒的な影響力には及ばないのです。
「それなら、CO2を減らすよりも、水蒸気を減らすほうが手っ取り早いのではないか?」
現場で空調設備や配管を扱っている方なら、直感的にそう思うかもしれません。お湯を沸かせば湯気が出るように、あるいは夏場の湿気が熱を保つのと同じように、水蒸気が熱を逃がさない性質(赤外線の吸収特性)を持っていることは肌感覚で理解できるからです。実際に、水蒸気は地表から放射される赤外線を広い波長域で吸収し、熱を宇宙に逃がさない「保温ブランケット」のような役割を果たしています。
もし地球上に水蒸気が全く存在しなければ、地球の平均気温は現在の約15℃から氷点下19℃くらいまで下がってしまうと言われています。つまり、水蒸気は私たち生物が生きていく上で不可欠な「保温材」なのです。しかし、問題は「なぜ一番影響力の大きい水蒸気が、京都議定書やパリ協定の削減リストに入っていないのか」という点にあります。これには、CO2と水蒸気の決定的な性質の違いが関係しています。
以下は、国立環境研究所による水蒸気の温室効果に関する解説ページです。Q&A形式で、水蒸気が最大の寄与を持っているにもかかわらず、CO2削減が必要な理由が詳しく書かれています。
温暖化の科学 Q9 水蒸気の温室効果|ココが知りたい地球温暖化

【メカニズム】気温上昇と水蒸気の正のフィードバック

なぜ水蒸気は削減目標にならないのか。その答えを解くカギは「フィードバック効果」というメカニズムにあります。建築設備の制御システムでも「フィードバック制御」という言葉を使いますが、気候システムにおけるフィードバックは、少し怖い「悪循環」を意味することが多いのです。
CO2は「長寿命」なガスであり、一度排出されると数十年から数百年は大気中に留まります。これが「最初のひと押し(トリガー)」となります。人間活動によってCO2が増え、わずかに気温が上がるとどうなるでしょうか。ここで登場するのが、私たちが建築現場でよく気にする「飽和水蒸気量」の原理です。
空気は、温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができます。


  • CO2が増えて気温が上がる。

  • 海や地面からの水分蒸発が活発になる。

  • 大気がより多くの水蒸気を抱え込めるようになる。

  • 大気中の水蒸気が増える。

  • 水蒸気の温室効果で、さらに気温が上がる。

このサイクルを「水蒸気フィードバック(正のフィードバック)」と呼びます。専門家の試算によれば、CO2単独による気温上昇が1℃だとすると、この水蒸気の増幅効果によって上昇幅は2倍から3倍にまで膨れ上がると考えられています。つまり、水蒸気は温暖化の「主犯」ではなく、CO2という主犯の手引きによって暴れる「共犯者」あるいは「増幅装置」なのです。
この増幅作用こそが、気候変動予測を難しくし、かつ事態を深刻にしている要因です。私たちがコントロールできるのは、最初のスイッチであるCO2だけです。スイッチを押してしまえば、あとは自然の物理法則(クラウジウス・クラペイロンの式)に従って水蒸気が勝手に増えてしまい、人間の手では止められなくなってしまいます。だからこそ、増幅装置のスイッチを入れないために、CO2削減が叫ばれているのです。
以下は、水蒸気フィードバックがどのように温暖化を加速させるかについて、図解入りで分かりやすく解説されている環境省の資料です。
温室効果のメカニズム - 環境省

【理由】なぜ削減目標に含まれないのかは「寿命」にある

水蒸気が削減対象にならないもう一つの大きな理由は、大気中での「滞留時間(寿命)」の違いです。これも建築の実務に例えると分かりやすいかもしれません。
現場で撒いた水は、晴れていればすぐに乾いてなくなります。雨が降れば地面は濡れますが、数日で乾きます。これと同じように、水蒸気は大気中での循環サイクルが非常に短いのです。水蒸気が大気中に留まっていられる期間は、平均してわずか「9日程度」と言われています。蒸発して雲になり、雨や雪としてすぐに地上に戻ってくるからです。
一方で、CO2はどうでしょうか。一度大気中に放出されたCO2は、植物や海に吸収されるまで長い時間がかかり、一部は何百年も大気に留まり続けます。
これを「管理可能性」という視点で見ると以下のようになります。


  • 水蒸気: 人間がいくら減らそうとしても、海がある限り気温に応じて勝手に蒸発して補充される。逆に、いくら排出しても(冷却塔の湯気など)、気温が低ければすぐに雨になって落ちてしまう。つまり、人間が濃度を直接コントロールできない

  • CO2: 人間が排出すればするだけ蓄積され、減らせば蓄積が止まる。人間が濃度をコントロールできる

私たちは、コントロールできない自然現象(水蒸気量)を規制することはできません。しかし、その自然現象を狂わせる原因となっている「温度調整ツマミ(CO2)」は操作できます。
仮に、世界中の工場から出る水蒸気を止めたとしても、海からの蒸発量に比べれば微々たるもので、気候への影響はほとんどありません。しかし、CO2排出を止めれば、長期的には気温上昇が止まり、結果として過剰な水蒸気の増加も止まります。これが、水蒸気が「監視対象」ではあっても「削減目標」にはなり得ない理由です。
以下のリンクでは、人為的な水蒸気排出が気候に与える影響が無視できるほど小さいことについて、科学的な根拠をもとに回答しています。
温暖化の科学 Q15 温暖化は暴走する?

【建築】調湿と断熱が握るCO2削減のカギ

ここまでの話で、「水蒸気は気温に従って増減する」という性質が、温暖化の加速装置であることが分かりました。では、私たち建築従事者はこの巨大な問題に対して無力なのでしょうか?実は、私たちが日々取り組んでいる「高気密・高断熱」や「結露対策」が、回り回ってこの水蒸気フィードバックを食い止める重要な役割を果たしています。
建築現場では「結露(Ketsuro)」は大敵です。冬場、サッシや壁体内で結露が起きるのは、冷たい空気が水分を保持できなくなる(飽和水蒸気量が下がる)からです。逆に夏場は、高温多湿な空気が室内に入り込み、エアコンの負荷を増大させます。
ここで重要なのが「潜熱(せんねつ)」の扱いです。
空調設備において、空気を冷やすエネルギーの多くは、実は温度を下げること(顕熱)よりも、空気中の湿気を取る(除湿=潜熱除去)ことに使われています。湿度が高い空間を快適にするには、莫大な電力が必要です。


  1. 断熱性能を上げる: 外部の熱を入れないことで、無駄な冷暖房を減らす。

  2. 気密性能を上げる(防湿層の施工): 湿気を壁内に入れないことで、構造体の劣化を防ぐと同時に、室内の湿度管理を効率化する。

  3. 結果: 空調エネルギーが減り、発電所からのCO2排出が減る。

  4. 地球規模の影響: CO2が減れば気温上昇が抑えられ、大気中の水蒸気爆発(フィードバック)も抑制される。

つまり、私たちが現場で施工している「防湿シート1枚の丁寧な施工」や「断熱材の隙間のない充填」は、単にお客さまの家のカビを防ぐだけでなく、地球規模の「水蒸気フィードバック」という暴走スイッチを押さないための、最も具体的で効果的なブレーキなのです。
建物単体で見れば「湿気対策」は耐久性の問題ですが、グローバルに見れば、それはエネルギー効率を極限まで高め、CO2というトリガーを引かせないための戦いです。水蒸気そのものを悪者にするのではなく、「水蒸気が暴れないような環境(温度)を維持する」こと。それが、建築に携わる私たちがプロとして貢献できる、最大の気候変動対策と言えるのではないでしょうか。
愛知県の環境局が出しているマニュアルでは、建築物の断熱化がどのように温室効果ガス削減につながるか、技術的な視点で解説されています。
温室効果ガス排出抑制のための環境配慮項目の技術紹介

 

 


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