ペプチド結合どこで起こる|リボソーム細胞質とタンパク質合成の場所

ペプチド結合どこで起こる|リボソーム細胞質とタンパク質合成の場所

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ペプチド結合どこで起こる

この記事で分かること
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ペプチド結合の形成場所

リボソームの大サブユニット内で起こる脱水縮合反応の仕組みを理解できます

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リボソームの構造と役割

大小サブユニットの構成とペプチド転移反応の詳細を学べます

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翻訳とタンパク質合成

mRNAからタンパク質が作られる過程とtRNAの役割を把握できます

ペプチド結合が起こる場所はリボソーム

ペプチド結合は、細胞内のリボソームという細胞小器官で形成されます。リボソームはRNAとタンパク質からなる複合体で、タンパク質合成の専用工場として機能しています。具体的には、リボソームの大サブユニット内に位置するペプチジルトランスフェラーゼセンター(PTC)と呼ばれる部位で、アミノ酸同士がペプチド結合によって連結されます。
参考)タンパク質合成場であるリボソームの起源と進化~原始tRNAと…

細胞質だけでなく、粗面小胞体の表面に付着したリボソームでも盛んにペプチド結合が形成されています。特に分泌性タンパク質を多く生産する細胞では、電子顕微鏡で観察すると粗面小胞体の表面に多数のリボソームが付着している様子が確認できます。
参考)https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf/ribosome.pdf

神経細胞では、細胞体だけでなく樹状突起や軸索といった細胞体から離れた場所でもタンパク質合成が行われており、この現象は局所タンパク質合成と呼ばれています。このようにペプチド結合は、リボソームが存在する場所であれば細胞内のさまざまな部位で起こる反応なのです。
参考)局所タンパク質合成 - 脳科学辞典

ペプチド結合の形成メカニズムと脱水縮合反応

ペプチド結合は、1つのアミノ酸のカルボキシ基(-COOH)と別のアミノ酸のアミノ基(-NH2)が脱水縮合することで形成される共有結合です。この反応では、カルボキシ基のOH部分と、アミノ基のH部分が結合して水分子(H2O)として除去され、残った部分がアミド結合(-CONH-)を形成します。アミド結合のうち、特にα-アミノ酸同士が結合して形成されるものをペプチド結合と呼びます。
参考)【高校生物基礎】「タンパク質の立体構造(ペプチド結合)」

リボソーム上での実際のペプチド結合形成は、ペプチド転移反応として進行します。この反応では、P部位(ペプチジル部位)にあるtRNAに結合したポリペプチド鎖のC末端が、A部位(アミノアシル部位)のtRNAに結合した新しいアミノ酸のアミノ基と結合し、新たなペプチド結合が形成されます。
参考)翻訳 -ポリペプチド鎖の伸長-

興味深いことに、ペプチド結合の形成を触媒するのはタンパク質ではなく、23S rRNAに含まれるアデニンという塩基です。これはRNAが酵素活性を持つことを示す重要な例となっています。試験管内での実験では、わずか74ヌクレオチドからなるRNAが二量体を形成するだけで、アミノ酸を付加したミニヘリックス間でペプチド結合を生成させることができることも明らかになっています。
参考)https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_2/

リボソームの構造とサブユニット

リボソームは大サブユニットと小サブユニットという2つの部分が重なり合って構成されており、それぞれがリボソームRNA(rRNA)とリボソームタンパク質で構成されています。大腸菌などの原核生物の場合、小サブユニット(30S)は1種類の16S rRNAと21種類のリボソームタンパク質からなり、大サブユニット(50S)は2種類のrRNA(5S rRNAと23S rRNA)と33種類のリボソームタンパク質からなります。
参考)リボソームを試験管内で自由に再構成

大サブユニットには、ペプチド結合の形成に直接関わる3つの重要な部位があります。P部位(ペプチジル部位)にはペプチド鎖を結合したtRNA(ペプチジルtRNA)が、A部位(アミノアシル部位)には新しいアミノ酸を結合したtRNA(アミノアシルtRNA)が結合し、E部位(イグジット部位)からは役目を終えたtRNAがリボソームを離れます。
参考)https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf3/Chapt9.pdf

小サブユニットの主な役割は、mRNAの塩基配列を読み取り、tRNAのアンチコドンとmRNAのコドンの対合を監視することです。一方、大サブユニットではペプチジルトランスフェラーゼの作用により、アミノ酸が次々と連結されていきます。リボソームのS値(Svedberg単位)は超遠心機での沈降速度を表しており、原核生物では大小サブユニットが50Sと30Sですが、結合したリボソームは80Sではなく70Sとなります。これは形状が沈降速度に影響を与えるためです。
参考)間違えたら何度でもやり直すタンパク質合成の 新たな品質管理機…

翻訳プロセスとtRNAの役割

タンパク質合成における翻訳は、mRNA(メッセンジャーRNA)の塩基配列をアミノ酸配列に変換する過程です。まず、mRNAがリボソームに結合し、tRNA(運搬RNA)がmRNAの塩基配列を3つずつ読み取って対応するアミノ酸を運んできます。この3つの塩基の組をコドンと呼び、mRNA上のコドンとtRNAのアンチコドンが相補的に結合することで、正確なアミノ酸の配列が決定されます。
参考)セントラルドグマ(DNA複製・タンパク質合成の流れ)

tRNAは約80ヌクレオチドの短いRNA分子で、分子内塩基対により特徴的なクローバー型構造を形成しています。tRNAには、コドンに適合するアミノ酸が結合する受容ステム、ジヒドロウリジンを含むDループ、TψC配列を含むTψCループ、そしてコドンと相補的なアンチコドンを含むアンチコドンループという4つの重要な領域があります。このように、mRNAのコドンと相補的なアンチコドンと、コドンに適合するアミノ酸の両方を持つことで、tRNAは遺伝情報の通訳としての機能を果たします。
参考)遺伝暗号とアミノアシルtRNA

翻訳の伸長過程では、空いているA部位に次のアミノ酸を運ぶアミノアシルtRNAが入り、P部位のtRNAから外れたポリペプチド鎖のC末端が、A部位のtRNAに結合したアミノ酸のアミノ基と新しいペプチド結合を形成します。その後、リボソームが3ヌクレオチド分移動し、役目を終えたtRNAはE部位を経てリボソームを離れていきます。このサイクルが繰り返されることで、アミノ酸が次々と付加されてペプチド鎖が伸長していくのです。​

遺伝情報の流れとペプチド結合形成の全体像

生命活動の根幹を成す遺伝情報の流れは「DNA→RNA→タンパク質」という一方向で、この原則はセントラルドグマと呼ばれています。タンパク質のアミノ酸配列情報は、細胞核内のDNAに4種の塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)からなる配列として収納されており、この情報がまずメッセンジャーRNA(mRNA)へ転写されます。
参考)ペプチド結合

転写されたmRNAの情報に従って、tRNAと結合したアミノ酸がリボソーム上でアミノ末端から順次ペプチド結合を形成して連結されていきます。この過程では、DNA配列がmRNA配列に転写され、遺伝暗号表に従ってアミノ酸配列に翻訳されます。例えば、DNA配列のATGAGTAAAGGAは、AUGAGUAAAGGAというmRNA配列に転写され、最終的にメチオニン-セリン-リジン-グリシンというアミノ酸配列を持つペプチドに翻訳されます。​
さらに興味深いのは、合成されたペプチドやタンパク質の中には、糖鎖を連結するなどの翻訳後修飾を施されるものもあることです。また、タンパク質中のグルタミンのカルボキサミド基とリジンのアミノ基が脱水縮合したものはイソペプチドと呼ばれ、分子内あるいは分子間の架橋を形成します。この反応を進めるトランスグルタミナーゼは、血液凝固のⅩⅢa因子として重要な役割を果たしています。このように、ペプチド結合形成は単なる化学反応ではなく、複雑な生命システムの一部として機能している精巧なプロセスなのです。​
高校生物基礎レベルでペプチド結合の基本を分かりやすく図解した教育コンテンツ
リボソームの起源と進化に関する東京理科大学の最新研究成果(原始tRNAとミニヘリックスの役割について)
理化学研究所によるリボソームの試験管内再構成に関する研究(リボソームの構造と機能の詳細)