レーザー回折散乱法の欠点と建築現場での正しい使い方

レーザー回折散乱法の欠点と建築現場での正しい使い方

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レーザー回折散乱法の欠点を建築従事者が知っておくべき理由

「精度が高い」と信じていたその測定値、実は33%しか正確でない可能性があります。


この記事の3ポイント要約
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細粒土では測定誤差が最大67%に達することがある

土木学会の研究(清水建設)によると、4〜8µmの粒径領域ではレーザー回折散乱法の測定値が標準沈降法と比べて最大67%もずれるケースが確認されています。

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装置本体が1,000万円前後と非常に高価

レーザー回折散乱法の測定装置は1台1,000万円前後が相場です。導入コストだけでなく、光軸ずれやメンテナンス費用も継続的に発生します。

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粒子形状・屈折率で結果が変わる"構造的な欠点"がある

砂・砕石・セメントなど不規則形状の建設資材は、同一メーカーの装置でも屈折率の設定やアルゴリズムの違いにより測定結果が異なることがあります。


レーザー回折散乱法の測定原理と建築資材への適用

レーザー回折散乱法(Laser Diffraction/Scattering Method)とは、粒子にレーザー光を照射したとき、粒子のサイズによって散乱・回折される光の角度が変わる現象を利用して、粒子径の分布(粒度分布)を測定する手法です。建築・土木分野では、セメント、砂、砕石、シルト・粘土といった細粒土の粒度分析に用いられることがあります。


原理のポイントはシンプルです。粒子が大きいほど回折角が小さく、小さい粒子ほど散乱角が広がります。この性質をフランホーファー回折理論とミー散乱理論の2つを組み合わせて解析することで、粒度分布を計算します。操作自体は自動化されており、試料を分散液に入れてスタートボタンを押すだけで、数分〜数十分で結果が出ます。


建築・土木の現場では、地盤改良工事の土質分析、コンクリート用セメントの品質管理、砂・砕砂の粒度確認、泥水シールド工法での細粒土管理など幅広い場面で活用されています。測定が迅速で再現性が高いとされているため、JIS規格の沈降法に代わってレーザー回折散乱法を採用する現場が増えているのが現状です。


ただし「迅速で便利」という側面の裏には、建築従事者が見落としがちな欠点がいくつか潜んでいます。これ以降では、その欠点を一つひとつ具体的に解説していきます。


レーザー回折散乱法の欠点①:細粒土で最大67%の測定誤差が出ることがある

これは最も重大な欠点です。


清水建設エンジニアリング事業本部が土木学会第71回年次学術講演会(2016年)で発表した研究によると、首都圏複数の現場から採取した細粒土8試料について、標準的な「ふるい-沈降分析法(JIS A1204)」とレーザー回折散乱法(LDM)の両方で粒度分布を測定・比較しました。


その結果は驚くべきものでした。粒径が4〜8µmという比較的小さい領域では、「レーザー回折散乱法の測定値の中央値(50%値)に対して、沈降法の測定値がわずか33%にとどまる」というデータが示されました。つまり、同じ土を測っても、手法が違うと測定値が約3倍もずれることがあるということです。


わかりやすく例えるなら、手のひらサイズの石(4cm)が、別の方法で測ると13cm相当として計測されるようなイメージです。地盤改良工事で細粒土の分級管理を行う場合、この誤差は工事の品質に直結します。


もう少し大きな粒径(10〜16µm)の領域になると、ズレは81%程度まで縮まります。つまり粒径が細かければ細かいほど、誤差が大きくなる傾向があるということです。これが原則です。


建設現場でシルト・粘土など細粒分が多い土を扱う際は、レーザー回折散乱法の測定値だけを鵜呑みにしないことが重要です。JIS準拠の沈降分析法との比較確認も選択肢として念頭に置いておきましょう。


土木学会によるレーザー回折散乱法と沈降法の粒径比較データ(清水建設)はこちらで確認できます。


沈降分析法とレーザー回折散乱法による細粒土粒径の比較(土木学会第71回年次学術講演会・清水建設)


レーザー回折散乱法の欠点②:屈折率と粒子形状の違いで結果が「装置ごとに変わる」

レーザー回折散乱法のもう一つの構造的な欠点が、屈折率と粒子形状の影響です。


まず屈折率について説明します。レーザー光が粒子に当たるとき、粒子の内部を光がどのように透過・屈折するかが、散乱パターンに大きく影響します。砂・砕石・粘土・セメントはそれぞれ屈折率が異なります。しかも多くの建設資材は屈折率が文献値として公表されていないか、測定環境によって変動するため、装置に入力する屈折率の設定が測定担当者によって異なることがあります。


HORIBAが発表した技術資料(Readout No.4)によると、「粒子屈折率のあつかいに加えて、回折散乱光強度分布を粒度分布に換算する演算ソフトがメーカーによって異なり、これが測定装置を『個性』豊かなものにし、機種間の違いを大きくしている」と明記されています。つまり同じ試料を異なるメーカーの装置で測定すると、アルゴリズムの差で数値が変わるのです。


次に粒子形状の問題です。建設現場で扱う砕石・砂利・砕砂などは、角が尖った不規則な形状をしています。レーザー回折散乱法はすべての粒子を「球」と仮定して計算します。つまり、どの面にレーザーが当たるかによって、同じ石の粒子でも複数の径のデータが出てしまい、再現性が低下します。異型粒子は特に再現性が難しいということです。


これを建築業界的に言い換えると、同じ砕砂のサンプルを月曜日と水曜日に測定したら、スタッフが違うだけで異なる値が出る可能性があるということです。痛いですね。


品質管理の基準として測定値を使う場合には、屈折率の設定条件と装置メーカーを社内で統一するルールを設けることが大切です。


HORIBA(堀場製作所)による粒度分布測定の難しさに関する詳細な技術解説はこちら。


レーザー回折散乱法の欠点③:スムージング処理で「本来の粒度分布が隠れる」ことがある

レーザー回折散乱法には、見た目にはわかりにくい"データ加工"の問題があります。


多くのレーザー回折散乱法の装置では、得られた散乱パターンを粒度分布グラフに変換する際に「スムージング処理」が自動的に施されます。このスムージングとは、凸凹したデータをなめらかに整えるアルゴリズム処理のことです。


ベックマン・コールター社の技術資料によると、電池材料のサンプルをレーザー回折散乱法で測定すると「きれいな1ピークの正規分布」が得られますが、粒子を1粒ずつ計測するコールター法(電気的検知帯法)で同じサンプルを測ると、3〜5µm付近と7〜8µm付近にショルダー状の2つのピークが存在することがわかりました。これは建材ではなく半導体・電池材料の例ですが、「スムージングによって複数ピークが1つに見えてしまう」という問題は、細粒成分の品質管理を行う建設・建材メーカーにも共通して起きうる現象です。


つまり「1ピークのきれいな正規分布が出た=均一な粒度」と判断してしまうと、実態として2種類の粒径が混在していても見落とす可能性があります。これは使えそうな情報ですね。


この問題の対策としては、測定結果を鵜呑みにせず、同一サンプルを複数回測定してバラツキを確認すること、もしくはコールター法など別の測定手法を組み合わせることが有効です。建設資材の受入検査として粒度試験を実施している場合は、特に注意が必要な点です。


スムージング処理の実例と、コールター法との比較データはこちらで確認できます。


レーザー回折・散乱法 vs コールター法(ベックマン・コールター)


レーザー回折散乱法の欠点④:装置が1,000万円前後と高価で、光軸ずれによる再調整コストも発生する

経済的な視点からも、レーザー回折散乱法の欠点を整理しておく必要があります。


まず装置価格です。国内の販売情報によると、レーザー回折散乱法の粒度分布測定装置は1台あたり約700万円〜1,000万円以上が相場です。HORIBAの代表機種「Partica LA-960V2」の参考価格は698万円〜との情報があり、高性能機になると1,000万円を超えるものも少なくありません。建設会社や土質試験会社が自社導入を検討する場合、初期費用として相当の投資が必要です。


次に維持費の問題があります。レーザーを使った装置の大きな弱点の一つが「光軸のずれ」です。HORIBAの技術資料でも「装置の光軸がずれてしまうことによって、透過光が本来の検出器ではなく別の検出器に入り込んでしまう」と指摘されています。この光軸ずれが起きると、測定上限付近に異常ピークが出るなど、データが不正確になります。光軸の再調整は専門技術者が必要であり、社内での対応が難しければ外部メンテナンスを依頼することになります。


また、レーザー光源の種類によっても耐久性が変わります。HeNeガスレーザーを採用した装置は定期的な部品交換が必要で、ウォームアップ時間もかかります。一方、半導体レーザーを採用した装置はメンテナンス面で有利ですが、製品によって性能差があります。結論は「導入後のランニングコストまで含めて検討することが条件」です。


コストを抑えながら粒度試験を実施したい建設会社であれば、自社保有ではなく、外部の土質試験機関や認定試験所への委託も現実的な選択肢です。1試験あたりの費用を積み上げて比較すると、委託のほうが割安になる場合もあります。


レーザー回折散乱法の欠点⑤:ふるい分け法・沈降法とJIS互換性の問題と建築現場での選択基準

建築・土木の現場で特に重要なのが、「どの測定法がJIS規格に準拠しているか」という点です。


土の粒度試験は、JIS A1204「土の粒度試験方法」において、基本的にはふるい分析と沈降分析の組み合わせが標準とされています。レーザー回折散乱法はこのJIS規格には直接含まれていません。これが原則です。


国土交通省や土木学会においても、レーザー回折散乱法による測定値が沈降法と一致しないケースが研究で確認されており、特に細粒分(75µm以下)の割合判定においては標準法との差異が問題になることがあります。工事成績に直接影響する品質管理書類や設計根拠資料では、JIS準拠の試験結果が求められる場合がほとんどです。


ただし、レーザー回折散乱法にメリットがない、というわけではありません。測定時間の短縮、小サンプル量での測定、繰り返し再現性の高さなどは実務での利便性が高いです。問題は、適切な用途と限界を理解した上で使うかどうかです。


以下の表を参考に、場面に応じた使い分けを意識してください。







































比較項目 レーザー回折散乱法 ふるい-沈降分析法(JIS A1204)
測定時間 数分〜30分程度(迅速) 24時間以上(沈降待ち含む)
JIS規格準拠 ❌ 非準拠 ✅ JIS A1204 準拠
細粒土の精度 ⚠️ 誤差が大きくなる場合あり(最大67%) ✅ 標準として信頼性高い
装置コスト 700万〜1,000万円以上 比較的低コスト
粒子形状の影響 ⚠️ 異型粒子で再現性低下 比較的影響少ない
主な用途 研究・品質管理(社内管理)・スクリーニング 公的試験・設計根拠・品質保証書


建築・土木の現場では「JISに準拠しているか」「細粒土か粗粒土か」「社内管理か公的提出書類か」という3点を確認することで、適切な測定手法を選べます。


粒度試験を外部機関に委託する場合、JIS認定を取得している試験機関かどうかを事前に確認することが大切です。地盤工学会や全国地質調査業協会連合会の認定機関リストを参照すると、信頼性の高い委託先を選ぶ際の参考になります。


全国地質調査業協会連合会による粒度分析手法の比較・解説資料(PDF)