
酢酸エチルと水酸化ナトリウムの反応は「けん化反応」と呼ばれるエステルの加水分解反応です。この反応では、酢酸エチル(CH₃COOC₂H₅)が水酸化ナトリウム(NaOH)と反応して、酢酸ナトリウム(CH₃COONa)とエタノール(C₂H₅OH)を生成します。反応式は以下のように表されます:CH₃COOC₂H₅ + NaOH → CH₃COONa + C₂H₅OH。
参考)化学について質問です。酢酸エチルと水酸化ナトリウム水溶液を熱…
この反応の特徴は、反応前に二層に分離していた溶液が、反応が進行すると一層の均一な溶液になる点です。これは生成された酢酸ナトリウムとエタノールが水に溶けやすいためで、建築現場での溶剤管理においても重要な観察ポイントとなります。反応のメカニズムとしては、OH⁻(水酸化物イオン)の触媒作用によってまず加水分解反応が起こり、続いて中和反応により酢酸ナトリウムを生成する逐次反応として説明されます。
参考)https://chemeng.web.fc2.com/ce/rexl2.html
けん化反応の律速段階は加水分解反応であり、この段階が反応全体の速度を決定しています。塩基加水分解では生成したカルボン酸が塩基によって中和されてより不活性なカルボン酸塩になるため、反応はほとんど不可逆的に進行します。このため、合成現場では塩基加水分解が利用されることが多く、建築業での溶剤処理においても重要な知識となります。
参考)エステルの加水分解でカルボン酸を得る反応機構 塩酸や塩基の方…
酢酸エチルは建築業界で広く使用される代表的なエステル系有機溶剤です。エチルアセテートとも呼ばれ、現場では「酢エチ」と略されることが多い物質です。無色透明の液体で、独特の果実様の香りを持ちますが、高濃度ではセメダインのような接着剤系の匂いと感じられます。
参考)有機化学実験:エステルのけん化 - なんとなく実験しています
塗料溶剤としての特徴は、樹脂の溶解力が高い一方で油脂の溶解力は低いという点です。ラッカー塗料用のうすめ液として最も一般的に使用されており、塗料の希釈だけでなく塗装器具の洗浄や脱脂作業にも活用されます。引火点が-4℃と非常に低く、消防法では第1石油類非水溶性に分類され、有機溶剤中毒予防規則では第2種有機溶剤等に指定されています。
参考)酢酸エチルとは?成分や特徴などをわかりやすく解説します
建築現場での使用においては、屋内作業場、船舶の内部、車両の中、タンク等の内部での塗装作業が規制対象となります。エチルベンゼンや有機溶剤中毒予防規則の対象物質を含む塗料を使用する場合は、送気マスクなどの適切な保護具の着用が義務付けられています。水には約8%(20℃)しか溶けませんが、他の有機溶剤には溶けやすい性質を持ちます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei48/dl/anzeneisei48-08.pdf
酢酸エチルのけん化反応速度は、酢酸エチルの濃度と水酸化ナトリウム(OH⁻イオン)の濃度の積に比例します。反応速度式は v = k[A][B] で表され、ここで k は反応速度定数、[A]は酢酸エチル濃度、[B]は水酸化ナトリウム濃度です。この二次反応の速度定数を測定することで、反応の進行状況を定量的に把握できます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1948/89/12/89_12_1183/_pdf
温度は反応速度に大きな影響を与える重要な因子です。一般に反応速度は温度上昇に伴って増加し、25℃から1℃上昇すると反応速度は約1.1倍になります。実験的には、25℃と35℃での反応速度定数から活性化エネルギーを算出でき、塩酸触媒下での酢酸エチルの加水分解反応の活性化エネルギーは約59.1 kJと報告されています。
参考)https://matsuyamaminami-h-ssh.esnet.ed.jp/file/965
建築現場での実務では、反応開始時に溶解熱による温度上昇が起こることに注意が必要です。酢酸エチルと水酸化ナトリウム水溶液を混合すると発熱反応が起こるため、意図しない温度上昇により反応が加速される可能性があります。この温度変化は5~6分で緩和されますが、この間の反応速度の変化を考慮した管理が求められます。温度管理を適切に行うことで、反応の進行を制御し、安全かつ効率的な作業環境を維持できます。
参考)http://icho.csj.jp/53/pre/IChO53preparatoryproblem_Task01_Jpn.pdf
酢酸エチルの工業的な合成方法には複数のアプローチがあります。最も伝統的な方法は、硫酸を酸触媒として酢酸とエタノールの混合液を加熱して脱水縮合させ、生成された酢酸エチルを連続的に蒸留で取り出すエステル化反応です。この方法は実験室レベルでも広く用いられており、硫酸水素ナトリウムを触媒として使用する場合もあります。
参考)https://kumadai.repo.nii.ac.jp/record/30835/files/18shimada_05-01%202017.pdf
日本の工業生産では、高価なエタノールを使用しないティシチェンコ反応を利用した製造が主流となっています。この方法では、アセトアルデヒドを塩基触媒により酢酸エチルに転換します。さらに昭和電工が開発したエチレンと酢酸からの直接合成法もあり、これらの方法により効率的かつ経済的な生産が実現されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/72/10/72_412/_pdf/-char/ja
建築業界では、酢酸エチルは塗料、接着剤、コーティング材料の溶剤として不可欠な存在です。印刷インク、人造皮革、リノリウム、コーティング紙、エチルセルロースなど多様な建築資材の製造に使用されています。最近では環境対応型のウレタン塗膜防水材など、建築基準法に適合した製品開発にも活用されており、ホルムアルデヒド発散量の規制に対応した材料開発が進められています。ヘテロポリ酸触媒を利用した新しい製造技術も研究されており、反応効率の向上と環境負荷の低減が図られています。
参考)樹脂合成ができる分散加工メーカー 株式会社トクシキ
建築現場での酢酸エチル取扱いには、法令で定められた基準以上の独自の安全管理手法が有効です。特に注意すべき点は、酢酸エチルが水酸化ナトリウム水溶液で抽出している間に加水分解されてしまうという性質です。溶媒として反応しないものを用いるべきで、抽出作業中に酸っぱい臭い(酢酸)が発生した場合は、加水分解が進行している証拠となります。
参考)教科書にない実験マニュアル
実務的な温度管理として、反応液を30℃程度に保つことが推奨されます。水浴を使用してフラスコ内の液体温度を一定に保つことで、反応速度を制御できます。しかし、反応開始時の発熱には十分注意が必要で、よく振り混ぜないと沸点の低い酢酸エチル(沸点77℃)が急速に蒸発する危険性があります。ギ酸エチルの場合は沸点が54℃とさらに低いため、より慎重な温度管理が求められます。
参考)http://326.nobody.jp/ouka1/reaction_rate.htm
廃液処理においては、けん化反応を利用した中和処理が効果的です。酢酸エチルを含む廃液に水酸化ナトリウムを加えることで、環境負荷の低い酢酸ナトリウムとエタノールに分解できます。この処理方法は、有機溶剤中毒予防規則に基づく適切な廃棄物管理の一環として、建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアルにも関連する環境配慮型の手法です。反応後の溶液は一層の均一な状態となり、分離操作が不要になるため、作業効率も向上します。pH測定や導電率測定により反応の完了を確認することで、確実な処理が可能となります。
参考)有機化学の質問です! - Clearnote
参考リンク(けん化反応の実験方法について)。
エステルの加水分解速度の研究 - 愛媛県立松山南高校
参考リンク(反応速度定数の求め方について)。
実験 液相回分反応 - 化学工学実験
参考リンク(建築業における有機溶剤管理について)。
有機溶剤業務とは?資格やルール、安全対策をわかりやすく解説
基にして構造を作成し、記事を執筆していきます。