環境負荷低減軽減を実現する建築事業者の取組と省エネ施工

環境負荷低減軽減を実現する建築事業者の取組と省エネ施工

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環境負荷低減と軽減の取組

建築事業者が実践する環境負荷低減の要点
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施工段階でのCO2削減

ICT施工や革新的建設機械の導入により、建築工事の効率化と温室効果ガス排出量を大幅に削減できます

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建設資材のリサイクル推進

建設リサイクル法に基づく廃棄物の分別・再資源化により、環境負荷を軽減し循環型社会の実現に貢献します

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パッシブデザインの活用

自然エネルギーを活かした設計手法で、建物の省エネ性能を向上させ長期的なエネルギー消費を抑制します

建築事業者における環境負荷の低減と軽減は、地球温暖化対策として重要な課題となっています。建設業界のCO2排出量は日本全体の約13%を占めており、持続可能な社会の実現に向けて積極的な取組が求められています。環境に配慮した建築資材の使用、ICT施工や革新的建設機械の導入、建築物の省エネ性能向上、自然採光や自然通風を活かした設計、屋上緑化や壁面緑化の実施など、多角的なアプローチが効果を発揮します。
参考)建築物による環境負荷を低減する方法を解説 - TansoMi…

環境負荷低減のためのパッシブデザイン手法

パッシブデザインは、太陽光や自然風といった自然エネルギーを活用して快適な住空間を実現する設計手法です。建築的手法により機械設備に依存しない省エネルギー化を実現できるため、環境負荷の軽減に大きく貢献します。具体的には、断熱性能の向上、日射遮蔽、自然通風、昼光利用、日射熱利用の5つの要素を組み合わせることで、冷暖房に過度に頼らない年間を通じて快適な環境を構築できます。
参考)パッシブ設計とは?パッシブデザインとの違いについても解説

南面の開口部には太陽高度が高い夏期に日射を遮蔽し、高度の低い冬期には室内に日射を取り込める庇を設けることで、季節に応じた最適な熱環境を実現します。また、冷房時の日射抑制を図るために南面は水平ルーバー、東西面は垂直ルーバーを設置し、開口部の通風や眺望を損なわずに日射遮蔽に配慮することが重要です。各開口部にはLow-E複層断熱ガラスを採用することで、日射遮蔽効果及び断熱効果を高め、年間のエネルギー消費を抑制できます。
参考)【2024年最新】計画の要点(記述)対策/環境負荷低減編 V…

吹抜けと上部のトップライトを組み合わせた設計により、施設内部に自然光が降り注ぐ明るく開放的な空間を実現し、照明エネルギーの削減につながります。卓越風を建築物に取り込むため共用部の南面及び北面に開口部を設け、吹き抜けの上部に開閉式トップライトを設けることで、温度差や圧力差を利用した自然通風を促進し、中間期の空調負荷低減が可能となります。​
パッシブデザインの詳細な建築的手法と要点記述の参考資料

環境負荷軽減を実現するICT施工と革新的建設機械

ICT施工は情報通信技術を使って建築の工程を自動化および高精度化し、作業効率を高める技術です。これまで手動で行っていた調査や測量、設計、検査などを一部機械化・自動化することにより、効率的な建築が可能となります。ICT施工の導入により作業効率が上がり施工時間が短縮されれば、建築時のCO2総排出量を抑えることができます。​
3次元データを重機に取り込むことで、建物の位置や高さを図る丁張りを手作業で設置する手間が省かれ、作業時間の短縮と精度向上を同時に実現します。大中規模現場ではすでに取り入れられているICT施工を小規模現場でも取り入れることで、カーボンニュートラルの実現に近づきます。
参考)建築業のカーボンニュートラル実現に向けた取り組み・事例5選 …

革新的建設機械の導入も環境負荷軽減に大きく貢献します。ガソリンではなくバイオ燃料や水素エンジン等を使用する革新的建設機械を導入することで、建築物の建設や解体時に発生する環境負荷を大幅に低減できます。国土交通省では革新的建設機械の普及を促進させるため、認定制度の創設も検討されています。​
建設工事現場のCO2排出量の約70%は、ダンプや重機などの軽油関連であるため、省燃費を意識した運転を行うことで大きな削減効果が得られます。急発進や急停止を避けた運転や早めのシフトアップ、タイヤの空気圧を適正に保つなど、普段の運転やメンテナンスで気を付けるだけでコストをかけずに取り組めます。
参考)建設工事でのCO2削減とは?カーボンニュートラル・脱炭素の基…

建築物による環境負荷低減の具体的な方法解説

環境負荷低減のための建設資材リサイクルと廃棄物管理

建設リサイクル法により、一定規模以上の工事においては特定建設資材廃棄物の分別解体等及び再資源化等が義務付けられています。建設資材の再利用を促進し環境負荷を低減することが目的であり、解体・建設現場での分別や再資源化により効率的な廃棄物管理が可能になります。
参考)【建築リサイクル】建設リサイクル法とは?対象・手続き・罰則ま…

建設廃棄物のリサイクル率を高めるためには、工事計画段階での分別計画の策定が重要です。どのような廃棄物が、いつ、どれくらい発生するかを予測し、発生源ごとの廃棄物種類を特定して、それぞれの分別方法と保管場所を明確にした分別計画図を作成します。
参考)建設廃棄物のリサイクル率を高める方法とは?実践的な取り組みと…

現場ごとに「誰が(担当者)」「何を(廃棄物の種類)」「どこに(保管場所)」分けるかを具体的に明文化し、明確な分別ルールの設定と周知徹底を図ります。廃プラスチックを圧縮・排出することで効率的な運搬を実現し、運搬に係るCO2削減に取り組むことで、運搬効率が60~80%向上する事例もあります。
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001847455.pdf

環境負荷が小さくリサイクル可能な建築材料である「サステナブル建材」の活用も重要です。廃材の再利用や使用建材の選定などでサステナブル建材を利用することが問題解決の一助として実践されつつあり、建材の製造・調達段階に限らず、建築物として存在する間、そして廃棄までのライフサイクル全体で環境負荷を軽減することが求められています。
参考)環境負荷に考慮した建築を実現する「サスティナブル建材」とは

環境負荷低減効果を最大化する屋上緑化技術

屋上緑化は建築物の保護、空調負荷の低減など省エネルギー効果といった経済的な効果を期待できるとともに、ヒートアイランド現象の軽減、雨水貯留と雨水流出の抑制、都市景観の向上など多面的な環境改善効果が期待できます。真夏の屋上温度を測定した研究では、緑化していない屋上の表面温度が60度にも上昇するのに対し、緑化した屋上の表面温度は30度程度までしか上がらない結果が出ています。
参考)屋上緑化の効果

建物内部への熱流入に関する実測では、夏季晴天の日中に緑化していない場合は550W/㎡の熱量が建物内部へ流入するのに比べ、緑化した場合は熱の流入がほとんどなくなりました(0〜1.0W/㎡)。この高い断熱効果により施設の空調負荷が下がり、省エネにつながります。
参考)屋上緑化

屋上や南面・西面を緑化した場合には非緑化棟と比べて40~45%の省エネルギー効果が得られることが実証されており、大きな環境負荷低減効果を示しています。屋上緑化をすることで屋根からの熱流入を軽減し、水分の蒸発による冷却効果により熱負荷を抑制し、夏期の冷房負荷の軽減を図ることができます。
参考)屋上緑化・壁面緑化

緑に覆われることにより紫外線による劣化を防ぐとともに、躯体の温度差を少なくすることにより熱膨張収縮を緩和し、亀裂の発生を減少させ、酸性雨の侵入を食い止めることで、施設の延命効果も期待できます。植物の蒸散作用により熱を受けつつも適度に熱を吸収し、植物が蒸散作用で自ら温度を下げるなどしながら建物を断熱しています。​
屋上緑化・壁面緑化の省エネルギー効果データと実証結果

環境負荷軽減を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、対象とする製品の原料調達、使用、廃棄段階までのライフサイクル全体の環境影響を評価する手法です。2020年の政府によるカーボンニュートラル宣言を受け、建築・不動産分野では建物のCO2排出量を定量化する手法としてLCAに注目が集まっています。
参考)建物のLCAの発展とその動向 - 建築物・不動産技術監査│ビ…

建築物におけるLCAでは、建築物を構成する各部材・設備の製造・施工・使用・解体に至るまでの建築物のライフサイクル全体において発生する環境負荷を評価します。この手法により建設時だけでなく運用段階や解体段階までを含めた総合的な環境負荷を把握でき、より効果的な環境負荷低減策を立案できます。
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001885288.pdf

グリーン建築の研究では、ライフサイクル評価、エネルギー効率モデル、再生可能エネルギー源の適用を分析することで、利益と課題の定量的・定性的な概要を提供しています。リサイクル建材の使用による温室効果ガス削減効果を評価する際にも、ライフサイクル評価(LCA)とマテリアルフロー分析(MFA)を組み合わせた循環経済の枠組みが有効です。
参考)EWA

建物の純ゼロエンボディドカーボンの実現には、脱炭素化された電力供給、低炭素鋼、低炭素コンクリート、木造構造の増加、最適化された設計、建物寿命の延長などの現在利用可能な技術の組み合わせが必要です。中でも木造構造の利用増加が最大の排出削減をもたらすことが研究で示されており、建材選定の重要性が明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10832066/

国土交通省による建築物におけるLCA推進の資料(PDF)