水酸化ナトリウム 苛性ソーダとは何か|違い・用途・取扱い・建設業での活用法

水酸化ナトリウム 苛性ソーダとは何か|違い・用途・取扱い・建設業での活用法

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水酸化ナトリウム 苛性ソーダの基礎知識と特性

📋 この記事で分かること
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水酸化ナトリウムの正体

苛性ソーダとの違いや化学的性質、なぜ建設業で重要なのかを解説

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建設業での活用法

コンクリート処理から廃水中和まで、現場で役立つ実践的な用途を紹介

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安全な取扱い方

劇物指定されている水酸化ナトリウムの保管・使用時の注意点を詳説

水酸化ナトリウムと苛性ソーダの違い

水酸化ナトリウム(化学式:NaOH)と苛性ソーダは、実は全く同じ物質を指す言葉です。水酸化ナトリウムが正式な化学名称であり、苛性ソーダ(かせいソーダ、英名:caustic soda)は一般的な通称として広く使用されています。「苛性」とは「きつい」「強い」という意味を持ち、ソーダはアルカリ性物質を指すため、その名の通り強いアルカリ性を持つ物質であることを表しています。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html/1000

常温常圧では無色無臭の固体で、ナトリウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶です。水に溶けると電離して強いアルカリ性(pH12程度)を示し、この性質が様々な産業で活用される理由となっています。毒物及び劇物取締法により、原体および5%を超える製剤が劇物に指定されており、取り扱いには十分な注意が必要です。
参考)水酸化ナトリウム - Wikipedia

水酸化ナトリウムの製造方法

工業的な水酸化ナトリウムの製造方法は主に2つあります。
参考)【高校化学】水酸化ナトリウムは電気分解からできている!工業的…

塩化ナトリウム水溶液の電気分解(陽イオン交換膜法)
現代の主流となっている製法で、塩化ナトリウム(食塩)水溶液を電気分解することで水酸化ナトリウムを得ます。陽極では塩素ガス(Cl₂)が発生し、陰極では水素ガス(H₂)と水酸化ナトリウムが生成されます。この方法は電力消費量が多いため、日本では「ゼロギャップ」と呼ばれる電力消費を低減する製法が開発され、世界最高水準の省エネを実現しています。
参考)すぐそこに!トクヤマの製品紹介

水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムの複分解反応
実験室レベルで使いやすい方法として、水酸化カルシウム(消石灰)と炭酸ナトリウムの2つの水溶液を混ぜる方法があります。この反応により水酸化ナトリウムと炭酸カルシウムが生成されます。​

水酸化ナトリウムの基本的な化学特性

水酸化ナトリウムは代表的な強アルカリ物質として、以下のような特徴的な化学特性を持っています。
参考)苛性ソーダは掃除に使える!有毒性や扱い方・用途などについてご…

特性 詳細
外観 液体は無色透明で粘調、固体は白色フレークまたは小粒状
溶解性 水によく溶け、溶解時に大量の熱を発生
吸湿性 空気中の水分や炭酸ガスを吸収する性質あり
反応性 酸と中和反応、両性元素(アルミニウム・亜鉛など)と反応して水素を発生

水酸化ナトリウムは強いアルカリ性であるため、タンパク質のアミド結合(ペプチド結合)や油脂のエステル結合を加水分解し、生体組織を腐食する性質があります。これが「苛性」という名称の由来であり、皮膚に付着すると化学熱傷を起こすため、取り扱い時には保護具の着用が必須です。
参考)苛性ソーダの排水処理での特徴とは?危険性が低い他の薬品も紹介

また、水に溶かす際には徐々に量を増やして溶かす方法が推奨されており、一度に大量の水や酸を添加すると突沸を生じる危険性があるため注意が必要です。湿気に触れると「潮解」と呼ばれるどろどろでベタベタな状態になる性質も持っています。
参考)https://www.tomiyamayakuhin.co.jp/library/5c74936741a7576754d77087/658511f89c407e58c4ee0e2e.pdf

水酸化ナトリウムの主な用途と産業利用

水酸化ナトリウムは「国民生活に欠かせない物質」と呼ばれるほど、幅広い産業分野で基礎素材として使用されています。
参考)苛性ソーダ(NaOH) - 日新興業株式会社

化学工業での用途
多くの洗浄剤、石鹸、洗剤の製造に使用され、強アルカリ性を利用した物質の溶解や他の化合物との反応に活用されています。リチウムイオン電池の原材料としても重要な役割を果たしており、現代の電子機器産業には欠かせません。
参考)今更聞けない化学産業の基本を分かりやすく解説:『ソーダ工業製…

製紙産業での利用
パルプ製造時に木質チップの蒸解に使用され、リグニン結合を破壊するために重要な役割を担っています。製紙工程において水酸化ナトリウムは必須の化学品となっています。
参考)水酸化ナトリウムとは?苛性ソーダの性質と用途|Foodcom…

非鉄金属製造
アルミニウム製造ではアルミナ(アルミニウム原料)の抽出に使用されます。水酸化ナトリウムはアルミニウムと反応してアルミン酸ナトリウム水溶液を生成する性質を持つため、この特性が活用されています。​
水処理・環境対策
上下水道や工業排水の中和剤として広く使用され、酸性に偏った排水のpHを調整して環境基準を満たすために不可欠です。排水処理の現場では、無機凝集剤投入後のpH調整に苛性ソーダが使用されることが一般的です。
参考)水処理における「薬品」の役割と重要性|水処理ジャーナル|株式…

水処理における薬品の詳しい役割について解説されている参考資料
その他の産業用途
食品産業では酸度調整剤として使用され、食品添加物グレードの製品も供給されています。医薬品製造では鎮痛剤、抗凝固剤、コレステロール低下剤などの原料となり、化粧品ではpH調整剤や殺菌効果を持つ成分として配合されています。​

水酸化ナトリウム 取扱い上の危険性

水酸化ナトリウムは劇物に指定されており、人体に有害な物質です。皮膚や目に付着することで、失明や化学熱傷を引き起こし、再生できない傷が残る可能性があります。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds_label/lab1310-73-2.html

人体への影響
皮膚に付着した場合、発赤、痛み、重度の熱傷を引き起こします。眼に入った場合は腐食性により発赤、痛み、かすみ眼、重度の熱傷が生じ、最悪の場合は失明する危険性があります。強いアルカリはタンパク質を加水分解するため、生体組織を腐食する性質を持っています。
参考)https://www.taiki-y.co.jp/themed/html/img/pdf_2204/kaseisoda3100-2022.04.01.pdf

応急措置の重要性
身体に付着した場合は即座に多量の水でよく洗い流す必要があります。特に目に入った際は、流水で10分以上洗い流し、瞼を開いて水が全面にゆきわたるように洗眼した後、即座に医師の手当てを受けるべきです。飲み込んだ場合は口をすすぎ、無理に吐かせず、直ちに医師に連絡する必要があります。
参考)https://www.jsia.gr.jp/data/naoh_a.pdf

取扱い時の保護具
取り扱う際は、保護メガネやゴム手袋、保護衣などの保護具が必須です。粉じん、ヒューム、蒸気、スプレーを吸入しないように注意し、取扱い後はよく手を洗い、うがいをすることが推奨されています。取扱い場所の近くには、緊急時に洗眼及び身体洗浄を行うための設備を設置する必要があります。
参考)https://www.tomiyamayakuhin.co.jp/library/5c74936741a7576754d77087/666aa6df6985d13334ec1e44.pdf

化学反応の危険性
苛性ソーダ液に多量の水や酸を添加する場合、突沸を生じる危険性があるため、十分な注意が必要です。また、アルミニウム、すず、亜鉛等の金属を腐食し、水素ガスを発生させる性質があるため、これらの金属との接触を避ける必要があります。​

水酸化ナトリウム 保管方法と注意点

水酸化ナトリウムの適切な保管には、温度管理と容器選定が重要です。
参考)冬期の苛性ソーダの保管についてのお知らせ|製品情報|新着情報…

濃度別の凍結対策
水酸化ナトリウムは濃度によって凝固点が異なります。48%溶液は10℃以下で凍結する恐れがあるため、冬期は加温設備の利用が推奨されます。凍結の可能性が高い地域では25%濃度での使用が推奨されており、24%濃度であれば凝固点が-12℃となるため、余程の寒さでない限り凍結の心配は少なくなります。
参考)Qhref="https://www.jsia.gr.jp/faq/" target="_blank">https://www.jsia.gr.jp/faq/amp;A

市販の苛性ソーダは濃度25%と50%がありますが、夏場は50%、冬場は25%と使い分け、凍結防止のためのヒーターや保温等が必要となります。​
結晶化への対応
凍結よりも厄介なのが結晶化です。濃度が30%以上になると結晶化が始まりやすく、0度以下で配管内が詰まると、たとえ温めても復旧が難しい場合があります。フレーク状の苛性ソーダを溶解する際、30%以上の濃度で調製してしまうと、低温で結晶化してしまうことがあるため注意が必要です。​
保管場所の要件
貯蔵場所は他の薬品と区分して保管できるようにし、容器の破損に備えて酸、金属、爆薬、有機過酸化物などから離しておく必要があります。耐腐食性または耐腐食性内張りのある容器に保管することが求められています。
参考)https://www.jsia.gr.jp/data/handling_01.pdf

漏れ、溢れ、飛散等しないように慎重に取り扱い、取扱いは局所排気内、または全体排気の設置がある場所で実施することが推奨されます。希釈槽の攪拌は攪拌機による攪拌が必要ですが、時間が長くなると空気中の炭酸ガスを吸着してしまいアルカリ度が低下するため、必要時間のみ攪拌することが重要です。​

建設業における水酸化ナトリウムの具体的用途

建設業界では水酸化ナトリウムが様々な場面で活用されており、特に廃水処理やコンクリート関連の作業で重要な役割を果たしています。

 

建設廃水の中和処理
建設現場から排出される酸性廃水の中和に水酸化ナトリウムが使用されます。公共建設工事において自然由来の重金属等を含有する岩石・土壌を掘削する際、長期にわたり酸性水を発生させる場合があり、その処理にpH調整剤として水酸化ナトリウムが活用されています。水酸化カルシウムや酸化カルシウムと並んで、水酸化ナトリウムは標準的な中和剤として位置づけられています。​
生コン洗浄水の処理
セメントを使用した作業後の洗浄水は強いアルカリ性を示すため、そのまま排水することはできません。建設現場では、コンクリート製造設備の洗浄用水酸化ナトリウム水溶液が使用されることもあり、適切な管理が求められています。pH調整を行わずに排水すると環境に悪影響を及ぼす恐れがあるため、中和処理が必要です。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/ryuu/r3.pdf

コンクリートのアルカリ性維持
コンクリートは製造過程で水和反応が起こり、アルカリ性の水酸化カルシウムが生成されることでアルカリ性を示します。コンクリート内部の鉄筋は、アルカリ性環境で覆われることで酸化が進まず、長期間にわたって強度を維持できます。コンクリートの中性化が進むと構造物の安全性が低下するため、アルカリ性を維持することが重要です。
参考)コンクリートはなぜアルカリ性?中性化の危険性とは?

コンクリートのアルカリ性と中性化に関する詳細な解説資料
土壌・地盤改良での応用
建設工事における土壌処理では、重金属等の不溶化や固定化に水酸化物法が用いられることがあり、pH調整剤として水酸化ナトリウムが選択肢の一つとなっています。また、ソーダ残渣(水酸化ナトリウムを含む産業廃棄物)を高炉スラグのアルカリ活性化剤として活用する研究も進められており、建設材料の新たな可能性が探られています。
参考)https://www.mdpi.com/1996-1944/14/11/2883/pdf

配管・排水設備の維持管理
建設現場の配管詰まりや排水設備のメンテナンスにも水酸化ナトリウムの強アルカリ性が活用されます。パイプの排水処理や洗浄に使用され、油汚れや有機物の分解除去に効果を発揮します。​
建設業従事者が水酸化ナトリウムを扱う際には、その危険性を十分に理解し、適切な保護具を着用することが不可欠です。特に目や皮膚への接触を避け、万が一接触した場合は即座に洗浄し、医師の診察を受ける体制を整えておくことが重要です。​

水酸化ナトリウム 代替薬品と選択肢

水酸化ナトリウムは劇物であるため、より安全性の高い代替薬品の検討が進められています。​
危険性の低いアルカリ剤
排水処理の現場では、水酸化ナトリウムの代替として危険性が低い薬品への切り替えが検討されています。水酸化カルシウム(消石灰)や炭酸ナトリウム(ソーダ灰)は、水酸化ナトリウムほど強いアルカリ性ではないものの、pH調整剤として使用可能です。
参考)ソーダ製品の説明

水酸化カルシウムは建設工事における自然由来重金属等含有土の処理でも標準的に使用されており、水酸化ナトリウムと並ぶpH調整剤として位置づけられています。炭酸カルシウムや酸化カルシウムも同様の用途で活用されています。​
用途に応じた選択
ただし、完全な代替が難しい用途も多く存在します。水酸化ナトリウムの強アルカリ性や反応性が必須となる化学工業や製紙産業などでは、代替薬品では性能が不足する場合があります。​
そのため、使用目的や必要とされるアルカリ度を考慮し、可能な範囲で安全性の高い薬品を選択することが推奨されます。完全に代替できない場合は、適切な保護具の着用と安全管理の徹底により、リスクを最小限に抑える取り組みが重要です。​
💡 建設業での実用ポイント
水酸化ナトリウムは建設廃水処理やコンクリート関連作業で重要な役割を果たしますが、劇物指定されているため取り扱いには細心の注意が必要です。現場では必ず保護具を着用し、濃度や温度による凍結・結晶化にも配慮した保管管理を徹底しましょう。

 

⚠️ 安全管理のチェックポイント
✅ 保護メガネ、ゴム手袋、保護衣の着用を徹底
✅ 緊急洗浄設備を設置場所近くに配置
✅ 冬期は凍結対策として25%濃度を選択
✅ 30%以上の濃度調製は避けて結晶化を防止
✅ アルミニウム・亜鉛などの金属との接触を回避
✅ 多量の水や酸を一度に添加しない(突沸防止)
🔍 廃棄時の注意
水酸化ナトリウムの廃棄は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」にしたがって適切に処理する必要があります。自治体や専門業者に相談し、環境への放出を避けながら法令遵守の廃棄を行いましょう。​