

建築施工管理技士やコンクリート技士、あるいは技術士の試験において、避けては通れないのが「火成岩の分類」に関する問題です。多くの受験生が苦戦するこの分野ですが、「酸性度 ゴロ」を駆使することで、驚くほど簡単に、かつ体系的に記憶することができます。まず、ここで言う「酸性度」とは、リトマス試験紙で測るような酸性・アルカリ性(pH)のことではありません。地学や建設業界における岩石の酸性度とは、二酸化ケイ素(SiO2)の含有量のことを指します。このSiO2が多いほど「酸性岩(白っぽい)」になり、少ないほど「塩基性岩(黒っぽい)」になります。
この分類を覚えるための最強のゴロ合わせが、長年愛用されている**「新幹線は刈り上げ(しんかんせんはかりあげ)」**です。このフレーズ一つで、深成岩と火山岩の区分、そして酸性度の高い順序(左から右へ)を完璧に再現できます。
このゴロ合わせの優れた点は、単に名前を羅列しているだけではないということです。「カ・リ・ア・ゲ」の順序、つまり流紋岩→安山岩→玄武岩の順序は、そのまま**SiO2の含有量が多い順(酸性→中性→塩基性)**に並んでいます。youtube+1
具体的に、SiO2の含有量(重量比)による分類境界値も併せて覚えておくと、実務的な知識として完成します。
現場で「この石材は花崗岩(御影石)だから、SiO2が多くて硬いが、耐火性は低いかもしれない」といった推測を瞬時に行うためにも、まずはこの「新幹線は刈り上げ」を、SiO2の数値とセットで体に染み込ませてください。単なる暗記ではなく、成分と性質を結びつけるためのインデックスとして機能します。
Try IT: 火成岩の分類と覚え方(映像授業での解説)
中学生向けの解説ですが、基礎的な分類表が非常にわかりやすくまとまっています。
「酸性度 ゴロ」で岩石の名前を覚えたら、次はそれを「マグマの性質」とリンクさせましょう。ここが建築の実務、特にコンクリートの流動性や施工性を理解するための基礎体力となります。酸性度(SiO2含有量)は、岩石の色だけでなく、元となったマグマの**「粘り気(粘性)」**を決定づける最も重要なファクターです。
覚え方のポイントは、**「白い(酸性)=ネバネバ」「黒い(塩基性)=サラサラ」**という対比です。これもまた、先ほどの「新幹線は刈り上げ」のゴロ合わせの左側(花崗岩・流紋岩)から右側(斑レイ岩・玄武岩)へと流れるグラデーションと一致します。
建築現場で例えるなら、酸性岩のマグマは「スランプ値が小さい(硬い)コンクリート」、塩基性岩のマグマは「高流動コンクリート」のようなものです。スランプが小さいコンクリートは打設時に広がりにくく、締め固めを入念に行う必要がありますが、まさに酸性のマグマが山のように盛り上がるのと同じ理屈です。
また、「リカちゃんあせってゲロ吐いた」という別の有名な語呂合わせもあります。
こちらは、火山岩と深成岩をミックスしてSiO2の多い順に並べたものです。「白いリカちゃん(白っぽい岩)」から始まって、「黒いゲロ(黒っぽい岩)」で終わると覚えると、色と粘性の変化も一緒にイメージしやすくなります(少々汚い語呂ですが、インパクトは絶大です)。試験中にど忘れした際、複数のゴロ合わせを知っていると相互に確認ができ、ミスの防止につながります。
参考)【語呂合わせ】1・2級造園施工管理技士【独学】 - マヨウイ…
地学・火成岩の語呂合わせまとめサイト
複数の語呂合わせパターンが比較されており、自分に合った覚え方を探すのに適しています。
火成岩を分類するもう一つの軸が「岩石の組織」です。これも「酸性度 ゴロ」で覚えた分類表(新幹線は刈り上げ)の「新幹線(深成岩)」グループと「刈り上げ(火山岩)」グループで明確に分かれます。この違いは、マグマが冷え固まるスピードと場所によって生まれます。
試験では「花崗岩は斑状組織である」といった誤りの記述を見抜く問題が頻出します。「新幹線(深成岩)はずっしりと安定しているから、粒が揃っている(等粒状)」、「刈り上げ(火山岩)は急いでカットしたから、長さが不揃い(斑状)」といったイメージを付加して覚えると、記憶の定着率が格段に上がります。
参考)【忘れない覚え方!】火成岩・火山岩・深成岩の違いを図解で解説…
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また、組織の違いは「石の割りやすさ」にも影響します。等粒状組織の深成岩は、特定の方向に割れやすい性質(節理)を持つことが多く、石材としての加工にはこの性質が利用されます。一方、火山岩は急冷による不規則な割れ目が多く、整形された石材として採掘するのが難しい場合があり、これが砕石(砂利)としての利用が主になる理由の一つでもあります。
SSH指定校の研究論文一覧(参考資料)
高校生の研究論文ですが、岩石の組織観察や冷却速度に関する実験データなどが含まれており、原理的な理解を深めるのに役立ちます。
最後に、これが最も実務的かつ独自性の高い視点です。「酸性度 ゴロ」で覚えた岩石の分類は、単なる名称の暗記にとどまらず、コンクリートの寿命を左右する「アルカリシリカ反応(ASR)」のリスク判断に直結します。これは一般的な地学の参考書にはあまり載っていない、建設業界ならではの視点です。
アルカリシリカ反応とは、コンクリート中のアルカリ分(セメント由来)と、骨材(砂利・砂)に含まれる反応性シリカ鉱物が化学反応を起こし、生成されたゲルが吸水膨張してコンクリートを内部から破壊してしまう現象です。まさに「コンクリートのがん」とも呼ばれる恐ろしい劣化現象です。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/sutomane/attach/pdf/tyozyumyoka-3.pdf
ここで「酸性度 ゴロ」が役立ちます。ASRを引き起こす反応性骨材になりやすいのは、**酸性度の高い火山岩(およびその変種)**です。
つまり、「新幹線は刈り上げ」のゴロ合わせにおいて、「刈り上げ」の前半部分(流紋岩・安山岩)が、コンクリート骨材としてはリスク管理が必要なゾーンであると読み取ることができるのです。
現場で「この砕石の原石山は安山岩質である」と聞いたとき、「安山岩か、中性岩だな」で終わらせず、「安山岩ということは、火山ガラスやクリストバライトを含んでいる可能性がある。アルカリシリカ反応抑制対策済みのセメント(高炉セメントB種など)を使うべきか、あるいは骨材の試験成績表(アルカリシリカ反応性試験)をしっかり確認しよう」という判断につなげることができます。
参考)アルカリ骨材反応によるコンクリート劣化のメカニズム
さらに、酸性度が高い岩石(花崗岩など)は親水性が高く、アスファルト合材の骨材として使用した場合に、水が入り込んでアスファルト皮膜が剥離する「剥離現象」を起こしやすい傾向もあります。逆に、塩基性の玄武岩などはアスファルトとの付着が良いとされています。
このように、「酸性度 ゴロ」は単なる試験対策の呪文ではなく、**「コンクリートやアスファルトの品質トラブルを未然に防ぐためのリスクマップ」**として機能します。現場管理者がこの知識を持っているかどうかで、構造物の10年後、20年後の姿が変わると言っても過言ではありません。
太平洋セメント:アルカリシリカ反応のメカニズム
セメントメーカーによる技術解説ページで、岩石種別ごとの反応性鉱物の有無やリスクについて専門的な知見が得られます。
以上のように、「酸性度 ゴロ」を入り口として、SiO2含有量、マグマの粘性、組織の違い、そしてコンクリート骨材としての適性(ASRリスク)までを体系的に理解することができます。暗記はゴールではなく、現場で適切な判断を下すためのスタートラインです。「新幹線は刈り上げ」と唱えるたびに、岩石の微細な組織や、コンクリートの中で起きる化学反応までイメージできるようになれば、あなたはもう立派な岩石とコンクリートのプロフェッショナルです。