森林認証制度デメリットと建築事業者の課題

森林認証制度デメリットと建築事業者の課題

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森林認証制度のデメリット

森林認証制度の主なデメリット
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コスト負担の増加

認証取得と維持に年間数十万円の費用が必要で、中小企業には大きな負担となります

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手続きの複雑さ

書類作成や年次監査など、継続的な管理業務が求められます

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供給体制の課題

認証材の調達が困難で、サプライチェーンの断絶リスクがあります

森林認証制度の認証取得・維持コストの負担

森林認証制度の最大のデメリットは、認証取得と維持に必要なコストの負担です。初期審査費用は数十万円から100万円程度、年次監査費用は20万円から50万円程度が目安となります。さらに、売上規模に応じて算出されるライセンス料(AAF)も年会費として継続的に発生します。
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建築事業者にとって、これらの直接的な費用に加え、社内での管理体制構築や従業員研修などの間接的なコストも無視できません。特に中小企業では、認証取得のメリットが費用に見合わないと判断し、一度取得しても更新を断念するケースが見られます。
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森林所有者を対象とした調査では、「取得時及びその後の維持に費用がかかること」が森林認証取得の大きな障害として挙げられています。認証制度は一度取得して終わりではなく、毎年監査を受ける必要があるため、その手間と費用を正当化できるだけの経済的メリットを見出せないことが、普及が進まない要因となっています。
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森林認証制度の書類作成と年次監査の手間

森林認証を取得するには、事業者が森林管理やサプライチェーン管理に関する厳しい基準を満たす必要があり、多くの書類準備や現地審査、スタッフ教育など、相応の時間と労力が必要です。取得までには平均で1ヶ月程度の計画書作成期間と、約1ヶ月半の妥当性確認期間を要します。
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認証維持のためには毎年一回、認証機関による年次監査を受ける必要があります。年次監査では、事業者がFSC認証基準を継続的に順守しているかを確認されるため、日々の記録を正確に残し、管理体制を維持することが求められます。
参考)認証を取得するには

この継続的な対応の必要性は、人的リソースの確保が難しい中小企業にとって大きな障壁となります。現地審査では計画書などの書類確認、現場森林の管理状況の把握、利害関係者との面談などが行われ、要求事項に適合しているか詳細に審査されます。
参考)https://www.jafta.or.jp/contents/_files/certifi/SGEC_QA20250530.pdf

森林認証材の価格が高くなる理由

森林認証材は、製造過程や販売過程において認定を受けるためのステップを踏んでいるため、どうしても価格が高い傾向にあります。正規のルートで取得した木材を使って商品を製造し、加えて認証を受ける際にもコストが発生しているためです。
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違法伐採された木材にはこれらのコストがかからないため、当然安価な商品が流通してしまいます。単純に商品の価格を比較した際に、FSC認証の商品は当然高くなるため、消費者がどの商品を選ぶかは倫理観に委ねられてしまう部分があります。​
建築事業者にとっては、コストをかけた分の回収が必要になることが課題です。認証材が十分に評価されていない市場環境では、価格プレミアムを得られないケースが多く、年間数十万円単位のコストに加えて審査費用や審査員の旅費・交通費などもかかるため、その分の売上を確保できなければ経費が無駄になってしまいます。
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森林認証制度のサプライチェーン断絶リスク

森林認証材はエンドユーザーに届くまで認証取得者によるサプライチェーンを維持する必要がありますが、流通の途中でチェーンが途切れ、森林認証材として販売できなくなるケースが発生しています。これは建築事業者にとって大きなリスクとなります。
参考)持続可能性のある木材を普及させる|森林認証材の調達から加工、…

認証取得事業者の多くは、認証材を必要とする案件が来てから認証材を調達し加工・製造を進めるため、規格品として定常的に認証材を取り扱っている事業者は少なく、消費者からすると価格や納期、スペックが不明で使用しにくい状況となっています。​
その結果、認証材の注文が減ってしまい、「注文が来ないなら」と認証取得事業者が認証を取りやめるなど、負のスパイラルに陥っています。建築事業で認証材を使用したくても、十分な量の森林認証材が確保できないという供給不足の問題が深刻化しています。
参考)https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/toukei/attach/pdf/index-1.pdf

森林認証制度の認知度の低さと需要不足

日本における森林認証制度の最も深刻な課題の一つが、認知度の低さです。消費者モニターを対象とした調査では、「森林認証の言葉を知らないし、ロゴマークも見たことがない」との回答が66.9%で最も多く、制度に対する理解が進んでいないことが明らかになっています。​
建築業界においても状況は同様で、森林認証制度がまだ十分に認知・活用されていないと報告されており、森林認証された建築資材の供給は非常に限定的です。建設業者に森林認証材の利用を促すような法律や制度などに対する認識も低く、欧米のように建築物環境評価システムや政府調達方針が業界の認証拡大を後押しするような状況には至っていません。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs/92/6/92_6_285/_pdf

認証マークを見落とされるとアピールができないという問題もあります。印字する場所や大きさによっては認証マークそのものを見落とされる可能性があり、消費者がFSC認証マークの意味を把握していないと、それが何を意味するのか分からずアピールの効果も得られない可能性があります。
参考)https://www.jhia.or.jp/pdf/pe_shinrin.pdf

消費者の認知度が低く理解が進んでいないことから、認証材の選択的な消費につながってこなかったことが、認証森林の割合が低位にとどまってきた大きな要因となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinrin/59/9/59_KJ00008660917/_pdf