

引張試験で「合格」が出たシーリング材でも、実は3年以内に漏水クレームが起きるケースがあります。
シーリング材の引張試験は、充填されたシーリング材が「正しく被着体に接着しているか」「十分な伸び性能があるか」を確認するための品質確認試験です。外壁目地やサッシ周りに充填されたシーリング材は、地震・強風・温度変化による建物の動きに追従し、雨水の侵入を防ぐ役割を担っています。つまり、試験はその役割がきちんと果たせる状態かどうかを確かめる工程です。
引張試験には、大きく分けて「施工前の接着性試験」と「施工後のひも状接着性試験」の2種類があります。施工前の試験は、使用するシーリング材・プライマー・被着体の組み合わせが適切かどうかを事前に確認するもので、JIS A 1439(建築用シーリング材の試験方法)の5.20「引張接着性試験」に基づき実施されます。施工後の試験は、実際に施工した箇所から直接サンプルを採取して接着性・伸び性能を確認するもので、現場での品質保証に直結します。
国土交通省の「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」では、外部に面するシーリング材に対して施工前の接着性試験を義務づけています。ただし、「同じ材料の組み合わせで実施した試験成績書がある場合は監督職員の承諾を得て省略できる」という条文があるため、現場では試験成績書の確認で代替されるケースが多いのが実情です。これが省略の抜け道になりやすい点は要注意です。
実施のタイミングも見落としがちなポイントです。施工後のひも状接着性試験は、シーリング材が十分に硬化した後(一般的には施工後14日以上)に実施するのが基本です。早すぎる時期に試験を行うと、硬化が不完全なために誤った判定が出る可能性があります。硬化後14日以降が条件です。
| 試験の種類 | 実施タイミング | 主な目的 | 根拠規格 |
|---|---|---|---|
| 施工前接着性試験(引張接着性試験) | シーリング打設前 | 材料・被着体・プライマーの組み合わせ確認 | JIS A 1439 5.20 |
| 簡易接着性試験(ひも状接着性試験) | 施工後14日以降 | 実際の施工箇所の接着性・伸び性能確認 | JIS A 1439 / 改修標仕 |
| ダンベル試験(劣化診断) | 既存建物の調査時 | 既存シーリング材の劣化度診断 | JIS K 6251準拠 |
建材試験センターによるシーリング材試験(引張特性・耐久性評価含む)の概要については、以下が参考になります。
現場で最も多く実施される「ひも状接着性試験(簡易引張試験)」の手順を順を追って解説します。特別な試験機械を使わず、カッターと定規があれば現場でその場で実施できるのが特徴です。使えそうですね。
まず、施工されたシーリング材を幅10mm、長さ100mm程度に切り込みます。長さ100mmはちょうどハガキの短辺(約100mm)と同じくらいのサイズです。このとき、カッターを被着体(モルタルやサッシなど)の表面に沿わせ、目地の両端をシーリング材の根元まで切断します。切り込みの際に被着体を傷つけないよう注意が必要です。
次に、切り出したひも状のシーリング材に「標線(ひょうせん)」を記入します。標線の間隔は20mm程度が一般的です。この標線が、伸び率を計測するための基準になります。
そして、シーリング材を手で180度ひっくり返すようにゆっくり引っ張り、破断するまで引き続けます。破断した時点で①破断時の標線間距離を測定し②破壊モードを目視で確認します。つまり「どのくらい伸びたか」と「どこで・どう壊れたか」の2点を同時に確認するわけです。
⚠️ 試験時の注意事項
- 引張は一定のスピードで行う(急引きは避ける)
- 試験箇所は任意の複数箇所で実施する(1箇所のみは不可)
- 試験体の断面も必ず目視確認する(増し打ちの有無・撤去残存の確認)
- 測定結果と破壊状況は写真記録と報告書に残す
試験を行った断面を確認すれば、下層に古いシーリング材が残っているかどうかも同時に確認できます。これが引張試験の「隠れた役割」です。報告書の提出まで含めて試験です。
国土交通省の公共建築改修工事標準仕様書(最新版)に基づくシーリング試験の規定は、以下の資料で確認できます。
引張試験の判定で、多くの現場担当者が「伸び率だけ見ればいい」と思いがちですが、実はそれだけでは不十分です。合否判定の核心は「破壊モード」にあります。
破壊モードは主に3つに分類されます。
| 破壊モード | 記号 | 内容 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 凝集破壊 | CF (Cohesive Failure) | シーリング材自体が内部で破壊される | ✅ 合格 |
| 薄層凝集破壊 | TCF (Thin Cohesive Failure) | 被着面にシーリング材の薄層を残して破壊される | ✅ 合格 |
| 接着破壊(界面破壊) | AF (Adhesive Failure) | シーリング材と被着体の界面が剥離する | ❌ 不合格 |
凝集破壊(CF)は、シーリング材そのものが引っ張りに耐えきれず内部で破断した状態です。これは「シーリング材と被着体の接着力がシーリング材自体の強度を上回っている」ことを意味しており、施工が正しく行われた証拠となります。
一方、接着破壊(AF)は、シーリング材が被着体からきれいに剥がれてしまう状態です。被着面にシーリング材がほとんど残らず、ツルっと剥離していれば接着破壊です。この状態は「プライマー不足」「被着体の汚染・乾燥不足」「プライマーの適用期限切れ(乾燥後の再汚染)」などが主な原因として挙げられます。接着力がシーリング材の伸び性能を活かせていないということですね。
伸び率の合格基準は、メーカーや材種によって異なります。たとえばコニシのMSシール(変成シリコーン系)では200%以上が基準値です。元の20mmの標線が破断時に60mm以上(3倍)になっていれば200%クリアということになります。
合格の条件は「CF(またはTCF)かつ伸び率がメーカー基準値以上」の両方を満たすことです。伸び率だけ基準を超えても、接着破壊(AF)なら不合格になります。これが原則です。
建築改修工事監理指針(令和元年版)より:シーリング材簡易接着性試験の合格条件
引張試験には、接着性・伸び性能の確認という直接的な役割以外に、「施工の不正を発見する機能」が備わっています。多くの現場担当者が見落としているポイントです。
最も典型的な不正施工が「増し打ち(ましうち)」です。増し打ちとは、既存シーリング材を撤去せずにその上から新しいシーリング材を重ねて充填する工法を指します。大規模修繕工事では本来「打替え(既存撤去→新規充填)」が仕様書に定められているのに、撤去の手間を省くために増し打ちが行われる事例があります。見た目は新しいシーリングが充填されているように見えるため、発覚しにくい手抜き工事です。痛いですね。
引張試験でひも状に切り出した断面を見ると、増し打ちかどうかが一目でわかります。正常な打替え施工なら断面は新規シーリング材のみですが、増し打ちの場合は新旧2層のシーリング材が確認できます。また、既存シーリング材が十分に撤去されていない場合、プライマーが新しい被着体に届かず接着不良が起きるため、引張試験で接着破壊(AF)として検出されます。
別の視点から見ると、引張試験を実施するということはランダムな箇所で破壊検査を行うことになり、業者にとっては「どこで試験が来るかわからない」というプレッシャーになります。試験の存在そのものが施工品質を高める抑止力になっているわけです。これは使えそうです。
一般社団法人日本建設業連合会の資料では、改修工事における施工不良とその防止策が詳しく解説されています。シーリング材の撤去不十分による接着不良事例も掲載されており、施工管理者として必読の内容です。
日本建設業連合会関西支部|改修工事の落とし穴~事例から学ぶトラブル防止策(PDF)
現場では「引張試験=伸び率を確認する試験」という理解が広まっています。しかし、伸び率の数値に注目しすぎると、見落としやすい重大な問題があります。これは現場経験豊富な担当者にも意外と知られていない点です。
まず、シーリング材の「伸び率」は材料そのものの特性に大きく依存します。たとえばシリコーン系のシーリング材は伸び率が400〜600%に達することもあり、変成シリコーン系(基準値200%前後)と同じ目線で比較することはできません。材料の種類ごとにメーカーが設定した基準値を参照することが必須です。基準値は材料により異なります。
次に、引張試験における「破壊モード」の見落としは施工後の漏水リスクに直結します。極端な例ですが、試験時にシーリング材が300%まで伸びたとしても、被着体との界面で剥離(AF)が起きていれば、実際の建物の目地では早期に水が入り込む経路が生まれます。数値が良くても施工は失格です。
さらに見落とされがちな視点として、「試験体の採取位置の偏り」があります。試験担当者がやりやすい位置・目立ちにくい位置だけでサンプルを採取すると、問題箇所を意図的・非意図的に回避できてしまいます。公共建築工事標準仕様書では「任意の場所」での実施を求めており、試験箇所の透明性確保も品質管理の一部です。
これらの背景から、引張試験は「数値をクリアしたら完了」ではなく、「①破壊モードの確認 ②試験断面の目視確認 ③試験箇所の記録と報告書提出」という3点をセットで実施することが、真の品質管理といえます。結論はセットでの実施です。
以下のリンクでは、建材試験センターが発行する技術誌に掲載された、シーリング材耐候性評価の試験手法と評価事例が学べます。現場での試験と連動させて活用できる情報が含まれています。
建材試験センター技術誌Vol.59|建築用シーリング材の耐候性評価試験に関する最新動向(PDF)
現場での試験実施にあたって、担当者から寄せられることが多い疑問とよくある間違いをまとめます。
「試験は全箇所でやらないといけないのか?」という疑問についてです。
これは頻繁に現場で挙がる疑問です。公共建築工事標準仕様書の規定では、全数検査は求められておらず、任意の箇所での抜き取り試験が基本となっています。ただし、「同一条件の施工に対して複数箇所」「異なる被着体・材種が混在する場合は各組み合わせで実施」という考え方が適切です。1箇所だけでは品質保証として不十分です。
「施工直後にすぐ試験できるか?」という疑問についてです。
シーリング材が表面硬化(指触乾燥)するまでの時間は、1成分形シリコーン系で30分〜1時間程度ですが、内部硬化は24〜48時間以上かかります。引張試験は内部まで十分に硬化した状態(施工後14日以上が目安)で実施しないと、軟らかい状態での試験値が出てしまい、正確な品質判定になりません。早すぎる試験は無意味です。
「プライマーを塗り忘れた箇所はどうなるか?」
プライマーは被着体の種類に応じて適切なものを選定し、かつ適切な乾燥後(一般的には塗布後30分〜60分以内)にシーリング材を充填する必要があります。プライマーの有効時間を超えてシーリングを充填した場合、あるいは塗り忘れの場合は、引張試験で接着破壊(AF)として確実に検出されます。プライマーの管理は試験と一体で考えることが肝心です。
以下は、ひも状接着性試験の実際の現場施工の様子が動画で確認できるリンクです。施工管理士の技術研修や社内教育にも活用できます。
YouTube|【シーリング工事および簡易接着性試験】現場に見る建築実務(日本建築学会)