資産除去債務 税効果 会計処理と申告調整の実務ポイント

資産除去債務 税効果 会計処理と申告調整の実務ポイント

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資産除去債務と税効果の関係

この記事で分かること
📊
会計と税務の違い

資産除去債務の会計処理と税務上の取扱いの違いを理解し、一時差異の発生メカニズムを把握できます

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税効果会計の実務

繰延税金資産と繰延税金負債の計上方法、回収可能性の判断基準を具体例とともに学べます

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申告調整のポイント

別表4・別表5(1)での加算減算調整の方法と、実務上の留意点を詳しく解説します

資産除去債務における会計処理の基本

 

 

 

資産除去債務とは、不動産などの有形固定資産を将来除去する際に発生する費用について、現在価値に割り引いた金額を負債として計上する会計処理です。会計上は資産取得時に、将来の除去費用の現在価値を「資産除去債務」として負債に計上し、同時にその金額を固定資産の帳簿価額に加算します。例えば、賃貸不動産の原状回復義務や、アスベスト除去費用などが典型的な例です。
参考)https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/79709/

この会計処理により、除去費用は減価償却を通じて資産の耐用年数にわたって費用配分されることになります。また、時間の経過に伴い資産除去債務の現在価値が増加するため、その増加分を利息費用として計上する必要があります。これらの処理は「資産除去債務に関する会計基準」に基づいて行われ、2010年4月1日以降開始する事業年度から上場企業等に適用が義務化されています。
参考)https://www.keihi.com/column/21315/

資産除去債務の税務上の取扱いと一時差異

税務上は「債務確定主義」が採用されており、資産除去債務に関する会計処理は原則として認められません。固定資産の除去が実際に行われる時点でしか損金算入できないため、会計上計上される減価償却費や利息費用はすべて税務上否認され、申告調整が必要となります。具体的には、資産除去債務に対応する減価償却費を課税所得に加算し、負債の割引計算に基づく利息費用も加算調整を行います。
参考)https://kamiura-kaikei.com/column/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E4%BC%9A%E8%A8%88-column/%E8%B3%87%E7%94%A3%E9%99%A4%E5%8E%BB%E5%82%B5%E5%8B%99%E3%81%AE%E4%BC%9A%E8%A8%88%E5%87%A6%E7%90%86%E3%81%A8%E7%94%B3%E5%91%8A%E8%AA%BF%E6%95%B4%E3%80%81%E7%A8%8E%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E4%BC%9A%E8%A8%88/

この会計と税務の取扱いの違いにより「一時差異」が発生します。資産除去債務として計上された負債部分は、将来の除去時に税務上損金算入されるため「将来減算一時差異」となり、繰延税金資産の計上対象です。一方、固定資産の帳簿価額に加算された除去費用部分は、会計上は減価償却されますが税務上は認められないため「将来加算一時差異」となり、繰延税金負債を計上します。
参考)https://go.invoy.jp/how-to-invoice/%E8%B3%87%E7%94%A3%E9%99%A4%E5%8E%BB%E5%82%B5%E5%8B%99%E3%81%AE%E4%BB%95%E8%A8%B3%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E8%A8%88%E4%B8%8A%E3%81%8B%E3%82%89%E9%99%A4%E5%8E%BB%E3%81%AA%E3%81%A9/

資産除去債務の繰延税金資産と繰延税金負債の計上

資産除去債務に係る税効果会計では、資産側と負債側でそれぞれ異なる税効果を認識する必要があります。負債に計上される資産除去債務については、将来減算一時差異として繰延税金資産を計上します。計算式は「資産除去債務×法定実効税率」となり、例えば資産除去債務2,745千円、法定実効税率40%の場合、1,098千円(2,745×40%)の繰延税金資産を計上します。
参考)https://www.ey.com/content/dam/ey-unified-site/ey-com/ja-jp/technical/info-sensor/2019/pdf/info-sensor-2019-02-03.pdf

資産に計上された除去費用については、将来加算一時差異として繰延税金負債を計上します。減価償却を通じて段階的に解消されるため、毎期の減価償却費に対応する繰延税金負債を取り崩していきます。重要なのは、これらの繰延税金資産と繰延税金負債を相殺せず、グロス(両建て)で計上する点です。資産側と負債側で異なる解消パターンを持つため、ネット(相殺)処理は適切ではありません。
参考)https://www.ey.com/ja_jp/technical/library/info-sensor/2023/info-sensor-2023-02-04

資産除去債務の回収可能性判断と実務上の留意点

繰延税金資産の計上にあたっては、回収可能性の慎重な評価が不可欠です。資産除去債務に関する将来減算一時差異は、対象資産の除去時に一括して解消される性質を持つため、合理的に見積もられた除去時期を基準にスケジューリングを行います。日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号に準拠し、課税所得の規模や欠損金の状況等に基づいて5つの区分に分類して判断します。​
資産除去債務の除去時期が決算期末から5年以上先となる場合、企業の分類区分によっては回収可能性がないと判断されるケースもあります。また、資産除去債務に対応する除去費用の将来加算一時差異は減価償却期間にわたって解消される一方、資産除去債務本体の将来減算一時差異は除去時に一括解消されるため、両者のスケジューリング期間・方法は異なります。このため、除去費用の将来加算一時差異をもって資産除去債務の将来減算一時差異の全額回収可能性があるとは判断できない点に注意が必要です。​

資産除去債務における申告調整の具体的方法

資産除去債務に関する申告調整は、別表4と別表5(1)を使用して行います。資産取得時には、別表5(1)のⅠの③欄に「有形固定資産△(資産除去債務相当額)」として減算、「資産除去債務(同額)」として加算を記載します。これにより、税務上の資産と負債の両方を否認する処理となります。期間経過時には、別表4で減価償却費と利息費用を加算調整し、別表5(1)で対応する調整を行います。
参考)http://irie-qa.seesaa.net/article/410369399.html

除去実行時には、それまでの加算・減算調整が全て解消され、最終的なトータルでは課税所得の加減算は相殺されてゼロになります。具体的には、対象資産の帳簿価額取崩に対して申告加算調整を行い、資産除去債務残高の取崩に対して申告減算調整を実施します。この一連の申告調整により、各年度の会計上の利益と課税所得は一致しなくなりますが、資産の取得から除去までの全期間を通算すれば差異は解消される仕組みです。​

不動産業における資産除去債務の特有論点

不動産業では、賃貸借契約に基づく原状回復義務が資産除去債務の主要な計上対象となります。定期借地権に係る建物の解体義務や、オフィス・店舗の内装撤去義務などが典型例です。原状回復費用を見積もる際は、賃貸借契約書や特約、入居工事見積書を確認し、将来の除去費用を合理的に算定する必要があります。
参考)https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/79772/

実務上の簡便法として、賃貸借契約に基づく敷金の差し入れがある場合には、資産除去債務の負債計上に代えて敷金の回収が最終的に見込めない金額を合理的に見積もり、そのうち当期の負担に属する金額を費用計上する方法も認められています。この簡便処理を適用すれば、割引計算などの煩雑な会計処理を回避できますが、適用要件を満たしているか慎重に判断する必要があります。不動産保有期間が長期にわたる場合や、大規模な原状回復工事が見込まれる場合は、原則的な資産除去債務の計上処理が適切です。
参考)https://rv21.jp/blog/6528

参考情報:資産除去債務の会計基準詳細については、企業会計基準委員会のウェブサイトで確認できます
企業会計基準適用指針
参考情報:税効果会計の実務ポイントについては、EY新日本有限責任監査法人の解説が参考になります
税効果会計の実務ポイント解説シリーズ 第2回 資産除去債務
参考情報:資産除去債務の別表記載方法については、国税庁のタックスアンサーや専門家の解説動画が有用です
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