
2025年6月1日、労働安全衛生規則の改正により、倉庫業務を含む職場における熱中症対策が法的義務となりました。これまでの努力義務から罰則付きの義務へと変わり、企業が対策を怠った場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。物流倉庫や建築資材倉庫など、空調設備が十分に整備されていない施設では、夏場の作業環境が極めて過酷になりやすく、熱中症による労働災害のリスクが高まっています。
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具体的な義務内容として、事業者は熱中症患者の報告体制を整備し、症状悪化を防止する措置を準備して作業従事者に周知させる必要があります。倉庫管理者には、作業環境の温度・湿度を定期的に測定し、リアルタイムで確認できる体制を構築する責任が課せられています。特に建築業従事者が倉庫内で作業する際には、この義務化の対象となることを認識し、適切な対策を講じることが求められます。
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倉庫内の適正温度を判断する際には、暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)を意識することが重要です。WBGTは気温・湿度・輻射熱(直射日光や地面からの熱)を考慮した指標で、熱中症予防の基準として広く使われています。一般的に、WBGT値が28℃以上(警戒レベル)になると熱中症のリスクが高まり、31℃以上では厳重警戒が必要とされます。
参考)環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数とは?
倉庫内の温度監視には、IoTを活用したクラウド対応の温度モニタリングシステムが効果的です。WD100シリーズなどのシステムを導入すれば、施設内だけでなく管理棟や本部センターからも温度監視が可能になり、倉庫内の温度分布を把握できます。このシステムでは、365日24時間自動でデータを収集し、閾値を超えた場合にはメールや発報で通知を行う機能があります。
参考)倉庫向けIoTソリューション [倉庫内温度監視][環境監視]…
実際の倉庫では、広い空間であるにもかかわらず空調設備が十分に行き届かないことが多く、真夏には屋外よりも気温が上がるケースも少なくありません。表示型センサユニットを現場に設置すれば、作業員が温湿度・WBGT・CO2濃度をリアルタイムで確認でき、環境監視の意識が高まります。
倉庫の構造的な問題として、大きな壁面と広い屋根を持つため直射日光の影響を受けやすく、特に金属製の折板屋根は内部に熱が伝わりやすいという特徴があります。この問題を解決するには、建物そのものの性能を向上させる改修工事が有効です。
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遮熱シートの設置は、倉庫の暑さ対策として高い効果を発揮します。屋根面に遮熱シートを施工することで、屋根表面と室内の温度を大幅に低減でき、WBGT値の改善にも寄与します。アルミ蒸着塩ビシートや両面アルミガラスクロス遮熱シートなど、用途に応じた製品が市販されており、輻射熱を反射(遮断)することで室内を快適に保ちます。
参考)https://www.e-lifetech.com/blog/4757/
間仕切りカーテンの設置も効果的な対策です。倉庫内を区画して冷暖房効率を高めることで、空調設備のコストを抑えながら作業エリアの温度を下げることができます。さらに、スポットクーラーやミストファン、工場扇を導入すれば、作業者の周囲の温度を局所的に下げ、快適な作業環境を提供できます。
参考)間仕切り・カーテン|菊地シート工業株式会社
建設資材を扱う倉庫では、シーリングファンの設置も検討すべきです。天井に設置されたファンが空気を循環させることで、倉庫内の温度ムラを解消し、全体的な環境改善につながります。
人は1日に約2.5リットルの水分を排出しますが、倉庫での作業中は汗で失われやすいため、失った分の水分をこまめに補給する必要があります。「喉が渇いた」と感じたときにはすでに脱水が始まっている可能性があるため、喉の渇きを感じる前に水分補給することが重要です。
参考)【倉庫の熱中症対策】個人・全体での取り組みや関連製品を紹介
熱中症対策において、水分補給だけでは不十分で塩分補給も必須です。高温多湿の環境下では30分程度の作業でも大量の汗をかき、その際に水分だけでなく塩分も失われます。水分補給だけでは血液中の塩分濃度が低下し、かえって熱中症の症状を引き起こす可能性があります。
参考)https://om.lakeel.com/column/detail33
適切な塩分補給の目安は、1リットルの水につき食塩1g~2gとされています。暑い環境で長時間作業する場合は、より多くの塩分摂取が必要になります。スポーツドリンクは発汗で失われた成分を補給するのに適していますが、水や麦茶に塩分入りタブレット、梅干しなどを組み合わせる方法も効果的です。
参考)倉庫・工場の暑さ対策の重要性と具体的な方法を解説 - 三和建…
砂糖を加えるとエネルギー補給ができるだけでなく、水分や塩分の吸収が良くなり疲労回復にもつながります。ただし、カフェインを含むコーヒーや緑茶は利尿作用があり体内の水分を排出してしまうため、熱中症対策には適していません。
施設側の環境整備と並行して、作業者個人が実践できる対策も重要です。ファン付きの空調服を着用することで、夏の暑い時期も快適に作業できるようになります。空調服は小型ファンから取り込んだ空気で汗を気化させ、気化熱を奪うことで涼しさを感じる仕組みです。
参考)https://store.anken.co.jp/pages/%EF%BD%93
モバイルバッテリーを接続すれば電源のない場所でも一定時間ファンを稼働できるため、倉庫内での長時間作業に最適です。風通しが悪い倉庫・工場内でも着用者に風を送り続けることができ、スポットクーラーが届かない箇所での作業時にも効果を発揮します。
ネッククーラーを首に装着する方法も手軽で効果的です。首の太い血管を冷やすことで体温の上昇を抑えることができます。その他、瞬間冷却スプレーを用意したり、休憩時に凍らせたペットボトルを握って体温を下げるといった工夫も有効です。
参考)運送業・倉庫業などの作業現場で導入しやすい熱中症対策事例!全…
作業スケジュールの見直しも検討すべきです。高温時間帯(午後1時~3時頃)を避けて作業計画を立てることで、熱中症リスクを大幅に軽減できます。
参考)2025年6月施行!工場・倉庫に求められる熱中症対策義務化と…
熱中症予防には、日々の体調チェックが不可欠です。新規に作業所へ入場した時や朝礼時に、労働者が各自で体調をチェックし、事業主または職長に報告する仕組みを整備する必要があります。チェック項目には、睡眠不足の有無、風邪による発熱、前日の飲酒状況、朝食の摂取状況などが含まれます。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/anzen_eisei/netyusyou/2.pdf
熱中症の初期症状を見逃さないことが重要です。立ちくらみ、めまい、足がつる、手足のしびれなどの症状が出たらすぐに休んで水分・電解質補給をすべきです。頭痛や吐き気、体のだるさ、ボーッとするなどの症状も熱中症の初期症状となり得るため、作業中や休憩中に体調変化が生じた場合は我慢せず、すぐに申し出る体制を構築しましょう。
参考)熱中症の初期症状、熱中症の手当(応急処置)について。頭痛や脱…
報告体制の整備として、熱中症患者が発生した際の連絡フローを明確にし、応急処置の具体的な手順を全従業員に周知させることが義務付けられています。応急処置では、涼しい場所に移動させ、衣服を緩めて体を冷やし、意識が正常な場合にはスポーツドリンクなどで水分と塩分を補給します。
参考)【2025年6月】職場の熱中症対策が罰則付きで義務化|企業が…
IoTセンサーを活用した温度モニタリングシステムには、暑さ指数が異常値になった際にセンサユニット側で確認できる機能があり、現場作業員が環境の危険度をリアルタイムで把握できます。このようなシステムを導入することで、管理者だけでなく作業員自身も環境監視の意識が高まり、熱中症リスクを組織全体で低減できます。
厚生労働省「職場における熱中症予防対策」PDF
倉庫業務での熱中症対策に関する具体的な基準値や予防措置について、公式ガイドラインを確認できます。
環境省「暑さ指数(WBGT)について」
WBGT基準値の詳細な解説と、運動や作業の可否判断基準について参照できます。