スマートグリッド マイクログリッド 違いと建築業での活用

スマートグリッド マイクログリッド 違いと建築業での活用

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スマートグリッド マイクログリッド 違い

スマートグリッドとマイクログリッドの主な違い
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スマートグリッド

IT技術で電力需給を最適化する賢い送電網。広域での効率的な電力管理を実現

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マイクログリッド

地域で電力を自給自足する小規模電力系統。災害時の防災力を高める仕組み

建築業での活用

BEMS導入やスマートシティ構築で省エネと防災を両立。現場の生産性向上にも貢献

スマートグリッドの基本概念とIT技術

スマートグリッドとは、IT技術を活用して電力の需要と供給を最適にコントロールする次世代の送配電網です。従来の電力網と異なり、供給側と需要側の双方から電力量や流れをバランスよく制御できる「賢い送電網」として機能します。
参考)https://gurilabo.igrid.co.jp/article/3515/

スマートグリッドの核となるのが「スマートメーター」です。これは通信機能を備えた電力メーターで、従来のように担当者が各家庭を訪問して計測する必要がなく、電力会社のサーバーにネットワークを介して自動的に電力使用量が記録されます。東京電力では2020年度までに約2,840万台のスマートメーターを設置し、30分ごとの電力使用量をリアルタイムで送信・処理するシステムを実現しています。
参考)スマートグリッドとマイクログリッド。太陽光発電の今後を握るカ…

再生可能エネルギーの普及において、スマートグリッドは極めて重要な役割を果たします。太陽光発電や風力発電は天候に左右されるため発電量が不安定ですが、スマートグリッドによる需給バランスの自動制御により、安定的な電力供給が可能になります。
参考)スマートグリッド|再生可能エネルギーとは?|エネルギー課 再…

東京電力のスマートメータープロジェクト詳細(スマートグリッドの実用化事例と技術仕様)

マイクログリッドの仕組みと地産地消

マイクログリッドとは、一定の地域に小規模な発電施設を配置し、大規模発電所に頼らずにエネルギーの「地産地消」を実現する小規模電力系統です。分散型電源として太陽光発電、風力発電、蓄電池、EV(電気自動車)などを組み合わせて構成されます。​
マイクログリッドの最大の特徴は、平常時と非常時で送配電の流れが切り替わる点です。平常時は既存の電力系統と接続して運用されますが、自然災害などで大規模停電が発生した場合、系統配電線から独立して地域内の発電施設から独自の配電網を用いて電気を供給します。これにより災害時でも安定的に電力を確保できるため、「レジリエンス」(復元力)の向上に大きく貢献します。
参考)https://www.bluetti.jp/blogs/buying-guide/what-is-a-microgrid

長距離送電では電力損失が大きくなりますが、マイクログリッドでは消費者の近くに発電施設を設置するため送電損失を最小限に抑えられます。これにより環境負荷の削減とエネルギー効率の向上を同時に達成できます。
参考)マイクログリッドとは?メリットやデメリットについても詳しく解…

資源エネルギー庁「地域マイクログリッド構築のてびき」(構築手順と技術的要件の詳細)

スマートグリッド マイクログリッド 目的の違い

両者の最も重要な違いは、その目的と役割にあります。スマートグリッドの主目的は「電力の需要・供給のバランスを整えることで、再生可能エネルギーの活用を推進すること」です。つまり、既存の広域電力網全体を賢く効率化する「技術」を指します。​
一方、マイクログリッドの主目的は「災害などの非常時にも安定的に電力供給して被害を軽減すること」です。地域単位で電力を自給自足できる「仕組み」として機能します。スマートグリッドが広域での最適化を目指すのに対し、マイクログリッドは限定されたエリアでの自立性を重視します。
参考)スマートグリッドとはいったい何?メリット・デメリットと日本で…

興味深いことに、マイクログリッドの中にスマートグリッドの技術が活用されるケースもあります。例えば地域マイクログリッドでは、IoT技術を用いて地域全体の発電システムをコントロールし、需給バランスを最適化する仕組みが導入されています。このように両者は対立する概念ではなく、補完的な関係にあります。
参考)スマートグリッドとは?企業の次世代の電力網について【徹底解説…

実際の導入規模も大きく異なります。スマートグリッドは電力会社が管轄する広域ネットワークに適用されるのに対し、マイクログリッドは数百世帯から数千世帯規模の比較的小さなエリアでの運用が想定されています。
参考)https://sii.or.jp/microgrid03/uploads/mg_gaiyousiryou_20241217.pdf

スマートグリッド建築業での活用事例

建築業界では、スマートグリッド技術を活用したエネルギーマネジメントシステムの導入が進んでいます。特に注目されているのがHEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building Energy Management System)、MEMS(Mansion Energy Management System)、FEMS(Factory Energy Management System)です。
参考)スマートグリッドをわかりやすく理解|「家庭用蓄電池」の時代が…

HEMSは家庭用、BEMSはビル、MEMSはマンション、FEMSは工場を対象としたエネルギー管理システムで、スマートメーターや家電製品と接続して電気使用量を「見える化」します。使用電力量が基準を超えると自動で節電モードに切り替わる機能により、省エネを実現できます。​
建設現場においては、BIM(Building Information Modeling)技術とIoT技術を組み合わせたスマート施工管理システムの導入が加速しています。これらのシステムでは、エネルギー使用状況をリアルタイムで監視し、最適な電力配分を行うことで、建設プロジェクト全体のコスト削減と環境負荷軽減を両立させています。
参考)https://drpress.org/ojs/index.php/fcis/article/download/10303/10025

スマートシティプロジェクトでは、スマートグリッドが都市インフラの中核として機能します。ICTを活用した高度なエネルギーマネジメントにより、電気自動車や家庭用蓄電池といった分散型電源を効率的に運用し、市民の生活の質を向上させています。​
建設業界におけるスマートグリッド導入の最新動向(HEMS/BEMSの具体的な活用方法)

マイクログリッド建築物への導入メリット

建築物へのマイクログリッド導入は、防災面で極めて大きなメリットをもたらします。2023年3月に千葉県いすみ市大原地区に敷設された「いすみ市地域マイクログリッド」は、災害による停電時でも地域の重要施設に電力を供給し続けることができます。
参考)https://sii.or.jp/chiikidokuritsukeito06/uploads/R6haiden_k_leaflet01.pdf

神奈川県小田原市では、太陽光発電設備を活用した地域マイクログリッド構築事業が実施されています。このプロジェクトでは、蓄電池(非常時供給力630kW、1580kWh)、太陽光発電(非常時50kW)、調整力ユニット、EV・充放電設備を組み合わせ、平常時は再エネ自給率向上と経済性向上を優先し、非常時は停電時間最小化を目指した運用を行っています。​
沖縄県宮古島市来間島では、約100世帯全てに太陽光発電設備、蓄電池、エコキュートを無償設置するプロジェクトが進行中です。災害時には約4日間(約100時間)の電力供給継続が可能で、台風による停電が頻発する離島での電力安定供給に貢献しています。​
建築プロジェクトにおいては、マイクログリッドの導入により長距離送電による電力ロスを削減できるため、ランニングコストの低減が期待できます。また、太陽光発電の自家消費や売電により固定費削減と脱炭素化を同時に実現できます。​

スマートグリッド マイクログリッド導入の課題とセキュリティ

マイクログリッドの最大の課題は初期コストの高さです。再生可能エネルギー設備、蓄電池、制御システムなどの導入には多額の投資が必要で、補助金なしでは実現が困難なケースが多いのが現状です。トンガ王国でのマイクログリッド導入事例では、JICAなどが主導し約15億円の供与金が投じられました。
参考)マイクログリッドとは? 特徴やメリット、課題などをわかりやす…

ただし、近年は再生可能エネルギー設備のコストダウンが進んでおり、モジュール式または拡張可能なマイクログリッドシステムの登場によってコスト削減も可能になってきています。さらにブロックチェーン技術を応用したP2P(Peer to Peer)取引の実現により、運用コストを下げる技術革新も進行中です。
参考)マイクログリッドとは?推進に向けた課題

スマートグリッドにおいては、サイバーセキュリティが重大な課題として浮上しています。スマートグリッドのインフラは、サイバー攻撃に対して脆弱であり、適切な保護策が講じられていない場合には高額な損失を引き起こす可能性があります。特に先進的なメータリングインフラ(AMI)管理システムは、安全でない通信プロトコルや不正アクセスのリスクにさらされています。
参考)サイバーレジリエンスなスマートグリッドを介したエネルギー変換…

攻撃者がスマートメーターとユーティリティ間の通信を傍受し、システムへの不正アクセスや制御を行う危険性があるため、堅牢なサイバーセキュリティ対策の実施が極めて重要です。建築業従事者がこれらのシステムを導入する際には、セキュリティ面での十分な検討が必要となります。
参考)最重要エネルギーインフラのためのグリッドサイバーセキュリティ…

維持管理コストも重要な検討事項です。設備の更新頻度は高くないものの、メンテナンス費用をどこまで合理化できるかが長期運用における課題となります。また、地域住民や施設利用者の理解と賛同を得ることも、プロジェクト成功の鍵を握ります。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/069_02_00.pdf

トレンドマイクロによるスマートグリッドのサイバーセキュリティ詳細解説(脆弱性と対策)

スマートグリッド マイクログリッド関連技術VPPとDER

スマートグリッドとマイクログリッドの理解を深めるには、関連技術であるVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とDER(Distributed Energy Resources:分散型エネルギー源)を知ることが重要です。​
VPPは、住宅やオフィス、工場など地域全体に設置された発電システムをひとつにまとめ、IoT技術を活用してコントロールする仕組みです。地域に点在する小規模な発電設備(太陽光など)や蓄電池、電気自動車などを遠隔制御し、あたかも一つの大きな発電所のように機能させます。需要が逼迫すれば放電を促し、電力が余れば蓄電に回すといった調整を行うことで、電力の安定供給に貢献します。​
企業・自治体が所有する生産設備や自家用発電設備、蓄電池、EVといった地域に分散するエネルギーリソースを、アグリゲーターと呼ばれる事業者が一括で監視・制御して地域全体にシェアします。これにより地域で発電した再生可能エネルギーを有効活用できるのです。​
DERは、従来の発電所からの電力供給ではなく、住宅やオフィスなど各地に分散するエネルギー源のことを指します。代表的な例としては、太陽光パネル、蓄電池、電気自動車などがあり、マイクログリッドで非常時に供給されるエネルギー源としても活用されます。​
建築業界においては、これらの技術を統合的に活用することで、エネルギーの効率化と防災力強化を両立させた次世代の建築物やスマートシティの実現が期待されています。
参考)スマートグリッドと建築:エネルギーの効率的利用を実現する技術…

VPP、マイクログリッド、DERの関係性詳細解説(再エネ主力電源化時代の基礎用語)