

試験機を保有している機関が全国でも非常に少なく、試験データを別機関の配合設計にそのまま流用するとやり直しになることがあります。
スパイク試験とは、正式には「スパイクラベリング試験」と呼ばれる舗装用アスファルト混合物の耐摩耗性を評価するための室内試験です。具体的には、スパイクタイヤが路面と接触したときの摩耗作用を実験室内で再現し、舗装材料がどれだけの摩耗に耐えられるかを「すりへり量(cm³)」として数値化します。つまり、数値が小さいほど耐摩耗性に優れているということです。
この試験が生まれた背景には、深刻な社会問題があります。かつてスパイクタイヤは積雪寒冷地での標準的な冬用タイヤでした。しかし、路面が乾燥した状態ではスパイクピンがアスファルト路面を激しく削り、大量の粉塵が舞い上がる深刻な公害を引き起こしました。特に仙台市ではその粉塵量があまりに多く「仙台砂漠」と呼ばれたほどです。昭和50年代(1970年代後半)には社会問題として広く認識されるようになり、建設省土木研究所舗装研究室が舗装摩耗分科会と共同でスパイクラベリング試験方法の標準化に取り組み始めました。
道路舗装を施工・管理する建設業従事者にとって、この試験は舗装材料の品質を裏付ける重要なデータの一つです。特に北海道や東北・北陸など積雪寒冷地の道路工事では、発注仕様書にスパイクラベリング試験によるすりへり量の基準が盛り込まれる場合があります。
また、ラベリング試験には「チェーン型(チェーンラベリング試験)」と「スパイク型(スパイクラベリング試験)」の2種類があります。チェーンラベリング試験はタイヤチェーンによる摩耗を想定したもの、スパイクラベリング試験はスパイクタイヤの摩耗作用を想定したものです。どちらを指定されるかは発注者の仕様書を確認することが基本です。
参考リンク(スパイクラベリング試験に関する公的文書)。
建設省土木研究所資料:スパイクラベリング試験方法の標準化に関する検討結果報告書(国土技術政策総合研究所)
スパイクラベリング試験の手順は、大きく「供試体の作成」「試験前の養生」「試験本体」「すりへり量の計測」の4段階で構成されています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
供試体の作成では、試験対象となるアスファルト混合物を台形状の試験体に成型します。寸法の目安は、上辺21cm、底辺32cm、高さ20cm、厚さ5cm程度です。はがきの横幅が約14.8cmと考えると、供試体の上辺はその約1.4倍の大きさになります。28日間水中養生したあとに同一条件で複数体用意するのが一般的です。
試験前の養生では、試験を行う温度条件(例:0℃、-5℃など)に合わせて供試体を事前に養生します。この養生時間が不十分だと試験結果に誤差が生じるため、時間管理が重要です。ここが意外と見落とされがちな工程です。
試験本体では、スパイクラベリング試験機の回転盤に18個の供試体をセットします。供試体をセットする際は、ゲージ付き水平器で各供試体の表面高さを測り、高さの差を1mm以内に揃える必要があります。高さのばらつきが1mmを超えると特定の供試体だけに荷重が集中し、正確な結果が出ません。この精度管理が試験の信頼性を左右します。
| 工程 | ポイント | 注意事項 |
|---|---|---|
| 供試体作成 | 台形状・厚さ5cm程度 | 28日水中養生後に使用 |
| 試験前養生 | 試験温度に合わせた事前養生 | 養生時間の不足は誤差の原因 |
| 供試体セット | 18個を回転盤にセット | 高さの差を1mm以内に揃える |
| すりへり量計測 | 試験前後の重量差で算出 | cm³単位で表示 |
すりへり量の計測では、試験前後の供試体の体積(または重量)の差からすりへり量(cm³)を求めます。この数値が発注仕様書に定められた基準値以下であれば合格となります。北海道開発局などの品質管理基準では、ラベリング試験によるすりへり量が「1.3cm³以下」とされている事例もあります。
試験温度は試験の目的によって異なり、0℃や-5℃で行う場合があります。温度が低いほどアスファルト混合物は硬くなり、結果として摩耗量が変化します。このため、試験を依頼する際は「どの温度条件で実施するか」を事前に確認することが肝心です。
参考リンク(舗装品質管理基準および規格値の詳細)。
国土交通省北海道開発局:北海道における道路事業の技術(スパイクラベリング試験機の活用事例を含む)
スパイクラベリング試験の結果は「すりへり量(cm³)」で表され、この数値が小さいほど耐摩耗性に優れた混合物ということになります。合否の基準は発注者が定めるものですが、参考として押さえておきたい数値があります。
北海道開発局の品質管理基準では、ラベリング試験によるすりへり量の規格値として「1.3cm³以下」が定められているケースがあります。これは成人男性の親指の爪ほどの体積に相当する量です。路面の摩耗の許容量として、この小ささは想像以上に厳しい基準です。
一方で、アスファルト骨材の最大粒径による違いも知っておく必要があります。最大粒径20mmの混合物は最大粒径13mmのものと比べ、一般に耐流動性・耐摩耗性・すべり抵抗性に優れています。スパイクラベリング試験でも、20mmの方がすりへり量が少ない傾向があります。
重要な点は、同じ混合物でも乾燥状態より湿潤状態(散水あり)の方がすりへり量が異なる場合がある、という事実です。散水条件でのすりへり量の違いを事前に把握しておくと、現場の状況に合わせた材料選定が可能になります。これは意外と知られていない情報です。
実際の工事では、配合設計書に試験結果の記録が含まれているかどうかを施工前に確認する習慣をつけておくことが大切です。結果が手元にない場合は、試験機関に事前問い合わせを行い、余裕をもってスケジュールを組みましょう。
参考リンク(舗装配合設計とすりへり量基準についての解説)。
日本アスファルト協会:積雪寒冷地における耐摩耗性舗装の研究(すりへり量と粒度の関係)
スパイクラベリング試験において、現場担当者が特に注意すべき実務的な課題があります。それは「スパイクラベリング試験機を保有する機関が全国的に非常に少ない」という問題です。
日本アスファルト協会の資料によると、スパイクラベリング試験機を保有している試験機関は少数にとどまり、しかも機関ごとに試験機の仕様が異なるため、ある機関で得たデータをそのまま他の機関での配合設計に適用することが原則できません。つまり、試験機関を変更するたびに試験をやり直す必要が生じる可能性があります。これが「時間的なロス」と「追加コスト」につながるリスクです。
実務上でよく見られるのは次のようなケースです。当初予定していた試験機関が試験機のメンテナンス中でスケジュールが合わず、別の機関に依頼したところ試験機の仕様が違い、以前のデータが使えなかった、というトラブルです。
スパイクラベリング試験の代替として「チェーンラベリング試験」が使われる場面もあります。チェーンラベリング試験機は比較的多くの機関が保有しており、スパイクラベリング試験との相関関係についての研究も進んでいます。ただし、両者は完全に互換性があるわけではないため、代替使用の可否は必ず発注者と事前に確認を取ることが原則です。
また、スパイクラベリング試験の試験機は「往復チェーン型」「回転チェーン型」「回転スパイク型」の3種類があります。仕様書に型式の指定がある場合は、その型式を保有する機関を探すことが必要になります。困ったときは所管の都道府県の土木技術センターや道路技術研究機関に問い合わせると、適切な試験機関の紹介を受けられることがあります。
参考リンク(ラベリング試験機の種類と選び方)。
山口県道路舗装設計マニュアル(案):ラベリング試験の種類と適用に関する記述あり
スパイクラベリング試験の結果を正しく活用するためには、試験の数値を読むだけでなく、その結果を「材料選定」と「施工計画」に落とし込む視点が不可欠です。
まず、試験結果をもとにした材料選定の基本的な考え方を整理します。すりへり量が少ない(耐摩耗性が高い)混合物は一般にコストが高くなる傾向があります。しかし、積雪寒冷地では舗装の補修頻度が高く、補修コストが積み重なることで長期的な維持費が膨らむケースがあります。初期費用が多少高くても耐摩耗性の優れた材料を採用することが、ライフサイクルコスト(LCC)の面では合理的な選択になることも少なくありません。
| 判断基準 | 内容 | 建設業従事者への示唆 |
|---|---|---|
| すりへり量が小さい | 耐摩耗性が高い | 寒冷地や重交通路線に適している |
| すりへり量が大きい | 摩耗しやすい | 補修頻度が上がりコスト増のリスクあり |
| 改質アスファルト使用 | 通常混合物の2〜4倍の耐摩耗性 | 試験仕様を変えずに耐摩耗性を向上できる |
改質アスファルト混合物はスパイクラベリング試験で通常の密粒度アスファルト混合物の2〜4倍程度の耐摩耗性を示すことが確認されています。これは試験値の比較として非常に大きな差です。重交通路線や急勾配区間での使用を検討する際は積極的に活用する価値があります。
また、グルービング(溝切り)舗装においても、スパイクラベリング試験が役立てられています。グルービングは路面の溝によってすべり抵抗を高める技術ですが、スパイクタイヤによって溝がつぶれやすいという弱点があります。スパイクラベリング試験で「摩耗量」と「試験前後の溝形状の変化量」を測定することで、グルービングの耐久性を定量的に評価できます。
建設業の現場担当者として知っておきたいのは、試験の結果だけに頼らず、舗装の種類・使用骨材の粒度・アスファルト量・改質剤の有無を組み合わせて最適な材料を選定するという姿勢が重要だ、ということです。スパイクラベリング試験はその判断をサポートするデータの一つに過ぎません。
舗装工事を受注した際に「試験結果はあるか」「どの温度条件で実施したか」「試験機の型式は何か」の3点を必ず確認するだけで、後々のトラブルを大幅に減らすことができます。ここに気をつければ大丈夫です。
参考リンク(スパイクラベリング試験と路面性状管理の詳細)。
寒地土木研究所:グルービングの効果とスパイクラベリング試験による評価(国土交通省)