
玉掛け作業における3・3・3運動(さんさんさんうんどう)は、クレーンなどで荷物を吊り上げる際の飛来落下災害を防止するための安全活動です。この運動は「3メートル」「3秒間」「30センチ」という3つの数値をキーワードとして、玉掛け作業の各段階で守るべき基本的な安全行動を定めています。
参考)『3・3・3運動』の見える化 - あんぜんプロジェクト
建設現場や工場などでクレーン作業を行う際、吊り荷の落下や荷振れによる災害が多発しています。3・3・3運動は、こうした労働災害を未然に防ぐために厚生労働省が推奨する安全対策の一つとして、全国の作業現場で実施されています。
参考)333(さんさんさん)運動・・・工事現場の安全活動に、おすす…
この安全活動を徹底することで、玉掛け作業における「吊り荷を落とさない」「吊り荷の下に入らない」「吊り荷にはさまれない」という3つの重要なポイントを実現できます。作業に慣れてくるとこの運動をおろそかにしがちですが、どれだけ経験を積んでも安全確保を第一にすべきです。
参考)玉掛け作業 必ず励行しよう 3・3・3運動!
3・3・3運動の実施手順には、A・Bの2つのパターンが存在しますが、いずれも安全確保の本質は同じです。最も一般的なパターンでは、まず玉掛けが完了した後、ワイヤーロープを張った状態で3秒間停止し、玉掛けの状態を確認します。この時点で、ワイヤーが荷物に正しく掛かっているか、テンション(張り具合)は適切かを目視で確認することが重要です。
参考)https://www.witc.co.jp/blog/blog-20220131/
次に、合図者は吊り荷から3メートル以上離れます。この距離を確保することで、万が一吊り荷が落下したり大きく振れたりしても、合図者が巻き込まれる危険性を最小限に抑えられます。介錯ロープを使用する場合は、赤・黄・緑の3色に色分けされたものを使用すると、1.5メートル、3メートルの位置が明示されて便利です。
参考)地切りと3・3・3運動の推奨
そして地切り時には、荷を地面から30センチの高さまでゆっくりと巻き上げて一旦停止します。この段階で荷の傾き、揺れ、荷崩れがないか、荷姿の安定性を3秒間確認します。バランスが悪い場合は、必ず一旦地面に降ろして玉掛けをやり直すことが事故防止の鉄則です。
参考)333運動の手順を解説!工事の玉掛け作業で必須の安全活動とは…
地切り(じぎり)とは、クレーンなどで荷を吊り上げる際に、吊り荷を地面からわずかに離す作業のことです。この作業は荷振れや荷の落下が起きやすい最も緊張する瞬間であり、安全確保のための確認作業が不可欠です。
参考)玉掛け作業の「地切り」とは?
地切り前には、まずゆっくりとクレーンを巻き上げて玉掛け用スリングを緊張させた状態で一旦停止します。その状態で玉掛けの状態が良いか、玉掛け用具は正しく掛かっているか、荷振れの恐れがないかを確認します。また、万が一荷振れが起こった場合に備えて、退避できるよう周囲の状況も確認する必要があります。
地切り時の注意点として、静かにゆっくりと巻き上げることが重要です。吊り荷が地面から離れる時の衝撃は大きく、急激に巻き上げるとワイヤーロープなどの吊り具が切れてしまう恐れがあります。また、吊り上げた荷の重心が取れていなかった場合、荷の傾き・荷の振れ・荷崩れを起こす危険性があるため、玉掛け作業者の立ち位置にも十分注意しましょう。
玉掛け作業における合図者は、クレーン操縦者に正確な指示を伝える重要な役割を担っています。合図者は玉掛けの基本的な合図や手順を正確に理解し、実践できるよう十分な訓練が必要です。誤った合図は作業の混乱や危険を引き起こす可能性があるため、明瞭で理解しやすい声や手の合図を使用し、クレーン操縦者と綿密なコミュニケーションを図らなければなりません。
参考)玉掛け合図を画像付きで詳しく解説!玉掛けの合図に必要な資格や…
合図者は障害物の有無など作業現場の状況を常に把握しておく必要があります。周囲の安全を確認しつつ、他の作業員と協調しながら合図を行うことが求められます。特に無線機を使用する場合は、玉掛け者が合図も兼務するケースが多く、その際は玉掛け者がクレーンオペレーターに対して無線で合図を行います。
参考)玉掛け者と合図者について - 業界初心者ですので皆さんご教授…
突発的な状況や非常事態に備え、迅速かつ冷静に緊急時の合図を発信できるように心がけることも重要です。特に作業の一時停止が必要な場合には、合図者の判断と行動が事故防止の鍵となります。法令上は指揮者・合図者・玉掛け者の配置が求められていますが、実務では合図と玉掛けを兼務することも認められています。
玉掛け作業における代表的な災害事例として、H鋼を吊り上げ中に玉掛け用ワイヤーロープが切断し、荷の下敷きになるケースがあります。この事例では、ワイヤーロープの劣化や損傷を見逃していたことが原因でした。ワイヤーロープは素線の切断、摩耗、腐食などにより強度が低下するため、作業前の点検が不可欠です。
別の事例では、鋼管表面が雨で濡れてワイヤーロープとの摩擦力が低下し、2点吊りの玉掛け位置が重心から離れていたため、吊り上げ時に鋼管が傾斜してロープから滑り落ちました。被災者は右足首複雑骨折により約3ヶ月入院する重傷を負っています。この事故は、荷物表面状態の確認と滑り止め措置、重心位置を考慮した玉掛け位置の設定により防げた可能性があります。
また、鋼管の積み下ろしで「半掛け」という不適切な玉掛け方法を使用し、鋼管がワイヤーロープから抜け落ちてトラック運転手の腹部に当たった事例もあります。滑りやすい鋼管には適切な玉掛け方法を選択し、クレーン運転手も不適切な玉掛け方法の場合はやり直しを要求することが重要です。
参考)https://cranenet.or.jp/susume/susume17_03_old.html
これらの災害を防ぐためには、玉掛け作業では常に「荷は振れる」「荷は崩れる」「ワイヤーロープは切れる」という意識を持つことが労働災害防止に重要です。作業前の点検、適切な玉掛け方法の選択、天候条件を考慮した作業計画、そして3・3・3運動の徹底が事故防止の基本となります。
参考)玉掛け作業の危険予知の基本から実践まで詳しく解説
玉掛け作業を行うには、クレーンなどの吊り上げ荷重に応じて法令で定められた資格が必要です。吊り上げ荷重が1トン未満の場合は「玉掛け特別教育の修了者」または「玉掛け技能講習の修了者」が、1トン以上の場合は「玉掛け技能講習の修了者」であることが求められます。
参考)施工の神様
玉掛け技能講習は国家資格であり、合格率は95%と取得しやすい資格です。18歳以上であれば誰でも受講でき、製造業や建設業などクレーンを使用する現場への転職の際には保有が有利に働きます。正式名称は「玉掛け技能講習修了」で、実技講習を修了すると資格が付与されます。
参考)玉掛けの資格取得を徹底解説!技能講習や仕事内容についてもご紹…
玉掛け特別教育は各事業所または登録教習機関で実施され、基本的に講習期間は2日間です。一方、玉掛け技能講習は特別教育よりも講習時間が長く、より専門的な知識と技能が求められます。すでに他のクレーン等の免許を持っている場合は、受講科目の一部免除を受けることができます。
つり荷の上げ下ろしや着地時の事故が多く、作業には安全への配慮が必要とされるため、資格取得後も継続的な教育と訓練が重要です。事業者は玉掛け作業を含む荷の運搬における労働災害を防止するため、作業標準等の作成とその周知に努める必要があります。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/content/contents/001611026.pdf
厚生労働省あんぜんプロジェクト:3・3・3運動の見える化と三色介錯ロープの活用事例
地切りと3・3・3運動の詳細な実施方法と注意点
厚生労働省:クレーン、玉掛け、揚重作業の安全対策PDF資料