
足場工事において、作業者の安全を確保するために欠かせない床材として「踏板」と「アンチ」があります。これらは一見似ているように思えますが、構造や用途に明確な違いがあります。建設現場で適切な床材を選ぶためには、それぞれの特徴を正しく理解することが重要です。
踏板とアンチは、どちらも足場の床面を形成するための資材ですが、その構造や使用される足場の種類が異なります。両者の違いを理解することで、工事の安全性と効率性を高めることができるでしょう。
踏板は、両端にフックが付いている金属製の板で、足場の骨組みに引っ掛けて使用します。最大の特徴は床部分がメッシュ状になっていることです。このメッシュ構造により、以下のような利点があります。
・通気性に優れている
・雨水などの排水性が高い
・滑り止め効果がある
・軽量で扱いやすい
踏板は主に一側足場で使用されます。一側足場とは、鉄パイプや角材で柱を立てた足場のことで、橋梁工事や高架道路の工事などで頻繁に使用されています。メッシュ状の構造により、足元が滑りにくく安全に作業できるのが大きなメリットです。
また、踏板は通気性が良いため、長時間の作業でも蒸れにくく、作業者の快適性を確保できます。雨天時には水が溜まりにくいため、滑り事故のリスクを軽減する効果もあります。
アンチは「布板」や「床付布板」とも呼ばれ、踏板と同様に両端にフックが付いた金属製の板です。しかし、踏板と異なり、床部分は平らな板状になっています。アンチの名前の由来は「アンチスリップメタル」(滑り止め金属)からきており、表面には小さな穴が開いていて凹凸加工が施されています。
アンチの主な特徴は以下の通りです。
・頑丈で耐荷重性に優れている
・床面が平らで作業効率が高い
・安定性が高い
・主に枠組足場で使用される
アンチは枠組足場に使用されるのが一般的です。枠組足場とは鉄パイプや角材で枠を組んだ足場のことで、建物の外壁工事や内装工事などに広く用いられています。
アンチは踏板よりも重量がありますが、その分耐久性と安定性に優れています。床面が平らなため、物を置いたり道具を使ったりする作業がしやすく、作業効率を高める効果があります。
踏板とアンチはそれぞれ異なる特性を持っているため、工事の内容や現場の状況に応じて適切に選び分ける必要があります。以下に、選び方のポイントをまとめます。
【踏板が適している場合】
・橋梁や高架道路などの一側足場を使用する工事
・軽量性が求められる現場
・通気性や排水性が重要な屋外作業
・頻繁に移動や組み替えが必要な仮設足場
【アンチが適している場合】
・建物の外壁や内装工事など枠組足場を使用する工事
・安定性や耐荷重性が求められる作業
・平らな作業面が必要な精密作業
・長期間の使用が予定されている現場
現場の状況に応じて適切な床材を選ぶことで、作業の安全性と効率性を高めることができます。また、工事の進行に合わせて踏板とアンチを使い分けることも有効な方法です。
踏板とアンチには様々な規格とサイズがあり、現場の状況や用途に応じて選択する必要があります。主なサイズと規格について見ていきましょう。
【幅のバリエーション】
・250mm幅(狭小地用)
・400mm幅(通称「ヨンマル」)- 現在の主流
・500mm幅(通称「ゴーマル」)- 安全基準改定後に需要増加
・150mm幅(センターアンチ/一側足場用)
【長さの規格】
・インチ規格:欧米由来の規格で現在も主流
・メートル規格:日本のメーカーが採用
特に注目すべきは、平成27年7月に施行された安全衛生法規則改定により、「床材と建地との隙間は12cm未満とすること」という規定が追加されたことです。この改定により、従来の400mm幅(ヨンマル)から500mm幅(ゴーマル)への移行が進んでいます。
また、インチ規格とメートル規格には互換性がないため、足場を組む際には統一した規格を使用する必要があります。異なる規格を混在させると、隙間ができたり固定が不安定になったりするリスクがあります。
価格面では、一枚あたり4,000円程度の手頃なものから13,000円前後の高額なものまで幅広く存在します。耐久性や安全性を考慮しながら、コストパフォーマンスの良い製品を選ぶことが重要です。
踏板とアンチは繰り返し使用する資材であるため、適切なメンテナンスを行うことで耐久性を向上させ、長期間安全に使用することができます。以下に、メンテナンスのポイントをご紹介します。
【日常的なメンテナンス】
【定期的な点検項目】
・フックの変形や破損がないか
・床面の穴や凹凸に異常な摩耗がないか
・溶接部分に亀裂や破損がないか
・表面の塗装の剥がれや錆の発生がないか
特に屋外で使用する場合は、表面の塗装が重要です。塗装が剥がれると錆が発生しやすくなり、強度の低下につながります。定期的に塗装の状態を確認し、必要に応じて再塗装を行うことをおすすめします。
また、踏板やアンチに過度の負荷をかけないことも重要です。製品ごとに定められた耐荷重を超える使用は避け、複数人が同時に乗る場合や重量物を置く場合は注意が必要です。
適切なメンテナンスと使用方法を守ることで、踏板とアンチの寿命を延ばし、安全性を確保することができます。これは結果的にコスト削減にもつながる重要なポイントです。
建設現場の安全性向上のため、足場に関する法規制は年々厳しくなっています。2025年現在、踏板とアンチを選定する際には、最新の安全基準に適合した製品を選ぶことが重要です。
【安全基準の主なポイント】
特に注目すべきは、平成27年7月に施行された安全衛生法規則改定です。この改定により、高さ2m以上の作業場所に設けられる作業床の要件として「床材と建地との隙間は12cm未満とすること」という規定が追加されました。
この規定に対応するため、従来の400mm幅(ヨンマル)から500mm幅(ゴーマル)のアンチへの移行が進んでいます。新規に購入する場合は、この安全基準に適合した製品を選ぶことをおすすめします。
また、隙間からの落下物による事故を防止するため、メッシュシートなどの飛来・落下防止措置も併せて講じる必要があります。これは法令で定められた要件ではありませんが、現場の安全性を高めるために重要な対策です。
製品選定の際は、JIS規格や建設業労働災害防止協会(建災防)の推奨基準に適合しているかどうかも確認するとよいでしょう。これらの基準に適合した製品は、安全性と品質が保証されています。
最新の安全基準に適合した踏板とアンチを選定することは、作業者の安全を確保するだけでなく、法令遵守の観点からも重要です。定期的に最新の基準を確認し、必要に応じて設備を更新することをおすすめします。
建設業界でも環境への配慮が重要視される中、踏板とアンチの環境負荷と持続可能な使用法について考えることも大切です。これらの金属製資材は適切に管理・再利用することで、環境負荷を低減できます。
【環境負荷を低減するポイント】
特に注目すべきは、近年増えている環境配慮型の踏板やアンチです。これらは従来品と比較して、製造時のCO2排出量が少なかったり、リサイクル素材を使用していたりします。また、軽量化により運搬時の燃料消費も抑えられるメリットがあります。
レンタル活用も持続可能な選択肢の一つです。必要な期間だけ使用することで、資源の有効活用につながります。特に短期間の工事や特殊なサイズが必要な場合は、購入よりもレンタルの方が経済的にも環境的にも優れていることが多いです。
また、使用できなくなった踏板やアンチは適切に分別し、金属リサイクルに回すことが重要です。鉄やアルミニウムなどの金属は、リサイクルすることで新たな資源採掘を減らし、環境負荷を大幅に低減できます。
環境に配慮した踏板とアンチの選択と使用は、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要です。環境配慮型の製品を選ぶことで、企業イメージの向上にもつながるでしょう。
持続可能な建設業を目指す上で、踏板とアンチの環境負荷を考慮した選択と使用は、小さいながらも重要な一歩となります。次世代に美しい環境を残すためにも、環境に配慮した選択を心がけましょう。