請負工事契約約款と契約の基本知識から活用法まで徹底解説

請負工事契約約款と契約の基本知識から活用法まで徹底解説

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請負工事契約約款と契約の基本

請負工事契約約款の重要ポイント
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約款の役割

契約当事者の権利義務を明確化し、トラブル防止を図る

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法的根拠

建設業法に基づき中央建設業審議会が標準約款を作成

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契約の特徴

成果物の完成に対して報酬が支払われる請負契約形態

請負工事契約約款の定義と法的位置づけ

請負工事契約約款とは、請負業者と注文者の間で工事を実施する際に締結する契約の詳細な取り決めを定めた文書です。建設業法により、建設工事の請負契約の適正化のための規制の一環として位置づけられており、中央建設業審議会には建設工事の標準請負契約約款を作成してその実施を勧告する権限が与えられています。

 

この約款の最も重要な特徴は、請負契約が「仕事の完成」を目的とすることです。つまり、作業した時間ではなく、完成した成果物に対して報酬が支払われるという点で、雇用契約とは根本的に異なります。工事が完成しない場合は、基本的に報酬を受け取ることができないため、契約内容の明確化が極めて重要となります。

 

建設業法第19条以下では請負契約の内容に関して様々な規律を定めており、標準請負契約約款はこれらの規定を具体化し、建設工事請負契約当事者双方の権利義務を守る重要な役割を担っています。特に、多額の金額が動き、工事の方法も多様化している現代の建設業界において、合意内容の不明確さや解釈の違いによるトラブルを防止するための社会的な常識に基づくルールとして機能しています。

 

国土交通省のウェブサイトでは、これらの標準請負契約約款が公開されており、建設業者は自由にダウンロードして活用することができます。これにより、業界全体での契約の標準化と適正化が図られています。

 

請負工事契約約款の種類と適用範囲

工事標準請負契約約款には、発注者の性質や工事の規模に応じて複数の種類が存在します。最も代表的なものが「公共工事標準請負契約約款」で、これは主に国の機関や地方公共団体等の公共発注者から発注される請負契約を対象としています。

 

公共工事標準請負契約約款の適用範囲は公共機関に限定されておらず、電力、ガス、鉄道、電気通信等の常時建設工事を発注する民間企業の工事についても利用できるように設計されています。実際に、電力会社、JR、ガス会社等の民間企業に対しても中央建設業審議会からの勧告が行われており、幅広い分野で活用されています。

 

一方、「民間建設工事標準請負契約約款(甲)」は、民間の比較的大規模な工事の発注者と建設業者における契約を対象としています。この約款は、請負契約の片務性の是正と契約関係の明確化・適正化のために、請負契約における当事者間の具体的な権利義務関係を規律するものとして作成されています。

 

各約款の基本構造は共通しており、総則において発注者及び請負者がこの約款に基づき、設計図書に従い、日本国の法令を遵守してこの契約を履行しなければならないことが明記されています。また、請負人は契約書記載の工事を契約書記載の工期内に完成し、工事目的物を発注者に引き渡すものとし、発注者はその請負代金を支払うことが基本的な枠組みとなっています。

 

地方自治体レベルでも独自の約款を制定しており、例えば横浜市や大分県などは、国の標準約款をベースとしながらも地域の特性や条例に合わせた内容で約款を作成しています。

 

請負工事契約約款の作成と記載すべき重要事項

請負工事契約約款を作成する際には、いくつかの必須事項を含める必要があります。最も基本的な要素は、工事内容の特定、請負代金の額、そして工期の設定です。これらは請負契約の本質的な要素であり、これらが不明確だと契約として成立しません。

 

工事内容については、単に「建物の建築」といった抽象的な記載ではなく、別紙の設計仕様書や図面を参照して具体的に特定する必要があります。工事場所、工期(開始日と完了日)、工事を施工しない日・時間帯、そして請負代金額を明確に記載することが求められます。

 

請負代金内訳書及び工程表の作成も重要な要素です。請負者は設計図書に基づいて請負代金内訳書と工程表を作成し、発注者に提出する必要があります。ただし、これらの書類は契約の他の条項で定める場合を除き、当事者を拘束するものではないという性質を持っています。

 

工期の変更に関する条項も詳細に定める必要があります。発注者は工期の短縮を請負者に請求することができ、特別の理由があるときは通常必要とされる工期に満たない工期への変更を請求することも可能です。この場合、必要があると認められるときは請負代金額を変更し、または請負者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならないという規定が含まれます。

 

また、仮設や施工方法など工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、請負者がその責任において定めることが明記されています。これにより、施工における請負者の裁量と責任の範囲が明確になります。

 

国土交通省の公共工事標準請負契約約款に関する詳細情報
https://www.mlit.go.jp/common/000004788.pdf

契約締結時の注意事項とクーリングオフ制度

工事請負契約の締結時には、いくつかの重要な注意事項があります。特に、約款に関する説明は契約の適正性を確保する上で極めて重要です。約款とは、工事請負契約書には記載されていない、より細かい取り決めが記載されている文書のことで、トラブルが発生した際の対応方法や補償方法などが詳細に規定されています。

 

契約締結時に注意すべき業者の特徴として、以下の点が挙げられます。

  • 工事請負契約約款を渡さない業者
  • 約款の内容を読ませない業者
  • 契約内容の説明を十分に行わない業者

このような業者はトラブルがあった際、補償や対応が適切ではない可能性があるため、契約を行う際は特に注意が必要です。

 

契約書への署名・押印は契約成立の重要な要件です。法律上は請負契約となるため、当事者の一方が工事を完成することを約束し、もう一方が仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束する契約となり、工事請負契約書に署名押印した時点で契約に同意したとみなされます。

 

建設業法では、後日紛争が生じないよう、書面の交付が義務付けられています。契約書に署名・捺印がない場合、トラブルが起きた際に証拠として扱われないため、必ず行うようにする必要があります。また、工事金額に応じた収入印紙の貼付も忘れてはならない重要な手続きです。

 

クーリングオフ制度については、工事請負契約においても一定の条件下で適用される場合があります。特に訪問販売による契約の場合、契約書面を受け取った日から8日間以内であれば、無条件で契約を解除することが可能です。ただし、すべての工事請負契約にクーリングオフが適用されるわけではないため、契約の性質や締結状況を十分に確認することが重要です。

 

請負工事契約約款の実務上の活用戦略

実務において請負工事契約約款を効果的に活用するためには、単に標準約款を使用するだけでなく、個別の工事の特性や当事者の状況に応じたカスタマイズが重要です。特に、予期しない事態への対応策を事前に織り込むことで、工事の円滑な進行と適正な収益確保が可能になります。

 

工事現場では様々な不測の事態が発生する可能性があります。

  • 発注者からの設計変更が急に入った場合
  • 他業者の工事が遅れて予定通り作業に入れない場合
  • 天候や自然災害で作業ができない日が続いた場合
  • 地中障害物の発見による工事内容の変更

これらの事態に対して、約款で明確なルールを定めておくことで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、適正な追加費用や工期延長の交渉が可能になります。

 

設計変更による追加工事や発注者の都合による工期延長については、契約時点で「どこまでが請負の範囲なのか」「追加で発生した工事はどう扱うのか」を約款で明確にしておくことが、双方にとってリスクを減らすことに繋がります。

 

また、実務上重要なのは、約款の内容を工事関係者全員が理解していることです。現場監督や職人だけでなく、営業担当者や事務スタッフも約款の基本的な内容を把握しておくことで、顧客からの問い合わせや変更要求に対して一貫した対応が可能になります。

 

契約締結後の変更管理も約款活用の重要な側面です。工期の変更については、発注者と請負者が協議して定めることが基本ですが、協議開始から一定期間内に協議が整わない場合の処理方法も約款で明確にしておく必要があります。

 

さらに、下請け業者との関係においても、元請けとしての責任と権限を約款で明確にすることが重要です。元請けである施工会社が他の施工会社に工事を依頼する際には、工事請負契約書ではなく下請契約書で契約を締結しますが、この際も標準約款の考え方を応用することで、適正な契約関係を構築できます。

 

建設業法に基づく標準請負契約約款の詳細解説
https://tokyo-startup-law.or.jp/magazine/category02/kojiukeoi/