
横壁アンカー工法は、ALCパネルを横方向に張る際に用いられる施工方法です。以前は「横壁ボルト止め構法」と呼ばれていましたが、改定に伴い現在の名称となりました。この工法の最大の特徴は、地震や強風などによって生じる躯体の層間変形に対して、上下段のALCパネルが相互に水平方向にずれることで追従する点にあります。
この構法は、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)などの建築物において、正の風圧力2000N/㎡、負の風圧力1600N/㎡までの外壁に適用可能です。ALCパネル内部に設置されたアンカーと取付金物をボルト止めして躯体に固定する方式を採用しており、パネルの重量は3~5段ごとに取り付ける自重受け金物が支持します。
横壁アンカー工法の優れた点は、パネルが個別にずれることでパネルに過大な応力がかからず、追従性が高いことです。これにより、建物の安全性が向上し、ALCパネルの損傷リスクを低減させることができます。
横壁アンカー工法を施工する際、ALCパネルと躯体との間の適切なクリアランス確保は非常に重要です。ALCパネルを支持する柱および間柱の外面とALCパネル裏面との間には、鉄骨建方誤差の吸収や柱周りのダイアフラム等の突起物を回避するため、適切なクリアランスを設ける必要があります。
標準的なクリアランスとしては、柱とALCパネル裏面とのクリアランスは70mm以上、間柱とALCパネル裏面とのクリアランスは25mm以上を確保することが推奨されています。また、梁部分については、梁成が大きくなると梁の中央部分に取付く取付金物を締め付けるために、クリアランスを100mm~150mmとする場合もあります。
このクリアランスを確保するために、定規アングルなどの下地鋼材を設けて調整することが必要です。クリアランスが不適切な場合、ALCパネルの施工精度に悪影響を与えるだけでなく、地震時の変形追従性能が損なわれる可能性があるため、施工図に基づいた正確な設置が求められます。
ALCパネルの外壁施工において、横壁アンカー工法と並んでよく用いられるのが縦壁ロッキング構法(CDR構法とも呼ばれる)です。両者の最大の違いは、パネルの取付方向と変形追従のメカニズムにあります。
縦壁ロッキング構法では、ALCパネルを縦方向に張り、パネルの上下を躯体に固定します。地震や風などによる躯体の変形に対して、各パネルが1枚ごとに微少回転して面内方向に追従します。一方、横壁アンカー工法では、ALCパネルを横方向に張り、柱または間柱に短辺を固定し、上下段のパネルが水平方向にずれることで変形に追従します。
選択基準としては、以下の点が挙げられます。
それぞれの工法に特徴があるため、建物の条件や要求性能に応じて適切な工法を選択することが重要です。また、各メーカーにより同じ工法でも呼び方や取付方法、取付金具に違いがあるため、使用するALCパネルのメーカー仕様に合わせた施工が必要です。
横壁アンカー工法の施工は、適切な手順と注意点を守ることで品質と安全性を確保できます。以下に基本的な施工手順と各段階での注意点を説明します。
施工時の主な注意点としては、以下が挙げられます。
これらの手順と注意点を守ることで、横壁アンカー工法の性能を最大限に発揮させることができます。
横壁アンカー工法の最大の特長は、地震時における優れた変形追従性能です。地震によって建物の躯体に層間変形が生じた場合、上下段のALCパネルが相互に水平方向にずれることで、パネル自体に過大な応力が発生するのを防ぎます。
地震時の挙動を詳しく見ると、横壁アンカー工法では以下のような特性があります。
実際の地震被害調査からも、適切に施工された横壁アンカー工法のALCパネルは、大地震時にも脱落などの重大な被害が少ないことが確認されています。ただし、施工不良や経年劣化によって取付金物やシーリングの性能が低下している場合は、本来の性能が発揮されない可能性があるため、定期的な点検と適切なメンテナンスが重要です。
横壁アンカー工法で施工されたALCパネル外壁の長期耐久性を確保するためには、適切なメンテナンスが不可欠です。ALCパネル自体は耐久性に優れていますが、取付金物やシーリング材などは経年劣化するため、計画的な点検と補修が必要となります。
メンテナンスの主なポイントは以下の通りです。
長期耐久性を向上させるためのポイントとしては、以下の点に注意が必要です。
これらのメンテナンス対策を計画的に実施することで、横壁アンカー工法で施工されたALCパネル外壁の耐久性を大幅に向上させることができます。特に、地震や強風などの外力に対する追従性能を長期間維持するためには、取付金物とシーリング材の状態維持が重要です。
横壁アンカー工法は基本的な構造は変わらないものの、時代とともに技術的な進化を遂げています。近年の技術革新により、施工性の向上や耐久性の強化、環境負荷の低減などが図られています。
最新の技術動向としては、以下のような点が挙げられます。
例えば、ケイミューシポレックス株式会社のSDR横壁構法では、独自の取付ファスナーにより、パネルが1枚ごとにスライドして構造躯体に柔軟に追従する仕組みを採用しています。また、パネル自重受け部にオワンプレートを採用することで、柱の変位によるパネルの欠けや亀裂を防止する工夫がなされています。
これらの技術革新により、横壁アンカー工法はより安全で耐久性が高く、施工性に優れたシステムへと進化しています。今後も、デジタル技術の活用や新素材の開発により、さらなる進化が期待されています。
ケイミューシポレックス株式会社のSDR横壁構法に関する詳細情報
横壁アンカー工法は多くの建築物で採用されていますが、特に高層ビルやマンション、工場、商業施設などで多く見られます。ここでは、実際の施工事例とその成功ポイントについて紹介します。
オフィスビルでの施工事例
東京都内の14階建てオフィスビルでは、横壁アンカー工法によるALCパネル外壁が採用されました。この建物は、都心部の狭小地に建設されたため、施工スペースが限られていました