

アクリル止水注入材の強みは、低粘度・高い流動性で微細なひび割れや空隙に入り込み、充填・閉塞して止水する点にあります。特に水性アクリル系エマルジョンの例では「微細なひび割れ・空隙にまで入り込み、閉塞・充填する」ことが明記されています。さらに“みず道”を溯って浸入箇所側へ到達し得る、という考え方が提示されており、漏水点が室内側で見えていても原因の水の経路全体へ作用させる設計が特徴です。これは「どこから入ってきたか分からない」地下躯体の漏水で効きやすい理由の一つになります。根本原因が打継ぎ・セパ穴・ジャンカ等で複合している現場では、局所の表面処理だけだと“別の弱点”から再漏水しやすく、経路全体の閉塞という発想が効いてきます。
止水注入は「固まれば勝ち」ではなく、固まるまでの時間(ゲルタイム)が施工の成否を左右します。ゲルタイムは、クラックへ行きわたるまで流動性を保ち、行きわたった後に速やかに硬化するのが理想で、要求性能として「5分以上20分以下」を設定した事例があります。温度と混合率でゲルタイムが変動し、低温では要求を下回るケースがあるため“材料を温める必要”がある点まで踏み込んで示されています。冬期・夜間・躯体が冷えた地下ピットでは、体感以上に材料温度が落ちやすく、想定より反応が鈍る(あるいは逆に、別系統の促進条件で早まりすぎる)ことがあるため、現場では「材料温度」「躯体温度」「漏水量(冷却)」をセットで見るのが安全です。
意外と見落とされがちなのは、「水圧に負けない」性能は材料スペックだけでなく、充填体の連続性(未充填域が無いこと)で決まる点です。ゲルタイムが短すぎて到達前に固まると、注入孔近傍だけが固化して“栓”になり、先へ行かずに止水が未達になります。逆に遅すぎると、材料が流されてロスが増え、周辺へ不要に回り込みやすく、後工程(仕上げ・美観)にも影響が出ます。だからこそ、注入材の選定時点で「温度域」「混合比」「想定漏水量」「狙う空隙スケール」を揃えて、ゲルタイムを“現場の勝てる時間”に合わせるのが実務的です。
参考:材料の要求性能(伸び・付着・ゲルタイムの考え方)がまとまっている(材料設計・品質の根拠として使える)
https://www.j-cma.jp/j-cma-pics/10008337.pdf
止水注入の基本動作は、漏水のあるクラックや打継部に対し、注入孔を削孔して注入経路を作り、高圧プラグを取り付け、専用ノズルで止水材を高圧注入する流れです。水性アクリル系注入式止水材の資料では、注入穴削孔→注入用高圧プラグ取付→止水剤高圧注入→仕上げ、という施工手順が具体的に示されています。削孔では「削孔穴が漏水経路を横断するように」「注入孔は斜め」「間隔は200〜250mm」といった、現場でそのまま使える目安が記載されています。削孔粉の除去(エアーブローまたは水洗い)も明記されており、ここを疎かにするとプラグ座り不良、注入圧の逃げ、浸透阻害につながるため重要です。
高圧注入の圧力レンジも具体例があり、同資料では「150〜350kg/cm2」で注入する記載があります。注入圧は高ければ良いわけではなく、周辺躯体との兼ね合いがあるので相談、と注意喚起されています。圧を上げるほど「到達性」は上がる一方で、弱い躯体(ジャンカ、レイタンス、かぶり不足、脆弱な目地)では“材料で割ってしまう”リスクも上がります。現場では、圧力計の数値だけでなく、吐出量の立ち上がり、戻り(クラックからの流出や隣孔からの返り)、漏水量の変化を同時に観察し、圧と流量のバランスで判断するのが実際的です。
また、注入は「端部から片押しで行い、クラックからの止水剤の流出を確認しながら順次」とされており、注入順序の思想が含まれています。片押しは、未注入域へ材料を押し進めるための段取りで、行き当たりばったりに孔を打つと、材料が近い空隙に偏って“遠い原因”に届かないことがあります。特に“みず道”が打継→セパ→豆板のように連通している場合、圧のかけ方と順序の差が止水の再現性を大きく変えます。施工者が変わっても品質が揃う現場は、たいてい「削孔計画」と「注入順序」が図面化され、現場で共有されています。
参考:削孔ピッチ、注入圧、仕上げまでの施工手順が明確(施工計画書・手順書の根拠に使える)
http://www.sansei-chem.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/07/3096117c66d2d60304ed59671e6667d7.pdf
裏面注入止水工法は、「漏水している室内側」から直接ふさぐだけでなく、躯体コンクリートの劣化損傷部に注入剤を充填し、水みちを閉塞し、さらに躯体裏面に遮水層を形成して長期安定した止水を狙う考え方です。水性アクリル系の資料では、地下躯体の漏水原因として打継、セパレータ跡、連通管、欠損・ジャンカ、収縮ひび割れ等が列挙され、漏水箇所の特定が困難になりがちな背景(内装・設備が原因究明を妨げる)まで説明されています。つまり裏面注入は「原因点を完璧に特定してピンポイントで塞ぐ」のではなく、“みず道を遡って”経路側へ材料を回し込むことで、複合原因でも止めにいく戦略です。ここが、シーリングや表面被覆だけでは止まりにくい現場で、注入が選ばれる理由になります。
裏面注入が効きやすい場面は、漏水点が一点でも原因が複数(打継とセパと微細クラックが連通)になっているケースです。部分的な止水はできても別の脆弱部から新たな漏水につながる事例が多い、という問題提起が資料内にあり、裏面注入が“面”で効かせる発想であることが読み取れます。さらに「既存を現状維持のまま施工できる」「既存防水層が水に浸っている場合でも良好に施工可能」など、撤去が難しい環境での適用性が強調されています。地下駐車場やエレベータピットのように、止めるために設備や仕上げを大きく撤去すると費用も工期も跳ねる現場では、この性格が大きな価値になります。
一方で、裏面注入は“万能”ではありません。材料がどこまで回ったかは目視できないため、注入設計(孔位置・順序・圧・材料の硬化設計)と、施工中の観察(返り、漏水量の変化、周辺からのにじみ)で確認し、必要なら追加孔を打つ判断が重要です。止水後に硬化確認し、プラグ撤去部をポリマーセメントモルタル等で仕上げる、といった後処理まで含めて、漏水だけでなく躯体保護・美観・保全性を整えるのが実務です。資料では硬化後「約12時間」で止水効果確認→仕上げ、という目安も示されています。夜間施工や稼働中施設では、硬化確認のタイミングを工程に織り込まないと「止まった前提で復旧」して翌日再漏水、という事故が起きやすいので、工程表の段階で“確認時間”を確保しておくのが安全です。
品質管理でまず押さえるべきは、材料の混合・温度・使用条件が性能に直結する点です。水性アクリル系の例では、硬化促進のためにゲル化剤の添加(3〜5%)が示され、注入では「アルファー・ゾル-Gとゲル化剤を100:5で混合」して高圧注入する例が記載されています。さらにゲル化剤が粘稠であるため「水で1:1に希釈して使用」といった実務的注意もあり、混合手順や希釈の有無で作業性が変わることが分かります。ここを現場任せにすると、同じ材料名でも日によって粘度・ゲルタイムがブレて、止水結果が安定しません。したがって「混合比」「攪拌時間」「材料温度」「使用推奨温度帯」を記録し、ロット・日報に残すのが再現性につながります。
安全面では、材料の性状・法規・火気リスクの整理が欠かせません。水性アクリル系エマルジョン製品の資料では「火気による危険性物質を一切含まず、特定化学物質にあたるものも使用していない」と記載されています。もちろん、これで“無対策で良い”にはなりませんが、溶剤系と比較したときに、換気・臭気・火気管理の負担が小さい方向に設計されていることが読み取れます。地下躯体では換気がボトルネックになりやすいため、材料選定段階でこの性格を評価できると、施工計画が現実的になります。
さらに、追従性(地震・振動・温度変化)も品質の一部です。別の止水工法資料では、石油樹脂・アクリル系材料を主体とした工法が、伸び・付着強度に優れ、変位による目地クラックの開きに追随するという特徴が示されています。要求性能として破断時伸び200%以上、という設定思想も紹介され、地震等で1mmのひび割れが3mmになっても追随できるという具体化がされています。漏水は「止めた時点」よりも「供用中に再発しない」ことが重要なので、施工後の伸び・付着・耐久の考え方まで含めて説明できると、上司チェックや施主説明でも説得力が増します。
検索上位の解説では「施工手順」「材料の流動性」「みず道を追う」といった話が中心になりがちですが、寒冷地や冬期施工の現場では“低温”が止水の結果を大きく左右します。材料設計の資料では、ゲルタイムの要求性能(5〜20分)を下回る条件があり、その場合は「材料を温める必要がある」と明記されています。つまり、温度は単なる作業環境ではなく、材料反応の成立条件そのものです。長野のような寒冷地で地下躯体の躯体温度が低いケースでは、材料だけを室内で温めても、注入直後に躯体と漏水で冷却されるため、狙ったゲルタイムから外れる可能性があります。現場では“材料温度”だけでなく、“吐出直後の実効温度”を意識し、保温箱、温調、配管保温、施工時間帯の選定などで対策する価値があります。
もう一段踏み込むと、供用中の耐久性として「凍結融解」の影響を見ておくと、説明力が上がります。石油樹脂・アクリル系材料を用いた工法資料には、凍結融解試験(JIS A 1148に準じた温度サイクル設定)を行い、0〜150サイクルの間で引張強さが大きく変化しない、という試験結果が示されています。さらに付着強度は0〜60サイクルの間で20%程度低下が発生したが、要求性能(水深50m相当の0.5N/mm2)以上だった、という整理もあります。一般的な漏水補修の説明では、こうした「冬を越した後にどうなるか」まで触れないことが多いので、寒冷地や外周部に近い地下構造物を扱う建築従事者にとっては、見積説明や工法選定の説得材料になります。
意外な落とし穴として、低温対策は「硬化を早める」だけでは足りません。硬化を早めすぎると、到達前に固まり未充填が残るリスクが増えます。したがって、温調と促進はセットで設計し、試験注入(小区画)で“返り方”と“止まり方”を確認してから本施工へ移るのが安全です。材料の要求性能を満たしていても、現場条件がそれを外すと、材料が悪いのではなく“条件が違う”だけで失敗が起きます。低温・凍結融解という視点を最初から施工計画に入れておくことが、結果的に工期短縮と手戻り削減につながります。