
安全靴のJIS規格(JIS T8101)では、着用者のつま先を先芯によって防護し、滑り止めを備える靴として定義されています。基本性能として3つの必須項目が定められており、これらすべてをクリアした製品のみが「安全靴」として認定されます。
基本性能3項目:
作業の危険度に応じて4つの区分に分かれており、それぞれ異なる性能基準が設定されています:
作業区分 | 記号 | 耐圧迫荷重 | 衝撃エネルギー | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
超重作業用 | U種 | 15±0.1kN | 200J | 重機械操作、鉱業 |
重作業用 | H種 | 15±0.1kN | 100J | 建設現場、製造業 |
普通作業用 | S種 | 10±0.1kN | 70J | 一般工場、倉庫 |
軽作業用 | L種 | 4.5±0.04kN | 30J | 軽作業、サービス業 |
建築現場では一般的にS種が使用されており、落下高さ36cmからの20kg重量物による衝撃に耐える設計となっています。
JIS規格では材料による区分も重要な要素となっており、クラスⅠ(革製)とクラスⅡ(総ゴム製・総高分子製)の2つに分類されます。
クラスⅠ(革製安全靴)の特徴:
クラスⅡ(総ゴム製・総高分子製)の特徴:
先芯については、従来の鋼製から軽量な樹脂製への移行が進んでいます。樹脂製先芯は鋼製と同等の保護性能を維持しながら、約30~40%の軽量化を実現し、長時間作業での疲労軽減に貢献します。また、金属探知機に反応しない特性から、食品工場や空港などの特殊環境でも使用可能です。
試験時の中底と先芯のすきまも厳格に規定されており、足のサイズに応じて12.5mm~15.0mmの範囲で設定されています。これにより、つま先部分の適切な保護空間が確保されます。
基本性能に加えて、特殊な作業環境に対応するための付加機能が13種類定められています。これらの機能は単独または組み合わせて使用することが可能です。
主要な付加機能:
電気関連の付加機能:
温度対応機能:
これらの付加機能は、作業現場の具体的なリスクに応じて選択する必要があります。例えば、鉄筋が散乱する建築現場では耐踏抜き性(P)が、油を扱う機械工場では耐燃料油性(BO)が重要となります。
複数の付加機能を組み合わせる場合、わかりやすさのためにカテゴリー表示(PB・P1~P5)システムが採用されています。これにより、複雑な機能組み合わせを簡潔に表現できます。
主要カテゴリーの特徴:
カテゴリー | 材料区分 | 主な付加機能 | 適用現場 |
---|---|---|---|
PB | クラス1&2 | 基本性能のみ | 一般作業現場 |
P1 | クラス1 | E+BO+クリート | 油を扱う現場 |
P2 | クラス2 | E+BO+P+クリート | 総合的な危険現場 |
P3 | クラス1&2 | E+BO+P+H | 高温・油・踏抜きリスク |
P4 | クラス1&2 | E+BO+クリート | 油・衝撃吸収重視 |
P5 | クラス2 | E+BO+P+クリート | 最高水準の保護性能 |
このカテゴリー表示により、現場責任者は作業環境に最適な安全靴を効率的に選択できます。特にP5カテゴリーは、建築現場でも特に危険度の高い解体作業や重機周辺作業に適用されることが多いです。
2020年の規格改正では、試験方法がJIS T8107として独立制定され、より詳細な試験基準が設けられました。これにより、製品の品質管理がより厳格になり、使用者の安全性向上につながっています。
正規のJIS規格安全靴の見分け方として、中敷と靴底への表示が義務付けられています。これらの表示は偽装防止と品質保証の重要な役割を果たしています。
正規品の識別ポイント:
近年、安全性能をうたった先芯入りスニーカータイプの中に、「安全靴のJIS規格品」と誤解を与えるような表示をした製品が増加しています。これらの製品は、見た目は安全靴に似ていても、JIS規格の厳格な試験をクリアしていない場合があります。
偽装品の危険性:
建築現場では、作業員の生命に直結する重要な保護具として機能するため、必ずJIS認定マークが確認できる製品を選択することが不可欠です。特に、現場管理者は定期的に使用している安全靴の表示確認を行い、規格外製品の混入を防ぐ体制作りが求められます。
購入時には、信頼できるメーカーの正規販売店から購入し、製品に付属する認定証明書の確認も重要なポイントとなります。価格の安さだけで判断せず、作業員の安全確保を最優先に考えた選択が必要です。