アスファルトルーフィングと建築防水の基礎知識
アスファルトルーフィングの基本
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防水の要
建築物の屋根や壁面に使用される防水シートで、雨水の侵入を防ぎ建物を保護します
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主な種類
アスファルトルーフィング、改質アスファルトルーフィング、透湿ルーフィングなど用途に応じて選択します
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耐久性
種類によって耐久年数が異なり、改質タイプは最長60年の超高耐候性を誇ります
アスファルトルーフィングの種類と構成の基本
アスファルトルーフィングは、建築物を雨水から守る重要な防水材料です。その歴史は約120年にも及び、長年にわたって建築防水の中心的役割を担ってきました。アスファルトルーフィングは大きく分けて3種類に分類されます。
- アスファルトルーフィング(JIS A 6005規格)
- 芯材(ラグ原紙)にアスファルトを浸透・被覆し、表裏面に鉱物質粉粒を付着
- 単位面積質量により「430」「940」「1500」に区分
- 用途別の特徴。
- アスファルトルーフィング430:外壁下張材として使用(アスファルトフェルト)
- アスファルトルーフィング940:屋根下葺材として最も一般的
- アスファルトルーフィング1500:建築防水材として使用
- ストレッチルーフィング
- 伸縮性に優れた特殊な原紙を使用
- 官公庁仕様の防水材やメーカー保護仕様の防水材として使用
- 改質アスファルトルーフィング(JIS A 6013規格)
- 改質アスファルトに合成繊維不織布を補強材として使用
- 工法により「改質アスファルトルーフィング」と「粘着層付改質アスファルトルーフィング」に分類
アスファルトルーフィングの構造は、防水紙やフェルト、不織布などの基材にアスファルトを浸透させたものです。アスファルト自体の防水機能と基材の性能によって、雨水の侵入を効果的に防止します。
アスファルトルーフィングの施工手順と注意点
アスファルトルーフィングの施工は、建物の防水性能を左右する重要な工程です。正しい施工手順と注意点を押さえることで、長期間にわたって建物を守ることができます。
施工の基本手順:
- 準備作業
- 約20kgあるルーフィングのロールを屋根上に荷上げ
- 60平米前後の屋根では5〜6本(100〜120kg)のルーフィングが必要
- 屋根カバー工法の場合は、棟板金・貫板・雪止めなどの役物を撤去し、平らな状態に
- 施工の方向性
- 「軒先から棟へ」「下から上へ」という基本原則に従って施工
- 軒先から貼り始め、段階的に上へと進む
- 重ね合わせ
- 上下(流れ方向):100mm以上の重ね
- 左右(長手方向):200mm以上の重ね
- 棟部:左右に200mm以上折り掛け、棟頂部から左右250mm以上の増し張り
- 谷部:左右250mm以上の1枚ものを先張りし、左右重ね合わせ谷底から200mm以上伸ばす
- 壁面との取り合い部:壁面に沿って250mm以上立ち上げる
- 留め付け
- 重ね合わせ部は300mm間隔程度
- その他の部分はタッカー釘などで留め付け
施工時の注意点:
- 特に棟部や谷部は雨漏りが発生しやすい箇所のため、アスファルトルーフィングを2重3重に重ね合わせる
- 木造住宅の標準的基準「フラット35の技術基準(木造住宅工事仕様書)」に基づいた施工が推奨される
- 施工不良は将来的な雨漏りの原因となるため、専門業者による確実な施工が必要
適切な施工がされたアスファルトルーフィングは、建物の寿命を大きく左右します。特に棟部や谷部などの雨水が集まりやすい箇所は、入念な施工が求められます。
改質アスファルトルーフィングの特長と耐久性
改質アスファルトルーフィングは、従来のアスファルトルーフィングの弱点を克服した高性能な防水材です。アスファルトの融点の低さや温度変化による劣化という課題に対応するため開発されました。
改質アスファルトルーフィングの主な特長:
- 耐久性の向上
- ゴム、合成樹脂、ポリマー、プラスチックなどを混入させることで耐久性を大幅に向上
- 一般的な耐久年数は20年以上、グレードによっては60年という超高耐候性を実現
- アスファルトルーフィング940と比較して、はるかに長寿命
- 強化された構造
- 不織布が取り入れられているため、破れにくい構造
- 合成繊維不織布を補強材として使用し、物理的な強度も向上
- 高い止水性
- アスファルトに合成ゴムや合成樹脂を混入した改質アスファルトを使用
- 止水性を高めた設計となっており、防水性能が大幅に向上
- 温度変化への対応力
- 通常のアスファルトは夏季に柔らかくなり冬季に硬化するという問題がある
- 改質アスファルトはこの状態変化による劣化を克服し、年間を通じて安定した性能を発揮
規格と品質保証:
改質アスファルトルーフィングは、JIS規格ではなく、一般社団法人日本防水材料協会(JWMA)アスファルト防水部会が規格化しています。「ARK 04 s」はJWMAが認めた最低限の推奨品質とされており、この規格に適合した製品を選ぶことが重要です。
適した用途:
改質アスファルトルーフィングは、特に化粧スレート屋根やアスファルトシングルなど、野地合板に空気層のない屋根材との相性が良いとされています。防水性能を最優先する場合に最適な選択肢です。
アスファルトルーフィングの建築における役割と重要性
アスファルトルーフィングは、表面からは見えない部分ですが、建築物の寿命と安全性を大きく左右する重要な役割を担っています。
建築物を守る防水の要:
- 雨漏り防止の最後の砦
- 屋根材に万が一の不具合があっても、アスファルトルーフィングが雨水の侵入を防ぐ
- 建物内部への水の侵入を防ぎ、構造体を保護
- 建物劣化の防止
- 木材の腐食防止:雨水が木部に達すると腐食が始まるが、ルーフィングがこれを防ぐ
- コンクリート保護:鉄筋コンクリート構造では、雨水の侵入による鉄筋の錆びを防止
- 結露対策としての役割
- 外部からの雨水だけでなく、内部結露による湿気からも建物を保護
- 適切な防湿・防水層として機能
建築基準と品質保証:
アスファルトルーフィングは、建築基準法や住宅金融支援機構(フラット35)の技術基準にも組み込まれており、適切な施工が求められています。特に「木造住宅工事仕様書」には、アスファルトルーフィングの施工方法が詳細に規定されています。
検査と品質管理:
建築検査では、アスファルトルーフィングの施工状態が重要なチェックポイントとなっています。特に棟部や谷部などの雨漏りが発生しやすい箇所は、入念な検査が行われます。適切に施工されたアスファルトルーフィングは、将来的な雨漏りのリスクを大幅に低減します。
アスファルトルーフィングと断熱工法の組み合わせによる省エネ効果
近年の建築では、防水性能だけでなく断熱性能も重視されています。アスファルトルーフィングと断熱工法を適切に組み合わせることで、建物の省エネ効果を高めることができます。
屋根の断熱工法の種類:
- 外断熱工法
- 屋根スラブの外側に断熱材を設置
- 外気温の変化から構造体を守る効果
- 断熱材の上に防水層を設置する「断熱露出防水工法」と、防水層の上に断熱材を設置する「断熱押え防水工法」がある
- 内断熱工法
- 屋根スラブの内側に断熱材を設置
- 冷暖房の立ち上がりが早いという特長
- 構造体の温度変化が大きく、結露リスクがある
断熱材とアスファルトルーフィングの組み合わせ:
使用する断熱材の種類によって、アスファルトルーフィングとの組み合わせ方が異なります。
- 硬質ポリスチレンフォームの場合
- 吸水性が小さく、圧縮強度が高い
- 断熱材の上に保護コンクリートを打設する工法(歩行用)に適している
- 屋根の構成:屋根スラブ→防水層→断熱材→仕上げ材(押えコンクリート等)
- 硬質ポリウレタンフォームの場合
- 断熱性能は高いが、吸水性が比較的大きく、圧縮強度もそれほど大きくない
- 露出防水工法に適している
- 屋根の構成:屋根スラブ→(防湿層)→断熱材→防水層→(高日射反射塗料)
省エネ効果と環境配慮:
適切な断熱工法とアスファルトルーフィングの組み合わせにより、以下のような効果が期待できます。
- 冷暖房効率の向上による省エネルギー
- 屋根面からの熱損失・熱取得の抑制
- 建物内部の温度環境の安定化
- 結露防止による建物の長寿命化
特に改質アスファルトルーフィングと高性能断熱材の組み合わせは、長期的な視点で見ると、初期コストは高くても維持管理コストの低減につながり、サステナブル(持続可能)な建築に貢献します。
アスファルトルーフィングの選定基準と屋根材との相性
アスファルトルーフィングを選ぶ際には、屋根材との相性や建物の条件を考慮することが重要です。適切なルーフィングの選定は、建物の耐久性と防水性能を大きく左右します。
ルーフィング選定の重要ポイント:
- 屋根材よりも長寿命のルーフィングを選ぶ
- ルーフィングの寿命が屋根材より短いと、屋根材がまだ使用可能でも交換が必要になる
- 瓦のような再利用可能な屋根材以外では、屋根材も新調する必要が生じる
- 入居期間や建物の使用予定期間も考慮して選定する
- 屋根材との相性
- 化粧スレート屋根:改質アスファルトルーフィングが推奨される
- アスファルトシングル:改質アスファルトルーフィングとの相性が良い
- 瓦屋根:透湿ルーフィングも選択肢となる
- 金属屋根:耐熱性の高いルーフィングが必要
- 気候条件の考慮
- 積雪地域:耐久性の高い改質アスファルトルーフィングが適している
- 高温多湿地域:温度変化に強い改質アスファルトルーフィングが推奨される
- 寒冷地:低温でも柔軟性を保つ改質アスファルトルーフィングが適している
各種ルーフィングと屋根材の組み合わせ表:
ルーフィングの種類 |
適した屋根材 |
耐用年数 |
特徴 |
アスファルトルーフィング940 |
一般的な屋根材全般 |
10〜15年 |
コストパフォーマンスに優れる |
改質アスファルトルーフィング |
化粧スレート、アスファルトシングル |
20〜60年 |
高い防水性と耐久性 |
透湿ルーフィング |
瓦屋根、通気工法の屋根 |
10〜30年 |
内部結露を防ぐ |
コスト比較と長期的視点:
初期コストだけでなく、メンテナンスコストや交換頻度も含めた長期的な視点での比較が重要です。高品質な改質アスファルトルーフィングは初期コストは高くなりますが、耐久性が高いため長期的にはコストパフォーマンスに優れる場合があります。
また、屋根材の寿命とルーフィングの寿命のバランスを考慮することで、無駄なコストを抑えることができます。例えば、30年耐久の屋根材に対して60年耐久のルーフィングを使用するのは過剰投資になる可能性があります。
建物の用途や予定使用期間、予算などを総合的に判断し、最適なアスファルトルーフィングを選定することが重要です。