ブレース ターンバックル接合で実現する耐震補強

ブレース ターンバックル接合で実現する耐震補強

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ブレース ターンバックル構造

この記事で分かる3つのポイント
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ターンバックルの構造と役割

丸鋼ブレースのたわみ防止と保有耐力接合を実現する金物の仕組み

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JIS規格に基づく品質基準

JIS A 5540が定める建築用ターンバックルの性能要件と種類

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施工手順とトルク管理

適正な張力導入と締付けトルクによる品質確保の方法

ブレース ターンバックルの基本構成

 

建築用ターンバックルは、丸鋼ブレースの耐震性能を最大限に引き出すために設計された金物です。ターンバックル胴、羽子板プレート、ターンバックルボルト(丸鋼にねじを切ったもの)の3つの主要部材で構成されています。ターンバックル胴には左右のねじが切ってあり、右ねじと左ねじが逆回転で締め付けられる仕組みになっています。
参考)https://www.kondotec.co.jp/products/turnbuckles/

羽子板プレートはターンバックルボルトの先端に溶接されており、柱や梁から出るガセットプレートと取り合う接合部となります。この構造により、1本の長いブレースを2本に分割して長さを半分にし、自重によるたわみを防止できます。ブレースがたわむと所定の性能が発揮されないため、ターンバックルによる一体化が不可欠です。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/koukouzou-tanbakkuru.html

丸鋼ブレースは引張材として用いられるため、φ10~16程度の小径が使用されます。曲げ剛性が小さい丸鋼は、長さが長くなると自重でたわむ恐れがあるため、ターンバックルによる中間支持が必要になります。ただし、たわみの恐れがない短いブレースでは、施工性の観点を除けばターンバックルは不要な場合もあります。​

ブレース ターンバックル耐震性能の仕組み

建築用ターンバックルの最重要機能は、保有耐力接合を満足することです。保有耐力接合とは、軸部が降伏する場合において端部・接合部が破壊しない性能を指します。丸鋼の耐力を十分に発揮する前に、ネジ部や接合部が破断してはならないため、JIS A 5540に規定された建築用ターンバックルブレースが標準仕様となっています。
参考)https://mono.ipros.com/cg2/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AB/

ターンバックルは耐震部材として十分な塑性変形性能を保有する必要があり、軸部の十分な塑性化を確保するために、胴、羽子板およびねじ部は軸部の耐力を上回らなければなりません。炭素鋼製品および溶融亜鉛めっき付き炭素鋼製品では、ターンバックルボルト軸部以外の各部の強度が、丸鋼の軸部最小寸法を基準とした断面積と軸部引張強さの最小値(400N/mm²)の積を上回るように設計されています。
参考)https://naniwa-iron.com/2021/04/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AB%E6%8A%80%E8%A1%93%E8%B3%87%E6%96%99%E8%A6%8F%E6%A0%BC%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E2%91%A1/

ステンレス鋼製品の場合、軸部引張強さの実態値が600~650N/mm²と高いため、各接合部の強度設計は軸部が十分な塑性変形性能を発揮するまでの必要性能を考慮して行われます。ステンレス鋼素材の引張強さの最小値(520N/mm²)を上回る強度が確保され、ターンバックル胴については550N/mm²に対応する強度以上と設計されています。​

ブレース施工における締付け手順

ターンバックルの施工は、支圧接合であるため適正な張力を導入した後に取付けボルトを締付ける必要があります。具体的な手順は、①取付けボルトの仮止め、②ターンバックルへの張力導入、③取付けボルトの締め付けの3段階で行います。最初に全体の建築用ターンバックルを素手で軽く締付け、全般にわたり緩みをなくすことから始めます。
参考)https://nikkenren.com/kenchiku/sekou/steel_frame_Qamp;A/B-1-10.pdf

次にバールまたはスパナ等を使用して、順次全体に均等な張力を導入します。導入張力は過大にならないよう注意しながら、すべての筋かいにできるだけ均等に与えることが重要です。一般的には50N/mm²程度の導入応力度を目標に締付けます。この張力を導入するためには、建築用ターンバックル胴の締付けトルクを管理します。​
締付けトルクの目標値は、過去の実験結果からねじの呼び径に応じて設定されており、トルクレンチまたは六角スパナを用いてターンバックルを反時計回りに回して締め付けます。施工マニュアルでは推奨トルク10N・mなどの具体的な数値が示されており、トルクレンチを使用しない場合でも工具で0.5回転程度の締め付けが必要です。ターンバックル胴の両側のナットを工具で締め付けて施工が完了します。
参考)https://www.tanakanet.co.jp/uploads/2023/02/660ef37174cb6a5d45d83d648ecd1b82.pdf

ブレース設計におけるJIS規格要件

JIS A 5540:2008は建築物の筋かいなどに用いる建築用ターンバックルについて規定しています。ターンバックルの形式は、ターンバックルボルトとターンバックル胴との種類の組合せによって決まり、規格番号、左ねじ・右ねじの記号、胴の種類、製品の区分、ねじの呼び×ターンバックルの呼び長さの順序で表記されます。
参考)https://kikakurui.com/a5/A5540-2008-01.html

ターンバックル胴はJIS A 5541に基づき、製品は使用する材料の鋼種に応じた性能を満たす必要があります。ねじの種類は一般メートルねじ並目ピッチが使用され、羽子板幅や羽子板長さの寸法でJISの認証を受けた製品が「フルブレース」などの名称で供給されています。
参考)https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_a_05540_000_000_2008_j_ed10_ch.pdf

長尺用ターンバックルの場合、1本の左ねじ羽子板ボルトと、右ねじ両ねじボルトと右ねじ羽子板ボルトを接続用ターンバックル胴で接続する構成になります。全国的に同レベルの納期・価格帯による供給体制が整っており、JISブレースによる耐震の安全性を安定して確保できる体制が構築されています。
参考)https://koyotanzo.co.jp/images/jis-standard-all.pdf

ブレースメンテナンスと品質管理の実務

丸鋼のブレースでは、ターンバックルの締め直しによって解決できる場合があります。被災後補修においても、ターンバックルブレースの締め直しによる性能回復が研究されており、内部応力の再配分による耐力回復が確認されています。これは定期的なメンテナンスの有効性を示す重要な知見です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/86/780/86_309/_pdf/-char/ja

品質管理においては、トルクデータを活用した管理システムが開発されています。無線送信機能を備えたデジタルトルクレンチとクラウドストレージを活用することで、ターンバックル回転時のトルクデータを遠隔地でもリアルタイムで共有するシステムが実用化されています。トルク値と支圧力には相関があることが実験で確認されており、トルク値による品質管理基準の設定が進んでいます。
参考)http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00057/2020/76-F-0005.pdf

施工現場では、ねじ部に潤滑油等を塗布すると作業性が向上します。また、ブレース交差部の金属音低減のための緩衝材を中央にセットするなどの配慮も行われています。取付けボルトには高力ボルトを使用し、ワッシャーを介して締め付けることで、支圧接合としての性能を確保します。
参考)https://www.tanakanet.co.jp/uploads/2023/02/b4f156c9c6a807d59bbb4ac3f8e6e97d.pdf

不動産従事者としては、これらの施工品質管理の実態を理解しておくことで、建物の耐震性能に関する適切な説明や維持管理計画の立案が可能になります。特に既存建築物の耐震診断や補強計画の検討において、ターンバックルブレースの状態確認と必要に応じた締め直しや交換の判断が重要となります。

 

建築構造の基礎:ターンバックルの意味と使い方の詳細解説
近藤鉄工:ターンバックル製品情報と耐震用ブレースの技術資料
JIS A 5540:2008 建築用ターンバックル規格の全文