高力ボルトの種類と規格・施工方法と管理・選定のポイント

高力ボルトの種類と規格・施工方法と管理・選定のポイント

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高力ボルトの基礎知識と施工管理

高力ボルトの基本ポイント
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高強度な接合部材

引張強さ800N/mm²以上の高強度を持ち、鉄骨構造の摩擦接合に使用される重要な部材です

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規格と種類

JIS B 1186規格の高力六角ボルト(F10T)と大臣認定のトルシア形高力ボルト(S10T)が代表的です

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適切な施工管理

トルク係数値の管理とマーキングによる締付け確認が品質確保の鍵となります

高力ボルトの種類と強度区分

高力ボルトは主に鉄骨構造の建築用に使われる強度の高いボルトで、一般的なSS400鋼材の引っ張り強さ400N/mm²に対し、低くても800N/mm²以上の強度を持っています。代表的な種類として、JIS B 1186で規定される高力六角ボルトF10T(強度区分10.9相当)と、国土交通大臣認定のトルシア形高力ボルトS10Tがあります。
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高力ボルトの表記では「F10T」や「S10T」の"10"が強度レベルを示し、建築鉄骨で一般的に使用される代表格となっています。トルシア形高力ボルトは、ナット側にスプライン付きの先端(ピンテール)があり、専用のシアレンチで締めると所定の締付けに達した時点でピンが破断して完了を知らせる仕組みです。従来のハイテンボルトの約1.5倍の超高耐力を実現したトルシア形超高力ボルト(S14T)も開発されており、ボルト継手のコンパクト化や工期短縮などのメリットが得られます。
参考)高力ボルトとは?現場で失敗しない選び方・締付け方法・規格を徹…

高力ボルトの種類とメーカー情報(Metoree)
主要メーカー23社の製品比較とランキングが確認できます。

 

ボルト・ナット・座金はセットで使うのが原則で、同一ロットの組み合わせで性能が出る設計となっています。単品の寄せ集めや他メーカーとの混用は性能を発揮できないため避けるべきです。高力ボルトには溶融亜鉛めっき高力ボルト(F8T)、耐候性高力ボルト、耐火鋼高力ボルトなどの特殊仕様も存在します。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/products/building/assets/pdf/binran/binran_chapter06.pdf

高力ボルトの施工方法と締付け手順

高力ボルトの施工には、接合面の摩擦による接合力を最大限に発揮させるため、適切な締付け手順が不可欠です。施工は予備締め(一次締め)、マーキング、本締めの3段階で行われます。
参考)高力ボルトとは – 種類・選定ポイント・施工時の注意点を解説

予備締めでは、ボルトを中央部から端部に向かって挿入し、トルクレンチを使って一定のトルク値(締付けトルク値の60%程度)で締め付けます。一次締め後には必ずマーキングを施し、ボルト・ナット・座金から部材表面にわたる一直線のマークを付けます。このマーキングは締め忘れの有無だけでなく、ナットの回転量や共回りの有無の確認にも利用される重要な管理項目です。
参考)ハイテンションボルト・高力ボルトの締付け方: 職人さんのお助…

本締めでは、専用のレンチを使ってマーキング終了後に締め付けを行います。トルシア形高力ボルトの場合、締付けトルクは常にピンテールの破断トルクに等しくなり、破断強度は破断溝の寸法とボルト強度で決められています。締付け後の検査では、ピンテール破断、ナット回転量、共回りや軸回りの有無を確認し、異常があれば原因究明と対策が必要です。
参考)https://www.nikkenren.com/kenchiku/sekou/steel_frame_Qamp;A/B-2-12.pdf

JFEスチール高力ボルト接合部資料(PDF)
高力ボルトの種類、機械的性質、ボルトの首下長さなど詳細な技術情報が記載されています。

 

施工前には接合面の浮きさび、油、泥などを取り除き、摩擦面を清掃・乾燥させることが必須です。接合面に油脂類が残っていると摩擦力が低下し、設計上の性能を発揮できなくなります。
参考)https://jfe-kenzai.co.jp/sbp-data/media/2023/05/j-hd-slit_construction-manual.pdf

高力ボルトのトルク係数値と管理方法

トルク係数値は高力ボルトの施工品質を左右する重要な指標で、精度良く軸力を導入するためには値が安定していることが不可欠です。トルク係数値は使用条件や環境によって変動するため、工事開始時に締付け施工法の確認作業を行う必要があります。
参考)Qhref="https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/view/18/32b5372608603832262ed83413bd703e?frame_id=21" target="_blank">https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/view/18/32b5372608603832262ed83413bd703e?frame_id=21amp;A - 高力ボルト検査株式会社

締付けトルクと導入張力の関係は、Tr=k・d1・N(Tr:締付けトルク、k:トルク係数値、d1:ボルトの呼び径、N:ボルト張力)の式で表されます。高力六角ボルト(トルク・コントロール法)の場合、トルク係数値の変化により導入張力にバラツキを生じるため、キャリブレーション・テストでトルク係数値の変化に応じた締付けトルクの目標値を設定します。​
トルク係数値がJIS B 1186規格を満たしているか確認し、平均値より締付けトルクを決め、目標値±10%で管理することが判定基準となります。締付けに用いるトルクレンチは±3%の誤差内の精度が得られるよう充分整備されたものを使用し、毎日の締付け作業に際して作業点検を行います。
参考)https://kouriki-bolt.com/wysiwyg/file/download/1/111

外気温や雨水などの現場条件によりトルク係数が左右され締付け軸力が変動するため、締付け軸力のばらつき変動係数は7%程度となっています。トルシア形高力ボルトの場合、締付けトルクは一定(ピンテールの破断トルク)であるため、トルクチェックによる導入ボルト張力の推定は意味がありません。
参考)Qhref="https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/index/18/limit:100?frame_id=21" target="_blank">https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/index/18/limit:100?frame_id=21amp;A - 高力ボルト検査株式会社

高力ボルトの遅れ破壊と耐候性対策

高力ボルトにおける遅れ破壊とは、静的な応力が負荷されたボルトの鋼材に水素脆化や応力腐食などが生じ、ある時間経過後に突然脆性的な破壊を生じる現象です。ボルトは引張強さが1200N/mm²以上になると遅れ破壊感受性が強くなることが知られています。
参考)https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1095pdf/ks1095.pdf

水素脆化による遅れ破壊は、ボルトが使用環境下において腐食が進行し、腐食等により発生した水素がボルト内部に侵入し、ねじ底等の応力集中部に集積した水素が鋼材の破壊に対する許容量を超えたときに破壊強度が低下することで生じます。高力ボルトの遅れ破壊は、13Tで施工後早い時期に発生し、11Tで施工後数カ月から十数年を経て発生しており、年数が経過しても遅れ破壊が収斂しないことが知られています。
参考)https://www.shinkobolt.co.jp/wp-content/themes/kobelco/assets/images/products/034-038.pdf

現在、10T(1000N/mm²)以下の高力ボルトには遅れ破壊の問題が少ないとされています。1700MPa級超高力ボルトの開発では、耐遅れ破壊特性に優れた素材開発ならびに応力集中を緩和できるボルト形状、新ねじ形状の採用により遅れ破壊を克服しています。
参考)高力ボルト - メーカー・企業4社の製品一覧とランキング

国土技術政策総合研究所 超高力ボルト耐久性研究資料(PDF)
超高力ボルトの耐遅れ破壊性能に関する詳細な研究成果が確認できます。

 

耐候性ボルトは腐食環境下での使用を想定した高力ボルトで、防錆処理を施したタイプも存在します。高力ボルトの保管においても、雨水や夜露による濡れ、錆の発生、ほこりや砂などの付着を防止することが重要です。
参考)http://library.jsce.or.jp/Image_DB/committee/steel_structure/book/57906/57906-0037.pdf

高力ボルトの検査と保管・供給管理

高力ボルトの締付け完了後は、全てのボルトについて一次締め後に付したマークのずれにより共回りの有無、ナットの回転量を目視で検査します。マーキングは必須であり、マーキング無しで締付けられたボルトは施工不良と判定され、取り替えることになります。
参考)https://www.dnt.co.jp/technology/technique/pdf/giho20-10.pdf

締付後のボルト張力(軸力)測定方法には、ボルト頭部にクロスひずみゲージを貼り付けてボルト抜き取り時のひずみから張力を推定するゲージ法や、超音波測定による方法があります。トルシア形高力ボルトの場合、ピンテールの破断は所定の締付け完了を示す明確な指標となります。​
高力ボルトの保管・取扱いについては、以下の条件を満たす必要があります:
参考)Qhref="https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/view/18/e37339fd5313c71e87a9e81cb28477a4?frame_id=21" target="_blank">https://kouriki-bolt.com/faqs/faq_questions/view/18/e37339fd5313c71e87a9e81cb28477a4?frame_id=21amp;A - 高力ボルト検査株式会社

保管条件 詳細内容
防湿対策 雨水・夜露による濡れ、錆の発生、ほこりや砂の付着を防止
温度管理 温度変化の少ない場所に保管
積載管理 箱の強度を考慮し、積み上げる段数は4~5段以下
取扱い ねじ山・ピンテール部等を損傷しないよう丁寧に扱う

保管期間については、各メーカーの見解として1年程度は問題ないとしているものが多く、保管状態がボルトメーカー所有の倉庫内と同程度の状態である場合、1~3年程度は問題ないと考えられています。長期間保管した場合の問題点として、トルク係数値が経年変化してしまうことが挙げられます。場合によっては導入張力確認試験やトルク係数値試験の再検査を行うことも必要です。
参考)https://sasst.jp/qa/q5/q5-16.html

2018年夏頃からの高力ボルトのひっ迫に対し、国土交通省は重複発注や先行発注、水増し発注等不確定要素の高い発注を抑制する標準的な発注様式を作成し、納期・納入先が明確な注文から優先的に供給できるよう対策を実施しました。この対策により高力ボルトの納期は大幅に改善され、概ね需給のひっ迫が収束に向かっています。都心の建設ラッシュと建設業者からの過剰な発注が不足の主な原因でした。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001333225.pdf

ボルトの長さ選定については、JIS B 1186による首下長さで表し、締付け長さに規定値を加えたものを標準とし、算出寸法に最も近いもの(2捨3入又は7捨8入)を選定します。短いボルトの使用はナットに対するボルトねじ部のかかりが不完全となり、ナット抜けを起こす原因となるため使用できません。
参考)高力ボルトのQhref="http://www.kouriki-bolt.jp/qa/faq" target="_blank">http://www.kouriki-bolt.jp/qa/faqamp;A - 高力ボルト協会