ブロック工法と船の建造?工期短縮と歪み取りの精度

ブロック工法と船の建造?工期短縮と歪み取りの精度

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ブロック工法がもたらす革新
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圧倒的な工期短縮

並行作業による効率化で、ドック占有期間を劇的に削減します

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安全性の向上

高所作業を減らし、地上や屋内での安定した作業環境を確保

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品質と精度の確保

天候の影響を受けにくい屋内溶接と、地上での緻密な品質管理

ブロック工法と船

船の建造を変えたブロック工法の歴史と効率化

 

巨大な船舶を建造する現場において、現在世界的に主流となっているのが「ブロック工法」です。この工法は、船体を数十から数百の「ブロック」と呼ばれる区画に分割し、工場内でそれぞれを製造した後に、ドックや船台で積み木のように組み立てて巨大な船を完成させる手法です。
かつて、造船と言えば「キール(竜骨)」を据えて、その上に骨組みと外板を一枚一枚リベットや溶接で繋ぎ合わせていく手法が一般的でした。しかし、第二次世界大戦中、アメリカで「リバティ船」という輸送船を大量かつ急速に建造する必要に迫られた際、このブロック工法が本格的に採用されました。これにより、劇的な短縮が可能となり、戦後の造船業界における標準的な工法として定着したのです。
この工法の最大の特長は、複数のブロックを同時に並行して製造できる点にあります。船台やドックという限られたスペースを長時間占有することなく、別の場所で船のパーツをどんどん作り進めることができるため、造船所全体の生産能力が飛躍的に向上します。また、作業者の配置も分散できるため、狭い区画での混雑を避け、効率よく作業を進めることが可能です。
Maritime Pedia: ブロック建造法の詳細と歴史的背景について

先行艤装における反転作業のメリット

ブロック工法が単なる「船体の分割製造」に留まらない大きな理由の一つに、「先行艤装(せんこうぎそう)」との親和性の高さがあります。船にはエンジンや配管、電気配線、通風ダクトなど、膨大な量の艤装品(装備品)が必要です。これらを、ブロックが組み上がり、船の形になってから狭い船内で取り付けるのは非常に困難で危険を伴う作業です。
そこで、まだブロック単体の段階で、内部の配管や機器を取り付けてしまうのが先行艤装です。ここでブロック工法の真価が発揮されるのが「反転」というプロセスです。船の天井部分(デッキ裏)に配管を取り付ける場合、通常であれば作業員は上を向いて、重力に逆らいながら苦しい姿勢で作業をしなければなりません。しかし、ブロック段階であれば、そのブロックをクレーンでひっくり返し(反転させ)、天井部分を地面側に持ってくることができます。
これにより、作業員は下を向いた自然な姿勢で配管やケーブルの敷設を行うことができます。これは作業のスピードアップだけでなく、溶接の品質向上や、落下事故のリスク低減にも大きく寄与します。「上向き溶接」よりも「下向き溶接」の方が、重力の影響を受けずに均一なビード(溶接跡)を形成しやすいため、構造的な強度も安定するのです。
大島商船高等専門学校: 先行艤装と反転作業による効率化の解説

溶接による歪みと闘う熟練の歪取り技術

検索上位の記事では「効率が良い」「早い」というメリットばかりが強調されがちですが、現場の施工管理者や作業員にとって、ブロック工法は「歪み(ひずみ)」との壮絶な闘いでもあります。鉄は溶接時の高熱で膨張し、冷えると収縮します。この収縮によって、設計図通りの寸法から微妙にズレたり、鋼板が波打ったりする現象が必ず発生します。
数百トン、時には千トンを超える巨大なブロック同士をドックで接合する際、接合面の寸法が数ミリでも合わなければ溶接することはできません。そのため、ブロック製造の最終段階では、「歪取り(ひずみとり)」と呼ばれる非常に高度な修正作業が行われます。
この作業は、ガスバーナーで鋼板の特定のラインやポイントを炙り、急激に水で冷却することで、鉄の収縮を利用して形を整えるというものです。「線状加熱」や「点加熱」と呼ばれるこの技術は、マニュアル化することが難しく、熟練工の勘と経験に大きく依存します。鋼材の材質、厚み、気温、そして溶接の量を見極め、「ここを炙れば、あそこがこれだけ動く」という予測のもとにバーナーを操ります。
この精度の追求こそが、日本の造船技術が世界で高く評価される理由の一つです。どんなに巨大なブロックであっても、最終的な接合誤差を極小に抑えるこの職人芸がなければ、ブロック工法は成立しないと言っても過言ではありません。
国土交通省: 熱で形を操る仕上げの名人・歪取り技術について

ドックへの搭載と巨大クレーンの役割

完成した各ブロックは、最終的に「ドック」または船台へと運ばれ、一つに組み上げられます。これを「搭載」と呼びます。ここで主役となるのが、造船所のシンボルとも言える「ゴライアスクレーン(門型クレーン)」などの巨大クレーンです。
近年の船の大型化に伴い、一つのブロック(または複数のブロックを地上でさらに合体させた「総組(そうぐみ)ブロック」)の重量は数百トンから1000トンクラスになることも珍しくありません。これを空中で吊り上げ、既に置かれているブロックの隣にピタリと合わせる作業は、ダイナミックでありながら極めて繊細な操作が要求されます。
地上で可能な限り大きく組み上げてからドックに運ぶことで、ドック内での高所作業や溶接作業を減らすことができます。これを「ギガブロック工法」や「テラブロック工法」などと呼んで推進している造船所もあります。クレーンの吊り上げ能力が、その造船所の建造能力を決めると言っても過言ではありません。
また、ブロックの移動には「トランスポーター」と呼ばれる、タイヤが数十個ついた特殊な車両が使われることもあります。造船所の広大な敷地内を、巨大な鉄の塊が整然と移動し、ドックへと集結していく様は、まさにブロック工法ならではの圧巻の光景です。

建造の品質を支える分割と精度の管理

最後に、ブロック工法における「管理」の重要性について触れておきましょう。船体を細かく分割するということは、それだけ接合箇所(継手)が増えることを意味します。それぞれのブロックが別々の場所、別々のチームで作られるため、統率の取れた品質管理がなければ、最後に「つながらない」という致命的な事態を招きます。
そのため、造船の現場では、切断の段階からミリ単位の精度管理が徹底されています。鋼板を切り出すNC切断機のデータ管理、溶接による収縮を見越した「伸び代(のびしろ)」の計算、そして組み立て段階での三次元測定機を用いた計測など、IT技術を駆使した管理体制が敷かれています。
ブロックごとの完成度を高めることは、塗装品質の向上にもつながります。屋内の安定した環境で塗装を行うことで、サビの発生を防ぎ、塗膜の厚さを均一に保つことができます。これは船の寿命を延ばす上で非常に重要です。
ブロック工法は、単に「バラバラに作ってくっつける」だけの手法ではありません。それは、巨大なプロジェクトを細分化し、それぞれの工程に最適な環境と技術を適用することで、トータルとしての品質と生産性を極限まで高める、システム化された建造の哲学なのです。

 

 


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