地下水汚染ガイドライン|建築業の対策と浄化方法

地下水汚染ガイドライン|建築業の対策と浄化方法

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地下水汚染ガイドライン概要

この記事のポイント
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環境省の基準体系

水質汚濁防止法に基づく地下水汚染の未然防止と対策の枠組み

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調査方法と手順

概況調査から汚染源推定まで段階的な調査プロセス

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浄化対策工法

建築現場で適用可能な原位置浄化と揚水処理技術

地下水汚染ガイドラインの法的枠組み

地下水汚染に関するガイドラインは、環境省が策定した「地下水汚染の未然防止のための構造と点検・管理に関するマニュアル」を中心に体系化されています。水質汚濁防止法が平成23年6月に改正され、有害物質を扱う施設に対して施設の構造基準の遵守と定期点検の実施が義務付けられました。この法改正により、建築業を含む事業者は地下水汚染の未然防止に向けた具体的な対応が求められるようになっています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/099f890bca7e8bda91e456c7001c73f2759048da

建築工事における地下水汚染対策の重要性は、工場・事業場が原因と推定される地下水汚染事例が毎年継続的に確認されていることからも明らかです。特に、施設・設備の劣化・破損等による漏えいや、不適切な作業による漏えいが主な汚染原因として特定されています。建築業従事者は、新築工事だけでなく改修工事においても、有害物質の取り扱いに十分な注意を払う必要があります。​
環境省のガイドラインでは、有害物質使用特定施設と有害物質貯蔵指定施設を対象として、床面・周囲の構造基準、配管等の材質・構造要件、定期点検の方法などが詳細に規定されています。建築現場では、これらの基準に適合した施設設計と施工管理が求められます。​
環境省「地下水汚染の未然防止のための構造と点検・管理に関するマニュアル」
地下水汚染未然防止に関する構造基準と点検方法の詳細が記載された公式マニュアルです。

 

地下水汚染の調査方法と環境基準

地下水汚染の調査は、「概況調査」「汚染井戸周辺地区調査」「継続監視調査」の3つに区分されます。概況調査は地域全体の地下水質の状況を把握するために実施され、年次計画を立てて計画的に行われます。汚染井戸周辺地区調査は、新たに発見された汚染について汚染範囲を確認し、汚染原因の究明に資するために実施されます。継続監視調査は、汚染地域について継続的に監視を行うための調査として位置づけられています。
参考)https://www.env.go.jp/content/900539358.pdf

地下水の環境基準は、環境基本法第16条第1項に基づいて設定されており、カドミウム、鉛、トリクロロエチレンなど28項目の有害物質について基準値が定められています。建築工事では、これらの有害物質を含む可能性のある材料や薬剤の使用に際して、環境基準を超過しないよう適切な管理が必要です。
参考)地下水の水質汚濁に係る環境基準について

調査手法としては、地下水汚染契機型と現況把握型の2つのアプローチがあります。地下水汚染契機型は、水質汚濁防止法の常時監視等による地下水汚染の判明を契機とし、汚染源の究明及び対策の実施を目的とします。一方、現況把握型は敷地の全域にわたり公定法による土壌の表層調査を行い、環境基準との適合性を確認します。
参考)https://www.env.go.jp/content/900541352.pdf

建築現場における調査では、対象地資料等調査を通じて対象物質の排出状況、水文地質状況等を把握することが重要です。特に、地下水汚染源推定調査では、関係地域における資料調査や地下水(井戸)調査等を行い、汚染源であるおそれのある対象地を絞り込むプロセスが求められます。​
環境省「地下水質モニタリングの手引き」
地下水質の調査区分と調査方法の詳細が解説されています。

 

地下水汚染の浄化対策工法

地下水汚染の浄化対策には、「原位置浄化」と「揚水処理」の2つの主要な工法があります。原位置浄化は、土を掘ることなく微生物の栄養剤や浄化用薬剤などを地中に注入することで、土壌・地下水汚染を無害化する工法です。この工法の最大の利点は、工場操業を継続しながら浄化作業を実施できることにあり、建築現場においても稼働中の施設での適用が可能です。
参考)1. 地下水汚染の高速浄化に ポンピング・ドレーン工法

揚水処理工法は、汚染された地下水を汲み上げることで地下水を浄化する一般的な対策です。しかし、従来の揚水対策では透水性が悪い地盤において浄化が進まない課題がありました。この課題を解決する技術として、ポンピング・ドレーン工法が開発されています。この工法は、軟弱地盤中の地下水を排出する地盤改良工法に用いるドレーン材を地盤に打ち込み、真空圧を利用して汚染された地下水を汲み上げる方法です。​
エアースパージング工法は、土壌中あるいは地下水中に空気を注入してVOC(揮発性有機化合物)の気化を促進させる技術で、高濃度に汚染された現場で特に効果的です。建築工事で発生する可能性のあるVOC汚染に対しては、この工法が有効な選択肢となります。
参考)https://www.env.go.jp/water/chikasui/panf/pdf/p07.pdf

浄化工法の選定においては、対象となる汚染物質の種類、地盤の透水性、汚染範囲、工期、コストなどを総合的に評価する必要があります。VOCから重金属まで、全ての物質に適用できる工法を選択することで、建築現場における多様な汚染リスクに対応できます。​
鹿島建設「ポンピング・ドレーン工法」
透水性の悪い地盤でも適用可能な地下水浄化工法の詳細が紹介されています。

 

建築工事における地下水汚染対策の実務

建築工事現場では、有害物質使用特定施設または有害物質貯蔵指定施設を設置する際に、都道府県等への届出が義務付けられています。届出が必要な施設には、施設本体だけでなく、付帯する配管等や排水溝等、施設設置場所の周囲の床面及びその周囲(防液堤等)も含まれます。建築業者は、設計段階からこれらの要件を満たす計画を立てる必要があります。​
構造基準への対応として、床面及び周囲は有害物質を含む水の地下への浸透及び施設の外への流出を防止できる材質及び構造とすることが求められます。配管等を地上に設置する場合は、有害物質を含む水の漏えいを防止できる材質及び構造とするか、漏えいがあった場合に漏えいを確認できる構造とする必要があります。地下に設置する場合は、漏えい等を防止できる構造及び材質とするか、漏えい等があった場合に漏えい等を確認できる構造とすることが規定されています。​
定期点検の実施は、地下水汚染の未然防止において極めて重要な管理項目です。点検は目視等により、施設の設置場所の床面及び周囲、施設本体、それに付帯する配管等及び排水溝等について、構造等に関する基準に応じた項目及び頻度で行う必要があります。点検結果は3年間保存することが義務付けられており、異常が確認された場合には直ちに補修等の必要な措置を講じなければなりません。​
建設業者は、汚染土壌を取り扱う上で最低限必要な法規制等の知識を備え、発注者や都道府県等の関係部局と十分な協議のもとに、土壌・地下水汚染の拡散の防止などに努めることが求められています。特に、建築工事では掘削作業に伴う汚染土壌の発見や、既存施設の解体に伴う有害物質の露出など、様々な汚染リスクに直面する可能性があります。
参考)刊行物・資料

地下水汚染対策における建築業の独自視点

建築工事特有の地下水汚染リスクとして、地下室の設置に伴う課題があります。地下水位よりも低い位置に地下室がある場合、土壌汚染調査方法や地下水モニタリングにおける観測井戸の設置において特殊な配慮が必要となります。このような状況では、従来の調査手法が適用できないケースがあり、建築設計段階から地下水位との関係を十分に検討することが重要です。
参考)地下水モニタリング。観測井戸設置、井戸洗浄をご存知ですか?

建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壤への対応も、建築業界が直面する特有の課題です。自然由来の重金属を含む岩石や土壌が発生した場合、発生土の有効利用と環境保全のバランスを取ることが求められます。マニュアルを活用することで、自然由来重金属等を含む岩石・土壌への対応が合理化され、発生土の有効利用が促進されます。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d11pdf/recyclehou/manual/shizenyurai2023.pdf

建築現場における水平位置配置による面的防止策も、効果的な汚染拡散防止手法として注目されています。地下水下流側に複数のピットを配置し、各ピットからそれぞれ水平位置を配置することで、汚染地下水の拡散を面的に防止できます。揚水した汚染水は排水処理設備で適切に処理され、環境基準を満たした状態で排出されます。
参考)地下水揚水(VOCs浄化技術、重金属浄化技術)|土壌汚染対策…

さらに、建築工事では操業中の工場敷地内での対策も求められることがあります。ドレーン材が打設できるスペースがあれば、操業を継続しながら地下水浄化対策を実施することが可能です。この柔軟性は、建築業における改修工事や増築工事において特に重要な要素となります。港湾や臨海エリアの埋立地など透水性の悪い地盤での地下水浄化にも有効であり、建築工事が行われる多様な地盤条件に対応できます。​
国土交通省「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル」
建設現場における自然由来重金属への対応方法が詳述されています。