
水質汚濁防止法において、指定物質とは「公共用水域に多量に排出されることにより人の健康若しくは生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定めるもの」と定義されています。この定義は同法第2条第4項に明記されており、外壁塗装業を含む多くの事業者に関わる重要な概念です。
指定物質制度が整備されたのは2010年5月の法改正時でした。それ以前は規模の大きな排水設備からの有害物質排出規制が中心でしたが、近年増加する水質事故への対応として、より広範な物質と施設を規制対象とする必要性が生じたのです。
指定物質の選定基準は、2011年2月の「水質汚濁防止法に基づく事故時の措置及びその対象物質について(答申)」で示されました。具体的には以下の項目が対象となります:
2023年2月時点で、指定物質は60種類に上り、外壁塗装業でも使用される可能性のある化学物質が多数含まれています。
2023年2月1日、水質汚濁防止法施行令の一部が改正され、新たに4つの物質が指定物質に追加されました。これは環境省が中央環境審議会水環境・土壌農薬部会(2022年9月15日)での審議を経て決定したものです。
追加された4物質は以下の通りです:
これらの物質が指定された背景には、それぞれが2013年から2020年の間に環境基準や要監視項目に追加されていたという経緯があります。特に注目すべきは、PFOSとPFOAが国際的にも規制強化の対象となっている点です。
物質名 | 追加された基準 | 追加時期 |
---|---|---|
LAS | 環境基準(生活環境項目・水生生物保全) | 2013年3月 |
アニリン | 要監視項目 | 2013年3月 |
PFOS/PFOA | 要監視項目 | 2020年5月 |
PFOS/PFOA | 水道水質基準(水質管理目標設定項目) | 2020年3月 |
水質汚濁防止法第14条の2第2項により、指定物質を製造、貯蔵、使用または処理する施設(指定施設)を有する事業場(指定事業場)の設置者には、事故発生時の義務が課せられています。
具体的な義務内容は以下の通りです:
外壁塗装業者が注意すべき事故の例としては:
これらの事故が発生した場合、迅速な対応が求められます。特に河川や水路の近くでの作業では、塗料や洗浄水が直接水域に流入するリスクが高いため、十分な予防策を講じることが重要です。
環境省は「水質事故対応マニュアル」を公開しており、事業者向けの具体的な対応手順が示されています。外壁塗装業者もこれを参考に、自社の事業内容に合わせた事故対応計画を策定しておくことをおすすめします。
水質汚濁防止法の指定物質規制は、外壁塗装業に様々な影響を及ぼしています。特に2023年の法改正で追加された物質を含む、業界で使用される可能性のある指定物質について理解することが重要です。
最新の指定物質リストに含まれる化学物質を含有する塗料は、使用時や廃棄時に特別な注意が必要となります。特に以下の指定物質は外壁塗装で使用される塗料に含まれる可能性があります:
指定物質を含む塗料を使用する場合、以下のような作業手順の見直しが必要になります:
実際に、ある大手塗装会社では指定物質対応として、全作業現場に排水回収システムを導入し、回収した洗浄水は専門の処理業者に委託するという体制を構築しています。この取り組みにより、年間約200件の現場で推定5トンの汚染水の河川流出を防いでいるとのことです。
指定物質規制への対応は、外壁塗装業者にとって追加コストとなる場合があります:
しかし、これらの投資は環境リスクの低減だけでなく、「環境配慮型事業者」としてのブランド価値向上にもつながります。実際に環境対応を積極的にアピールすることで、受注増につながったという事例も報告されています。
外壁塗装現場で水質汚濁防止法の指定物質による環境汚染を防ぐためには、具体的な対策と実践方法が重要です。ここでは、実務に即した対策をご紹介します。
作業開始前に以下の準備を行うことで、指定物質による汚染リスクを大幅に低減できます:
実際の作業中には以下の対策を実施します:
万が一、指定物質を含む塗料や洗浄水が流出した場合の対応手順も準備しておきましょう:
ある中堅塗装会社では、これらの対策を徹底した結果、年間の水質事故発生件数がゼロになったという実績があります。特に効果的だったのは、現場ごとの「水質保全チェックリスト」の導入と、作業前の5分間ミーティングだったそうです。
水質汚濁防止法の指定物質規制に対応するため、外壁塗装業者は環境配慮型塗料の選定が重要になっています。ここでは、指定物質を含まない、または含有量が少ない環境配慮型塗料の選び方について解説します。
環境配慮型塗料を選ぶ際のチェックポイントは以下の通りです:
実際の現場では、環境配慮型塗料の使用実績も重要な選定基準となります。ある調査によると、環境配慮型塗料は従来型と比較して初期コストは10〜20%高いものの、耐久性の向上により長期的にはコスト削減につながるケースが多いとされています。
また、施主に対する提案時には、環境配慮型塗料のメリットを具体的に説明することが重要です。単に「環境に優しい」という抽象的な説明ではなく、以下のような具体的なメリットを伝えましょう:
環境配慮型塗料の市場は年々拡大しており、2025年には外壁塗料市場の約40%を占めると予測されています。この流れは水質汚濁防止法の規制強化とも連動しており、今後も環境配慮型塗料へのシフトは加速するでしょう。
水質汚濁防止法における指定物質の取り扱いに関して、外壁塗装業者が負う法的責任について理解することは、リスク管理の観点から非