

日本建設業連合会は、「建設業の環境保全自主行動計画」を1996年に策定し、資源循環型社会の形成に向けて建設業界全体の環境経営レベルの向上を目指しています。この計画は、国の「建設リサイクル推進行動計画」に対応する形で策定され、地球温暖化防止対策、建設副産物対策、生態系保全の推進、化学物質管理の促進、環境経営の促進、グリーン調達の促進という6つの実施項目を掲げています。
参考)https://www.env.go.jp/council/former2013/04recycle/y040-28/mat01_3-1.pdf
建設業における環境保全活動は、施工現場における生物多様性への直接的な関わりだけではなく、生産段階を含む資機材の調達から運搬、さらには燃料やエネルギーの利用など、様々な形で環境に影響を及ぼします。そのため、事業の上流から下流まで一貫した環境配慮が求められています。
参考)https://www.nikkenren.com/kankyou/nature/3-1.html
日本政府は2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という2050年カーボンニュートラルを宣言し、翌年には事務所ビルや商業施設などの建物でのエネルギー消費量を2013年度比51%削減するという目標も閣議決定しました。建設業界はこの目標達成に向けて、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及や建設現場でのCO2削減など、積極的な取り組みを進めています。
参考)https://asuene.com/media/354/
建設業界における脱炭素化の取り組みは、施工段階でのCO2排出削減が企業にとって主体的に取り組みやすい分野とされています。国土交通省の資料によれば、2021年の日本国内の発生部門別CO2排出量のうち、建設業を含む「産業部門」の割合は35.1%を占めており、この中で建設機械の稼働による排出量は産業部門の1.7%を占めています。
参考)https://www.eneres.jp/journal/carbon_neutral_for_contractor/
この課題を解決する手段として、施工現場では低炭素かつ低燃費の建設機械の利用が推奨されており、特に公共工事が多い土木工事分野での積極的な採用が進んでいます。国土交通省は「カーボンニュートラル対応試行工事」を導入し、工事契約時の入札審査において、工事に用いる建設機械やSBT認定の有無から「カーボンニュートラルに関する取組実績」を評価する仕組みを整備しています。
大成建設は「TAISEI Green Target 2050」という長期環境目標を策定し、脱炭素社会と循環型社会、自然共生社会の実現を目指しています。鹿島建設は独自のビジョン「トリプルZero2050」を策定し、脱炭素、資源循環、自然共生の3つの視点で持続可能な社会を捉え、2013年の策定以降、社会情勢に合わせて2018年、2021年、2023年と都度目標の改訂を行っています。
参考)https://www.j-ems.jp/public-ict/column/construction/
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及も脱炭素社会実現の重要な手法として注目されています。ZEBとは、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネを実現した上で、再生可能エネルギーを導入して自らエネルギーを作ることで、一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指した建築物を指します。「地域脱炭素ロードマップ」では、2030年までに公共施設など業務ビル等において省エネを徹底し、更新や改修時にZEB化を推進することが重点対策として掲げられています。
参考)https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/02.html
循環型社会の構築は、建設廃棄物の発生抑制と再資源化を中心に進められています。日本の建設業界は、建設リサイクル法に基づき、廃棄物を「資源」と捉え、資源循環型社会の形成に向けて積極的な取り組みを展開しています。
参考)https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/
大成建設は、環境負荷の小さい資材を優先的に選択する「グリーン調達率100%」を目標に掲げ、CO2排出率の削減や土壌・地下水汚染の対策を講じています。グリーン調達とは、環境負荷の少ない製品やサービスを提供しているサプライヤーから優先的に調達する取り組みで、自社の環境方針を明確にし、調達基準を文書化することが重要です。
参考)https://www.taisei-sx.jp/environment/tgt/recycling.html
鹿島建設は、資源の循環に対する目標として「建設廃棄物最終処分率0%」を掲げ、セメントやコンクリートなど、再生材料の利用率60%を目指しています。その一環として、工場現場などで排出される戻りコンを原材料として再利用する「エコクリート®R3」の開発に加わり、これまで有効活用の手段がなく廃棄処分されるだけだった戻りコンを、別のコンクリートの製造に再利用する画期的な技術の確立に至りました。
建設廃棄物の資源循環については、既存建物や建材のリユース、BIM/CIM活用による資源投入量・廃棄物排出量削減、廃棄物等を利用したコンクリートの利用、CLTなどの木材利用など、リサイクル以外の手法も積極的に導入されています。アスファルト・コンクリート塊の循環利用については、アスファルト塊の再生アスファルトへの循環利用の制度化により、循環利用率が60.6%に向上しています。
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001847455.pdf
自然共生社会の実現には、事業活動において生物多様性や生態系の保全、またはそれらと自然資本の持続的な利用の両立が必要です。建設業は事業と生態系との関連性が強いため、自然生態系に与える影響をしっかりと認識し、事業の上流から下流まで一貫して生物多様性保全に取り組むことが重要とされています。
参考)https://www.fujita.co.jp/sustainability/harmony/
日本建設業連合会は、建設業が国民の安全・安心な暮らしを支え、さらには会員企業の持続可能性を高めるためにも、生物多様性に関わる社会の一員として、生物多様性の主流化に資する取り組みを推進しています。土木工事では、自然環境と接する場合が多いため、希少動植物の保全やその影響回避を含む様々な生物多様性への配慮の取り組みを、また建築工事では、工場敷地や再開発案件において生態系に配慮した設計を実施しています。
参考)https://www.nikkenren.com/kankyou/nature/
熊谷組は「生物多様性への取組方針」を策定し、生態系への配慮を事業活動に組み込み、全社で実施しています。具体的には、設計及び施工における取り組みとして、生態系に与える影響を事前に把握し、その影響の回避や軽減を図ること、建設資材などのグリーン調達により生態系への影響の軽減を図ることなどを掲げています。
参考)https://www.kumagaigumi.co.jp/sustainability/environment/nature/index.html
藤田は2024年度よりTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応に向けて、事業と自然との関係性を整理し、自然資本への依存や影響、自然関連のリスクと機会の評価、およびリスク低減と機会獲得のための検討を進めています。また、自然の多様な機能を評価し活用するグリーンインフラ、生物多様性の減少傾向を食い止め回復に向かわせる「ネイチャーポジティブ」などに関する様々な研究開発を行っています。
建設業界における環境保全の取り組みは、単なる法令遵守を超えて、企業の競争力強化や新たなビジネスチャンスの創出につながっています。環境に配慮した建築物は高い資産価値を持ち、ZEBなどの高性能設備を備えた不動産は民間オーナーにとって魅力的な投資対象となります。
参考)https://growth-recruit.jp/column/detail/20250706090028/
公共オーナーにとっては、災害時において建物の機能が有効に活用できるというメリットがあり、テナントにとっては省エネ&創エネにより光熱費が大きく削減できるという経済的利点があります。また、お住まいの方々にとっても、快適に過ごせる建物として、緊急時の避難先として考えられるという社会的価値を提供します。
参考)https://www.tokura.co.jp/business/architectural_office/zeb/
東急建設はマテリアリティにおいて「気候変動(対応と適応)」を掲げ、長期経営計画「To zero, from zero.」で脱炭素に取り組んでいます。温室効果ガス削減に向けた国際的目標のSBT認定を取得し、その他には、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)プランナーの認定も取得し、積極的に新建築物のZEB化を推進しています。
清水建設は「子どもたちに誇れる仕事を」を掲げ、2005年に「エコロジー・ミッション」を策定し、2020年には建築施工時のCO2排出を1990年度比で66%削減しました。独自の取り組みとして、コンクリートを環境配慮型資材(高炉B種セメントなど)のグリーン調達にすること、建設物の構工法改善でCO2排出を削減すること、積極的に再エネを活用することなど、多様に取り組んでいます。
建設業界の環境保全への取り組みは、カーボンニュートラル対応試行工事において、工事完成時には認定を受けた低炭素・低燃費建設機械の活用状況に応じた「工事成績評定」で評価される仕組みが整備されており、評価を受けた後には、受注者・発注者共同で、カーボンニュートラルへの配慮を取り入れた工事を行ったことをアピールすることができます。
鹿島建設は「環境データ評価システム(edes:イーデス)」を開発し、すべての現場の活動工程でのCO2排出量を月単位で把握し可視化することで、現場でのCO2排出量や水の使用量などを集計して可視化し、CO2削減につなげています。また、建設現場のCO2排出量削減管理ツール「現場deエコ®」も開発し、資材のムダや化石エネルギーの消費を抑え、コストの削減を行う独自の取り組みを行っています。
環境配慮型の建設事例として、ゼロエネルギービルやグリーンビルディングがあり、これらの建物はエネルギー消費を大幅に削減し、環境への負荷を軽減することを目指しています。特に、太陽光発電や地中熱利用など、再生可能エネルギーを積極的に取り入れることで、持続可能な社会の実現に貢献しています。
建設業におけるカーボンニュートラル達成に向けた具体的な施策と試行工事の詳細について
ZEB普及目標とロードマップに関する環境省の公式情報
日本建設業連合会による生物多様性保全活動の促進に関する詳細な取り組み内容
建設業界におけるサーキュラーエコノミーの推進事例の紹介