
圧縮力とは、物体を内側へ押し縮める方向に作用する外力のことを指します。建築構造において、柱や壁、アーチ構造などに主に作用し、建物全体の荷重を支える重要な役割を担っています。この圧縮力が部材に加わると、部材内部では外力に抵抗する力が発生します。
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圧縮応力は、圧縮力に対して部材内部に生じる抵抗力(内力)のことです。物体に圧縮方向の外力が加わったときに、物体内部の断面に生じる単位面積あたりの抵抗力として定義されます。建築分野では、圧縮応力と圧縮応力度という用語を使い分けており、圧縮応力度は単位面積あたりに作用する圧縮応力を意味します。
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圧縮応力は引張応力とは逆の方向に作用する力です。引張応力が部材を伸ばす方向に働くのに対し、圧縮応力は部材を縮める方向に作用します。符号の規約として、引張応力を正(+)、圧縮応力を負(-)とするのが一般的ですが、コンクリート工学では圧縮応力を主に扱うため、正の数値で表示することもあります。
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圧縮応力度の計算は、圧縮力を断面積で割ることで求められます。計算式は以下の通りです。
計算式:σ = P / A
この計算式は引張応力の算定式と同じ形式であり、難しく考える必要はありません。実際の計算例として、直径10cmの円柱に20kNの圧縮力が作用する場合を考えます。円柱の断面積は、A = (100/2)² × 3.14 = 7850mm²となります。圧縮応力度は、σ = 20×1000 / 7850 = 2.5N/mm²と計算されます。
各辺が10cmの正方形断面を持つ角材に5kNの圧縮力をかけた場合、まず単位を統一します。10cm=100mm、5kN=5000Nとして、断面積は100×100=10000mm²です。圧縮応力度は、σ = 5000 / 10000 = 0.5N/mm²となり、圧縮応力度なので符号はマイナスになります。
圧縮応力とは?1分でわかる意味、求め方、記号と符号 - 建築構造計算の基礎知識
実務で使える圧縮応力の計算方法と符号の扱い方について詳しく解説されています。
許容応力度とは、ある材料が許容できる応力度のことで、材料の基準強度に安全率を見込んで求められます。計算式は「許容応力度 = 材料の基準強度 × 安全率の係数」となります。許容応力度計算では、部材にかかる応力度が許容応力度以下におさまることを確認します。
参考)許容応力度計算とは|概要・構造計算の流れをわかりやすく解説 …
許容応力度は荷重の継続時間に応じて2つに分かれます。長期許容応力度は持続的に生じる荷重に対するもので、短期許容応力度は短い期間で集中的に生じる荷重に対するものです。例えば、コンクリートを圧縮する場合、設計基準強度Fcに対して、長期の許容応力度はFc/3、短期の許容応力度はFc/1.5となります。
建築基準法では、材料の持つ降伏強度を低減する値として安全率が定められています。安全率を見込むことで、予想外の事態(設計時に想定したものより重いものが載るなど)でも降伏を防ぐことができます。圧縮応力度の計算結果が許容圧縮応力度を超えないことを確認することで、構造物の安全性が担保されます。
許容応力度計算とは|概要・構造計算の流れをわかりやすく解説
建築基準法における許容応力度計算の全体像と実務での適用方法が体系的に整理されています。
座屈とは、圧縮力を受ける部材が急激に折れ曲がる現象のことです。柱の上から荷重を加えていき、ある一定の荷重を超えるとき、柱は急激に折れ曲がります。座屈は圧縮破壊より小さい荷重で起こるため、圧縮材の設計では特に注意が必要です。
参考)座屈ってなに?│いまさら訊けない建築構造力学
座屈は特に細長い部材で生じやすく、鋼構造建築物では設計において非常に重要な検討事項の一つです。座屈現象を評価するために、細長比という指標が用いられます。細長比λは「λ = L / i」で計算され、Lは部材の長さ、iは断面二次半径です。
参考)圧縮材の座屈で知っておくべきこと href="https://kenchikuchishiki.com/kouzou/structuredesign/kyoyououryokudo/zakutsu/shuutoku/" target="_blank">https://kenchikuchishiki.com/kouzou/structuredesign/kyoyououryokudo/zakutsu/shuutoku/amp;#8211; 建築士の必…
圧縮材の許容応力度は、座屈を考慮してオイラー式を低減した値として設定されています。理論上の正解値であるオイラー式よりも低減して許容応力度とする理由は、実際の柱材が完全な直線ではなく、作用する荷重も軸線上に正確に作用するものではなく、素材も均質ではないためです。圧縮許容応力度の設計では、座屈長さの算定と断面二次半径の計算が重要な要素となります。
コンクリートは圧縮強度が非常に高く、圧縮力に耐えうる代表的な材料です。コンクリートの柱や壁は建物の荷重を受け止める役割を担います。コンクリートは引張力を負担できないと仮定されるため、圧縮力はコンクリートおよび鉄筋が負担します。
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鉄筋コンクリート構造では、圧縮応力度は主にコンクリートが負担しますが、一部圧縮鉄筋も負担します。圧縮鉄筋の量が多いほどコンクリートの負担が軽くなり、靱性(変形能力)が向上します。圧縮鉄筋を入れることで、入れない場合より力を負担でき、粘り強さ(靭性)が確保できます。
参考)公益社団法人 日本コンクリート工学会
コンクリートの圧縮強度試験では、所定の形状・寸法の供試体(例:Φ100×200mm)に一定速度で圧縮荷重を加え、破壊時の最大荷重を測定し、圧縮強度(N/mm²)を求めます。この試験は建物の安全性や耐久性を保証するための重要な品質確認のひとつで、通常は打設後7日、28日で実施されます。石材も古くからアーチや柱に使われており、圧縮強度が高い材料として知られています。
参考)コンクリートの圧縮強度試験の解説と参考資料紹介! - ゼネコ…
建築実務では、圧縮応力の計算が構造設計の基本となります。許容応力度計算の流れは、まず建物にかかる外力を設定し、次に建物の形や材料をもとに構造部材にどれくらいの応力が加わるかを計算します。その後、構造部材がどれくらいの力を許容できるかを計算し、両者を比較して許容応力度が上回れば安全と判断されます。
圧縮力と引張力が同時に作用する建築技術として、鉄筋コンクリートがあります。この材料はコンクリートと鉄筋を組み合わせており、圧縮力に強いコンクリートと引張力に強い鉄筋が組み合わさることで、双方の力に耐えられる強靭な構造体が形成されます。
応力分散の工夫として、建築では荷重を効果的に分散させることで、圧縮力や引張力が集中しないようにしています。高層ビルに使われるトラス構造やアウトリガーシステムは、風圧や地震力を分散させ、建物全体の安定を確保します。梁や柱が曲げられる際には、引張力が働く部分と圧縮力が働く部分があり、その間に中立軸が存在します。構造設計では、この中立軸を理解し適切に配置することで、建物の安定性を高めることができます。
許容応力度(建築基準法施行令89,90,91,93条)- PDF資料
建築基準法に基づく許容応力度の規定について、長期・短期の数値や計算方法が詳細に記載されています。