

材料力学とは、建築物や機械構造物を構成する材料に力が加わったときの挙動を研究する学問分野です。不動産従事者にとって、建築物の安全性や耐久性を理解するうえで欠かせない基礎知識となります。
参考)https://note.com/delta_phy/n/nc68ed5b630e2
材料力学の基本は「応力」と「ひずみ」という2つの概念から始まります。応力とは材料の単位面積あたりに作用する力のことで、単位はN/m²(ニュートン毎平方メートル)やPa(パスカル)で表されます。一方、ひずみは材料が変形する際の元の長さに対する変化の割合を示し、単位を持たない比率として表現されます。
参考)https://www.rex-rental.jp/feature/1128/note/stress-and-strain
建築構造設計において材料力学が重要な理由は、建物が地震や風などの外力にさらされる際、各部材がどの程度の力に耐えられるかを科学的に評価できるためです。材料力学の知識があれば、設計段階で問題点を発見し、事故やトラブルを未然に防ぐことが可能になります。
参考)https://whylab.jp/column/20231122085745-740fee18-31a1-40e4-a76d-8a0f243445ec
| 材料力学の主要概念 | 説明 | 建築での重要性 |
|---|---|---|
| 応力 | 単位面積あたりの力 | 部材の強度評価に必須 |
| ひずみ | 変形の割合 | 変形量の予測に使用 |
| ヤング率 | 材料のかたさ | 材料選定の基準 |
| ポアソン比 | 縦横ひずみの比 | 3次元変形の計算 |
応力とひずみの関係を理解することは、材料力学の習得において最も重要なステップです。弾性域では応力とひずみは比例関係にあり、これを「フックの法則」と呼びます。
参考)https://www.jsme.or.jp/kaisi/1202-36/
フックの法則の基本式は「σ = E × ε」で表されます。ここでσは応力、Eはヤング率(縦弾性係数)、εはひずみを示します。この式から、材料に加わる応力がわかればひずみを計算でき、逆にひずみを測定すれば応力を算出できることがわかります。
参考)https://freelance-aid.com/articles/1501.html
ヤング率は材料固有の値で、材料の「かたさ」を表す重要な指標です。ヤング率が大きければ変形しにくい硬い材料、小さければ柔らかく変形しやすい材料となります。建築で使用される主要材料のヤング率は、鋼材が約205GPa、コンクリートが約30GPa程度です。
参考)https://d-monoweb.com/blog/youngsmodulus-mechanical-properties/
応力-ひずみ曲線(線図)は、材料に力を加えていったときの応力とひずみの関係を示すグラフで、材料の機械的特性を視覚的に理解するのに役立ちます。この曲線から比例限度、降伏点、破断点などの重要な特性値を読み取ることができます。
参考)https://d-engineer.com/zairiki/ouryokuhizumi.html
計算例として、断面積100mm²の鋼材に10kNの引張荷重が作用する場合を考えます。応力σ = 荷重/断面積 = 10000N / 100mm² = 100N/mm² = 100MPaとなります。鋼材のヤング率を205GPa(205000MPa)とすると、ひずみε = σ/E = 100/205000 ≒ 0.000488(約0.049%)と計算できます。
ヤング率とポアソン比は、材料の弾性的な性質を表す2つの独立した材料定数で、両者を理解することで3次元的な変形挙動を正確に予測できます。
参考)https://www.fem-vandv.net/m17.html
ポアソン比νは、材料を軸方向(縦方向)に引張ったとき、その方向のひずみと垂直方向(横方向)のひずみの比率を表します。具体的には「ν = 横ひずみ / 縦ひずみ」で定義されます。建築で使用される材料のポアソン比は、鋼材で約0.3、コンクリートで約0.2程度の値を示します。
参考)https://d-engineer.com/cae/material.html
ヤング率E、ポアソン比ν、横弾性係数(せん断弾性係数)Gの間には「G = E / 2(1+ν)」という重要な関係式が成り立ちます。この式から、ヤング率とポアソン比がわかれば横弾性係数を計算でき、せん断変形の解析が可能になります。
参考)https://www.cybernet.co.jp/ansys/learning/glossary/sendandanseikeisuu/
材料の弾性係数を実際に測定する方法として、引張試験機を用いた試験が一般的です。試験片に荷重を加えながら変形量を測定し、応力-ひずみ曲線を作成することで、ヤング率やポアソン比などの材料特性を評価できます。
| 材料 | ヤング率(GPa) | ポアソン比 |
|---|---|---|
| 鋼材 | 205 | 0.30 |
| コンクリート | 30 | 0.20 |
| アルミニウム | 70 | 0.33 |
| 木材 | 10-15 | 0.30-0.40 |
計算実例として、ヤング率205GPa、ポアソン比0.3の鋼材の横弾性係数を求めると、G = 205000 / 2(1+0.3) = 205000 / 2.6 ≒ 78846MPa ≒ 78.8GPaとなります。この値はせん断変形を伴う構造計算で使用されます。
ポアソン比の詳細な求め方と工学的意味について、こちらの記事でさらに詳しく解説されています
建築構造において「はり」は最も基本的で重要な構造部材の一つで、横荷重(軸線に垂直な荷重)を受ける細長い棒状の構造物を指します。はりに荷重が作用すると、断面には「せん断力」と「曲げモーメント」という2つの内力が同時に発生します。
参考)https://www.jsme.or.jp/kaisi/1208-38/
せん断力は、はりの横断面に生じるせん断応力の合力で、部材を上下にずらそうとする力です。曲げモーメントは、横断面に生じる垂直応力の合モーメントで、部材を曲げようとする力です。これらの内力を視覚的に表現したものが「せん断力図(SFD: Shear Force Diagram)」と「曲げモーメント図(BMD: Bending Moment Diagram)」です。
参考)https://d-monoweb.com/blog/draw-bending-moment/
片持ち梁に集中荷重Pが先端に作用する場合、固定端からの距離xにおける曲げモーメントM(x) = P×(L-x)、せん断力Q(x) = Pとなります(Lは梁の長さ)。建築実務では、これらの図を描くことで、どの断面で最大の応力が発生するかを容易に把握できます。
参考)https://jrecin.jst.go.jp/html/compass/e-learning/31-258/data/4-%E3%81%AF%E3%82%8A%E3%81%AE%E3%81%9B%E3%82%93%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A8%E6%9B%B2%E3%81%92%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88/index.html
実際の設計では、まず支点反力を求め、次に任意の断面で切断して内力の釣り合い式を立てることでせん断力と曲げモーメントを算出します。この基本的な解法手順を習得することで、様々な荷重条件のはりの問題に対応できるようになります。
参考)https://nanamemo.net/material-mechanics/
日本機械学会による「はりの曲げ応力」の詳細解説はこちら
応力集中とは、部材に荷重が作用したとき、切り欠きや穴などの形状変化部で応力が局所的に増大する現象です。この現象は材料の破損リスクを大きく高めるため、建築設計において十分な注意が必要です。
参考)https://strength-of-materials.com/%E6%9D%90%E6%96%99%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%BF%9C%E5%8A%9B%E9%9B%86%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%81%A8%E8%A8%88%E7%AE%97%E4%BE%8B/
応力集中の度合いは「応力集中係数α」で表され、α = 最大応力σmax / 公称応力σ0 で定義されます。通常の平均応力に比べて、切り欠き部では応力集中係数倍の高い応力が発生します。断面形状の変化が急激であるほど、応力集中係数は大きくなります。
参考)https://d-engineer.com/zairiki/ouryokusyuutyuu.html
応力集中を低減する設計手法として、以下の方法が効果的です。まず、角部にフィレット(丸み)を追加することで、応力の局所的な増大を緩和できます。次に、断面変化を緩やかにし、急激な形状変化を避けることが重要です。また、製造段階で材料内部に空洞が発生しないよう、適切な肉抜き設計を行うことも有効です。
安全率は、材料の基準強度(破断強度や降伏強度)を許容応力で割った値で、設計の安全性を確保するための重要な指標です。建築構造設計では、静荷重に対して一般的に3~5程度、動荷重や疲労を考慮する場合はさらに大きな安全率を設定します。
参考)https://www.fem-vandv.net/a20.html
| 応力集中が発生する部位 | 対策方法 |
|---|---|
| 切り欠き部 | 切り欠きを無くすか、丸みをつける |
| コーナー部(隅) | 十分なR(ラウンド)を設ける |
| 穴や開口部 | 補強リングを配置する |
| 断面急変部 | テーパーで緩やかに変化させる |
許容応力の設定では、材料の引張強度や降伏強度などの基準強さを安全率で割ることで、実際の設計で使用できる応力の上限値を決定します。安全率を大きく設定すればより安全な設計となりますが、材料コストが増加するため、用途に応じた適切な安全率の選定が求められます。
参考)https://d-engineer.com/zairiki/anzenritu.html
応力集中の計算例と実務での対処法について、詳しくはこちらをご覧ください
建築構造設計において材料力学は、建物の安全性と耐久性を科学的に裏付ける理論的基盤として機能します。材料力学の知識を活用することで、設計段階から構造物の強度や変形を正確に予測し、適切な部材寸法や材料を選定できます。
参考)https://o-iori.com/column/detail/20250928105020/
構造力学と材料力学の関係性を理解することが、実務での応用において重要です。構造力学は建物全体の骨組みの挙動を扱うのに対し、材料力学は個々の部材内部の応力状態を詳細に解析します。両者は密接に関連しており、材料力学で得られた部材の強度データを構造力学の計算に活用することで、建物全体の安全性を評価します。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10136443935
実務における材料力学の応用例として、以下が挙げられます。第一に、コンクリートの強度評価では、材料力学を用いて適切なコンクリート配合や鉄筋の配置を決定します。第二に、鋼構造の接合部設計では、応力集中を考慮した溶接部やボルト接合の強度計算が必要です。第三に、耐震設計では、地震時の動的荷重に対する部材の応答を材料力学の理論で評価します。
参考)https://www.worldtech.co.jp/custom352.html
不動産従事者が材料力学を学ぶメリットは、建物の構造的な問題点を理解し、適切な判断ができるようになることです。例えば、既存建物の診断や改修計画において、材料の劣化状態や追加荷重に対する安全性を評価する際に、材料力学の基礎知識が役立ちます。また、設計者や施工者とのコミュニケーションでも、専門用語を理解していることで円滑な協議が可能になります。
現代の建築構造設計では、設計支援ツールやAI技術を活用し、荷重条件や部材寸法の最適化を効率的に行えるようになっています。しかし、これらのツールを正しく使いこなすには、背景にある材料力学の理論を理解していることが不可欠です。材料力学の基礎を習得することで、解析結果の妥当性を判断し、設計の品質を高めることができます。
建築における材料力学の基礎と応用について、実例を交えた詳細な解説はこちら
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