

優越的地位の濫用は、独占禁止法上「不公正な取引方法」として禁止され、要件は大きく「取引上の地位が相手方に優越していることを利用」し「正常な商慣習に照らして不当に」相手方に不利益を与える点に置かれます。
ここで重要なのは、「市場支配力(独占)」がなくても成立し得ることで、相手先が“取引を切られると経営上大きな支障が出る”ような依存関係があると、相対的な優越で足りると整理されています。
判断要素として、公取委の考え方は、取引依存度、発注側の市場での地位、取引先変更の可能性、投資・ブランド等の必要性といった事情を総合考慮すると明示しています。
建設業の肌感覚に寄せると、「元請(または大手発注者)から継続的に受注している」「現場要員や資材手配を先行して固定費が増えている」「急な切替が難しい専門工種」などが重なると、“断りにくさ”が法的評価の土台になり得ます。
参考)https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf
また、「正常な商慣習」は“今ある慣行ならOK”という意味ではなく、公正な競争秩序の観点から是認できるかで判断され、慣行そのものが否定される可能性もあると明記されています。
したがって「昔からこの業界はこうだった」は、優越的地位の濫用リスクの免罪符になりません。
公取委「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(定義・判断要素・行為類型の一次資料)
https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf
公取委の整理では、優越的地位の濫用になり得る行為は、購入・利用強制(イ)、経済上の利益提供要請(ロ)、そして受領拒否・返品・支払遅延・減額等を含む不利益条件(ハ)という形で類型化されています。
建設取引で特に刺さりやすいのは「ハ」に含まれる“取引条件を不利益に設定・変更して実施する”で、条文上の例示(支払遅延や減額)以外の行為も入り得る点が実務上の落とし穴です。
さらに、公取委は未然防止の観点から、納期、対価、支払期日、支払方法、仕様や品質評価基準などを事前に明確化し、書面で確認する対応が望ましいと述べています。
建築の現場運用に落とすと、次のような「取引条件の見える化」が重要です(チェックに使えるよう、あえて具体語で記載します)。
ここで意外に効くのが、「交渉したつもりでも、相手が“一方的に決められた”と認識しがち」という公取委の指摘です。
実務では、協議の議事メモ、メール、チャットログ、改定理由の説明資料などを残すだけで、紛争時の再現性が大きく変わります。
「条件は提示した、だから合意だろう」という発想を捨て、相手が納得していることを示す痕跡を残すのが安全側です。
公取委は、契約で定めた支払期日に正当な理由なく支払わない行為は、相手が今後の取引への影響を恐れて受け入れざるを得ない状況なら、優越的地位の濫用として問題になり得ると整理しています。
また、単に期日を過ぎる場合だけでなく、支払期日を一方的に遅く設定する、検収を恣意的に遅らせて支払期日の到来を遅らせる、といった“仕組みとしての遅延”も問題となりやすいと明示されています。
建設業では「検収=支払の起点」になりやすいため、検収工程の遅延がそのまま独禁法リスクに転化し得る点が重要です。
支払遅延が疑われやすい典型パターンを、建設現場の言葉に寄せて挙げます。
一方で、公取委は「相手方の同意を得て、かつ、遅延によって相手方に通常生ずべき損失を負担する」場合には、問題にならない方向で整理しています。
つまり“合意さえ取れば何でもOK”ではなく、遅延によるコスト(資金繰り負担など)を誰が負うかまで含めて設計しないと、理屈が完結しません。
支払サイトの変更や検収条件の改定は、取引先ごとに影響が違うため、定型の通達だけで片付けず、個別協議の形にして証跡を残すのが現実的です。
公取委は、商品や役務の提供を受けた後に、正当な理由なく契約で定めた対価を減額する行為は、相手が取引継続を気にして受け入れざるを得ないなら、優越的地位の濫用になり得るとしています。
また「仕様変更で実質的に減額する」ような場合も同様とされ、名目が“単価は据え置き”でも、実態で評価される点が実務的に重要です。
建設の文脈では、発注後の一方的なVE要求、手戻りを伴う変更の無償化、出来高認定の恣意的な圧縮などが、減額リスクとして表面化しやすい領域です。
公取委の想定例には、業績悪化や予算不足など「自己の一方的な都合」での減額、恣意的に厳しい検査基準での値引き強要、セール等の事情を理由にした値引き要請などが挙がっています。
建設で置き換えるなら、「施主からの値引き要請が来た」「予算が足りない」「他社はもっと安い」「今月の利益率が厳しい」といった発注側都合を、下請に転嫁する設計になっていないかを点検する必要があります。
“相見積で下げる”行為自体が直ちに違法というより、交渉のプロセスが実質的に機能しているか、需給関係を反映した交渉か、相手に不当なしわ寄せが出ていないかが焦点になります。
独自視点として強調すると、減額の火種は「金額そのもの」より「変更管理の不備」から生まれることが多いです。
たとえば、口頭指示→作業着手→完成後に「その追加は想定内だから無償」「仕様が違うから減額」という流れになると、当事者の認識差が“優越を利用した一方的変更”と評価される素地が育ちます。
変更指示のチャンネルを統一し、合意前の作業着手を例外扱いにするだけでも、減額トラブルの発生率は現場感覚として下がります(結果的に法令リスクも下がります)。
建設業の「下請」文脈では、優越的地位の濫用は“あからさまな圧力”だけでなく、「形式上は任意」「暗黙の了解」「断れるが断りにくい」というグラデーションで起きやすいのが特徴です。
公取委の考え方も、相手が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない状況を重視しており、明示の強制がなくても実質で評価され得ます。
このため、コンプライアンスの焦点を“担当者の言い方”だけに置くと、構造的なリスク(制度として断れない設計)を見落とします。
現場でありがちな「見えにくい優越」を、リスク抽出用の問いとして整理します。
さらに意外な盲点として、公取委は「経済上の利益」には金銭だけでなく労務提供等も含むとし、また金型・図面・知的財産などの無償提供要請も問題になり得ると整理しています。
建設で言うと、詳細図・施工図、BIMデータ、現場調整の過剰な無償対応、補修対応の丸投げなどが“現場あるある”として積み上がり、後から説明不能になるケースがあります。
「この作業は契約範囲か」「範囲外なら対価はどう設計するか」を、現場の裁量ではなくプロセスとして固定し、例外が起きた時に例外処理できる運用(稟議・承認・変更票)にしておくのが、最も再現性の高い予防策です。