
腐食性ピクトグラムは、GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)で定められた9種類の絵表示の1つで、試験管から溢れた化学物質が金属板と手に接触している図柄を使用しています。このマークは赤色の菱形枠内に黒色のシンボルが描かれており、金属腐食性物質、皮膚腐食性(区分1)、眼に対する重篤な損傷性(区分1)を表しています。建築現場では、コンクリート添加剤、防食工事用の強酸性・強アルカリ性薬剤、メッキ液、塗装用溶剤など多様な化学物質にこのマークが表示されています。
参考)職場のあんぜんサイト:化学物質:GHSのシンボルと名称
腐食性物質は接触した金属や皮膚を損傷させる危険性があり、硫酸、硝酸、フッ化水素酸などの強酸、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)などの強アルカリが代表例です。労働安全衛生法の改正により、2017年から表示義務対象物質が640物質まで拡大され、これらを含む混合物にも適切なラベル表示が義務付けられています。ピクトグラムの視認性を高めるため、カラー表示が義務化され、職場での安全対策が強化されました。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/GHSraberunoyomikata.pdf
腐食性ピクトグラムが表示される化学物質には、「H314:重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷」という危険有害性情報が付与されます。これは皮膚腐食性・刺激性の区分1A、1B、1Cに該当し、皮膚に接触すると組織を破壊し、重篤な損傷を引き起こす可能性があることを示しています。建築現場で使用される防食工事用の強酸性・強アルカリ性物質は、この区分に該当することが多く、取り扱いには特に注意が必要です。
参考)防食工事 - 西岡化建株式会社
GHS分類では、皮膚腐食性と皮膚刺激性を区別しており、腐食性は組織を不可逆的に損傷させるもの、刺激性は可逆的な損傷を与えるものと定義されています。腐食性物質には、酸の霧や煙が構造材料や設備を腐食させ、人体に有毒な作用を及ぼすという二重の危険性があります。たとえば過塩素酸は腐食性に加えて強力な酸化剤でもあり、火災や爆発の原因となる複合的な危険性を持っています。
参考)化学物質の安全な取り扱いと保管
複数のピクトグラムが必要な場合、優先順位が定められており、腐食性シンボル(GHS05)が表示されている場合、皮膚または眼の刺激に対する感嘆符(GHS07)は表示しないというルールがあります。ただし他の危険性については引き続き表示する必要があるため、化学物質のラベルには複数のピクトグラムが併記されることがあります。
参考)GHSピクトグラムの理解(パート2)
建築現場で腐食性物質を保管する際は、不浸透性の壁と床によってプラントや倉庫の他の部分から隔離する必要があります。床は燃えがらブロックや溶解性を減らすように処理されたコンクリート、その他の耐性のある材料で作る必要があり、保管場所は十分に換気することが求められます。防液堤の設置など構造・設備等の基準を守ることも重要で、こぼれた物質を安全に処分できる環境を整えることが義務付けられています。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/hokan/hokan.html
腐食性物質は適切な容器に入れて厳重に密閉し、温度や湿度の変化を避けるため冷暗所に保管することが推奨されます。特にフッ化水素酸は鉛、ガッタパーチャ、セレシンのボトルに保管する必要があり、ガラスと相互作用するため他の酸を含むガラス容器の近くに保管してはいけません。硝酸混合物と硫酸混合物を同時に保管する保管庫は使用せず、互いに化学的に反応する可能性のある物質は別々の保管場所に保管する必要があります。
参考)化学品を倉庫に保管する際の注意点まとめ
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」GHSのシンボルと名称
GHS絵表示の正式な種類と意味を確認できる公式情報源です。腐食性を含む9種類のピクトグラムについて詳細な説明があります。
保管場所には「耐腐食性/耐腐食性内張りのある容器に保管すること」という注意書きに従い、適切な材質の容器を使用することが必要です。鋼製タンクやコンクリート構造物への保管では、ガラス繊維と樹脂で積層するFRPライニングや、ガラスフレークを混合させた樹脂施工による防食処理が効果的です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei55/pdf/f01-03.pdf
腐食性物質を取り扱う作業では、保護手袋、保護衣、保護眼鏡または保護面の着用が必須です。GHSラベルには「粉じんまたはミストを吸入しないこと」「取扱い後はよく手を洗うこと」という注意書きが記載されており、これらの指示に従った取扱いが求められます。皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外は、すべて保護具使用の対象となります。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/content/contents/001248806.pdf
作業手順の改善として、化学物質に触れずに済むよう作業方法を見直すことが重要です。個人用保護具は作業に適したものを使用し、保護具着用管理責任者を選任して適切な着用管理を行う必要があります。建設現場では、化学物質取扱い作業のリスクアセスメントを手軽に実施できる方法が整備されており、これを活用して現場工事に従事する従業員にリスクアセスメント結果やリスク低減策を教育することが効果的です。
参考)http://park18.wakwak.com/~aioiky/img/text-chemical.pdf
建災防「建設業における化学物質取扱い作業のリスクアセスメント」
建設現場で実践できる化学物質リスクアセスメントの具体的手順が解説されています。現場作業に即した内容で実用性が高い資料です。
化学物質を使用する部屋の入り口や内部には、有機溶剤により生じるおそれのある疾病の種類と症状、取扱い上の注意事項、中毒が発生したときの応急措置、使用すべき保護具などを掲示することが法律で義務付けられています。この掲示は有機則・特化則・鉛則等に該当するすべての化学物質ごとに行う必要があります。
参考)法律で義務付けられた掲示とは何か知りたい
建築事業者は、化学物質管理者を選任し、自律的な管理体制を確立することが求められています。リスクアセスメント対象物質の大幅な増加に伴い、ラベル表示、SDS(安全データシート)による通知、リスクアセスメントの実施がこれまで以上に重要になっています。国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された約2900物質に加え、以降新たに分類する物質もすべて対象となります。
参考)https://www.nite.go.jp/data/000156185.pdf
リスクアセスメント結果に基づき、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にすることが義務付けられています。特に濃度基準値設定物質については、ばく露される濃度を基準値以下とすることが必須です。建設現場では、危険性・有害性の低い材料への代替も検討し、代替前のリスクレベルが高い場合は積極的に材料変更を行うことが推奨されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/000664061.pdf
防食工事を行う建築現場では、強酸性・強アルカリ性の腐食性物質や劇物・危険物を取り扱うケースが多く、メッキ工場のピット、化学工場のタンクや床、廃液槽、食品工場、下水処理施設の曝気槽など特殊な環境での施工実績が求められます。これらの現場では、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸などの強酸や、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウムなどの強アルカリに対応した重防食層の施工が必要となります。
厚生労働省「化学物質リスクアセスメント事例集」
建設業における化学物質リスクアセスメントの実施事例が多数掲載されており、現場での具体的な対応方法を学べます。
作業環境測定の実施やばく露状況に応じた健康診断の実施も必要で、これらを含む総合的な化学物質管理が建築事業者に求められています。化学物質情報をSDSやラベル作成の参考にする際は、事業者の責任において行うことが基本原則となっています。