
ガラス繊維は、ガラスを高温で溶融し細い糸状に加工した人工繊維です。建築分野では主に「長繊維(グラスファイバー)」と「短繊維(グラスウール)」の2種類が使用されています。
長繊維は、ガラス原料を約1,500℃の高温で溶融し、白金製のノズルから引き出して作られる直径6~24μmの連続したフィラメント状の繊維です。これらのフィラメントを束ねて加工することで、様々な建築用製品が製造されます。長繊維の特徴は以下の通りです。
一方、短繊維(グラスウール)は、ガラスカレットを高温で溶融し、高速回転させることで細い綿状に繊維化したものです。主に建築用の断熱材や吸音材として広く利用されています。
ガラス繊維は建築分野において、その特性を活かして以下のような用途に使用されています。
これらの用途は、建築物の省エネルギー性能向上、快適性向上、耐久性向上に大きく貢献しています。
グラスウール断熱材は、住宅やビルなどの建築物において、最も一般的に使用されている断熱材です。その優れた断熱性能により、冷暖房効率を高め、省エネルギー性能を向上させる効果があります。
グラスウール断熱材の主な特徴は以下の通りです。
住宅の断熱材として使用する場合、省エネルギー対策等級4に対応する高性能グラスウールが充実しており、地球温暖化防止にも貢献しています。また、シックハウスの原因の一つとされるホルムアルデヒドを含まない「アクリア」などの製品も開発されており、健康面にも配慮された住まいを実現できます。
施工方法としては、壁体内充填、天井裏敷き込み、床下敷き込みなどがあります。特に充填断熱工法では、柱と柱の間に断熱材をすき間なく施工することが重要です。適切に施工されたグラスウール断熱材は、夏の熱気や冬の冷気を効果的に遮断し、室内温度を安定させます。
また、オフィスビルや商業施設では、吸音・断熱を必要とする会議室や多目的ホール、ホームシアターなどの内装仕上げや、音の響きを調整するためにシネマコンプレックス、店舗、工場、体育館などにもグラスウールが使用されています。鉄筋コンクリート造(RC造)の外断熱や防音壁等の充填用吸音材としても活用されています。
真空断熱材(VIP)は、グラスウールをさらに進化させた高性能断熱材です。断熱材の周囲を真空状態にすることで、気体による熱伝導を限りなくゼロに近づけ、断熱性能を飛躍的に向上させています。業界トップクラスの断熱性能[0.002W/(m・K)]を実現し、省エネ&CO2削減に貢献するノンフロン断熱材として注目されています。
建築構造の強化において、ガラス繊維補強材は重要な役割を果たしています。特に耐アルカリガラス繊維(AR-Glass)は、コンクリートやモルタルの補強材として優れた性能を発揮します。
耐アルカリガラス繊維は、ガラス成分に高濃度のジルコニア(ZrO2)を含んでおり、通常のガラス繊維ではコンクリートのアルカリ環境下で劣化してしまう問題を解決しています。この特性により、ガラス繊維補強コンクリート(GRC:Glass fiber Reinforced Cement)という新しい建材が実現しました。
GRCの主な特長は以下の通りです。
GRCの製造方法には、主に「ダイレクトスプレー法」と「プレミックス法」の2種類があります。ダイレクトスプレー法は、セメントスラリーと耐アルカリガラス繊維を同時に吹き付ける方法で、複雑な形状の製品製造に適しています。プレミックス法は、あらかじめセメントモルタルと耐アルカリガラス繊維を混合し、型に流し込む方法です。
耐アルカリガラス繊維の性能比較表。
項目 | 耐アルカリガラス繊維 | 一般的なEガラス繊維 |
---|---|---|
耐アルカリ性(セメント飽和水溶液中での重量減少率) | 0.8% | 10.5% |
耐酸性(10% HCl中での重量減少率) | 1.6% | 42.9% |
耐酸性(10% H2SO4中での重量減少率) | 1.2% | 42.0% |
このように、耐アルカリガラス繊維はセメントのアルカリ環境下でも優れた耐久性を示し、長期間にわたって補強効果を維持できます。
また、ガラス繊維メッシュは壁の支持体として、また二次要素(床、屋根裏部屋、壁の間仕切り)を強化するための補強材としても使用されています。その主な機能は、牽引力に抵抗し、荷重と張力を均等に分散させ、亀裂の形成を防ぐことです。
FRP(繊維強化プラスチック)グレーチングは、ガラス繊維強化プラスチックを格子状にした建材で、その優れた特性から建築分野で幅広く活用されています。
FRPグレーチングの主な特徴は以下の通りです。
FRPグレーチングは、排水溝や側溝の溝蓋(みぞぶた)として広く使用されていますが、その特性を活かして以下のような建築用途にも応用されています。
特に腐食環境や滑りやすい場所、電気絶縁性が求められる場所での使用に適しています。また、軽量であるため既存建物への後付け設置も容易で、改修工事にも適しています。
FRPグレーチングの設計においては、荷重条件や支持スパン、使用環境などを考慮して適切な製品を選定することが重要です。一般的に、歩行用途と車両走行用途で求められる強度が異なるため、用途に応じた製品選定が必要です。
また、FRPグレーチングは様々な色や形状、サイズがあり、建築デザインに合わせた選択が可能です。最近では、防滑性能を高めた製品や、より高い耐火性能を持つ製品なども開発されており、用途に応じた選択肢が広がっています。
ガラス繊維製品は、その優れた性能だけでなく、環境性能の面でも持続可能な建築に大きく貢献しています。特に断熱材としてのグラスウールは、建物のエネルギー効率を高め、CO2排出量の削減に寄与しています。
グラスウール断熱材の環境性能について、以下のポイントが挙げられます。
また、近年では環境や人体への配慮から、有害性のあるホウ素(B2O3)とフッ素分子(F2)を含まないECRガラス繊維の需要が高まっています。ECRガラス繊維は、耐蝕性(耐酸性)・耐水性・耐熱性に優れ、従来のEガラス以上の機械的強度と同等の電気特性を備えているため、より環境に配慮した建築材料として注目されています。
FRP(繊維強化プラスチック)製品についても、その軽量性と高強度により、建築物の構造を軽量化し、基礎工事の簡略化や資材使用量の削減につながります。また、耐久性が高いため、メンテナンス頻度の低減や長寿命化によるライフサイクルコストの削減にも貢献しています。
真空断熱材(VIP)は、従来の断熱材と比較して大幅に薄くても高い断熱性能を発揮するため、建物の壁厚を抑えながら高い断熱性能を実現できます。これにより、建築空間の有効活用と省エネルギー性能の両立が可能になります。
持続可能な建築においては、建材の製造から廃棄までのライフサイクル全体での環境負荷を考慮することが重要です。ガラス繊維製品は、製造時のエネルギー消費や廃棄時の環境負荷についても改善が進められており、より環境に配慮した製品開発が進んでいます。
例えば、バイオマス由来の樹脂とガラス繊維を組み合わせたバイオコンポジット材料の開発や、使用済みFRP製品のリサイクル技術の研究など、循環型社会に適合した技術開発が進められています。
これらのガラス繊維製品の環境性能向上により、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などの次世代の環境配慮型建築の実現に大きく貢献することが期待されています。