
ヘプタン(C7H16)とは、炭素原子7個と水素原子16個からなるアルカンの総称です。分子式は同じでも、炭素原子の結合順序が異なることで、構造異性体が生まれます。これらの異性体は、建築業で使用される塗料やインキの溶剤、接着剤用溶剤として幅広く利用されています。
参考)ヘプタン - Wikipedia
構造異性体とは、分子式が同じでも構造式が異なる化合物のことを指します。ヘプタンの場合、構造異性体は9種類存在し、立体異性体(光学異性体)を含めると11種類になります。これは、3-メチルヘキサンと2,3-ジメチルペンタンがキラル炭素を持つためです。
参考)ヘプタンC7H16の構造異性体はいくつあるか?また構造式を示…
ヘプタンの異性体の数は、炭素数が増えるにつれて急激に増加します。ブタンでは2種類、ペンタンでは3種類、ヘキサンでは5種類、そしてヘプタンでは9種類と増えていきます。この規則性を理解することが、有機化学の基礎として重要です。
参考)https://junkchem.sakura.ne.jp/sanpo/sanpo_04.htm
ヘプタンの構造異性体9種類は、主鎖の炭素数によって分類されます。最も基本的なのは、炭素が直線状に7個つながったn-ヘプタン(ノルマルヘプタン)です。これは、オクタン価0の指標となる物質として、燃料試験にも使用されます。
参考)http://chemquiry.kakurezato.com/Molecule/C7H16.html
主鎖が炭素6個の異性体には、2-メチルヘキサン(別名イソヘプタン)と3-メチルヘキサンの2種類があります。3-メチルヘキサンは不斉炭素を持つため、光学異性体(エナンチオマー)が2種類存在します。これは、キラル炭素を持つ最小のアルカンとして、化学的に興味深い性質を持ちます。
主鎖が炭素5個の異性体には、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン(ネオヘプタン)、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタンの5種類が存在します。2,3-ジメチルペンタンも不斉炭素を持つため、光学異性体が存在します。最後に、主鎖が炭素4個の異性体として、2,2,3-トリメチルブタンがあります。
ヘプタンの異性体を正確に命名するには、IUPAC命名法に従う必要があります。まず、分子内で最も長い炭素鎖(主鎖)を見つけ出し、その炭素数に基づいて基本名を決定します。ヘプタンの場合、主鎖の炭素数が7個ならヘプタン、6個ならヘキサン、5個ならペンタン、4個ならブタンとなります。
参考)アルカンの命名法
次に、枝分かれ(側鎖)がある場合、枝分かれしている炭素の番号ができるだけ小さくなるように主鎖に番号を付けます。側鎖の位置と種類を表す置換基名(メチル、エチルなど)を、番号とともに主鎖名の前に付けます。例えば、2番目の炭素にメチル基が付いている場合は「2-メチル」となります。
参考)アルカン(一般式の作り方・一覧・命名法・製法・性質・置換反応…
異性体を書き出す際のコツは、炭素骨格の連続数を段階的に減らしていくことです。まず最も長い鎖を書き、次に端の炭素を取って残りの位置に付け直していきます。同じ構造を別の角度から見ただけのものは、同一の異性体としてカウントしないよう注意が必要です。youtube
参考)異性体とは?種類(構造/幾何/光学)意味・書き方/数え方のコ…
n-ヘプタンは、無色透明の液体で、特有の石油臭を持ちます。融点は-90.61℃、沸点は98.43℃で、常温では液体状態です。比重は約0.68~0.69と水より軽く、水面に浮きます。水にはほとんど溶けませんが(0.005g/100ml水)、アセトンやエタノール、トルエンなどの有機溶剤とは良く混ざります。
参考)ノルマルヘプタン(N-ヘプタン)
引火点が-4℃と非常に低く、揮発性が高いため、消防法上の危険物第4類第1石油類に分類されています。爆発範囲は1.0~6.0体積%で、適切な濃度範囲では爆発の危険性があります。また、労働安全衛生法で名称等を通知すべき危険物及び有害物に指定されており、取り扱いには十分な注意が必要です。
参考)ヘプタン
PRTR制度では第1種指定化学物質(政令番号:1-442)として指定されており、環境への排出量を把握し届け出る必要があります。皮膚刺激性や眼刺激性があり、吸入すると呼吸器への刺激や、眠気・めまいを引き起こす可能性があります。長期ばく露により神経系への影響も報告されているため、作業環境の管理が重要です。
参考)https://www.idemitsu.com/jp/sds/chem/N-Heptane_JP.pdf
建築業において、ヘプタンは主に塗料やインキの溶剤として使用されます。塗料の粘度調整や乾燥性の制御に優れた性能を発揮し、油性塗料や接着剤の溶剤として広く採用されています。ポリプロピレンやポリエチレンなどの難接着材料の前処理剤としても利用され、接着剤の接着力を向上させます。
参考)ヘプタンの特性・用途と環境影響
建築現場でヘプタンを使用する際は、適切な換気を確保することが最も重要です。引火点が-4℃と非常に低いため、火気厳禁の環境で取り扱う必要があります。また、有機溶剤中毒予防規則の対象外ではありますが、皮膚や目への接触を避け、適切な保護具を着用することが推奨されます。
参考)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/sumai_2009-6-2
使用済みのヘプタン廃液は、溶剤再生装置を用いて再生することで、再利用や廃液処理コスト削減が可能です。環境負荷を低減しつつ、経済的にも有利な処理方法として、建築業界でも注目されています。ただし、廃棄処理の際は、関連法規に従った適切な処理が必要です。
参考)ノルマルヘプタン(n-ヘプタン)の回収・再生・蒸留【装置・委…
建築現場で使用されるヘプタン製品には、通常、複数の構造異性体が混合された状態で存在しています。これは、工業的にナフサから分留精製される際、完全に単一の異性体を分離することが困難なためです。各異性体は物理的性質がわずかに異なるため、混合比率によって溶剤としての性能が変化します。
建築用塗料に含まれる有機溶剤としては、ヘプタン以外にもトルエン、キシレン、ヘキサンなどが使用されることがあります。これらの溶剤は、室内空気質への影響が懸念されるため、健康に配慮した住宅設計では使用量を減らす取り組みが進められています。特に、シックハウス症候群の原因となる化学物質として認識されており、適切な管理が求められます。
建築材料における異性体の理解は、製品の性能評価や安全性評価において重要です。キシレンなどの異性体を持つ化学物質は、PRTR届出の際に異性体による区別なく総量を把握する必要があります。ヘプタンについても同様の考え方が適用され、異性体を含めた総量管理が行われています。
参考)PRTR制度FAQ-PRTR届出に関するもの
三協化学株式会社 - ノルマルヘプタンの詳細な物性データと使用用途
ヘプタンの特性・用途と環境影響 - 溶剤回収装置における再生利用の解説
Wikipedia ヘプタン - 9種類の構造異性体の一覧と化学的性質の詳細