プロピレンラジカル重合と立体規則性制御技術

プロピレンラジカル重合と立体規則性制御技術

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プロピレンラジカル重合と製造技術

プロピレンラジカル重合の特徴
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通常のラジカル重合の限界

プロピレンは立体障害により高重合度ポリマーの合成が困難

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特殊触媒技術

チーグラー・ナッタ触媒による立体規則性制御

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建築材料への応用

防水シート、断熱材、配管材料での利用拡大

プロピレンのラジカル重合反応機構

プロピレンのラジカル重合は、通常のビニルモノマーとは大きく異なる特徴を持っています 。プロピレン分子のアリル位に結合している水素が高い反応性を示すため、従来のラジカル重合によって高重合度の重合体を合成することは困難です 。この現象は、重合の成長段階において、ラジカルがアリル位の水素を引き抜いてアリルラジカルを生成してしまうことが原因となっています 。
参考)ラジカル重合可能なモノマー

 

具体的な反応機構では、開始段階において過酸化物系の重合開始剤から発生した酸素ラジカルがプロピレンと反応し、2級ラジカルが選択的に生成されます 。この時、ラジカルの安定性により、級数の多いラジカルがより安定となるため、1級ラジカルは生じません 。しかし、成長反応において立体障害の影響により、分子量の増加が制限されてしまいます。
参考)http://www.sci.kumamoto-u.ac.jp/~ishikawa/ishikawa-lab/Lecture_jiang_yi_zi_liao_files/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E5%8C%96%E5%AD%A6I%E5%B0%8F%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%8813.pdf

 

結果として、ラジカル重合によって得られるポリプロピレンは、重合度が低いアタクチックなポリプロピレンとなり、これは樹脂として使用できない粘稠な液体となってしまいます 。このような技術的制約により、現在の工業的なポリプロピレン製造では、配位重合法が主流となっています。
参考)ポリプロピレン - Wikipedia

 

原子移動ラジカル重合技術の応用

近年、原子移動ラジカル重合(ATRP)技術がプロピレン系材料の製造において重要な役割を果たすようになってきました 。ATRPは1995年にカーネギーメロン大学と京都大学で同時期に報告されたリビングラジカル重合法の一つです 。この技術では、遷移金属錯体(一般には銅(I)錯体)を触媒として用い、有機ハロゲン化合物を重合開始剤とするラジカル重合が行われます。
参考)原子移動ラジカル重合 - Wikipedia

 

ATRPの特徴は、重合中のポリマー成長末端が「活性種」(ラジカルを有する)と「ドーマント種」(ラジカルがハロゲン原子にキャップされた)の間で平衡を保っていることです 。この平衡がドーマント種の側に大きく偏っているため、反応系中のラジカル濃度が低く保たれ、ラジカル同士の二分子停止反応が抑制されます。
建築業界では、ATRP技術を応用したポリマーブラシのグラフト化技術により、表面改質された建材の開発が進んでいます。陽極酸化アルミニウム膜上への双性イオン高分子ブラシグラフト化により、防汚性や親水性に優れた外装材料の製造が可能となっています 。さらに、表面開始原子移動ラジカル重合により、メソポーラス炭素材料の親水性改質も実現され、断熱材料への応用が期待されています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e1890bf53ed8cba4e9f1fa3a250c02e1df6e2003

 

プロピレン重合触媒の発展と建築材料への影響

プロピレン重合触媒の技術的進歩は、建築材料の性能向上に大きな影響を与えています。1954年にジュリオ・ナッタとカール・レーンによって発見されたチーグラー・ナッタ触媒は、現在でも工業的ポリプロピレン製造の中核技術です 。この触媒システムでは、TiCl₃(三塩化チタン)とAlR₂Cl(ジアルキル塩化アルミニウム)の混合物により、高活性なアイソタクチックポリプロピレンが得られます。
現在最も広く用いられているチーグラー・ナッタ触媒は、ルイス塩基(内部ドナー)としてフタル酸エステルを用いたMgCl₂担持TiCl₄を基礎とするものです 。この触媒系では、第2のルイス塩基(外部ドナー)としてアルコキシシラン化合物を添加し、アルキルアルミニウム化合物の存在下でプロピレンを重合します。この技術により、触媒活性が600-1300 kg/gに達し、アイソタクチックインデックスが97%まで向上しています 。
メタロセン触媒の登場により、さらに精密な分子構造制御が可能となりました 。ジルコニウムやハフニウムなどの遷移金属に配位したメタロセンとMAO(メチルアルミノキサン)から構成されるこの触媒系では、配位子の分子構造によりアイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックなポリプロピレンを作り分けることができます。建築分野では、この技術により透明性や柔軟性に優れた防水シートや屋根材料の開発が進んでいます。

リビングラジカル重合による機能性建材開発

リビングラジカル重合技術は、建築業界における新しい機能性材料の開発に革新をもたらしています 。可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合は、チオエステルの炭素-硫黄二重結合に重合末端ラジカルが付加し、中間体ラジカルを経て新たな活性ラジカルと休止種が生成する可逆的連鎖移動を利用した技術です 。
参考)ラジカル重合とは?種類、特徴、反応機構や代表的な方法と例をわ…

 

RAFT重合の利点は、既存の重合系にRAFT剤を添加するだけで精密な重合反応が可能となることです 。建築分野では、この技術により分子量分布の制御された耐候性塗料や、特定の機能性を持つコーティング材料の開発が進んでいます。分子量の精密制御により、塗膜の平滑性や密着性、耐久性を大幅に向上させることが可能となっています。
ニトロキシドを用いたリビングラジカル重合(NMP)も建築材料分野で注目されています 。2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いたこの技術では、ドーマント種であるアルコキシアミン化合物が安定で単離可能であるため、「単分子開始剤」として精密重合の合成研究に幅広く使用されています。
建築現場では、このNMP技術を応用した自己修復性コーティング材料の開発が進んでいます。微細なクラックが発生した際に、休眠状態のポリマー鎖が再活性化し、損傷部位を自動的に修復する機能を持った外壁材料や防水材料が実用化段階にあります。

 

プロピレン共重合体による高機能建築材料

プロピレンの共重合技術は、建築材料の高機能化において重要な役割を果たしています 。特に、エチレンとの共重合により得られるランダムコポリマーやブロックコポリマーは、優れた特性を示します。ランダムコポリマーでは、エチレンを4.5重量パーセント以下の割合で共重合体中に含有することで、透明性と靱性に優れた材料が得られます 。
参考)プロピレン誘導品

 

建築分野での応用例として、プロピレン誘導品から製造される防水シートや断熱材料があります 。プロピレンは二重結合を1個有し、重合、酸化、アルキル化、水和、ハロゲンの付加などの反応により、多様な建築材料の原料となります。特に、プロピレンオキサイドから製造されるポリウレタン系断熱材や、アクリル酸から製造される高耐候性塗料は、現代建築において不可欠な材料となっています。
最新の製造プロセスでは、スフェリポールプロセスなどの高効率技術により、気相での重合が行われています 。プロピレンガスはチーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒を用いて重合され、温度、圧力、反応物濃度などの重合パラメータの精密制御により、目的とする性能を持った建築材料用ポリマーが製造されています。
参考)ポリプロピレン(PP):その利点と用途を理解する

 

建築業界特有の要求仕様である、耐候性、難燃性、耐薬品性を満足する材料開発において、プロピレン共重合技術は重要な技術基盤となっています。エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴムを含有するブロックコポリマーは、シーリング材や屋根防水材として広く使用され、優れた耐久性と施工性を実現しています。